8-5話 信じる人、信じられる人(3)
【読者さまのコメント】
高松は校長に中学時代に起きたことを洗いざらい話す。
犯罪者呼ばわりされ、陰湿なイジメが起こり、意見を言えば揉み消される。
一度、証拠を準備したけれど、それさえも潰された。
このままではどこにも行けなくなる……対価は、屈辱。
校長室の前に渋谷先生とともに付いた時、廊下の後ろから誰か走ってくる音がした。
振り返るとそれは夏村さんの姿だった。
息を切らしながら、俺のそばに付くとこう言った。
「俺も生徒会長だ。状況を聞く権利がある」
俺は笑顔でうなずき、校長に入った。
「さて、高松君、今回の件について説明してもらえないか」
今回SNSに拡散された情報は、京浜連合の件とは内容が異なるため、校長から説明を求めた。
今朝の会議の参加者は、校長、教頭、渋谷先生、俺、そして夏村さんといつものメンバーであった。
「では、中学三年生の時にあった、お恥ずかしながら俺に対するいじめの問題と併せて、今回の拡散された情報についてお話します。ただし、現時点で俺に味方して話してくれる同級生はいないと思います。そこまで俺はその時、無視され追い込まれていました。それではお話しします……」
◇◇ 中学三年の一学期 ◇◇
暴走族との喧嘩の話が、校内に広まったことで、俺の友達と呼べる人間は周りから一人もいなくなった。
ただし、原因が喧嘩であり、多数に対し一人で相手をしたという情報もながれたため、正面きって俺に喧嘩を売ってくる奴らはいなかった。
たぶん、俺がキレて喧嘩を買ってきたら勝てないと思ったのであろう。
そこで待っていたのは、校内では当然無視され、俺の授業道具を隠したり、破損したりは数え切れないほどあった。
しかしこの当時も勘や推理力が働いていたため、こそこそと品物を隠す奴らを罠にはめて現場を見つけ、犯人を捕まえては教師に報告していた。
しかし、教師は俺の報告に耳を貸さず、解決したんだたらそれでいいじゃないかと取りあってくれなかった。
要はやった奴らは何をしようと無罪放免になってしまうのだ。
ご理解されたと思うが、生徒のみならず教師からもいじめを受けている状態だったのだ。
そうなってくるとモノを隠されたり破壊されても、犯人捜しなどするのも馬鹿らしくなってしまった。
俺が放置し、先生も見逃してくれるので奴らは図に乗り、次から次へといじめは連鎖していく。
あと一年我慢すれば、この状況から解放される。
それだけを信じて俺は奴らの行動を無視し続けてきた。
しかし、時も経つと奴らもいじめている相手からレスがないとやり甲斐がなくなるのであろう。
すると次第といじめやモノを隠すことは無くなっていった。
学校に来てもみんなと一緒に行動することもなく、部活や生徒会活動も無くなったので、みんなの行かないような高校に合格し、高校にいったらスクールライフをエンジョイしようと、黙々と勉強を始めたのであった。
多分、このときの偏屈なメンタル状況が、バンドのメンバーと演奏をしている時も顔を出てしまい、俺からファンというものを縁遠いものにしてしまったのかもしれない。
「かずには華がないもんな」
とバンドのメンバーに言われたものだが、いじめられているヤツに華なんて有る訳がないのだ。
そんな時だ。
俺にその年に入学した妹がいることがバレた。
奴らの標的は何もレスもせず、イジっても面白くない俺から、晏菜に向いていった。
晏菜は入学の時から俺とは逆に周りに安定感をもたらすため、クラスでも人気者であった。
三年生も直々にいじめに走らず、まずは後輩に指示しいじめに走ろうとした。
しかし、晏菜の同級生にいじめの指示が出たとしても、強固なコミュニティを構築していた晏菜との関係を壊すことでクラスの仲間から外されることを嫌う同級生は晏菜を攻撃することを避けた。
そうなってくると、三年生直々に晏菜を標的にしようとし始めた。
夏になると、晏菜の友人が、悪名高い俺のところにわざわざ来て、晏菜が三年から呼び出されたので助けて欲しいと報告してくるようになった。
自分の事では動かない俺だが、晏菜を守るためには現場に向かい、問題が起こる前に解決させていた。
このようなことを繰り返していくと、一度は俺を潰しておきたいと思うのがいじめっ子の心情である。
七月、もう夏休みも目の前に迎えたときだった。
