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8-2話 夏村家の人々

【読者様からのコメント】

夏村さんの祖父母の家で始まった新年会。

そこに今年も参加させて貰う事になった和也君だったが、果たして今年の雰囲気は如何なるものか?

そして……

(*'ω'*)b

 ◇◇ 一月二日 ◇◇


 夏村本家の車が昨年と同じく近所の玉蔵院(ぎょくぞういん)というお寺の駐車場に止めてあったため、俺はそちらに向かった。

 

「かずや、ごめんな。今年も来て貰っちゃって」

「良いですよ。その分、夏村さんと長く一緒にいることができるから」

「そうか……ありがとうな」

 

 運転手さんは開けた後部ドアの上部に手を置き、乗る人の頭が車に当たらないよう防御していた。

 昨年送迎してくれた運転者さんだと分かった俺は、声をかけた。

「ご無沙汰してます。お元気でしたか」

「ありがとうございます。今年も高松さんにお会い出来て嬉しいです」

 

 俺は、車の外で待っていた夏村さんが着物姿で車に入りにくそうだったので先に車に入った。

「俺が先の方が、夏村さん出入りが楽でしょ」

「本当、こまかいところに気がつくな。ありがとう」

 そして、夏村さんが席に着いたことを確認し、運転手さんはドアを閉め、運転席に乗り込んだ。


「かずや、昨日はなんかご両親から新年のプレゼント貰っちゃって悪かったな」

「いや、こんな息子のお世話いただきありがとうございますって感謝の気持ちじゃない」

「そんなにお世話してないけどな」

「やはり、着物を着て正月俺んち来ると、小学校時代の夏村さんを思い出して、プレゼントあげたくなっちゃうんじゃないかな」

 

 彼女は、小学生の時期、数回正月に俺の家に着物で遊びに来たことがあった。

 その時も両親は彼女にプレゼントしていたことを思い出す。

 そんな子が数年後、今度は妹の友達ではなく、俺の彼女として俺の家に来てくれた。

 プレゼントというものを過去を思い出しての行動とも思宇事も出来、また別の意味もあるのかと俺は勘ぐることもできる。

 後者なら、プレゼントでは全然足りないと俺は思った。


「夏村さん、そういえば、十二月、何度かお祖父さんの家に帰ったりしてたけど、他の親戚の子とかとは会わなかったの」

「みんな、バラバラのところに住んでるからなあ。でも、昭光おじさんのところの明代ちゃんとは、正月以降、会ったり連絡したりしてる」

「そういえば、他の親戚の子ってみんな男の子だったもんね。でも、来年がんばって第一志望受かれば、明代さんとかお父さんの弟さん……えっと次男の欣二さんの長男さんとも同級生だよね」

「そうだね、そのためにも頑張らないと」

 

「でも、欣二さん、昭光さんのところは慶応の姉妹校だからストレートで行けるけど、勇志さんのところは海城高校だから、俺たちと一緒に受験だから大変さを分かってくれるといいね」

「よく考えると父を含めて四人兄弟の子供が同級生っていうのも、偶然とはいえ、すごいなって感じてる」

「そのメンバーに負けないようにしないとね、夏村さん」

「もちのろんよ」

「よく言った(笑)」


 正月の道路は空いており、世田谷のお祖父さんの家に約一時間ほどで着いた。

 前にも言ったが、この家にも夏村さんの家と同様不必要に頑丈なドアがあり、運転手さんが車内にあるスイッチを作動させると、そのドアは自動でブーという軽い音を立てながら動く。

 中にはもう三台の高級車が止まっており、夏村さんの父の残りの三兄弟はすでに来ている様子だ。

 さて、今回はどんな展開が待っているのか……。 

 まあ、俺の役割は何かあれば夏村さんを守るだけなのだが。

 ネクタイを整え、夏村さんの後を付いて玄関に向かった。


 夏村さんが開けたドアを後から続いて入る。

 なんだかすごい高級な靴が並んでいるなと思いながら、お祖父さんの家に来る時用のため一昨年伊勢丹で買った一万七千円の革靴を脱いだ。

 

 昨年この家には来ていたため、大体どんな建物の構造かは大体頭の中にあった。

 俺はイヌではないが、一度目的の場所を訪れると、次回以降決して道を間違えずに目的地に行ける自信はある。

 晏菜には帰巣本能の高い飼い犬にいいねとよくバカにされたものだ。

 

