8ー0話 Today is another day
【読者様のコメント】
夏村さんは朝起きた瞬間から高松のことを考えている。
何してるかな?
好みの下着の色は○○○。
髪型はこれがいい。
化粧は薄めで。肌は大事に。
身なりばっちり!
今日は誕生日を祝ってくれる。
それが嬉しい。
◇◇ 十二月二十五日 ◇◇
朝六時、目覚ましのベルが鳴る。
カーテンの隙間からは、まだ光は差し込んで来ない。
多分、日の出前なんだろう。
掛け布団からはみ出した肩が室内の寒さを感じ、顎が隠れるまで布団の中に潜り込む。
だけど、かずやはもう起きて、基礎英語を聞いているのかと思うと自分はそんなことをしていていいのかと思い、布団から出る。
部屋の中の冷気が私の体を身震いさせた。
エアコンのスイッチを探すと、自分の枕元にあることに気づいた。
冷えた手をこすりながらスイッチを取り、エアコンを付ける。
やはり、布団から這い出すまで時間がかかってしまう。
寒いなと震えながら、鏡を見ると、いつものピンクの上下の下着だったが、今日は特別な日なので黒にしてみるか。
そういえば、晏菜ちゃんと出会わなかったら、いつもの黒の下着だったのに、おにぃの好みはピンクだよと言われ買い始めた。
と言われてもかずやに下着姿を見せることは滅多にないんだけどね。
履き替えていつものスウェットを着て、洗面所で歯を磨き、顔を洗う。
水で顔を洗うのは昔からの習慣。
お肌には温かい水のほうが良いらしいのだけど、冷たさが肌を引き締めてくれているように感じるからだ。
朝食はあっさりめにしておこう。
昼はかずやと一緒だから、アイツの大食いに乗せら、こちらも多く食べてしまう。
無口になって、美味しそうに食べるかずやの姿が好きだった。
でも、たまには話しながら、ゆっくり食事を楽しむのもいいんじゃないかと思う。
いつも、自宅ではテレビ見ながら食べているから、あんな感じに育つのだろう。
でも、うちに来て、テーブルに並んだ食事を残さず食べてくれる、かずやを見ていると作り甲斐もあるし、楽しい。
ただ、食べ終わってから、味の感想を言うのは勘弁してほしい。
食べながら、味の話してくれるといいんだけどなあ。
だけど、来年の今頃はこんな余裕ないんだろうな。
かずやはセンター試験あるし、なるべく迷惑はかけたくない。
と言っても、大掃除と私の誕生日は一緒に過ごしたい……。
一番、一緒に居ることができる時間だから……。
でも、今年はさすがにおじいちゃん、おばあちゃんと一緒にお祝いしたいって言ったことを告げると、かずやには諦めた。
私も諦めたけど……。
でも今日は、夜景も見るって言ってたんで、遅くまでゆっくり二人の時間を過ごせるんだなと思うと、いつも顔を合わせているのになんか違ったワクワク感がある。
かずやはどこに連れて行ってくれるんだろう。
どこでもいいんだ、かずやといっしょならば……。
食器を洗い、部屋に戻って出かける準備を始める。
今日は食事とウインドショッピングがメインだからパンツスタイルのほうが動きやすいな。
夜も長丁場だから寒くないようにしないとね。
でも、ちょっと気持ち薄めの服でも大丈夫。
かずやと一緒にいると、オイルヒーターのように、柔らかく、じんわり、心の中から私を温めてくれるから……。
逆に厚着だと汗をかいてしまう。
その上、帰ってからも、気持ちが温かいから、思い出した頃に、急な温度変化が襲ってきて、寒気を感じてしまうから、たちが悪い。
どうせなら、私が眠りにつくまで温めておいてほしいと思う。
服は前日、晏菜ちゃんに相談したので大丈夫。
晏菜ちゃんはかずやの好みを一番知っているから、相談相手には最強だ。
だけど、私が晏菜ちゃんにかずやのことを好きなことを何度も言っていたのが刷り込まれ、晏菜ちゃんまで、かずやのことを好きになるなんて考えも及ばなかった。
だけど、そのことを知ったことで更に仲良くなったのかなと思っている。
いつものことなんだけど、晏菜ちゃんの服選びはすごいなと思う。
実際着る私が納得してしまうんだもの、かずやが嫌がるわけがないよ。
鏡で自分の姿を見ながら、今日も良い出来だと頷いた。
かずやには特にサプライズはいらないよと言ってある。
そんなことより、一緒の時間を共有したいんだよ。
サプライズは自分の気持ちの邪魔になるから。
今日は私の誕生日の変わりの日なので、私のしたいように時間を使いたいんだ。
鏡を通して、再度変身した自分の姿を確認する。
うん、これで服はバッチリだなと思った。
化粧台の前に座る。
引き出しからビニル製のカバーを服の上からかぶり、化粧を始めた。
かずやは濃い化粧は嫌いだからなと思い、ずっと薄めの化粧にしている。
だけど、素肌の白さが素敵だと言ってくれているので冬でもUVケアの下地は塗っている。
まあ、最近ですっぴんの私を知っているのは、かずやと修学旅行で同じ部屋になった子ぐらいだ。
でも、素肌を褒めてくれたのはかずやだけだしな。
今日は特別な日だから、やつの言う通りにしてやるよ。
かずやは目の大きくみえる化粧が好きだから、目の周りはしっかりと化粧した。
そういえば、化粧を教えてくれたのも晏菜ちゃんだったなあ。
まあ、ヤンキーがやる化粧なんて適当でオッケーだった。
周りの子の化粧方法を見様見真似でやったのが最初だったよな。
附属中学の同級生って化粧っけなかったもの。
小倉さんも高校入ってから化粧始めたのかもね?