俺の教室に、晏菜の同級生(確か高山さんだったと思う)が、二年のバドミントン部の先輩に呼び出されて体育館に向かったのだが、理由が不自然であったため俺に連絡しに来てくれた。
俺は即座にまずいと思い、高山さんに謝意を示し、体育館に向かった。
このとき、すでに晏菜と三人娘は友人だったらしく、俺の後ろを呼びに来た高山さん、そして廊下に待機していた中山さん、朝倉さんが俺の後を追った。
体育館の外には晏菜を呼びに来た二年生が、体育館のドアを少し開けて覗いていた。
俺が肩を叩き、彼女は俺の見るとびっくりしていた。
「と、遠野さんに呼んで来いって言われたんで、……高松さんを呼びにいっただけです」
と自分から状況を吐いた。
「わかった。もう帰っていいよ。でもあまりこんなことに手を突っ込むのは止めた方がいい」
と俺がいうと、その二年生は走り去っていった。
俺は完全に頭に血が上り、体育館のドアを開けると数人の男子生徒が、用具倉庫の前にいて中を覗いているのを見つけた。
俺が走る寄るとそいつらは俺に気づき、その場から離れた。
コイツらも捕まえたかったが、まずは用具倉庫の中が気になった。
俺が満身の力で倉庫のドアを一気に開けると、晏菜の手を山本がつかみ、須崎が足をつかんでいた。
そして、山本は右手で自分の制服のズボンのベルトに手に、左手は制服の上から晏菜の胸を揉んでいた。
「てめえら、晏菜になにしようとしてるんだ!」
と言いながら、山本の顔を殴り飛ばした。
山本は殴られた顔を押さえながら、少し笑ってこう言った。
「はあ? かわいいから遊んでもらおうかなって思ったんだよ。お前じゃ面白くないからよ」
「女子一人を男子、それも年上が三人で取り囲んで、お前らのやっていること、強姦未遂だぞ。てめえら、俺の妹を傷物にしようとしたな。許さねぇ」
「いいんじゃねぇ、どうせ犯罪者の妹じゃん。将来は犯罪者になるのが落ちじゃん」
「お前らはもっと下劣な犯罪者になるところだったな。でも俺に感謝しろ。お前らが犯罪者になる前に俺がお前らを潰す!」
「おっと、犯罪者がさらに犯罪重ねるのか?」
「いいや、俺は妹を教室に送り返すだけだよ。お前らみたいなクソ殴ってもナンボにもならねえからな。晏菜、行くぞ。同級生が外で待っている」
「ちょっと待てって言ってるんだよ」
「俺に触ったね…… 正当防衛、しちゃうよ」
「ば~か。ここにいる三人は口を揃えてお前が先に手を出したと言えば、お前の負けだよ。どうだ、殴れるか?」
「めんどくせえ、どうせグチュグチュ言われるんだったら、妹の心の傷の分まで痛めつけてやる」
「なんだと!」
といいながら三人は俺に向かって攻撃してきた。
◇◇ 数日後、校長室 ◇◇
「高松君、なんで君は暴力を振るったのかね。三人の両親から苦情が来ておる。どう謝罪するつもりだね」
「いえいえ、俺の妹を連れ出して、体育館の用具倉庫で強姦未遂してそれを止めに入ったのが俺なんですが」
「君が悪いに決まっているだろう!」
「なぜそう決めつけるですか?!」
「君は犯罪者だ。一般生徒と犯罪者、どちらを信じる」
「わかりました。そんな時のためにスマホに会話を全部録音してあります。それを証拠に出します」
と俺がポケットの中にあるスマホを取り出そうとした時、同席していた、俺を体育の時間、柔道でいつも絞め技でいたぶっていた体育教師が、俺の腕を取り、後ろ手に決め、スマホを奪い取った。
そしてそのスマホを教頭が受け取り、校長に差し出した。
「いいかい。こんなことが許されるのは一般生徒だけだ。君のような犯罪者のスマホは一時保管させてもらう。中に他にも犯罪の根拠になるようなものがあるかもしれないからな」
と言い、校長は机の中に俺のスマホを放り込んだ。
その後、後ろ手に締めた体育教師はそのまま、ドアの外へと俺を連れて行き、時代劇で無罪なのに締め上げられて有罪にさせられ刑期を終了し、奉行所から追い出される男のように俺を放り出した。
結局、学校もいじめている奴らとグルかと俺は思った。
帰りには俺のスマホは返却されたが、工場出荷状態になって戻ってきた。
もちろん、ファイルは削除されていたのだ。
当然、家に帰れば、両親に学校から連絡があり、こっぴどく叱られた。
被害者である晏菜も事情を説明してくれたが、両親は全く取り合ってくれなかった。
俺の部屋。
「晏菜、怖い思いさせてごめんな、みんな俺が悪いんだ、ごめんな」
と言いながら、涙を流している晏菜の頭を軽く何度も撫でていた。