 廊下を歩いているとお祖母さんがやってきたので挨拶する。

「高松さん、今年も来てもらっちゃってごめんなさいね」

「いえいえ、お招きにいただき光栄です」

「沙羅ちゃん、明代ちゃんが会いたがっていたわよ。早く行ってあげなさい」

「わかりました」


「失礼します。入ります」

 俺も彼女の後を追いながら中に入ったが、昨年とは違い、親戚関係は仲良く話をしており、従妹同士も集まって話をしていた。

「沙羅ちゃん!」

「明代ちゃん、お久しぶり」

 ここまで関係が回復したのかと、半分は嬉しく思い、半分は自分の居場所がなくなったように感じ、困惑した。

「高松君、今日はよく来てくれたね。こっちに来たまえ」

 俺は五郎さん(お祖父さん)に呼ばれ、そばに行った。

「今日も出席してくれてありがとう。だいぶ、沙羅のためにがんばってくれているみたいだね」

「いえ、元々俺よりも夏村さんは育ちがいいので、きっかけを作ってあげただけですよ」

「受験の方も順調そうで」

「来年の今頃は万全な状態にしておきますので」

「心強いな。ところで君の方はどうなんだい」

「自分は医療機器を勉強したいのでそれに関係した大学に進みたいと思っています」


 と話をしていると後ろから声をかけてくる人がいた。

「高松和也くんだよね。夏村幹夫といいます。今、海城高校の二年生です」

「ああ、勇志さんの息子さんですね」

「見ましたよ。十一月の全国模試、成績上位者に載っていましたよね」

「まぐれですよ。自分の得意の問題が出ただけですよ」

「うちはもう二年で三年の勉強を終えていますが、君の高校はどうなんですか?」

「入学偏差値も低くて、進学校でもないので、学校とは別に自分でコツコツと勉強しています」

「ああ、幹夫くん。こいつ自分の勉強のみならず、私以外四人の勉強に付き合っているよ」

「へえ、優秀なんですね」

「いえいえ、いろいろな人のレベルに立って考えると、逆に自分の不足点などが良く分かるので、彼らと同じレベルに立ちながらいっしょに勉強を進めています」

(危ない危ない。ここでは男子を教えてイメージでいかないとな……)

「偉いなあ、僕なんか学校の他に塾行って一杯一杯ですよ」

「僕は敢えて自分を見返す時間を持っています。なので塾に行かず、通信添削だけなんですよ」

「すごいなぁ」

「他の人の勉強教えていたら、塾なんか行ってる時間がないですよ。何しろ偏差値40代から60代までいますので。いろいろなレベルから自分も見つめ直しています」

「今度都内に来る機会があったらお話聞かせてください」

「わかりました。その節はお願いします」

 幹夫くんは礼を言い、自分の両親の元に戻っていった。

 

「ずいぶんと雰囲気変わりましたね」

「うん、去年君たちが新年会に出てくれて雰囲気が一気に変わったよ。特に沙羅は、中学時代はこんなに積極的ではなくてね。その上、中三の時に悪い方向に行ってしまったので、親戚連中も見限った感じになったんだ。それが発端になったのか、自然と親戚間同士も疎遠になってしまったんだ。君のお陰でここまで家の雰囲気が良くなったよ」

「いえいえ、これが沙羅さんが望んだことだと思ったんで手を貸しただけです。このままうまく行ってくれそうですね」

「そう上手く行ってくれるといいんだが。さて、時間だ。新年会を始めよう」


 五郎さんの乾杯で、新年会は始まった。

 夏村さんは去年同様積極的にビールや飲み物を注いでまわっていた。

 また、夏村さんのお父さんの兄弟も仲良く話しながら酒を酌み交わしている。

 その風景を見ながら、今日の席に俺は要らなかったなと、自分の席でジュースを飲んでみんなを眺めているしかないなと思った。

 すると五郎さんと奥様の康子さんが俺のところに来て、別のところに行かないかと誘われ、一緒について行くことにする。


 廊下を歩き、二つ隣の部屋に三人で入ると、康子さんはスイッチを入れる。

 そこには、夏村さんの家より数段立派な仏壇があり、そこには夏村さんのご両親、誠一さん、夕子さんの遺影が飾られていた。

 その写真が彼女の家の写真よりも数段大きいため、強烈なインパクトとなり、俺は例の件がフラッシュバックした。

 冷や汗が出て、脈拍は上がり、幻想が目の前に現れようとする。

 しかし、俺は下唇を強く噛み、自分を取り戻しながら、仏壇の前に行き、ろうそくに灯りを点し、線香を上げて、拝んだ。

 俺は、深々と仏壇に一礼し、二人の前に戻ってきた。

 