かずやのことを意識し始めてから始めたの?
ポイントだけ掴んで、リップには香りの残るものにした。
かずやとキスするタイミングがあれば、いつまでもかずやに私の香りを残してきたいから。
うん、これで化粧はバッチリだ。
後は、髪をポニーテールにまとめて、横の髪を編み込み始めた。
これが結構時間がかかる。
でも、この髪型、かずや、好きだからな!
いつも褒めてくれるから嬉しい。
だけど、時間がかかる。
髪長いから、絡んじゃって面倒なんだよね。
とはいえ、かずやの周りの子のがみんなショートヘアなんで、差別化のためにも伸ばして置かないとな。
だから、高いシャンプーとリンス使っているんだけど、絡んじゃう、めんどうだな……。
そして、いつものピンクのリボンで終了っと。
よし、これで完璧だな。
荷物は昨日のうちに準備したし。
服、化粧、髪の毛……だいじょうぶだな。
私は自分の部屋を出て、仏間に入る。
そして、ろうそくに火を付けると、線香を半分に折って二本にし、ろうそくの火を線香に点した。
手で軽く線香を仰ぐと、線香に付いた火は消え、煙が立ち上る。
それを線香立てに立て、手を合わせる。
そして両親に自分を産んでくれたことを感謝し、かずやに再び出会わせてくれたことを感謝し、今、かずやが彼氏であることを感謝した。
偶然かもしれないが、『感謝』が、いくつも重ねって今の自分があることに気づく。
そして、『感謝』がこれからもずっと続くことを願った。
線香を半分に折るというのは高松家で教わった。
何かあって線香が倒れた時、長いままであれば、線香立ての外に、燃えている部分が落ちる可能性があるが、半分に折れば短くなるので、倒れても線香立ての中に倒れる。
そんなこと、一人で生きていたら、絶対に知らないで終わっていただろう。
これも人の『縁』。
『縁』が導く『感謝』もあることをかずやとその家族から学んだ。
両親に挨拶を終え、居間の戸を閉じ、玄関に向かう。
行く前から、今日は白のスニーカーが良いかなと思っていた。
やはりパンツルックならスニーカーだよねと心は決まっていたのだが、足下が寒い。
かずやは、私の生足が好きだけど、さすがに今日は寒すぎる。
ストッキングをはいて、靴下も厚めのものを履いてきた。
でもあいつ、パンツのすそと靴下の間を見て生足かストッキング履いているか気づく奴なんだよね。
本当にスケベだ。
でも、それを我慢しているのがわかるところが高校生なんだなと思わせる。
いつもは落ち着いて対処するから、大人っぽくみえるけど、根はヤラしいことも考えているし、喜んで井上の策略に引っかかる。
本当はわかって引っかかっているんじゃないかと思うときもあるけど、お預けさせている私の立場からすればかずやに強いることはできない。
自分の体型が普通の女の子と同じであればと思うことが何度もあった。
九月にかずやに私の病気のことを知らせたことは良かったのか、そうではなかったのか、これはかずやに判断させるしかない。
ただ、こんな女性でも納得して付き合ってくれているかずやとの日々を大切にしたいと思った。
靴を履き、家の鍵を閉め、警備会社のロックもして、門から外に出る。
まぶしい位の日の光が冷たい外気とともに一瞬で私の顔を赤く染めた。
もうすぐ会えるんだね……。
時計を見る。
午前九時三十五分。
集合時間は十時だから、私の方が先に着く感じになるだろうな。
コートの襟を立てて、駅に向かって歩き出した。
一女(浦和第一女子高校)の道を渡り、調神社のそばの裏道を駅方面に曲がる。
すると目の前をキジトラのネコが通り過ぎた。
ちょっと追いかけ、渡った小道を覗くと、ネコはこちらを見ている。
にゅーんと声を掛けてみたが、ネコは動かず、三回ほど声を掛けるとネコは飽きたのか逃げていってしまう。
