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2-5話 宣戦布告

【読者さまのコメント】

高松は夏村さんのことを悶々と考える。

一番最初はいったいいつ、どこで、会ったのだろう?

気になる……気になるぞ!

考えるのを脇に置いていた多江ちゃんが家に来た!!!

多江ちゃんの考えがわかんないな〜と思っていたけれど……そうか! そうなのか!

 ◇◇ 七月二十八日 ◇◇


 夏休みも十日過ぎた。

 もう十五時近くということで、俺は家のリビングダイニングでテレビを見ながらお菓子をつまんでいた。

 四日前の『うらわまつり』のことは、神宮前プールでの出来事がいろいろと有ったし、夏村さんも帰りに再度誘ってみたが、乗り気ではなかったので、あの日のことは頭の中から消そうとした努力の結果か、もうすでに忘れていた。

 ちょくちょく、夏村さんの水着姿は密かにお世話になってはいましたが……


 昨日、父が祭りの委員会の打ち上げから帰ってきて、近所のおじさんたちが何故(なぜ)和也は参加しなかったのかと問い詰められた話を聞いて、『ちくしょう、あの日のことを思い出させやがって……』とへそを曲げた。

 というか、事前におじさんたちには報告したはずだったよな……


 思い出してしまったのでしょうがない。

 確かあの日は浦和駅に着いたときに二人はお祭りであることを思い出し、俺は再度お祭りに行かないかと誘ったのだが、夏村さんはやはり乗り気ではなかったため、祭りで歩行者天国になっている旧中仙道は避け、横道から夏村さんの家に向かった。

 俺は、夏村さんは、人込みは好きではないと言ってはいたが、他にも理由があったのではないかと思っていた。

 だってヤンキーの集会に出なくてはいけないのに、一人がいいっていうのはつじつまが合わない。

 しかし、その理由を今は聞かなくてよいと俺は思った。

 時期が来れば(おの)ずとわかるであろう。

 夏村さんのことだから後日、もっと心を開いてくれたら理由を話してくれるであろうと一人で納得し、気分を変えて、夏休み後半に予定している旅行の話をしながら帰った。


 プールへ行った翌日から夏村さんは宿題をなるべく早く終わらせて夏休みを別のことに使いたいと言いだした。

 毎日俺の家に来ては宿題をやり、勉強に飽きたら、なぜか嫁入り修行と言っては店の手伝いをし、俺の家で食事を()り、帰っていった。

 夏村さんはまだ、客対応は無理だが、店での商品の準備や掃除は確実にやってくれていた。

 夏村さんと一緒にいられること自体が俺にとってなによりも夏休みを有意義なものにしてくれていると感じていたため毎日がとても楽しかった。

 まあ、突然宿題をやり始めたのは、俺が夏の宿題を早く終わらせるのが好きなのをみて、共感したのであろうと思っていた。

 一方、プールの一件があったにも関わらず、晏菜と夏村さんは翌日から何も無かったごとく、姉妹のように話をしていた。

 両親も晏菜も俺も夏村さんと過ごす夏の毎日が確実に記憶の中に刻まれていった。


 俺の心の中にはいつ終わるか分からない『宿題』が学校のものとは別に幾つも残っていた。

 まずは、一学期の中間テスト後になぜ俺を連行し、このような関係を作ろうとしたのか。

 勉強の出来るやつだったら、多江ちゃんやほかの勉強仲間を選んでもよいはずだ。

 その上、交際していることにしようという考えもどういう発想なのだろうか。

 また、結論として俺を選んでくれてよかったのかを聞きたかった。


 その一方では、この『宿題』の結果が、例えば夏村さんが俺を選んでくれた理由が俺の想像以上に単純な理由であった場合や、ロマンチックの欠片もないようなことであった場合、あるいは意外な理由であった場合は俺にはショックが大きすぎて立ち直れないかもしれないという恐怖に結局は負けてしまい聞き出すことは出来なかった。

 でも、『人の縁なんて簡単な出会いで始まる』なんて話もよく聞くし、俺自身が肩ひじ張らずにドシッと構えていればいいのかなと思い、先延ばしを選んだ。

 でも、男という生物はなんともロマンチックな想像をしてしまう生物である。

 思った結果になって欲しいと思う自分もそこにはいた。


 次に、以前から夏村さんが言うたびに気になる言葉『私の方が先に好きだった』というのはどういう意味なのかということだ。

 以前、夏村さんと出会った記憶は俺には全くない。

 この理由を仮に聞いて、『お前、覚えていないのか』と切れられるのも面倒なのと、このことは二人にとってかなり重要なことだと思ったため、俺はそれからも正面から向き合うことを避けてしまっていた。