「ありがとう。沙羅の家には遺影だけ残して、こちらに位牌は持ってきているんだ。あの当時は沙羅も不安定だったのでね」

「沙羅さんは、毎日仏壇に手を合わせ、今日の報告、いってきますの挨拶を欠かさずしていますよ」

「そうだったんだね。教えてくれてありがとう。ところで君に話があるんだ」

「なんでしょう」

「沙羅のことで、急なことで申し訳ないのだが、受験が終わったらうちで預かろうと思っている」


 想像もしない言葉だった。

 それは高校卒業とともに、夏村さんはお祖父さんの家に戻ってしまうということを意味する。

「それは沙羅さんも、了解済みなんですか」

「実は私も年を重ね、体調に不安がある。現状、俺になにか有った時、康子のことを、また逆の場合もあるだろうが、見守ってくれる子供がいないんだ。そこで、沙羅とも話をして、大学合格とともにこちらに引っ越して欲しいと説得して、了承してくれたんだ」


「夏村さんがそう決めたのなら、それで結構です。

 実は……………………と考えていました」

「和也くん、そこまで考えてくれていたのか……ありがとう」

「沙羅さんがそこまで俺を好きでいてくれる確証はないんですけどね」


『……………………』の内容。

 俺は、自分の中にあった不安、そしてなぜ自信がないのかをすべて五郎さん、康子さんの前で話した。

 そして最終的には自分はどのようになり、夏村さんとどうなりたいのかを俺の意志を語った。

 最終的に決着を付けるまでにいくつもの選択肢が目の前に現れては、それを一つずつ潰していき、最終的に行き着いたゴールで待っているモノに任せたいと俺は思った。

 『モノ』とはその時の状況であり、夏村さん・俺の判断だ。

 

「僕は最後まで全力で立ち向かって、最終的にどうなるか……それが涙になろうと喜びになろうと僕は受け入れるつもりでいます」

「わかった。それまでは沙羅のことを宜しく頼みます。遠く離れているから心配なんだ。すべてを君に任せるよ」

「承知しました。俺が最後まで夏村さんを守ります。そして無事に沙羅さんをお二人にお返しします」


 三人が居間に戻ると、夏村さんが駆け寄ってきた。

「かずや、どうした。祖父母になにか言われたのか」

「ご両親に挨拶してきたよ。位牌、こっちにあったんだね。そして事故の詳細な話も聞いたよ。でも、原因が飛び出しではなく、事故だったというのはこちらの過失ではなかったということが分かっただけでも、よかったね。……でも、お二人はもどってこないけど」

「しょうがない……でも事件が私へのプレゼントを買いに行った帰りだったと分かっただけでも救われたよ。私のことを両親が思ってくれたってね」

「だから汚名が晴れて良かったですねともご報告してきたよ」

「そうか……ありがとう」


「さ~て、毎年恒例のイベントでもやるか」

 五郎さんのその言葉に孫たちはビビる。

 去年は自分の父が営む会社を含めた新日本化学グループの「有価証券報告書総覧」という会社の財務状況がわかる本を配って感想を述べよというお題だった。

 今回は、何が起こるのかと不安の色が顔に滲み出ている。

「今年は、気分を変えて、去年のお年玉に渡した百万円をどう使ったのか教えてくれるかな?」

 俺と夏村さんは顔を見合わす。

 予定通りの余興である。


 次男、新日本化学社長の欣二さんの息子、琢己(たくみ)海渡(かいと)くんは高性能のラップトップコンピュータを買い、残りは、両親に預けたということだった。

 二人は慶応の姉妹校ということもあり、受験がないため、コンピュータで主にネットサーフィンをしている。

 

 三男、新日本製薬社長の昭光さんの娘、明代さんも慶応の姉妹校で受験がないため、お出かけ用の服、靴、装飾品を購入し、残金は、こちらも両親に預けた。

 

 四男、新日本重化学工業社長の勇志さんの息子、幹夫くんは、来年受験ということもあり、進学塾の費用にし、残りは親に預けてある。

 お金持ちは親を信じているんだなと俺は思った。

 うちだったら、親に渡したら、仕入れの建て替えとか裁判費用に使われそうだから。

 子供時代に貰ったお年玉も大切に貯金しておくねと預かってもらって、今までその貯金の現状を見せて貰った記憶が無い。

 だから俺は全く両親を信じていない。


「さて、沙羅はどう使った?」

「私はお金のことは全然分からないから、和也にお願いしています。代わりに説明してくれるかな」

 

