47ドラゴンに乗って
ビーサンは手慣れているのかカイヤートの指示に従いゆっくり上昇した。
翼を羽ばたくのもゆっくりと大きくて揺れも少ない。
まるでテーマパークの乗り物以上のスケールと大興奮!!
前世でも絶唱系の乗り物は結構好きだったので私はすっかり空の旅を楽しんでいた。
あっという間に教会が豆粒ほどになって視界には森や川がジオラマのように見えて来る。
突然突風が吹いて鞍が揺れた。
「きゃぁあぁ~」思わず声を上げて前の手すりにしがみ付く。
「大丈夫だ。俺はセリを危険な目に合わせたりしない。おい、ビーサン!!」
カイヤートが少し怒ったような声でドラゴンを叱りながらも、ぎゅっと包み込むように後ろからしっかりと抱き止められ、カイヤートの髪の毛が私の頬に触れる。
わわわっ、ち、近いから。でも、恐い。
握った手すりに手汗がじんわり染み出る。
「ごめんなさい。でも、もう大丈夫。少し驚いただけだから‥」
「そ、そっか」
そう言うとカイヤートも密着した身体にほんの少しだけ隙間を作る。
「クワゥゥ~」ビーサンが鳴いた。
「お前、もしかして面白がってるんじゃないんだろうな?セリはドラゴンに乗るのは初めてなんだいつもみたいな飛び方は止めろよ!」
「クルゥッ!」
ビーサンはわかったみたいにゆっくり翼を羽ばたき悠然と飛行を続けた。
「もうそろそろリクヴェが見えて来るぞ」
私は優しいゆりかごに包まれたような気持ちで完全に空の旅を楽しんでいた。
「もう、ですか」
「ああ、プロシスタン国はそれほど大きくはない。馬車なら丸一日かかるがドラゴンならすぐだ」
「‥‥そうですか」
何だかがっかりした。
「な、何だ?そのがっくりした声は。も、もしかしてもっと俺と一緒にいたいとか?」
いきなりカイヤートがわたわたと慌てたように話しかけて来て後ろからふわりと腕を回された。
内心は、そうもっとこうしていたい。と思ってしまう。
ううん、そんなばかな。
絶対に違うから!
「そんなわけないじゃないですか!いい加減にして下さい!」
バシッと回された腕をはたく。
「そんな訳ないか。でも、空を飛ぶのはあんまり恐くないみたいだな」
「ええ、ビーサンのおかげですね。ドラゴンは頭がいいんでしょう?ちゃんと私たちの言う言葉を理解してるんですから」
「クルゥゥ~」
「ビーサン!お前調子に乗るなよ。ったく‥」
そうこうしていると皇城の近くに来たらしい。
「あれが城だ。その隣が大教会。セリには聖女として大教会で過ごしてもらう事になると思う」
「はい、でもさすが獣人の国って言うか。お城が堅牢な造りですね」
皇城は乳白色の石造りでどっしりとした威厳を保っている事が空からでもわかった。
「まあな。さあ、降りるぞ!しっかりつかまれ」
カイヤートが両脚で私をぎゅっと包み込むように体制を取って手綱を引いた。
「ビーサン。ゆっくり頼むぞ」
「ギュギュルゥ~」
ビーサンも着陸態勢に入っているせいか力が入ってるみたい。
大きなドラゴンなのにそんな姿が可愛いとさえ思ってしまう。
ドラゴン三体は皇城の敷地内の広い芝の上にゆっくりを舞い降りた。
カイヤートは地面に降りるとすぐに私に手を差し伸べてくれた。
「セリ、ほら手を出せ」
乗るときは上によじ登ったのでそこまで思わなかったけど、これ以外と高いんだ。
首を伸ばして下を見下ろすと結構な高さが‥
それにさっきまで感じていたカイヤートの温もりがなくなったからなのか巣っと背中が震えた。
「恐いのか?」
カイヤートはそんな仕草を見逃さずすすっとビーサンの足を登って来て私の手を握ってくれる。
そんな優しさがうれしい。
彼と真正面から目が合う。
「カイヤート。あの‥」
「どうした気分でも悪いか?初めてだからな。乗り物酔いみたいになる奴もいるから‥」
心配そうに私の顔色を見て来る。じわじわ羞恥がわいて。
「そばにいてくれる?」
「わっ!い、いきなりかよ」
そんな言葉をまき散らしながら、彼が私の顎とくいっと掴むとそのまま彼の唇を押し付けられた。
そのままもう逃さない的なキスは猛獣見たいに荒々しく、離されることなく何度も唇を食まれる。
「うぅ!‥ふっ、ん!!。ぁっ、はっ、ん‥~~~!」
わっ、なっ!ち、違うの。これはあの、慣れない所でその、見知った人がいないから不安だから。
あっ。わっ。その。ちょ。まっ。あっっん。もぉ。やだぁ~。うれしぃ?
やっと唇を解放された。
グイっと手を突っ張らさせてカイヤートと距離を取る。
「もっ!何するのよ!」と言ったが全然いやじゃなかった。
「セリ。おまっ!俺を殺す気か?あんなこと言われたら理性飛ぶだろ!」
彼は照れ隠そうに顔を反らす。
なに?そこは謝罪するとこじゃ?もう、完全に誤解してる。
「だから、そんな意味じゃなくて‥あっ、もぉ~私のファーストキスが!!」
「ファーストキス?あっ、ちょ、やべ!ぐふっ~~」
カイヤートのいきったような顔が目尻が下がりふにゃけた顔に‥
もぉ!何であなたの顔でそんなにでれるのよ!
でも、悪い気はしないなぁ。
「殿下。何してんですか?早く下りて下さいよ」
ライノスさんがバカップルでも見るような視線を送っている。
「ああ、さあ、セリ俺に捕まって」
その態度はまったく悪びれてない。
「はいはい」
「殿下、この後セリ様は皇王と謁見ですからね。わかってますよね?」
クラオンさんも念を押すように言う。
「わかってる」
気だるそうにカイヤートが返事をした。
「セリ、悪いが聖女として父に会ってもらわなくちゃいけないんだ。ついてそうそう悪いな」
「いえ、そうなるとは予想してましたから」
ドラゴンから下りるとカイヤートは私のそばにピッタリくっついた。
「大丈夫だ。俺がそばにいる」
耳元でそう呟いた。
いえ、だから。
さっきそういうつもりじゃないって言ったじゃないですか!!
カイヤートの瞳が甘く蕩けたはちみつ色みたいに見えた。