こんなこと、かずやと付き合わなかったらやらなかっただろうなと思いながら、かずやの近所の神社のネコ達に久しぶりに会いたくなった。
いつも神社を通るのは夕方から夜のため、ネコたちはどこかに隠れてしまうからだ。
裏道には駄菓子屋があって、そこには十円玉を入れて、はじいて遊ぶゲーム台がある。
スタートが東京でゴールは新大阪と書いてあった。
途中左右に駅があって、上手くはじくと次の駅に行け、失敗すると十円玉は穴の中に落ちてしまう。
かずやはこれを見つけたとき、懐かしいと言って、ゲームを始めたが二十円でゴールまで着いてしまう。
私もまねして挑戦したが五十円使ってもゴールにはたどり着かない。
あのときの誇らしげなかずやの笑顔を思い出し、少し笑ってしまう。
そういえば、以前は思い出し笑いとか、思い出して赤面するとかなかったと思う。
恋敵だけど、井上さん、小倉さん、那奈ちゃん、石森さん、入るかどうかわからないけどさよりちゃん、みんなと仲良く出来て、毎日を楽しめているのもかずやのおかげかなと思った。
ヤンキー達とは違う付き合い方ができていると感じていた。
高砂小学校裏に着く。
横山や浦和駅周辺のヤンキーのアジト的な店だったツタの生えた喫茶店は十月に閉店し、今は更地になっている。
そこにはマンションが建設予定らしい。
そういえば、かずやに初キスしたのはこの店のちょっと駅寄りのところだったなと思った。
んん?! 最近、かずやとキスしてないぞ!!
今日夜景見ているときに絶対しよう!
間が空いた反省も込めてディープキスしてやるからな!
私も和也もピロリ菌は陰性だから移る可能性ないし、童貞・処女カップルだから性病とかないしなと余計なことまで考えてしまう。
駅前通りに近づくと、だんだん、クリスマスの装飾をして店々が増えていく。
両親から最後に貰ったプレゼントって何かなと思ったら、今勉強に使っている英和辞典だった。
そう考えると、役にたつものをくれたんだなと感謝する。
ただ、事故の時、両親が持っていた本当に最後になるはずだったプレゼントは血だらけで何を買ってくれたのかは分からなかった。
クリスマスツリーか……。
うちは飾って貰ったことなかったなあ。
父は会社が忙しかったし、母は別の仕事が忙しくて、使用人のおばさんが掃除して、洗濯して、食事作って……。
それが嫌になって、自分で全部やるようになった。
食事もその時勉強したっけな。
多分、私の味は『私の母の味』ではない、『私の味』なんだと。
それを好んで食べてくれているかずやは『私の母の味』ではなく『私の味』が好きなんだと胸を張った。
でも、少しはあなたから私にも継がせてくれる『モノ』を何か残しておいてくれよとも思った。
浦和駅前に着く。
伊勢丹の前には綺麗なツリーが飾られており、ロータリーの中の「Urawa soccer town」の電飾の周りもクリスマスの装飾で飾られていた。
駅前交番の横を歩いて行くと、改札の前で時計を見ている男の子が見える。
その男の子は時計から目を離すとこちらを向き、私を見つけたのか笑顔で手を振り始めた。
やはり、こんな人がそばにいるって幸せだなと私は思う。
私は駆け寄り、こう言った。
「待った?」
「待ってない。今来たところ」
「なんか時計見て、なかなか来ないなって感じだったけど?」
「いやいや、時計がもう近くにいるよって教えてくれたんだ」
「賢い時計だね。私も欲しいよ」
「メリークリスマス、夏村さん」
「メリークリスマス、かずや」
「さあ、どこ行きますか?」
「お前決めてないのかよ! どこでもいいけど……一緒なら」
そう、どこでもいいんだ、かずやと一緒なら……。
それだけで嬉しいのだから。
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【編集記録】
2023/04/14 改稿