「了解。では私から説明します。昨年帰る際に、康子さんからお金を渡された際、手紙に『多めに返してもらっても結構です』と書かれていました。これは何を意味しているのかなと思っていたのですが、昨年の余興で会社経営でのお金の流れを質問されたかと思います。今回は実技試験で、このお金を元手に自分で増やして返してみなさいと言っているんだと理解しました。それならと思い、普段からお付き合いのある商工会の税理士さんと相談し、お預かりした金額を12等分し、毎月一定額を投資し、残額は一ヶ月定期にし、一ヶ月経って満期になったら、また一定額を投資するというのを十二ヶ月行いました」

「ふむ、それで?」

「結果としましては、今回、五郎さんには元本に一割の利息を付けたかたちで百十万円お返しいたします。残った分はお年玉として継続運用させていただきます。こちらが返金です」

 俺はかばんから、昨年康子さんから夏村さんに手渡した封筒の中に百十万を入れた状態で、五郎さんにお渡しした。

 

「十万円も利息を付けてくれたか。今は運用利率が良いが十パーセント付けるとはな」

「ご心配なく、前述の通り、全額はお返ししておりません。こちらの手元にも継続運用資金は結構残っておりますので」

「かずや! お前、いったい、今、いくら残っているんだ?」

「先ほども言いましたが、百十万円お返ししても運用残高の一部です。手元の運用残高は十二月の大納会三十日現在で2,157,598円残っております」

「運用利率、年316パーセント?!」

 

「所得税は差し引いてです。IT関連が伸びてくれたお陰で、ここまで持って行けました」

「かずや。お前怖いヤツだな。でもこの調子なら、二十代で億万長者狙えるんじゃないか」

「いや、多分、株はここ1、2年で暴落すると思うので、現金化します」

「なんで?」

「ニュース見なよ、もうアメリカがやばい、サブプライムだよ」

 キョトンとする夏村さんと従兄弟たち。

「なんだ、説明必要? 五郎さん、お時間拝借していいですか?」

「どうぞどうぞ」

 そして俺は、これから迎える株の暴落の危険性とその原因について述べた。


「そんな感じでいいでしょうか? 誠一さん」

 あえて五郎さんに聞かず、次男の誠一さんに俺は聞いた。

「うん、高校生でそこまで知っているとはすごいね」

「アメリカの高校では株の運用とかの授業があって、いったいどういうことを勉強しているのか、興味があったので本を買って読んだのが参考になりました」

「これは琢己と海渡にも教えないといけないな。高松君、いい切っ掛けを作ってくれてありがとう」

 俺の見えないところで、五郎さんと康子さんは目を合わせ頷いた。

「夏村さんも俺におんぶに抱っこじゃなくて勉強しないとね」

「和也に教わらなくても大学で勉強して、お前よりも博学になってやる」

「それはうれしいことで。楽しみにしてますよ」


 話はそれからも経済のことについて夏村さんの叔父さんたちが専門的な話をしてくれ、興味のある俺はそれを聞いていた。

 当然意味の分からない夏村さんの従兄弟は一人抜け、二人抜けしていく。

 結局は俺と夏村さんだけが最後までその場に残った。

 そんな姿を眺めている五郎さん、康子さんの表情から温かさを感じていた。


 結局、幹夫くんとはラインの交換をし、今度都内で会おうという話になる。

 俺も他人の受験の話でわざわざ都内なんか行けないよと思ったが、ここは社交辞令、喜んでと言って別れた。

 五郎さんの家を出るとき、車の窓越しに五郎さんは俺に向かってこう言った。

「沙羅をよろしくたのみます」

 そして隣にいた康子さんはただうなずいている。

「わかりました。あと一年数ヶ月全力で沙羅さんをバックアップして合格させますので」

「沙羅ちゃん。和也くんを信じて、あなたも助けてあげなさいよ」

「わかってる。最後まで助けていく」

 

 そして不意に俺は夏村さんの祖父母にこう言って別れた。

「今までありがとうございました。また、いつかお会い出来る日があることを願っています」


 車の中。

「かずや。最後の挨拶、おじいさん、おばあさんに別れの挨拶みたいのしなかったか」

「いや来年は受験で来れないから、次回は心改めて来なくちゃいけないしね。婚約の挨拶とかね」

「そうか、婚約の挨拶か……それ、いいな。それとな、かずや……」

「その後は、今は言わなくていいよ」

 と俺は夏村さんが言いかけた言葉を遮る。

 それから二人は何も話さず、俺の自宅そばの玉蔵院の駐車場で別れた。


 駐車場から家に向かう間、仏間での祖父母との話を思い出しながらこう思った。

 もう、夏村家の人々と会うことはないんだろうなと。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2023/04/16 改稿

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