92とにかく急げ!(カイヤート)
俺は大急ぎでペッカルの居場所を調べさせた。そしてイエンスの確保にも動く。
その間に転移してシェルビ国のスコット辺境伯に出向いてセリの叔父のパウロに会う事に。
「スコット辺境伯。実はお願いがあります」
「これはカイヤート殿。そう改まらなくていいではないか。あなたはセリーヌの婚約者で、時期に親戚になる相手だからな」
パウロの機嫌はいい。それはそうだろう。長い間の呪いが解けたのだから。
「それが‥セリがドラゴンの城に出向いていまして」
「ドラゴン?あのドラゴンの城に?どうしてだ」
俺は簡単に事情を説明した。そして、知らなかったとはいえヴァニタス王が危険な存在だと話した。
「そんな危険なところにセリーヌがいると言うのか?どうする気だカイヤート殿」
「そのことで相談に来たんです。相手はすごい魔力を持っているドラゴンの王。どうやって相手を倒すか色々考えたんですが、あの宝剣がいいのではと思いまして‥」
俺はあの後宝剣がどうなったか知らない。
最期にぶった切った後宝剣もそのまま空中に放ったような気がするが、あまりに感激しすぎて覚えていないのだ。
「宝剣ですか‥」
パウロの顔が曇る。俺の心臓はバクバクしてもしもなくなっていたらとそわそわした。
「あの‥宝剣がどこにあるかご存知ですか?」
恐々宝剣のありかを訪ねる。
「はい、宝剣はいつの間にか辺境の神殿のイヒム神像の前に置かれていました」
イヒム像の前に?宝剣、お前なんてすごい奴なんだ。俺は心の中で歓喜する。
「じゃあ、ここにあるんですね?良かった。その宝剣を貸していただけませんか?」
「ええ、それはもうカイヤート殿の言われる事なら、それにセリーヌを救うためでしょ?もちろん使って下さい。あっ、でも、今度はちゃんと返してくださいよ。宝剣はシェルビ国の国宝ですので」
「はい、もちろんです。必ずお返しします」
「くれぐれも気を付けて」
「はい、セリは必ず命に変えても救い出しますのでご安心下さい」
俺は宝剣を受け取るとパウロに礼を言って急いでその場を後にした。
これでセリと一緒にあの時みたいに浄化をすればきっとドラゴンの中に寄生しているリガキスを倒す事が出来るはずだ。
転移して間もないうちに騎士隊員から知らせが来る。
「ドラゴンは王都のはずれにある商家の廃屋にいるそうです」
「それで見張りは?」
「はい、数人が廃屋の周りを警護しているとの事です」
「すぐに救出に向かう。準備をするようライノスに伝えろ」
俺はすぐに出かける準備をする。
その間に王宮にいるクラオンに知らせを出し皇王のドラゴンを借りる手続きをするよう指示を出した。
出発の時みんなが総出で見送りに出て来た。
予定ではペッカルを救い出したらすぐにビーサンたちと合流してドラゴンの城に向かう事になっている。
本当なら一晩かけて作戦を立ててセリの奪還を目指したいところだが、ビーサンの話でそれほど猶予がないと判断した。
「坊ちゃん。くれぐれも気を付けて下さいよ。相手は手負いのドラゴンなんですよね?もし、坊ちゃんの身に何かあったら‥」
ヨールが心配そうに俺の手を握る。
「ばか、坊ちゃんに何かあるはずがないだろう。ヨール。お前縁起でもないことを言うな!」
トロンドがヨールを怒る。
そんなやり取りを聞いてチャーレやミコまで泣き出す。
ピョルンは何の事かもわからず一緒に泣き出し、シエメンやベア、アルビも心配そうな顔になる。
「さあ、みんなカイヤート様が負けると思う?」
いきなりチャーレの母、ミーナがそう言った。
子供たちはううんと首を振る。
「なんてったって、あの呪いを浄化したんだよ。ドラゴンなんかにも負ける訳がないだろう?ほら、カイヤート様はあの宝剣も持ってるんだ。ねぇ、みんな、さあ、元気に行ってらっしゃいってお見送りしよう」
「「「「「うん、カイヤートにいさま、頑張って!!」」」」」「にいしゃま、がんびゃって!!」
「おお、お前ら心配せずに待ってろ!セリは必ず連れ戻すからな。行って来る」
俺はセリを必ず連れ戻す。何があってもだ!




