8-7話 信じる人、信じられる人(5)
【読者さまからのコメント】
教師たちがどの学校に移動したのかを調べるため、那奈は一人黙々と調査を続ける。
一方、高松は晏菜、夏村さん、さよりと一緒に、このあとどのように行動すべきかを話し合う。
やはり、中学校側からの謝罪が一番!
ということで、早速役割分担した!
◇◇ 一月二十日 ◇◇
二年間とはいえ、この間に沼幡中学で異動になった教諭は十数人いた。
那奈は二年分の埼玉新聞の県教員の異動記事と睨めながら異動先をチェックしていった。
元々、ダンスばかりしていた那奈だ。
数時間も新聞と資料を眺めていては集中がキレてしまい、資料を机の上に置いたまま、室外に出た。
図書館内は眠るのに十分な室温に保たれていたが、外に出てみると、そこは一月、真冬の世界である。
ジャンパーを椅子にかけたまま、外に出てきてしまったため、寒さが一気に体を冷やした。
那奈のいた埼玉県立図書館は、コンサートや展示会が開催される埼玉会館の隣にあり、数分歩けば埼玉県庁に着く距離だ。
埼玉会館の出入り口の右側には階段があり、そこを上がると、小さな広場があり、その広場で図書館と繋がっていた。
会館で有名人のコンサートがあるときは入り口から階段を上がり、その広場まで行列ができる。
結構な広さがあるため、那奈はそこを数周走った。
広場の外側には石で出来たベンチのようなものがあり、誰も見ていないことを確認して、体操選手のように、側転を何度もしてみた。
「よし、これでスイッチ入った。また、かーくんのためにがんばろう」
と言うと那奈は暖まった体が冷える前に図書館に戻った。
俺の家ではと言うと、晏菜の部屋で、晏菜、夏村さん、さよりの三人で作戦会議を行っていた。
晏菜は以前から俺を怪我させた人物として、さよりのことがあまり好きでは無かったが、今回の俺の件で協力を申し出たこと、積極的に勉強会に参加していることから、だいぶ対応が和らいでいた。
それとどこか俺と考え方が似ているなと感じていた。
「ある程度、昨日リストアップした人の現在の学校はわかったんだけど、おにぃのこと、いじめていたのって、同級生ほぼ全員だよね。全員をリストアップしなくていいの」
晏菜が尋ねると、さよりは、ちょっと躊躇しながら言った。
「多分、いじめた一部の人がさらし者になると、次は自分かと思ってしまい、自分はそうなりたくないと思うものです。やるなら、そのさらし者を徹底的にさらした方が、他の人への影響も大きいと思います」
「というと?」
「多分、以前のままだとかずや先輩、同期会とか行きづらいと思うんですよ。昔と同じように無視されて……。ここは一部の人でもいいので、ぐうの音も出ないほど反撃しておくと、多分残りの人達は態度を変えてくると思うんですよ。とはいっても、かずや先輩が謝らせたのでは、かずや先輩がまた悪者になるので、ここは学校側が代表して、かずや先輩に謝ったという形がいいと思うんですよね」
「そうか、学校が謝れば反撃の目を、そらすことができるってことだな」
「そうです。よって、私たちで今の沼幡中学側がかずや先輩に謝るような流れにもっていかないとダメなんですよ」
「おにぃが中三の時の校長と進路指導の先生は異動しっちゃってるんで、今の先生方に当時の不手際という形で謝ってもらうって形でいいかな」
「でも当時の校長、進路指導の先生も謝罪なり、なんなりさせないと、学校間で揉めそうですよね」
「そこで、教育委員会に入って貰うって手順を考えてる」
「ところで、今の校長先生、教頭先生とのコネクションはどうなの、晏菜ちゃん」
「バッチリだよ。説明すれば乗ってくると思う。当時は居なかった先生だからね」
「あとは、異動した先生だな。今、那奈が調べてくれているから、そこから、先生方の当時の状況を入手して、特に悪い先生を絞って、攻撃だな」
「沙羅ちゃん、攻撃ではなく口撃ね。ここで井上さんの出番か。あの人、口説くの上手そうだから。沙羅ちゃんだと絶対喧嘩する場面でも、あの人うまく口説いちゃいそうだもんね」
「バカヤロウ。俺だって、説得は上手いぞ。かずやから教わったからな」
「私も大宮の学校に行かれた先生がいたら、説明にいってみます」
