1-8話 和也の気持ち
【読者様のコメント】
夏村さんは見た目がヤンキーで口調がちょっと過激なだけで、周囲に配慮できるめちゃくちゃいい子だと思うのです!
だから、惚れてしまうのも無理はない!!!
とにかく可愛い!!! 夏村さんが破壊力抜群で可愛い!!!
デートが楽しみですーーー!!!
夏村さんはバス通学であった。
付き合い始めの頃、ヤンキーなのでスクーターかバイクに乗っての通学かと思っていたが、意外と普通の女子高生であった。
夏村さんはうちの高校の最寄りの『大鳳高校前』というバス停から浦和駅まで乗っていた。
同じバスに乗り込む客はおおむね夏村さんを見ると近くに寄るのを避けるため空間を作ってしまう。
夏村さんはバス車内の人の流れを抑制しないように、バスの一人シートの一番後ろ(その後ろ一段高くなり二人シートになる)に座るのが常だった。
そして下を向いていれば、誰も気づかないとという寸法だ。
終点、浦和駅西口で降りる時も一番最後に降りた。
停留所からショッピングモールCORSOまでは地下道で一本のため、そこで買い物をしてから自宅に帰る。
駅前の繁華街から住宅街に向かう道、次第に喧騒から離れ静寂に包まれる。
そして誰もいない自宅に帰っていく。
さすがにバスは早い。
一緒に『大鳳高校前』の停留所を出ても自転車ではダッシュで駅まで走っても二十分近く遅れての到着となる。
しかし、夏村さんの家での勉強会はそれほど急いで帰らなくてもよかった。
というのは、夏村さんの家での集合が十八時であったため、俺も途中、適当に駅前の本屋で立ち読みしたり、CDショップに寄ったり、グダグダしながら夏村さんの家に向かっても十分に間に合う時間であったからだ。
それほど急いでいない道中だが、もう七月である。
夏村さんの家に着くとすでに汗だくになる。
一度、自宅に帰ってから着替えて、夏村さんの家に行くというのも考えた。
しかし、両親が夏村さんに夕飯を作らすのはかわいそうだから、家で食っていけと言うのがオチである。
よって家に立ち寄ることはなかった。
家族との食事を取るか、それとも自宅モードの夏村さんを取るかと言われれば後者を俺は取る。
夏村さんの家に着く。
必要以上に分厚いドアを開け、自転車を駐車場に入れ、玄関に向かう。
玄関に着き、チャイムを鳴らすと夏村さんが顔を出す。
「かず、汗だくだなぁ。シャワーを浴びるか?」
「えっ! 借りちゃっていいのでしょうか?」
男子高校生が同級生の女性の家でシャワーを借りちゃっていいのと頭が混乱しまくっている最中に、夏村さんの声がした。
「着替え、おやじのお古があるからそれを着てくれ。シャツは洗濯して、帰るとき迄には乾燥機で乾かしておくから」
こうなってくると、当然のことだが、シャワーを浴びないという拒否権は俺にはない。
完全に夏村さんが俺の頭の中では世話焼き女房という幻想を抱かせてしまう。
夏村さんの言われるがまま、シャワーに入り、彼女が準備したというお父さんのお古のパジャマらしき物にそでを通す。
胸にはどこかで見たマーク。
高級ブランドかなと、ふと考えこむがおしゃれ音痴の俺にわかるはずがない。
数分後。
「シャワーありがとうございます」
「どうだ、おやじの……。おっ、似合うなぁ。次回来た時もこれでいいな」
これって毎回シャワーを借りちゃう流れですよね。
気持ちもいいし、まぁいいか。
その後、約二時間、今週の授業のまとめを確認する。
夏村さんはこの時点で、すでに現在までの授業に追いついていた。
一か月チョイで中学のおさらいを終え、ここまで追いつくとは俺の考えをはるかに越えていた。
さすが国立大学附属中学出身は伊達じゃない。
まずはこれで第一段階は達成と俺は思い、夏村さんに伝えた。
「夏村さん、もう授業、完全に追いついたと思うよ」
「本当か、最近授業の内容が完全にわかるようになったんだよ。俺すげーなぁ。よし。自信ついた。サンキューな、かず」
本当に自宅モードの夏村さんの笑顔を見るのは俺にとって一種の役得であり、他人は見ることができない、俺にとっての最高のご褒美だった。
続けて、先日のバンドの練習の同行の件についても礼を言った。
「いや、俺が勝手に付いて行っただけだ。なんか俺の知らない世界がそこに有って、かずの別の一面も見られたから良かったよ」
「それなら結構です……」
