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9ー5話 Pride(2)

Pride

森川美穂 7枚目シングル 1987年

 ◇◇ 四月十八日 ◇◇


 体育館への机と椅子の搬入、配置は意外と早く終わった。

 男六人もいれば、それほど時間も掛からず明日の準備は出来上がった。

「よし。あとは明日うまく、イベントをまわせればいいな」

「会場でのトラブルがあったら俺たちが対応するから、竹中たちが中心でイベントを進めてくれ」

「池田ありがとう。無事に終わってイベントに参加者が満足してくれるといいな」

 そこに、A4の紙の束を持ってさよりが入ってくる。

「この紙に、学年、氏名、自分の相談に乗れる事項を書いてもらって、卓上席札をつくって置けば、一年生も誰に聞けばいいか分かり易くないかな?」

「なるほど、いい案だね。それ採用!」

「ちなみにペンも持ってきたよ」

「さすが! これで準備万端だな」

「じゃあ、夏村、高松先輩に報告、明日のイベントの進め方の再確認をしよう」

「オッケー」


 なんとかこの六人のチームもうまく回っていきそうだ。

 しかし、相手は人間だ。

 何が起こるか分からない。

 俺は最後に明日の全授業終了後、各自担当学年の教室に行き、出席者の誘導をメンバーに依頼して打ち合わせを終わりにした。


「さて、明日はどうなるのかな」

 夏村さんは俺の顔をのぞきこみながら、尋ねた。

「まあ、明日のことは彼らの任せましょう。もしなにか有って相談に来たら乗る。それまでは傍観の立場で。そうでないと彼らも成長しないですよ」

「そうか。あくまで彼らに考えて行動させるつもりなんだな」

「そうですね。まあこれは第一弾で、次は修学旅行が待っていますけどね」

「オリエンテーションはかずやの手の内で転がされているだけだが、修学旅行は実践版か。そして最後が学園祭」

「学園祭、今年はどんなトラブルを起こしますか?」

「三年連続はやばいだろう。とはいえ両方の原因は滝川だったしな」

「その後、京浜連合との訴訟はどうなっているんですか」

「全部、お祖父さんの弁護士に任せちゃっているから俺はわからん」

「敏腕の弁護士団とかついていそうですしね」


「ところでおまえのSNSの件はどうなっているんだ?」

「猪瀬は民事、刑事で責めていて、民事の第一回目の審議が二月にあるみたいです。一哉は自首して、執行猶予になっているらしいです。まあ、刑事の場合、60日とか90日とかの執行期間があるらしいので、今の警察の調査では無理らしいので執行猶予付けて終わりにしたみたいです。ということは受験での対決は可能になりますね」