「お前大丈夫か……? いじめの件で有名なんじゃないか?」
「大丈夫です。私を更生させてくれたのはかずや先輩だから、そんな先輩を助けてくださいって説得します」
「わかった。無理すんなよ」
「問題は那奈をどう使うかなだな……」
「あの人、元アイドルでかわいいから、私を用具倉庫に呼び出した三人の先輩を逆に誘惑させたらどうですか」
「でも、相手が襲ってきたらどうするんですか?」
「あいつ、元は高崎のヤンキーだから、タイマン上等だと思うよ」
「えっ、そうなんですね」
「でも、かずや先輩ってヤンキーに好かれますよね。那奈さんといい、夏村先輩といい」
「お前、俺はヤンキーは卒業したんだ。もうヤンキーじゃねえぞ」
「沙羅ちゃん、しゃべり方がヤンキーに戻ってるし」
その夜、夏村さんを家まで送って行った時、俺は今後の方針の全容を聞いた。
俺は今回のSNSで拡散した犯人の証拠を夏村さんに説明した。
「やっぱ、奴か。かずやまで陥れるなんて、アイツ、今度あったらぶっ殺してやる」
「ところで夏村さん、相談なんだけど。今回、SNSを使って一個人の情報を公開して攻撃したことって、名誉毀損になるんだ」
「名誉毀損?」
「名誉毀損が成立する場合には次の三つが当てはまることが必要で、一番目として、公開された情報で一個人の社会的評価を下げる可能性がある場合、二番目に具体的な事実を挙げている場合、三番目に公然の場である場合であることなんだ。たとえばネット上で「◯◯(実名)は傷害の前科があり、いつも家族に暴力をふるっている」と投稿された場合、これら三つの条件のすべてを満たすため、原則として名誉毀損が成立するんだ。今回の場合、奴の俺に対する名誉毀損が明確なんだ」
「よし、そいつを告訴するか」
「いや、泳がせようと俺は思っている」
「なんで?」
「だって、受験で夏村さんが奴に勝ってからでも遅くないと思うんで。このまま、奴が受験できないと勝負にならなくなる」
「そうか……。そこまでかずやは俺が受験に勝つと思ってくれてんだな」
「もちろん、夏村さんには、奴に対して無敗の俺が付いているんだ。絶対に負けないよ」
「わかった。かずやに任せる。あっ、そうだ……。かずや、俺」
「夏村さん、そうと決まったら、ちょっと作戦練らないといけないので今日は失礼しますね。また、明日」
おれは、夏村さんの話を無理に断ち切って帰路についた。
多分、夏村さんの言おうとしたことはわかっていた。
しかし、自分の中での決断をするまでその話を俺は聞きたくなかったのだ。
◇◇ 一月二十一日 ◇◇
外周を終わって、教室へ向かった。
今日は、前回の暴走族との喧嘩の話が流れた時とは異なり、運動部員達の対応は以前のように戻って居た。
この時点で井上さんの各部への働きかけもあったのだろうが、前回の情報がガセであったことから、今回もどうせガセであろうと判断してくれた様子だった。
部室棟でも各体育会の部員達はいつものように挨拶を交わしてくれていた。
教室。
「いやはや、大変でしたよ。私事務系の仕事、本当だめだわ」
「緒方さん、ありがとう。収穫はどうだった?」
「全部の先生、確認しましたよ。はい、これが一覧表。一応二度再チェックしたので間違いないと思う」
「ほう、異動した先生の異動先か。緒方さん、大変だったね。うん? 倉持と境校長って沼幡からの異動だったんだ。後輩から聞いたことある」
「異動先、田島中って書いてあるね。井上さんの母校じゃん」
「じゃあ、二人は私が担当するよ。どうすればいい」
「二人にはかずやへのいじめの証言をとって欲しい。かずやがいつも使うスマホでの録音でいいと思う。どんな方法を使ってもいいから証言を入手してほしい」
「オッケー、後輩から状況聞いて作戦練るから任しておいて」
「緒方さん。緒方さんにはちょっと他校になるんだけど、三人の男子を連れ出して晏菜ちゃんを監禁しようとした事実を聞き出してほしいんだ」
「手は何を使ってもいい?」
「任せる。必要だったら、うちのたけしたち元ヤンキーをつかってくれてもいい。でもあくまでも自発的な発言で頼む。脅迫では意味が無い。三人から確実に監禁の事実と理由がかずやの妹だからって証言をゲットしてほしい」
