25ふっわふっわのパンケーキを作ろう
私は急いで子供たちの所に戻る。
「みんなごめんね。さあ、そろそろランチにしましょうか」
「ぼく、おてちゅだいしゅる」アーポが手を上げた。
「ずるいアーポ。わたしも」コニハが走って来る。
「ぼくも」ポンツは最近出始めた頭の角の辺りをぐしゃぐしゃ触りながら私を見た。
「ポンツ、あまり触っちゃだめよ」
「だってぇ」
私は走り寄って来たポンツの頭を撫ぜてやる。
どうやら角が生えるときには歯が生えると気みたいにくすぐったいのだそうだ。
「いい子だから」
「やだぁ~」
ポンツは甘えたいのか私に抱きつく。
私はそっと魔力を纏わせポンツの頭に触れる。一瞬ふわりと髪の毛が浮いて角の部分が光る。
「ほら、もう大丈夫」
「あれ?ほんとだ。むずむずが治った」
ポンツが可愛い目を輝かせる。
「ポンツばっかりずるい!セリ先生私にも」
「ぼくも~」
今度はコニハとアーポが甘えて来る。
「はい、順番ね」
私は順番に二人の頭を撫ぜる。
「チェ!何だよ。お前らセリ先生が困ってんだろ!セリ先生行こう」
一番年長のペッカーが大人ぶってみんなを叱ってくれる。
「ありがとうペッカー。あなたがいてくれてほんとに助かるわ。さあ、みんなキッチンに行くわよ。今日は何を作ろうか?」
最近は子供たちと一緒に簡単なランチを作っている。
前世でも自炊はして来たし、今までは令嬢としてそんな事をする事も出来なかった。
これからはやりたい事をどんどんやるつもりだ。
イルは諦めたようにこちらを見た。
『まったく、セリお前がそんな事しなくたって』
『いいでしょ、ずっとやって見たかったんだから。お兄様はゆくりしてて』
「にゃっ(はいはい)」
キッチンに行くと調理長がすでに待っていた。
ちなみに調理長はモーテンさんと言って羊獣人だ。ぐるりと巻いた角を見た時は驚いたが今ではすっかり慣れてしまった。
頼りがいがあって何でも頼みを聞いてくれる。
「セリ先生、今日はどうするんだい?」
「そうね‥」
「先生、私パンケーキがいいな」コニハが一番に声を上げる。
「俺も、あれうまいもんな」ペッカーも
「ぼくも~」ポンツも
「じゅるいでしゅ。ぼくだってぇ~」
一番小さなアーポまで。
「はいはい、じゃあ、パンケーキに決まりね。みんなで協力して作ろうね」
私はいいことを思いつく。日本ではパンケーキが流行る前はホットケーキが主流で私にはホットケーキの方がなじみがあった。
じゃあ、少しベーキングパウダーを多くして‥
みんなに私が端切れで作った腰エプロンを付けて行く。
子供たちのエプロンは数日かけて私が作った。家庭科の先生もやっていたのが役に立った。
私のエプロンはさすがに使用人がしているものを借りて使う。
真っ白いエプロンをつけて髪を後ろでまとめる。
「モーテンさん、そういうことでパンケーキに決定です。すみませんが調理場お借りしますね」
「ああ、こっちはもう終わってるから好きに使えばいいからな」
「はい、ありがとうございます」
「ポンツお前角が生え始めたんだな」
「うん」ポンツが嬉しそうに返事をする。
モートンさんがポンツの頭をぐしゃりと撫ぜてキッチンから出て行った。
「さあ、みんな頑張るわよ」
小麦粉をボールに入れてミルクや砂糖を入れる。砂糖は大目に。
「コニハはこれを混ぜて」
「ペッカーには力仕事よ。はい、これをしっかり泡立てるの」
ペッカーには生クリームの泡立てを頼む。
「ポンツとアーポは、はちみつやジャムの用意をお願い」
「「「「はーい」」」」
四人が声を揃えて返事をする。可愛いが勢ぞろいだ。
私はメレンゲ造りに必死になる。
何しろふっわふっわのパンケーキが作りたいから。
そして鉄板で生地を焼き始める。
みんなが目を輝かせて生地を見つめる。
次第にふわっと生地が膨らんでいく。
「あっ、セリ先生。見てみてあんなに」
「しゅご~い」
「こんなパンケーキ見たことない」
「うまそう~」
みんなのワクワクが形になって行く。
ふっわふっわに焼き上がったパンケーキをそれぞれのお皿に乗せて行く。
ペッカーが泡立てた生クリームを大きな葉っぱをくるりと巻いた中にいれて絞り出す。
「うわぁ~きれい」
子供たちの歓声が上がる。
やったね。
「私もやりたい」興味津々のコニハが早速生クリームを絞り始める。
「これは顔かな?」
コニハはパンケーキの上に目や口を絞り出して行く。
「僕も」ポンツは大胆に大盛りにクリームを絞り出す。
「ぼ、ぼくもぉ~」アーポは少し力が足りないのか小さな波のように。
「俺も」ペッカーが恥ずかしそうに絞り袋を握る。
緊張した面持ちで絞り出したのは美しい花びら。
「ペッカーすごいセンスじゃない。すごくきれい」
「じゃあ、先生も」
私は最後に残っていた生クリームをパンケーキの上に絞り出した。
みんなは思い思いにジャムやはちみつを垂らす。
「さあ、食べましょう」
私は大満足でみんなと一緒にパンケーキをテーブルまで運んだ。
もう、気分は最高!大成功で足取りも軽い。
うんうん、みんなのうれしそうな顔。良かった。
「何だそれは?すげぇうまそうじゃないか」
そこにはさきほど怪我をしていたカイヤート様がいた。
驚いて皿を取り落しそうになる。
「おっ、ばか、落とすんじゃねぇよ。ったく」
私は身体ごと彼に抱き留められていた。