「でも執行猶予中で受験しても合格できるのか?」

「まあ、受験資格には執行猶予中の生徒は受験できないとは書いてないので大丈夫なんじゃないですか。大学の最終判断まではわかりませんが」

「そうか。じゃあこっちは相手のことは考えず、確実に合格を狙えるよう頑張らないとな」

「そうですね。夏村さんも全受験生の上位13%に入って来れたので、十分戦えると思いますよ」

「そうか……。もう少しがんばらないとな。かずやは?」

「俺は上位7%に入る必要があるので、もうひと踏ん張りと、面接、小論文対策が、問題なんですよ」

「特に面接なんかは対策はどうするんだ」

「そこでなんですが、新しく入ってきた岡田先生が面倒見てくれるって話になったんですよ。浦高でそういう対策もやられていたそうで」

「それはよかったな。あとはお互いがんばるだけだな」


「……」

「どうした、かずや」

「この前、柔道場で乱取りが終わった後、言いましたよね。『俺、夏村さんから一本取ったので、お嫁さんになってくれますよね』って。あれ、忘れないでくださいよ」

「かずや……。実はな……」

「約束事項なので守っていただきます」

「……もしかして、待たせることになるかもしれないが、いいか?」

「もっと大人の女性になるまでは待ってあげます」

「おまえも大人の男性になれよ」

「はいはい、わかりました」


 ◇◇ 四月十九日 ◇◇


 前日、晏菜と話すことも出来、同級生も先輩や教職員から直接話しを聞けることを楽しみにしていると聞き、安堵(あんど)した。

 あとは今日回答側の出席者がどうなるかだけが心配であった。

 朝の周回の時に会った人たちには参加をお願いしてはいた。

 ただし、やり過ぎてはいけない。

 あくまで竹中たちが中心ですすめるべきものだからだ。


 ※※※※


 四時限目の授業が終わり、竹中たちが各クラスを回っては参加の再度の依頼をして回っていた。

 ところが、中には仲間内でコソコソ話しあい、

「今日のイベントさあ、どうする?」

「面倒臭くなっちゃったなあ」

「キャンセルでいくか」

 と、勝手に欠席しようとする生徒を見かけた。

 それを見ていたのか夏村さんは立ち上がり、彼らの方向に向かおうとした。

 しかし、おれは夏村さんを制してこう言った。

「夏村さん、ここは俺たちの出番じゃない。竹中たちにまかせよう」

「それでいいのか?」

「まずは、何かあったら考えるでしょ」

 夏村さんは席に座り直し、動向を見守った。


 竹中たちは八組まで回り、参加の要請をして回ったが、最初のあいさつした一組の方向で参加予定だった生徒たちがかばんを持って帰ろうとしているのを見つけた。

 三人は走り寄り、帰ろうとした生徒に向かって大声を出した。

「ちょっと待ってください。参加してくださるって言ってくれたじゃないですか」

「ごめんね。ちょっと時間がなくて今日は失礼するわ」

 と言い、三人を振り切って帰ろうとした。

 同じように各クラスから参加予定だった生徒たちが帰宅の準備をして教室から出てくるのが見えた。


 俺たちはその様子を解放されている窓から眺めていた。

「大丈夫か?」

「まあ見ていましょう」

 竹中、どうする?

 まず考えろ。

 それからアクションしろ。

 失敗したら、また考え直せ。

 それの繰り返しだ。

 どのような学園にしたいか、そのためには何をすべきかよく考えろ。


「先輩方。今日のイベントに参加予定だった先輩方。何が原因か分かりませんが、事前の連絡もなしに勝手に帰るって何事ですか。それで新入生の見本になれるんですか。皆さんが帰っていく姿を見たとき、新入生はどう思うでしょうか。皆さんが新入生の立場だったらどうおもうでしょうか。もう一度考えてください!」

 廊下にいた竹中はこう叫んだ。

 歩いて帰ろうとする生徒の足を止めるには十分な声量だった。

「自分が不安な時、何も答えてくれない。自分がピンチの時、誰も助けてくれない。そんな高校、大鳳高校にぼくはしたくないんです。どうかご協力お願いします」

 その一言で帰ろうとした生徒は困惑の表情を見せる。

 それだけ竹中の言葉は生徒たちの心を動かした。


 その時、三人の後ろから気合いの入った声が聞こえた。

「よし、竹中。俺は約束した。何も役にたたねえかもししれないけど、俺は喜んで参加するぜぇ。おまえたちはどうすんだぁ?」

 ヤンキーを辞めたとはいえ、横山の声には迫力があった。

 その声が後押ししたのか、帰ろうとした生徒たちのほとんどは教室にもどっていった。

「横山先輩、ありがとうございます」

「竹中、さすが、かずやが目をかけたやつだな。おまえの気合いを見せてもらったよ。後で体育館に行けばいいんだな」

「お昼の用意はありませんので事前に昼食をとって集まってください」

「わかったよ。じゃあ昼食後、よろしくな」

 といい、横山は自分の教室に戻っていった。

 竹中たちは無言で横山の背中に一礼した。


「かずや、事前にたけしへ指示したんじゃねえか?」

「いいや、竹中に横山が共感したんじゃないんですかね。へりくだらず、自分の意志を確実に伝える。彼の意志・誇りが見えましたよ。池田たちとの共同作業と夏村さんの喝入れの乱取りのおかげです」