「了解した」
「あとはどうするつもり?」
「大宮の中学に異動した先生が数人居るので、さよりに接触してもらってこちら側につくよう誘導して仲間の先生を増やす」
「そして」
「私が、沼幡中に乗り込んで、かずやへの謝罪を要求する」
「できるの?」
「今、実はうちの高校側も教育委員会に手を回してくれていて、共同で動いてる。それと晏菜ちゃんと今の校長はツウツウだから」
「なんかゾクゾクしてきたねぇ」
「実現しなけりゃ意味がない。がんばるよ!」
そして四人の行動はここから加速した。
◇◇ 一月二十二日 ◇◇
大宮駅東口。
戦後まもなく風俗店・飲食店が集まり商店街を構成し、今も、再開発の終わったソニックシティがある西口に比べ、雰囲気は悪い。
その商店街は小路も多く、その中には飲食店が所狭しと並んでいた。
時間はすでに20時を過ぎていた。
「さむいなぁ、ちょっとサテンでも寄ってかない?」
「いいねぇ。しかし、大宮もこっち側(東口)は女子高生少ないから、ナンパとかできねぇからつまんねえな」
「須崎、この前、彼女に振られたばっかりだもんな」
「うるせぇ、遠野もずいぶんご無沙汰じゃねえか」
「お前たちにくらべ、俺は安定の彼女持ちだから」
「いいなあ、山本は~」
三人はくだらない話をしながら、仕事が終わり飲み屋をさがしているサラリーマンを避けながら小路を歩いて行った。
制服姿でバックを持ち、部活帰りなのであろうか、腹を満たして帰るつもりだったらしい。
彼らの制服から大宮にある私立高校であることは一目瞭然だった。
すると小路の中程で、山本の袖を誰かがつかんだ。
びっくりした山本が振り返ると見知らぬ女子高校生が山本の学生服の上着の右腕の裾をつかんでいた。
一緒に残り二人も振り返ると、その女子高生を観察した。
肌は茶褐色に焼け、ショートヘアで、彼らとほぼ同じくらいの身長であった。
「ちょっとラッキーじゃねぇ。お魚さんが向こうからやってきたよ」
「それもかなりの美人じゃない」
二人の会話は周りの喧噪にかき消されていた。
「す、すみません。誰かに追われているので助けてくれませんか? さっきからずっと後を付けてくるおじさんがいるんですよ」
女子高生が言うと、山本はちょっと強がった雰囲気を出しこう言った。
「それは心配でしょう。相手が諦めるまでちょっとサテンにでも行って身を隠しませんか」
と言い、二人に視線で合図をした。
二人は誰か周りに付けてきた男性がいないかざっと確認し、近くのモスバーガーを見つけた。
「あそこのモスバーガーにでも入りましょう」
と女子高生を誘った。
「わかりました。ありがとうございます」
と女子高生は言い、四人でモスバーガーに入った。
モスバーガーに入ると、山本が女子高生をエスコートし、須崎が先に場所取りをし、遠野は何か飲み物でもとカウンターに向かった。
三人でテーブルに着くと、山本は周りを見回しながら、女子高生に尋ねた。
「変な奴、居ますか?」
女子高生は、周りをキョロキョロ見ながらこっそりと言った。
「今は居ないみたいです」
ちょっと遅れて遠野は飲み物を四人分買い、テーブルに運んできた。
「あっ、ありがとうございます。私払います」
「いえいえ、これも何かの縁ですよ。私たちが出しますので」
「そうですか。ありがとうございます」
そこから十数分間、テーブルで自己紹介やお互いの学校の話などを四人はしていた。
完全に打ち解けた雰囲気ではあった。
「そういえばネットで出てましたけど、浦和のぬま何とか中学の、高松でしたっけ。あの人怖いですよね」
と女子高生が話し始めると、すでに三人の緊張もほぐれたのか、口が達者になっていく。
「いやあ、お恥ずかしい話、あの中学、ぼくらも通っていたんですよ。高松って同級生なんですけど、暴走族に喧嘩売って、何十人も怪我させた一匹オオカミ的な存在だったんで、うざかったんですよね。その上、サッカーも中学でナンバーワンだし、成績も良くて、生徒会の委員もやっていたんですよね」
「でも、後から暴走族の件は、間違いで、高校側が情報訂正の手紙を公表してましたよね」
「いや、その時は情報が誤っていたってわからなかったし、いつも一人で先頭を切って、この学校をよくするとか言っててうざかったんですよ」