 たびたびのことであるが、やはり俺は勇気のない男だと思った。

 やはり、何かを言って夏村さんに嫌われたくないという陰キャラ精神は俺の心の奥深くはびこっており、『今はこの関係を大切にしたい』という逃げ口上に終始していた。

 まぁ、これから『宿題』に胸を張って向き合える勇気ができたとき、俺は夏村さんとその件で向き合おうと思った。


 リビングダイニングは店への来客があるとチャイムがなるのでわからないことはないのだが、お客さんが来た時、すぐに店に出れるようにと、いつもリビングダイニングと店の間のドアは開けっぱなしにしているため、常時運転しているエアコンでは室内は暑く、階段のそばに置かれた扇風機が十五畳近くあるリビングダイニングで、『おれはがんばっているよ』と自己主張しているかのごとく、大きな音を立てながら勢いよく回っていた。


 晏菜は外出中なのか、家にはいない。

 相変わらず、夏村さんが来るか来ないか知っているかのごとくスケジュールを決めている感じがした。


 そういえば、プールへ行った日、家に帰ってから、俺は晏菜に説教をしたかったので、まず自分の部屋に荷物を置いた後、晏菜の部屋に向かおうとした時、逆に晏菜の方が俺の部屋にやってきた。

 晏菜は両手を後ろに回し、ニコニコしながら俺の部屋に入ってきて、

「おにぃ、沙羅ちゃんとお熱い一日満喫した?」

 と言った。

「お前、仲間たちと何やらかすんだよ! 俺は恥ずかしくて赤面しまくりだよ!」

「だから言ったでしょ?! 一連のゲームでおにぃの沙羅ちゃんへの愛を確かめました!」

「俺の夏村さんへの愛は強いってことわかっただろう?」

「でも、おにぃ、体のパーツなら私に反応してたよね! おにぃ、私とやっちゃう? 沙羅ちゃんには内緒で。子供の時みたいに私のおっぱい触ってみる? 私はいつもでオッケーだよ~」

「そんなこと絶対やるか! てか、子供の時、お前のおっぱい触ってないし! 俺の初体験は夏村さんにささげるんだ」

「おにぃ、やっぱ、童貞、キモっ…… だって、沙羅ちゃん!」

 俺の頭の中が『?』になった。

 すると晏菜は後ろ手にも持ったスマホを見せる。

 『通話中 沙羅ちゃん』

 えっ! 今の会話、夏村さん、携帯で聞いていたの?! 俺は激しく動揺した。

「沙羅ちゃん、よかったね。おにぃ、沙羅ちゃんと初体験したいんだって!」

『そうか、かずは俺としたいのか…… よ~し、今から心の準備をしておく』

「当分はしませんから! 高校卒業してからね! それと付き合いがその時まで続いたらの話だから!」

『おい、かず! 俺をそこまで待たせるつもりか?! それを口実に浮気しまくるつもりか! てか、今、他の女に変える可能性を匂わしやがったな! よし、まずは御両親に初体験の了解を取って…… やっちまえばこっちの勝ちだな』

「これって勝負じゃないでしょ。ていうか、まずは、夏村さんのご両親に交際のオッケーをもらわないと」

『大丈夫、交際のことは伝えてあるし、海外では高校生でも交際していれば……』

「その後は続けなくていいから。本当にオッケーもらっているの?」

『あぁ、嫁入りの話もしている。うち、兄弟いないから、かずが婿養子に入ってくれると夏村家が継続できる。婿養子も考えておいてくれ』

「いやいや、高松家の存続もありますので……」

「おにぃ、高松家は私が継ぐから、婿養子行きなよ。沙羅ちゃんの家、お金持ちらしいから、お金持ちになれるよ」

 などと話がいらぬ方向に転覆していく。

 とはいえここにも『宿題』が一つ存在する。

 夏村さんのご両親への交際の報告だ。

 夏村さんの話だと、海外勤務であと二、三年は帰ってこないそうだ。

 メールでもいいから一度ご挨拶しておきたいと、何度も夏村さんには言っているのだが、夏村さん自身でやるから大丈夫と断られてしまう。

 これも解決しなくてはいけない『宿題』だと俺は思っていた。

 現状、完全に高松家主導で俺たちの交際は盛り上がってしまっているので、夏村さんの御両親から早く交際の許可を取りたいと俺は思っていた。

 これは一番最初に解決しないといけない『宿題』だとは思いつつ、夏村さんの押しに負け、今まで伸ばしていた自分に反省していた。


 電話が終了した後、晏菜は俺に、沙羅ちゃんは二十九日は来ないのかと聞いてきたので、夏村さんは、その日は来客があり、家の掃除をしたいので家には来るなという指令が出ていたことを伝えた。

