98セリとの別れ
俺たちは撤退を余儀なくされた。
何しろ仲間だと思っていたドラゴン達からの総攻撃。
ビーサン達だけならまだ交わし切れたかもしれないが、俺はまだしもドラゴンに乗り慣れていないシェルビ国のもの達も乗せているので無茶も出来ず、カレヴィの言う事を聞いて一旦撤退をする事になった。
それにしても俺は何を見せられているんだ?
セリがドラゴン達に命令して俺たちに攻撃を仕掛けて来た。
もう、何がどうなっているんだ?
ついて行くと言う大叔母様を置いて来て良かった。
カレヴィが俺を見てほっとした顔を見せたのはそう言う事だろう。
俺達は森の中に滑りこむようにして地面に着陸した。
それからカレヴィから詳しく話を聞く。
赤ちゃんドラゴンを助けた事。ヴァニタス王とセリが食事してセリが危なかった事。でも、セリは何とか自分を取り戻しヴァニタス王のリガキスを全て駆除した事。
じゃあ、どうしてセリがあんなになっているんだ?
みんなもどう考えて良いのかわからないまま時間が過ぎて行った。
「カイヤート殿下。このままでは我が国が危険です。あのような凶暴なドラゴンがもし襲って来たら!何とかしてドラゴンを」
ライノスが悲痛な声を上げる。
「でも、どうやる?相手は数十頭もいるんだ。あんな数をどうやって倒せば良い?」
俺はまだ策を出せないまま、イライラをライノスにぶつける。
そこに。
生い茂った森の中に潜んでいた俺たちの所に小さな生き物が現れた。
「キュウ、キュウ、キュウ」
可愛らしい声を上げるそのいきものは‥
「ピオル王子!!」
「「「ピオル王子?」」」
「はい、セリ殿に助けていただいたヴァニタス王の子供です。ピオル王子ご無事でしたか?」
それは銀色の可愛らしい子ドラゴンだった。
「ピュウ、ピュピュピュピュルゥゥゥゥ〜」
「カレヴィ、なんて言ってるんだ?」
「はい、王子はこっそりセリ様の後を追ったらしく。セリ様は銀色のドラゴン。おそらくうちで一番大きなタピロかと」
「ああ、それが?」焦ったようにカイヤートが聞く。
「はい、タピロに乗ったセリ様はいきなり森の中に自ら落ちたそうです」
「何だと?セリが自分から‥その場所がわかるか聞いてくれ!」
「キュルキュルピュ〜」
「案内出来ると言ってます」
「すぐにセリを助けに行く!」
俺は闇雲に立ち上がる。
「待って下さいカイヤート殿下。セリ殿がそんな事をしたのはきっと体内に寄生したリガキスを抹殺するため。ドラゴンは支配者を失って戸惑っているはず、今ならドラゴン達を抑え込めるかもしれません!」
カレヴィはふざけたことを言うと思った。
「お前今ドラゴンの心配かよ!セリがどうなっても言いていうのか?」
「いえ、そんな事は言ってません。ですがセリ殿がどんな思いでそんな事をされたかお判りですよね?今なら支配者のリガキスはいない。でも、暴走を始めたドラゴンを抑え込める‥あっ、いました。ヴァニタス王がいます。私はすぐに城に戻ります。殿下はセリ殿を」
「ったく、当たり前だ。お前たちが仕出かした事だ。ドラゴンは何とかしてくれ!」
「ビビ~(俺も行く)」ビーサンが背に乗れと翼を広げる。
「ああ、ビーサン頼むぞ。ライノス、他の者もセリの捜索を第一に頼む」
「はい、任せて下さい。一刻も早くセリ様を救いましょう」キアードとマリーズがそう言ってドラゴンに乗る。
他の者も続く。
俺はピオルを抱いてビーサンと一緒に飛び立った。
ピオルは言葉を理解したのか脳内に向かって俺に話しをしてくれた。
父のヴァニタス王が魔呪獣の血のせいで呪いでおかしくなったリガキスに寄生され母親の治療をしなかった事や自分を殺すつもりだった事、でもセリが来て自分を助けてくれて事や父のヴァニタス王を助けてくれた事、そのせいでセリの身体にリガキスの親玉が入り込んでしまった事も。
ドラゴン達はリガキスの親玉の言うことを聞くリガキスが寄生していることまで。
そしてピオルはこんなに小さくても優秀でセリの落ちた場所を見つけてくれた。
セリの姿を発見して俺達はその場に駆けつけた。
「セリ!セリ!しっかりしろ!!」
地面にぐったりとなったまま動かないセリの姿に焦りで足がもつれる。
「セリ?」
俺はぐにゃりと力のない身体を抱き上げる。
「セリ?セリ?しっか、り‥」
「‥‥‥」
セリは一度俺を見たと思う。何かを言おうとしたけど声にはならなかった。
そしてセリは俺の腕の中でぐったりとなった。
セリの重みがいきなり大きくなって腕に伝わった。
落ちるとき枝で身体を傷つけたのだろう、あちこち擦り傷だらけで服も破れている。
そんなセリが愛しくてたまらない。
世界中の誰より美しく高潔で俺の唯一で俺の一番愛する人で俺の命よりも大切な人が‥
「セリ?おい、セリ。死ぬな!死んじゃだめだ!お前は俺の全て‥死ぬなんて許さない。絶対に俺が助けるって約束しただろう?俺に約束を破らせるのか?っそんなのひど過ぎるだろ!!おい、セリ!!」
セリを失ってしまうかもしれない恐怖が俺の気持ちを怒りへと向かわせる。そうでもしていないと頭がどうにかなってしまいそうで。
俺の心は壊れてしまいそうで。
「セリ~、返事をしてくれ!目を開けろ!セリ!行くな。行くんじゃない。セリ~!!!」
どんなに叫んでも、どんなに願っても、どれほど乞おても、どれほど祈っても、その願いも祈りも聞き届けられることはなかった。
セリは死んだ。
忌まわしい呪いを受けたリガキスと共に‥‥
身体中が引きちぎられてしまうほどの痛みが俺を襲った。