「うん、それと……。かず、カッコよかった……」
「そう……。そう? え? 今、何って言ったの?!」
「カッコよかったって言ったんだよ! もう言わねぇぞ!」
「ありがとうございます……」
このたまに見ることのできる夏村さんのデレも最高です。
本題に戻そう。
「そうだ。バンドの練習に付き合ってくれたおわびと言っては何ですが、今度は夏村さんの好きな所、一緒に行きませんか?」
「好きな所かぁ~……。あー?! もしかしておまえ、俺をデ・デ・デートに誘ってねーか?」
「いや、そんな深い意味はなくって、一緒にどっか行きたいなぁと思っただけですよ。目標の第一段階達成記念として」
「そうか……。すげぇ、良いなぁ。俺の好きなところか……」
「どこでもいいよ。今度の日曜日になるけど」
「ちょっと待て!」
と言い、夏村さんはスマホを取り出した。
スマホを操作しながらも顔全体が真っ赤になっているのが分り、俺も釣られて照れてしまった。
ところで、誰に電話するの? ヤンキー仲間? と思っていたところ、意外なところに電話をしたのに気づく。
「もしもし、晏菜ちゃん? 夏村です」
おいおい、どさくさに紛れてどこに電話をかけてんだ。俺の妹に電話してどうする。
『あっ、沙羅ちゃん。今日って、おにぃが家に行ってんじゃないの? エロいことされた。殴っていいよ』
何を物騒なことを言ってるんだ。
電話を晏菜にかける夏村さんも夏村さんだが、電話で変なことを聞いているわが妹も妹だ。
「実は、かずからデートの申し出があった……」
「ヒュー! ヒュー! おにぃやるねぇ、行っちゃえ! 行っちゃえ!」
「初めてのデ・デ・デートってどこ行けばいいかなぁ……」
「水族館とか動物園とか、沙羅さん好き?」
………
こんな取り留めもない電話に三十分もつき合わされた結果、池袋のサンシャイン水族館に行くこととなり、併せてその前日は、俺がバンドの練習で不在のため、晏菜が夏村さんの服を一緒に探しに行くことが決まった。
その電話をしながら楽しそうな表情をしている夏村さんを見ていると自分も自然とニヤけていることに気づく。
「夕飯、もうできるんだが……」
「あっ、いただいていきます……」
なんか気まずい……。
デートに誘ったという意図は俺にはなかった。
真面目に勉強会でこれまでがんばってくれたことに、すごく俺は感謝していたからだ。
それと彼女を教えることで自分を振り返ることができたと思った。
陰キャラの俺からしたら……。
たぶん、夏村さんを彼女にできれば最高なんだろうな。
勉強もできる感じだし、奇麗だし、料理もできる。
だって、今こんなふとした瞬間も幸せを感じているのだから。
彼女にはヤンキーであり続ける理由があるようだし、家庭環境も俺が簡単に入り込めない問題がありそうだ。
でも、彼女の悩みのほんの一部でも俺は解消できたらと、心から思っていた。
このことは同じクラスの横山とも約束をしていたことだ。
ヤンキー口調の抜けない夏村さん。
たまに切れる夏村さん。
意外とウブで恋愛ごとにはポンコツな夏村さん。
そして……
俺を幸せな気分にしてくれる大好きな夏村さん……。
ここまで女性に好きという感情だけではなく、心の安定をもたらせてくれたのは夏村さんが初めてだった。
多江ちゃんのことも好きだったがそれとは別次元の感情だと俺は思った。
俺は正座し直して、夏村さんに向かってこう言った。
「夏村さん。俺、一言言わせてほしいんだけど」
「いきなり、なんだ?」
「あなたに最初、学校で呼び出された時、生きた心地がしなかった。夏村さんに勉強を教えてくれ、形だけでも付き合おうと言われた時、冗談でも嫌だと思っていました」
「うん」
「でも、最近、俺、夏村さんのことばかりをいろいろ考えちゃうんだよ。いつもいつも、朝から晩まで。今、夏村さん何しているのかなぁ、何考えているのかなぁって」
「……」
「なんか、それが俺の当たり前になってきて、俺の心の中心にいつも夏村さんがいるって感じなんです」
「……」
「俺は以前、たけしと話した時、夏村さんは俺には考えもつかないような、大変なものをいくつも背負っていると言っていました」
「……」
「でも、こうして一緒にいることで夏村さんの本当の笑顔を俺だけが見ることができたと思うんです」
「……」
「それが嬉しいんです。俺はもっと夏村さんに笑顔になってほしいんです。俺のために笑ってほしいんです。だから……」