 あれだけ広い家を一人で掃除するのも大変と思い、手伝うと何度か声をかけたが、自分でやりたいと言うので諦めていた。

(たぶん、この時の情報で夏村さんが来ないことを知り、晏菜は外出したのだろう)


 ところで、俺は朝から自分の部屋で宿題のプリントをこなしていたが、今日の午前中に夏休みの全宿題は終わらせることができた。

 あれだけの大量のプリントを予定よりも早く、効率良くこなせたものだと一人、悦に入っていた。

 あんなものを夏休みの後半まで残しておくことは精神衛生上良くない。

 夏村さんもあと約五分の一を残すのみと言っており、数日で終わるであろう。

 そうなると夏休みの残りは夏村さんとイチャイチャ…… ではない。

 俺は八月一日から進学塾の夏期講習が始まるからだ。

 これが俺の本番、夏の一大イベントだと思い、学校のプリントを整理し、机の引き出しにしまった。

 そして、進学塾の教材を本棚から取り出し、予習でもと思った時、一階からインターホンでコーヒーの準備ができたと母からのコールがあった。

 階段を降り、リビングダイニングに入ると、朝食時に俺が見ていたテレビが同じチャンネルのまま誰も見ずに放置されていた。

 俺の定席に座り、テレビを見ながらコーヒーを飲もうとした。

 しかし、入れたてのコーヒーは熱過ぎ、このままでは飲めないので、湯気の出ているコーヒーをフーフーと息を吹きかけて冷ましていると、ピンポーンと店のチャイムが鳴った。

 店からは父がお客さんに対応している気配はない。

 父はたまに店を空けて商店街をふら付くことがあり、店には誰もいないのであろうと思った。

 俺が店へのドアを開けると、そこには多江ちゃんがいた。

「あっ、かずくん。いたいた! こんにちは!」

 普段は、学校が終わってそのまま進学塾や坂本の家に行くため、なかなか多江ちゃんの私服を見たことはなかった。

 ていうか、先日、夏期講習の申込みをする際は確か私服だったと記憶していたが詳細までは覚えていない。

 失礼な男である。

 今日はツインテールに髪を束ね、Tシャツに黒のショートパンツであった。

 夏村さんの自宅バージョンの清楚さとは別の部類の清楚さが多江ちゃんからは感じられた。

 多江ちゃんの後方を見ると自転車が置いてあったことから自転車に乗りやすいファッションをしてきたのだと思った。


「あっ、多江ちゃんか。俺の家にくるなんて珍しいね。今日は何か?」

「今、塾の帰りで…… 例の件、以前、かずくんに勉強教えてもらうって話。これから、なっちゃんちに遊びに行くんで話してくるんだ」

 夏村さんが、今日会えないというのはこのことだったのかと俺は思った。

「まぁ、うまく話してきて。夏村さんのオッケー出たら、いつでも来てもらってもいいし……」

「よかった。早くなっちゃんの家に行って了解もらってこようかな?」

「夏村さんって思った以上に心狭いから怒られないようにね」

「中学時代みたいに話できれば大丈夫だと思うよ。根本的になっちゃんって冷静沈着だから」

 えっ、本当ですか?

 先日、プールで晏菜たちが悪そうなやつに絡まれたとき、真っ先に切れていたのは夏村さんでしたが……


 すると、そこに二人の会話を遮るように、晏菜が外出から帰ってきた。

 肩にはバーゲンにでも行ったのかデカい紙袋を二つかけていた。

「おう、晏菜、お帰り!」

「ただいま~ おっと! おにぃ、もう新しいおんなか~?」

「そんなんじゃねーよ。こちら小倉多江さん、小倉先生のところの娘さん」

「あぁ、仲町の小倉クリニックの」

「そう、多江ちゃん、こちら妹の晏菜です」

「こんにちは、晏菜さん。初めましてなのかな?」

「こんにちは、よろしくお願いしま~す!」

 と言い、晏菜は多江ちゃんを上から下へと見渡すと、黙ってリビングダイニングの方向に向った。

 そして再度こちらを向いて、

「ごゆっくりどうぞ」

 と言い終えると晏菜はドアを閉めた。


 ドアを閉めながら晏菜はこう思った。

 (だせ~おんな! おにぃと私、沙羅ちゃんの間に割って入るスペースなんかないんだから。おにぃに手を出してきたら、全力で潰~す! でも、おにぃの好きなタイプだよなぁ、気を付けないと……)