「おにぃは悪くないよ。私を助けてくれた。私の王子様はおにぃだよ。でも、怖かった……怖かった……」
その晩は二人で抱き合いながら泣き過ごしたのだった。
◇◇ 中学三年 十一月 ◇◇
最後の三者面談が終わった。
夏の一件以降、晏菜も自分で防御線をつくり、三年と関わりを持たぬようクラブを止め、同級生と交友を持つことに集中した。
俺は俺で自分の道を進み、周りを完全に無視することで孤立し、周りの奴らも俺に関して何もしてこなくなった。
俺や妹に何かした時は、やはり殴られるということが夏の一件ではっきりしたからだ。
当然、三年秋の修学旅行は欠席した。
一緒にグループを組むクラスメイトがいるわけないからだ。
さて、進学についてだが……。
母親の希望で第一~三希望までは私立の大学付属校を受験することになった。
進路指導教諭は鼻で笑っていたが、どうせ全部落ちて笑いのネタになるであろうとでもおもったのであろう、しかし、受験を了解した。
面談後、進路指導教諭の倉持は、母が帰ったのを確認し、俺に向かって、
「お前の母さんも可愛そうだな。内申にこの受験生は犯罪者で校内暴力を起したと書かれるんだものな。受かるわけねーじゃないか。成績だけ見たら可能性あるかもしれないけど。素行悪すぎ」
俺は倉持にお前言い過ぎだろうと思い睨み付けた。
「おいおい、そんな顔をすんなよ。俺も温情がないわけじゃないんだぜ。高松、お前俺に土下座しろ。それからお前の受験に対しての意気込みを調べてやる。今から校舎のガラスを何十枚かたたき割ってこい。お前にそんだけの根性、決意があるのかの確認だ。もしやったら、担任に言って、内申に悪い事書かないように言ってやってもいいぜ。おい、どうする」
俺の意見も聞かず、私立の大学付属校などという高望みを志望した母に対し、俺はあまりいいイメージをもっていなかったが、ある意味、自分勝手なこと、例えば、バンド活動やサッカークラブへの参加などを許してくれていたことには感謝をしていた。
そんな母に、せめてもの償いと考えると倉持の言うようにするしかないと俺は思った。
「でも、先生。なんで俺をそんなに目の敵にするんですか」
と倉持に問いただした。
「犯罪者が親の金で示談してもらって無罪ズラしていること、かつノウノウと学校生活を送れていることが不愉快なんだよ。犯罪者はもっと苦しむべきなんだよ。お前見てると、本当に腹が立つ」
と強い口調で言った。
しょうがない。
今更、俺のことを好きでないものに好きになれとは言え無いので、俺は立ち上がり、廊下に膝をつき土下座をした。
沼幡中学の校舎は建ってからかなり古くなっており、床の木の板の間が空いており、そこからどこから吹き込むのか風が吹き上げ、一緒に埃も舞い上げた。
俺はその埃臭い風を吸わぬよう息を止め、頭を下げた。
その間、数十秒。
そして、指導室から飛び出し、右足の室内履きを脱ぎ廊下の窓のガラスを一気に叩いて割っていった。
ほぼ一階の廊下のガラスの半分をたたき割った。
「おいおい、これで盗んだバイクで走り出したら、『尾崎豊』の歌みてぇだな」
と廊下に出て、俺の行動を見ながら笑い、倉持は言った。
そして翌日、母はまた中学校に呼ばれ、ガラス代二万近くを請求された。
※※※※※※※※
「というのが、俺の中学時代の闇です」
と説明を終えると、校長はこう言った。
「実は中学時代の暴力事件、ガラス割り事件は私たちも知っていたんだよ。進路指導の先生か担任の先生の意向か分からないが、すべて内申書に書かれていたよ」
「そうですね。実は私立三校落ちたとき、公立一校、私立の二次募集に一校受ける予定だったのですが、大鳳受かった時点で一部不要になったので内申書開けて中身見ました。俺の土下座とガラス割りはなんだったんだか……」
教頭、渋谷先生は腕組みをし、校長は頭を掻きながらこう言った。
「でも、こうなってくると、犯人を割り出すのは、かなり難しくなるな」
「相手は全三年生、そこに教職員までからんでくるとなると、どこまでを相手にしていいか分からなくなるからな」
「教職員も高松に良いイメージを持っていないのは厄介だな」
そこに俺が説明を加えた。
「まあ、校長も目の前に警察が来たり、児相(児童相談所)の職員が来たら、こいつ面倒くさいことしたなって思うんでしょうね」
…………
「すみません」
「どうした、夏村」
「ここではかずやをいかに救うかを考えませんか」