「だから事件を切っ掛けに、いじめが始まったんですよ」
「いじめって言っても、一部の生徒ですよね」
「いや、その当時は、三年全員から嫌われていたんじゃないですか。やつ、いつもはみんなに柔らかく接してくるのに、本当は平気で暴力を振るう裏のある奴だってね。まあ標的としては良かったんじゃないですか」
「その上、いじめで、奴の品物とか隠すと、あいつ必ず犯人を確実に特定してきて口撃してくるんで面倒くさかったんですよ」
「犯人見つけちゃうんだ」
「そう、だから最後の方は、いじめがバレるのが嫌で、彼の事は全員で無視を決め込んだんですよ」
「でも、後輩の面倒見は相変わらずいいので、後輩からの信頼は強かったんですよ。俺たちが茶々入れても、『あの人はそんな人じゃありません』の一点張りだったもんな」
「そういえば、高松の妹、やっちゃおうって話になったときも二年生の後輩がなかなか言うこと聞かなかったもんな」
「高松っていう人の妹を三人でやっちゃおう…… ってレイプとかしようとしたんですか?」
「そう、体育館の倉庫に呼び出して、遠野と山本が手と足を押さえて、俺が最初に着衣に手をかけて、確かおっぱいとか揉んだ時だったかな、結構大きかったな中一にしちゃあ。その時高松が来ちゃって、あいつにボコられたんだよな」
「そうそう、でも最終的には校長に高松呼び出されて、俺たちの親に殴ったことを謝ることになったんだよな」
「あなたたち、それって犯罪になるって思わなかったの? その妹さんの気持ちとか考えたことあるの?」
「まあ、学校で高松の味方になる先生なんかいなかったもんな」
「それから妹は同級生ががっちりガードするようになっちゃったしな」
「それであなたたちは今は反省しているの?」
「してない、してない。あいつらがどうなろうと関係ないし」
「わかった。いい話聞けた。ちょっと、三人の写真撮らせて貰うよ」
その女子高生はスマホで三人の写真を撮った。
「ああ、胸くそ悪い。後で絶対お前ら潰す。覚えとけ」
と言い、そのまま出て行った。
三人はポカンとした顔をして、その女子高生を見送るしかなかった。
小路に出た女子高生はスマホを出し電話を始めた。
「お疲れです。晏菜ちゃんを襲った三人の証言と三人と会った証拠の写真撮れたんで、夏村さんに送るね。あと、音声ファイル添付するけど聞かない方がいいよ。私もその場に居て反吐がでるかと思ったよ」
「ありがとう、緒方さん。今日はゆっくりして」
「あのさ、夏村さん……」
「何?」
「一日、かーくん、借りていい?」
「なんで?」
「がんばったで賞でデートぐらいさせてもらおうかなって」
「かずやがいいって言ったらいいよ。そのぐらい今は感謝している」
「ありがとう。でも変なカップルだね。彼氏が別の女とデートするのを拒否らない彼女なんて」
「私は、中学時代を取り返せるぐらい、高校生活をかずやには楽しんで欲しいんだ。私だけではなく、もっといろいろな女性と付き合って最終的な答えを彼が出してくれればいいと思う」
「それが私でも」
「かずやは緒方さんを見つけて、自分から那奈という女性を応援したいと思った。そこには彼の心からの那奈への思いがあると思う。それを私が否定することはできない。それを決めるのはかずやだ。かずやに任せる」
「わかった。じゃあ、今日頑張ったことは無駄じゃないね。私の思いもあるから。じゃあ帰るよ、気分が楽になった」
「気をつけて帰ってください。じゃあ、また明日学校で」
「じゃあね。バイバイ」
風呂に入った後、那奈の入手した情報を確認するために夏村さんは那奈の録音した音声ファイルを聞きながら涙を流した。
俺の不憫さ、晏菜の不憫さを第三者の証言から改めて感じ取った。
そして、次の超難敵と対決する井上さんの勝利を祈った。
舞台は一月二十六日土曜、井上さんの母校で開催される同窓会に決まった。
現在、進路担当主任教諭の倉持と境校長が出席するのだ。
彼女なら良い結果を出せると信じる夏村さんだった。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2023/04/24 改稿