「じゃあ、俺からも夏村さんに電話しておこうか?」

「いえ、久しぶりに話そうって流れなので心配いらないよ。じゃあ、そろそろ行くね」

 そう言うと多江ちゃんは自転車に乗り、こちらに手を振って夏村さんの家に向かった。

 まぁ、中学時代のクラスメイトだし、何かあれば夏村さんの方から連絡があるだろうと俺は思いながら、リビングダイニングに戻った。


 リビングダイニングに戻ると母は俺に向かってこう言った。

「今の子は?」

「小倉多江さん。仲町の小倉先生のところの娘さん。俺と同じクラスで進学塾も一緒なんだ」

「小倉先生のところの娘さん? あんなに大きなお子さんいたのね。その子がどうしたの?」

「いや、彼女、理系志望で俺も理系志望だから勉強でわからないところ有った時、俺の家で教えてほしいって言うんだよ」

「あら、あちらさんの方が頭がいいんじゃないの?」

「附属中(埼玉大学教育学部附属中学)出身だからね。頭はいいよ。そういえば、夏村さんって出身、同じ附属中」

「えっ! 初めて知った! 沙羅ちゃん、附属中出身なの? あんたより頭、数段いいんじゃない!」

 そう、浦和市内では中学学力ナンバーワンは当時、埼玉大学教育学部附属中学校だったので、進学に熱心なというか人の進学先に大変興味のある母は目の色を変えていた。

 ちなみに浦和の人はこの中学を附属中と略することが多い。

「いちよう、高校では俺が一位で彼女が二位、八月末にある全国模試でどっちが実力高いかわかるけどね」

 そんな話に晏菜が入り込んでくる。

「ふ~ん、だからって一緒に勉強…… なんて沙羅ちゃん聞いたら怒るんじゃないの? 私だったら、そんなやつとじゃなくて私と勉強しろって言うけど。おにぃ、浮気性だねぇ?」

