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9ー6話 君が君であるために(1)

君が君であるために

森川美穂 18枚目シングル 1993年

 ◇◇ 二月十日 ◇◇


「失礼します。和也さんの同級生の緒方那奈と言いますが、和也さんいらっしゃいますか」

「ええっと、和也の中学の時代の?」

「おじさま、大鳳の同級生です」

 この当時、中学時代に俺をいじめた記憶がある陳謝の人たちが来ていたため、父はそれと間違えたようだ。

「緒方さんですね。今日は?」

「今日から勉強会でお世話になります。宜しくお願いいたします。こちら、つまらないものですが」

「あ、ありがとうございます。ちょっと待っていてくださいね」


 父はリビングダイニングに入ると、母に尋ねた。

「和也から、勉強会に新しい子が来るって聞いてた?」

「ううん、聞いてない。小倉さんの娘さんが来なくなったなと思ったら、また新しい子が参加?」

「まあ、沙羅ちゃんも来ていることだし、問題無いか」

「ちょっと聞いてくるよ」


 コンコン。

 ドアをノックする音がした。

 俺は立ち上がり、ドアを開けた。

「はい、なんでしょう」

「今、下に緒方さんて子が来ているわよ」

「おにぃ、那奈にも勉強会参加のオッケー出したの」

「うん、彼女の夢探しに付き合うことになった」

「沙羅ちゃん、これってどうなの?」

「那奈ちゃん、今回の件でも、がんばったし、かずやがそう決めたのなら別にいいよ。かずやがファンであったという責任感もあるんだろうしね」

「かずや先輩なら、私の夢も探してくれたから、緒方先輩も助けてあげることできるとおもうんです。だから私は賛成します」

「なんであんたが賛成権もっているのよ!」

「経験者ですので」

「まあ、いいや。でもここに井上先輩は呼ばないでよ。関係者全員集合になるから」

「ということで、俺が下にいくわ」

 といい、俺は母と一緒に階段を降りた。


「こんにちは~。揃っているねぇ。夏村さん、さよりちゃん、こんにちは。そちらは妹さんかな、STMのファンなんだよね。STMの時はお会いしたことなかったよね。緒方那奈です。これから宜しく~」

『腹立つ~、おにぃ』

 多分こう言いたかったのだろう、晏菜は俺をにらみつけていた。


「私はどこに座ればいいかな」

「私はもうすぐ自分の部屋にもどるから、テーブルの空いた場所に座ったら」

「晏菜ちゃんだっけ。おばさんにケーキ渡してきたら、適当な時間にみんなで食べよう」

「わかった、持ってくる。じゃあ受験勉強の続きするから戻るね、おにぃ」

「へいへい、不明点あったらいつでも来いよ」


 晏菜が俺の部屋を出て行くと、いつもと晏菜の態度が違うことを夏村さんに尋ねた。

「そりゃそうでしょ。小倉さんいなくなったと思ったら、もっとかずや好みの子が入れ替わりに入ってきた。こりゃブラコンとしては危機感がやばいんでしょ」

「へ~、晏菜ちゃん、ブラコンなんだ。こりゃ注意しないとな。で、かーくん、これからどうするの」

「まずは何を目指すにしても、中学高校の基礎学力が無いと話にならないので、さよりにも受けてもらった、中学学力のテストを今日受けてもらって、次回は高校入学から現在までのテストを作っておくのでそれを受けて、現状の学力を測ろう」

「わかった。でも、なんで勉強するの? 社会に出たって三角関数とか使わないじゃない」

「高校での勉強は暗記問題を暗記するのではなくて、どのような背景でこのような解となっているのかを知ることが重要なんだ。要は世の中に出て考えて行動できるように考え方を学ぶことと、勉強すれば考える力が付き、その力を使って活動する職業選択の選択肢が増えるってことだね」