「……だから?」
「今度は俺から言います。
大変なものもすべてふっくるめて俺も背負うので……
こんな素顔のきれいな夏村さんと釣り合わない男ですが……
夏村さん
俺と付き合ってください!」
言っちゃった……。
「ん?」
顔がクエスチョンマークの夏村さん。
「ん?」
返事を待つ、俺。
「てか、俺たち、もう付き合っているんじゃなかったっけ?」
「え~!(そう思っていたの?!)」
「付き合っていると思っていたから、いつかずが手を出してくるか楽しみしていたのに、何もしてこないし。こいつってシャイなのか、内気なのかと思ってたけど、まだ付き合っていないと思っていたのか」
「てか、形だけの仮の交際じゃなかったでしたっけ?」
「まぁ、いいや。ありがとう。すげぇうれしい。でも、俺はもっと前からおまえが好きだぞ!」
「夏村さん……」
「俺が彼女だとおまえが思っている以上に大変だぞ!」
「いいですよ。もうこれ以上のビビることは無いと思ってますから……」
「いつ警察にお世話になるかわからないぞ!」
「警察関係者に知り合いいますのですぐ出してあげますよ」
「ヤンキーだから、すぐエッチをしたくなるが心の準備は大丈夫か! 今でもいいぞ! 家には誰もいないからな!」
「俺は高校卒業するまではする気はないので我慢します」
「我慢するな! 俺の立場もあるだろう!」
「でも、だめ! 自己処理しますから」
「自己処理ってなんだ?」
「内緒!」
「まあ、俺が彼女なら最強だな!」
「どういう意味かよくわかりませんが……」
「よし! 決定! 今度のデート、新鮮な気分でいけるなぁ」
「そうかもね」
「じゃあ、メシの準備するから」
「お願いします」
夏村さんはキッチンに向かった。
い、言っちゃった!
その上、オッケーをもらっちゃった。
超ハズかしかった。
でも、俺の本音を言えて良かったと思った。
しかし、暑い。
興奮しすぎたかな……。
手で顔を扇いでいると、キッチンの方からやたらでかい、何かを蹴っ飛ばした時に出るような音がしたと同時に、夏村さんのでかい声が聞こえた。
『やった! おーし!』
俺は思わず吹き出してしまった。
面白い人だな夏村さん。
確か以前もこんなことがあったと思ったが……。
でも、そんなところも含めて俺は夏村さんが大好きだ。
「今日もおいしくいただきました」
「どういたしまして。なんかもう夫婦みたいだな」
「いえいえそんなことはありません。あっ、そうそう。母さんが今度一緒に俺の家で食事でもどうって言ってました」
「うん、喜んで行く。でも、俺が飯を作って、かずが食べる……。いいな、一気に夫婦みたいだなぁ。それで『今晩はどうします?』って」
「はぁ?! 当然帰ります!」
「よし、今度、高松家に嫁入り修行に行こう!」
「ちょっと待って! まずは高校卒業して、大学に入るんでしょう?」
「早いことに越したことはない。善は急げだ!」
「まずは、期末テスト終わってからね! 一回、息抜きにデート行くんだから」
「そうか……デートか……あと3日だな。まずは晏菜ちゃんと……」
「すみません、うちの妹とどういうご関係ですか?」
「俺のアドバイザーだ。色々百戦錬磨だしな」
「ちょっと聞きますが、晏菜って……彼氏いるの?」
「晏菜ちゃん、彼氏いないって言ってた。おにぃが好きだって。あいつブラコンか?」
「絶対ありません。ということは、告白して早々、晏菜と壮絶な奪い合いですか?」
「だいじょうぶ、けんかなら俺が勝つ」
と話しながら、妹に彼氏がいないことで胸をなでおろす兄であった。
夏村さんの家を出て自転車に乗り自宅に向かう。
やはり初告白成功からか、足取りも軽い。
夜の旧中山道がジェットコースターのようだった。
もうすぐ夏休みだし、一緒にいろんな所に行きたいなぁ。
いろいろと妄想しながらの帰路は短く感じた。
家に帰ると既に家族全員に夏村さんと付き合い始めたことが知れ渡っていた。
あれ。
まだ付き合っていなかったの。
と言う家族からの質問の回答には困った。
めんどくさい……。
こうして、俺の『彼女いない歴イコール年齢』は終わりを告げたのだった。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2022/08/24 校正、一部改稿
2023/05/06 改稿