「そんなことあるか! それと今日、夏村さんの所に遊びに行きがてらオッケーもらいに行くって聞いてるし」

「ふ~ん、そうなんだ(沙羅ちゃんはどう出るかな?!)。私、知~らない」

「まぁ、俺はどうでもいいんだけ・ど…… あっ、コーヒー、まだ残ってた……」

 そう言って多江ちゃんの突然の来訪で飲むのを止めていたコーヒーに手を付けた。

 既にコーヒーは冷たくなっており、口にした時、とても苦く感じた。


 ◇◇ それから十数分後の夏村家 ◇◇


 中学時代に何度か夏村家には来たことはあったので、無事多江は夏村家についた。

 最初和也が夏村家を訪問した時は緊張と家が高級すぎて緊張しまくっていたが、多江は昨日も訪れたのかのごとく、沙羅を呼び、家に入った。 

 久しぶりの夏村家を多江は観察していた。

 建物自体に変化はなかったのだが、印象的に明るさが以前に比べ無くなったと感じた。

 しかし、沙羅の部屋に着くと、ここだけには生気が満ち満ちていた。

 中学時代に比べ、眩しいくらいに明るくなったと感じた。

 部屋のところどころに中学時代では考えられないフィギュアといった装飾品や当時の沙羅の趣味とは全く異なる本が飾られていた。

 その時、多江は明らかにその部屋に和也の存在を感じ取っていた。


 そして、久々の会話を楽しむ二人、沙羅と多江。

 中学時代の思い出や高校に進学した後の話に花が咲く。

 今まで話ができなかった分、思っていた以上の深い内容についてもぶつけ合った。

 だが、お互い『譲れないもの』はあるようで、そこに立ち入ることは許されなかった。


 そしてかれこれ一時間ほど話した後、多江はこう言った。

「ところで、かずくんとはどうなの?」

「うん、付き合い始めて一、二か月だけど毎日が新鮮で、とても楽しいんだ」

「よかった! うまく行っているんだね。安心したよ」

「ありがとう。小倉さんがかずに俺のこと、面倒みてほしいって言ってくれなかったら、今頃、こんなにうまくはならなかったかもしれない。感謝している」

「いいの。でも本当にかずくん、やさしいよね」

「うん、やさしさの中に心の強さもある」

「そうなんだ…… ところで、今、私、かずくんと同じ進学塾行ってるの知ってるよね」

「あぁ、知ってる。かずは私立理系だから八月から始まるんだろう」

「そう、それで…… やはり、同じ理系ということで、私も分からない時があった時はかずくんに教えてもらおうかなぁと」

「ふ~ん、ん?! 何を?」

「勉強をだよ」

「勉強か、それならいいんじゃない」

「そうなんだ、それじゃ、わからないところがあったら、かずくんの家って近所だから、勉強教わりにかずくんの家に行っていいかな?」

「いやぁ、別にいいけど…… ん? あんまり良い気分じゃないが……」

「オッケーなんだ。じゃあ、かずくん、私が取っちゃっていい?」

「取っちゃっていい…… って、オイ! お前、何を言い出すんだ?!」

「彼女いる人を好きになっちゃいけないって法律ないし…… 私も好きになっていいのかなって、かずくんを!」

「だいじょうぶだ…… ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

「なっちゃん、棒読みだよ(笑) そんなんじゃ、私取っちゃうよ」

「おい、そんなことを言いに来たのか、お前!」

「だって好きになっちゃったんだから、しょうがないじゃん」

「大丈夫、かずは俺以外、眼中ないし、お前が入る余地すらない」

「でもね。なっちゃんがかずくんのところに来るまでは、かずくんは私たちの仲間だったんだよ。

 高校に入って、消極的でどうしても教室になじめないでいた私を勉強仲間に誘ってくれたのはかずくんなんだ。

 そして、自発的にしゃべらない私に一番声をかけてくれたのはかずくんだったんだ。

 逆にかずくんに学校で一番声をかけていたのは私だと思っていた。

 そして一番最初に打ち解けて私と心を通わせてくれたのはかずくんなんだよ。

 あの当時はいつもかずくんは私を見てくれていた。

 それがなっちゃんが来て、かずくんを強奪していって、その上交際って納得できないよ…… 

 私から告白する時間も作らせてくれなかったんだから」

「小倉さん。私がかずくんに告白する前からかずくんのことが好きだったってことなの?」

「もう、交際開始しちゃったんだから、しょうがないけど、かずくん、好きになったのは私の方が先だからね」

「そうか。でも残念だったな。もう俺たちは付き合い始めたし……」

「まぁ、それは別として、かずくんの家で勉強教えてもらっていいよね!」

「いいよ。俺も負けないから! その上、俺はもう嫁入り修行も始めているしな!」

「ほう、そんだけの余裕あるなら、私やさくらさんがかずくんと仲良くしていても大丈夫だよね」

「ん……? 結局、それを言いたかったんかぁ。紛らわしいなぁ。もちろん、かずの友達なんだから、俺はかずと小倉さんたちが仲良くしていても怒らないよ。かずを信じてるし、なにしろかずは俺にぞっこんだ」

「じゃあ、交渉成立!」

「あぁ、勝手にしろ」


 その後も勉強の進捗等を話した後、多江は沙羅の家を出た。

「また、来てもいい?」

「もちろん、また電話ちょうだい」

 不必要に厚いドアを閉め、自転車をドアの外に置き、多江は夏村の家に振り返る。

『かずくんを取るっていうのは本気だからね。うかうかしてると知らないよ、なっちゃん!』

 と多江は思いながら自転車に乗り、自宅に向かった。


 夏村は多江が帰った後も胸の(つか)えが取れなかった。

 多江から意表をついて出た『かずくんを取る』という言葉が引っ掛かったのだ。

 話の中では冗談でごまかされたが、多分、本気の部分もあるだろう。

 これは宣戦布告かと夏村は思った。

 ここでのことを和也に言うべきか否か……

 そして和也には伏せておくことで心は決まった。

 言ってしまうと和也はこのことを強く意識してしまうと考えたからだ。

 あいつは誰にでも優しくするから、何をするかわからないからだ。

 ここは和也を信じるときだと夏村は思った。


 夏村は多江が言ったあの言葉を思い出していた。


『なっちゃんより、私の方が先にかずくんのこと好きになったんだからね!』っか……


 ごめん、小倉さん。

 残念ながら私の方が小倉さんがかずくんに出会う数倍前から好きになっていたんだよ……

 だから私は絶対に負けないよ。


 外は雷雲が近づいているのか、西の空が真っ暗に変わっていた。

 遠雷の音が聞こえ、(じき)に大雨が降るかもしれない。

 和也は部屋の窓を閉め、再び机に向かった。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2021/10/07 体裁・誤記修正

2022/07/02 改稿

2022/09/01 校正、一部改稿

2022/09/03 誤記訂正

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