「考えることね。面倒だな……」

「クイズとかゲームだと思えばいいんじゃないの。トランプでこの手札残しておけば誰かが苦しくなるなとか考えるでしょ。そんな感じだよ」

「わかった。かーくんに言われたら信じるしかないね」


 テストが終わり、採点をする。

 中学二年以降の知識が低いことがわかった。

 さよりの時もそうであったが、中学二年は何か学生を惑わす時期なのであろうか。

 『中二病』という言葉も有るくらいだし……。


 現在、二月中旬で三月初めには期末試験もある。

 さよりが勉強会に参加したのは高一であり、時間的余裕があったので現在では学年の上の下くらまで上げることに成功した。

 ただ、那奈はもう二年の三学期である。

 就職を目指すにしても三年の夏休みにまでにはある程度の学力は付けさせておきたかった。

 短い期間に多くの知識を押し込むには何か目標が必要であろう。

 やはり夢を予め決め、そのためには何をすべきかを考えることが必要だと俺は思った。

 那奈の方向に目をやると、テストに疲れたのかグッタリしていた。


 ふと、今までの那奈の仕草で気になったことがあったので俺は那奈に問いかけた。

「那奈、お疲れ。そういえば、那奈って休み時間とか結構スマホ見ていることが多いのに、今日は全然見てないよね」

「だって、かーくんが私のために色々やってくれてるんでしょ。スマホ見てたら失礼だよね」

 その言葉に俺は那奈の本気を感じた。

「了解。いい心構えだ。じゃあ、那奈のためによい夢探しの方法を考えましょうか……」


 ◇◇ 二月十六日 ◇◇


 那奈の勉強会参加二回目。

 高校二年までの授業内容をテストで確認したが、やはりほとんど出ていなかった。

「あちゃ! こりゃ、全然だめだね。あたしゃどうしたらいいのかね」

 と那奈はため息を付く。

 落胆の表情と決意が空回りしており、いつもの元気がなかった。

 俺はそんな那奈を見るが嫌だった。

 STMで踊っていた那奈は俺に光輝いて見えた。

 初めて那奈と一緒に行った後楽園ゆうえんちでの俺以外のファンは絶対に見ることができない笑顔や表情が曇るのが嫌だった。

 まずは、約1ヶ月後に迫った期末試験をどう乗り越えるかが問題だ。

 熟考した後、那奈を俺の机の横に呼んだ。

 俺が机に椅子の状態なのにも関わらず、那奈は床に敷いたカーペットの上に女の子座りをした。

 不覚にもかわいいなあと思ったが頭を横に振り、那奈にこう言った。

「那奈、今回は付け焼き刃で悪い。勉強会の方針をその場しのぎの対策に絞らせてくれ。期末試験以降は、卒業に向けての勉強方法に変えるから」

 うんうんと子犬のようにうなづく那奈がかわいい……じゃなくて!!

「これから言うことに了承してほしい。第一に二月二十四日に学校で受ける全国模試は諦めてくれ。あと1週間ではどうにもならない」

「あいよ」

 那奈からの軽い返事で、彼女がこの提案をあまり気にしていないと理解した。

 ひとまずほっとする。

「第二に期末試験用の予想問題をこれから速効で作るので明日からはこれを覚えるくらいの感じで勉強してほしい」

「うんうん。がんばっちゃうね」

 また子犬のようなレスであったが、表情は異なっていた。

 まずはそれをこなせということだなというミッションを理解したようだ。

「第三に今から渡す問題集を各教科1日1問は必ず解くこと。解いた後は解答をよく見て、どのように解くのか納得いくまで読むこと」

「これは?」

「中学二年の問題集。那奈は中二のレベルが不完全だから、まずはここから固めていく。できる?」

「これって、夏村さんやさよりちゃんも通った道なんだよね。だったら私のがんばるよ」

「でもあくまでも1日1問ね。期末試験までは試験の予想問題に集中ね」

「わかった。なんか色々と貰っちゃって、お土産貰った気分」

 ネガティヴな感想でなくてよかった。

「期末試験まであと1ヶ月。毎回勉強会で進捗確認するから、頑張ってよ」

「うん、でも予想問題ってこんなに分量あるの……って何これ?」

「1/5が問題で、4/5が問題の解き方を解説したものをつけてみた。先週の成績で多分問題と解答渡しただけだと、どうしてこれが正解なのか、問題から解答への導き方が分からないと思ったんで1週間かけて作って見た」

「ふん、そうなんだ……。かーくん、ありがとう」

「じゃあ予想問題始めようか。解説見てもわからないところが有ったら言ってね」

「わかった。がんばる」


 テーブルに向かいあわせに座ったさよりが、夏村さんの手をペンで軽く叩いた。

 夏村さんがさよりの方を見ると、さよりは、

「ちょっと、かずや先輩、手間かけすぎじゃないんですかね」

 というと、夏村さんは笑いながらこう言った。

「あいつは甘やかせすぎなんだよ。そして自分でも気づかないうちに相手を自分に振り向けさせるようにするんだよ。さよりみたいにな」

「ちょっと腹が立ちませんか?」

「ああいう性格なんだ。諦めているよ」

 

 ◇◇ 三月二十日 ◇◇


 期末試験までに晏菜の受験、合格発表、謝恩会、卒業式と自分に関係する予定は絶え間なかった。

 三月十二日から十四日まで期末試験。

 週明けの十七日から三者面談があった。

 期末試験の答案の返却は十八日にあり、恒例の成績優秀者の張り出しもあった。

 

 終業式が終わり、生徒会室での挨拶を終え、夏村さん、さより、俺で帰ろうとしたとき、下駄箱のところに那奈が待っていた。

「みんな、待っていたよ。かーくん、一応成績、クラスの真ん中辺に行ったよ。約束守ったよ。これからも宜しく」

 二学期の成績がクラスの下から数えた方が早かった那奈であったが、今回は真ん中まで上げることができたということなのだろう。

「よかった。これを継続しながら、本当の夢探しに行こう」

「頼むよ、迷パイロットさん」

 四人は一緒に成績の話をしながらバス停に向かった。

 

 今年は春が早めに来たせいか、桜の花はすでにほころび始めていた。

 春休み期間中、夏休み同様午前中は周回とトレーニングを続けることにしている。

 たぶん、ここで一人、この桜の花の行く末を眺めていくのであろうと俺は思った。


「かーくん、あのさ、ちょっと相談なんだけどさ、成績がんばったで賞のお礼ということで、春休みディズニーランド行かない?」

「那奈さん、それってデート、誘っているんじゃないですか。かずや先輩、私とのデート、すっぽかされてばかりです。那奈さんより私が先ですよ!」

「さよりちゃんと、私と比べたら横にどっちがいたらいいと思う? それは私だよね」

「夏村さん」

「かずや! さらっと本音言うんじゃねぇ! しゃあねえなあ。俺が先ということで」

「夏村(先輩!)さん!」

「もう、誰でもいいよ。あっ合格祝いに晏菜連れて行こうかな?」

「でたな、シスコンおばけ。なおれ、ここでぶった切ってやる!」


 どうやら、短い春休みは彼女たちとともに過ぎ去っていくのであろう。

 ごめんね、周回沿いの桜たち……。

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編集記録

2023/08/14 改稿

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― 新着の感想 ―
[一言] 良い話でしたね♪ よく勉強を『無意味じゃん』とか「社会に出て何の役に立つの?」なんて、間の抜けた事を言う人が居るのですが……社会の仕組みって、その上で成り立っている物なので、それを知らなきゃ…
2023/06/13 23:08 殴り書き書店
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