「でも、かずやの想定内の行動なんだろう?」

「それはどうですかね」

 俺は微笑(ほほえ)んで竹中たちの背中を見送った。


 ※※※※


 体育館には二、三年生と教職員が先にやってきて、卓上名札に氏名と自己紹介を書いて貰い、座ってもらった。

 竹中たちは参加者に礼をしながら自己紹介の内容をチェックしていた。

 ひととおりチェックが終わると、反対側をチェックしていた池田たちと集まった。

 そして、メモした自己紹介の内容から新入生から質問されるであろう内容をチェックしていった。

「学園生活に関する質問に対してはだいたい対応できる人数はそろっているけど、大学進学について中心になるべき人がいないよな」

「そうだね。三年一組からもっと人をつれてくるべきだったなあ」

 俺と夏村さんのいる一組は進学クラスなので、そこからの参加が足らなかったらしい。

「一番都合がいい方があちらにいませんか」

 と池田がいうと、全員の視線が俺と夏村さんに向いた。

 俺と夏村さんは彼らが何を考えていたのか把握しておらず、六人の嫌な視線を感じ、奴らから目をそらした。


「なんか奴ら、変なことたくらんでる感じしませんか?」

「とても嫌な感じがする」

 といい現場を離れようとしたところ、六人が揃って走り寄ってきた。

 捕まったかと思い、六人の顔を見たところ真剣な表情をしていることに気づいた。

「すみません。こちらの準備不足で進学関係、特に大学受験に関する質問に対応できる先輩が、少なかったので、夏村先輩、高松先輩にも参加をお願いしたいのですが」

 竹中が理由を話した後、頭を下げると他の五名も一斉に頭を下げた。


「どうしますか、夏村さん」

「俺、かずやにやれと言われた勉強しかしていないぞ」

「こういう弱点にはどう勉強したとか、学校向けの勉強と受験向けの勉強との勉強の仕分けとかいくらでも話できると思いますよ」

「かずやがいいというなら参加してもいいけど……」

「了解、もう二人分席を用意しておいてくれ」

「計三人ですね」

 という池田の言葉に疑問をもち、さよりが新たに準備していた座席にはすでに井上さんが座っていた。

「当日参加オッケーだったよね。私も一応国立志望だから該当してるよね」

『井上先輩、ありがとうございます』

 六人は一斉に礼を言い、頭を下げた。


「ほら、参加人数が増えたんだから男子も座席の準備を手伝う」

 さよりがこう言うと、六人は一気に倉庫に走った。

「かずや、奴らまとまりが出来てきたな」

「向かう方向が一緒だから自ずとまとまりますよ」

「いいグループだ」


 時間開始とともに新入生はどっと体育館に押し寄せてきた。

 各先輩、教職員の前には椅子を六脚用意し、一対一では話しづらいことも易くした。

 話がうまい人の前には群衆ができるくらいだった。

 中でも横山の前には、はじめは見た目が怖いので数は少なかったが、ヤンキー校から今までの変遷と自分の活躍(かなり脚色はしているが)を話し始めると人が集まり、多くの人を集めていた。

 中にはこの先輩は信頼が置けると思った新入生は、これから不安なことがあったら話を聞きに言っても良いかと約束を交わした生徒もいた。


 俺の望んだ学園。

 学年の間で自由に会話できる雰囲気……。

 先輩が作ってきた歴史を理解し、後輩がよりよい学校にしていく風土……。

 生徒と教師の間に壁はないが適切な礼節はわきまえる校風……。

 そして、生徒一人一人が考えて行動する学園……。

 そんな理想の一片を垣間見た瞬間だった。


 俺の前に晏菜と三人娘がやってきた。

「おにぃ、これが私がこの高校に入る前までに作り上げるって言っていた高校の姿なんだね」

「まあ、ここまでは70点かな」

「あとの30点は?」

「『大学受験で良い成績を出す』だろ」

「そうだったね。期待しているよ」

「俺たちが良くても、後輩がダメだと困るんだよね」

「おにぃ、二年生の学力知らないんだ。岡田先生が言ってたけど、国立志望とかMARCH志望とか結構いるみたいよ」

「そうか、それなら心配ないな。あとはお前たちもこの高校を育てていってくれ」

「はいよ。でも中学三年の時の最低最悪と呼ばれた生徒がこの学校をここまでもってきたんだもんね。おにぃすごいよ」

「俺だけではできなかったよ。夏村さんが居なかったらできなかった」

「やっぱ、沙羅ちゃんとの再会が大きかったんだね」

「夏村さんは、いつも晏菜が言っていた『私が入るまでに学校をよくしておいてね』という言葉を度有るごとに反芻していたよ。その言葉に一番忠実に向かって行ったのが夏村さんだよ」

「そしておにぃの跡を継ぐ人を見つけた。そして池田先輩たち。池田先輩、中谷先輩、本間先輩は中学時代から最後までおにぃを信じていた人たちだったものね」

「池田たちと竹中たちがここまでうまく協調できるとは思わなかったよ」

「まあ、私たちがやれることはがんばる。あとはおにぃと沙羅ちゃんがどうなるかだけか……受験もその他も」

「きっちりケリはつける。俺の彼女だからね」


 ※※※※※※

 

 オリエンテーションは大盛況のうちに終わった。

 想像以上の質問に疲れた表情を見せる生徒たちには悪かったが、その表情も六人が近寄り、礼を言って回ると表情は緩み、楽しかったよと言ってくれていた。

 竹中たち六名とさよりが席と机を倉庫に収納しているとき、穂積校長と正見教頭がやってきた。

「夏村君、高松君、お疲れさま。報告は岡田くんから受けている。好評だったみたいだね」

「校長、このオリエンテーション来年もやると後輩が言い出したら協力してあげてくださいね。それが俺たちの願いです。そして俺たちの目的はオリエンテーションの成功ではありません。俺や夏村さん、他の生徒たちががんばってきたこの学園の風土の継承です。幸いにも意志を継いでくれそうなメンバーができました。それだけで二人は嬉しいです」

「わかった。それは約束しよう」

 そして無言で七人の後片付けを眺めていた。


 後片付けが終わったことを確認し、七名は俺と夏村さんのところに走ってきた。

「今日までありがとうございます。無事お約束のイベントは終わりました。片付けながら話したのですが、参加者にアンケートを取り、来年以降のオリエンテーションに役立てようという話になりました」

「そうか、お疲れのところよろしく頼む。夏村さん一言お願いします」


「ぶっちゃけ、はじめはどうなるかと思った。むしゃくしゃしたので乱取りもした。しかし、そこでおまえらは俺たちのやってほしいことに気づくことができたことに感謝したい。そして今回のイベント成功の立役者は君たちだ。胸を張れ。そして『Pride』をもってこれからもがんばってくれ。以上」

 七人は頭を下げ、小走りに生徒会室に向かった。

 

「『Pride』か……。夏村さん、格好いいですね」

「いつもかずやに格好いいことを言われて生徒会長らしくなかったからな。ちょっと横文字を使ってみた」

「格好いいですよ」

「冷やかすんじゃねぇ」

 と言い、俺の肩をバンとたたく夏村さんであった。

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編集記録

2023/08/14 改稿

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