「そうだな……悪かった」
「ところで、高松が追っていたSNSの発言元についてなんだが、どうなっている」
「電話番号は抑えたのですが、今、その携帯で使われている全SNSのIDを捜索してもらっています。ただ、大元のIDを基に書き込みを検索してみたのですが、どうも、中学時代の書き込みの内容が、うちの中学、沼幡中での生活とはどうも違うようなんですよね」
「違う中学出身者の可能性か」
「ということは、情報源が別にいて、そいつが発言元に入れ知恵しているってことだな」
「かずや、そうなると、発言元ってもしかして、あいつか?」
「かもしれない。でももう少し証拠が欲しいのでがんばってみる」
「でもいじめの情報を掴むとなると中学校の卒業生、教諭がすべて標的となる。話がでかくなるので頼みは、市の教育委員会か?」
「それは、四月以降の新学期になってからでお願いできませんか?」
「なぜ?」
「もう、三年生は受験が近いので現場での混乱はなるべく避けてほしいのです」
「かずやの妹も受験だしな」
「本当はうちの高校みたいにSNSに対する否定のコメントを公式に中学校に出してもらえると、何とかなるとおもうんですけど……。その後押しがあれば、あとは発言元を責めればいいので、そいつはある程度目星が付いているので俺が一対一でケリを付けることができると思います」
「高校としてはあまり中学を直接攻撃することはできないので、教育委員会には相談したいと思う」
「わかりました。そちらのご判断はお願いします」
俺と夏村さんは廊下を歩きながら話した。
「これって、結局かずやの中学が全面的に悪くねえ。かずやの意見はもみ消すし、完全に教師もお前へのいじめに加担している」
「まあそりゃそうだけど、俺が直々に乗り込んでいったら、話デカくなっちゃうから」
「でも、すげぇ納得いかねえなあ」
「もう、おれはあの中学に未練は無いし、その分の思い出は高校で出来たからね」
「石森とか、小倉さんがいなくなってもか」
「いっしょにいられたこと自体がいい思い出だからね。二人が離れる原因を作ったのは俺だし」
「それでお前はいいのか? あんなに修学旅行でも仲良く話していたのに手のひらを返すように離れるなんて……」
「お互いの立場がある。俺はそこは責めないよ」
「わかった。じゃあ今信じている者だけでも、かずやを支えるから」
「ありがとう。中学は完全に孤立してたから、その時に比べたら楽だよ」
「ちょっと、おれたちも作戦考えてみるから、かずやは多分『あいつ』のことを探ってくれ」
「了解!」
「でも、晏菜ちゃん、そんな嫌な思い出があったんだ……」
「それが原因でブラコンになったんじゃないの?」
「それ、言えてる」
教室に入る。
暴走族への暴行事件が広がった時と同じような雰囲気に教室内は戻っていた。
熱い視線を送ってくるもの、疑惑の視線を送ってくるもの、目をあわさないもの、各人の判断はしょうがない。
中学時代とは違う。
今の俺には少なくとも味方がいるのだ。
すると、多くの歩く音が廊下を通じて近づいてきた。
廊下を見ると、その足音の主は横山たち、元ヤンキーたちだった。
教室に入ってくると横山は、
「かずには、いろいろと世話になった。今度は俺たちがお前を助ける番だ。何かあったら俺に言え、全員でかずの手助けするぜ」
「たけし」
「教室内のお前ら! かずやが俺たちを裏切ったことなんかねぇだろう。いつも全力で俺たちのためにがんばってくれた。ここは信じて応援するのが筋じゃねえのか」
教室内が一気に沈黙する。
「何か言いたいことがあるなら、俺のところに来い。かずやのかわりに俺が話し聞いてやる。じゃあな、かず。いつでも頼れ。よろしく!」
サムアップしてくる横山。
それを受けて俺もサムアップする。
「ありがとう。よろしく!」
横山たちが教室から出ていった後も、しばらく沈黙が続いた。
そして沈黙をやぶるように夏村さんは、那奈と井上さんの肩を叩き、こう言った。
「ちょっと作戦を考えた。もし賛同してくれるんだったら、協力頼む」
「それ以上言うなって。私はかーくん信じてるから、最後まで付き合うよ」
「夏村さん、オッケーだよ。三人いれば文殊の知恵だしね」
「善は急げだ。私は晏菜ちゃんと連絡取るから」
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2023/04/19 改稿




