16気づいたら婚約を申し込まれた
翌日の朝早く私は目を覚ました。
あれ?ここはどこ?
見たこともない部屋。白い壁にがらんとしていて椅子が一脚会ってサイドテーブルには水差しがあり窓には白いカーテンがかかっていた。
「あたたたっ‥」
置き上がると頭がズキズキ痛んだ。
身体ががちがちになっていてあちこちが痛い。
それにこのベッド固い。
わずかに消毒薬の匂いがしてまるで保健室にような気がして来た。
扉が開いて兄が入って来た。
「気づいたのか?良かった‥気分はどうだ?」
ふにゃッと相貌を崩した兄に驚く。
「えっ?お兄様、少しづ通がしますけど‥それより私どうしたんです?」
「セリーヌ、お前は魔力を使い過ぎたんだ。昨日の訓練覚えてるか?」
そう言われてやっとオデロ殿下の魔力が暴走してそれを抑え込んだことを思い出した。
「ああ‥でも、私どうやってここに?それにここはどこです」
「安心しろ、ここは魔同局の医務室だ。ユーゴ殿下が運んで来てくれた」
「ユーゴ殿下が?」
思わず声がワントーンあがる。
どうして彼がそこまでしてくれるんだろう?昨日話を下ばかり、つまり知り合って間もない男性がそこまでしてくれるのはおかしい。
「ああ、彼はいい奴だな。今までは素っ気なくて嫌な男だと思っていたがオデロ殿下より数段いい奴だ」
「ええ、もちろん。オデロ殿下は最低の男ですもの。あんなのと比べる方がおかしいですお兄様」
それに、オデロ殿下を助けてあげたのにあいつ私が倒れても知らん顔をしたの?
はあ、早く婚約破棄にならないかな‥
「何か飲んで食べなきゃな」
兄は水差しからコップに水を入れて私に手渡してくれる。
私はそれを少しずつ飲んでまた横になる。
「何か食べるものを持って来るからな。ちょっと待ってろ。後でもう一度診察を受けて大丈夫なら家に帰ろう。なっ」
「はい、お兄様心配かけてごめんなさい」
「ば、ばか。妹の世話をやくことは当然だろ」
お兄様がパッと目を見開いて耳を赤くして息をはくはくさせながら出て行った。
それにしてもまだ体が気だるい。まあ、魔力の使い過ぎでって言ってたから。
それにしてもアーネのあの魔力はなに?一応彼女も<真実の愛>で選ばれたはずなのに‥
もしかしてわざと?ううんオデロの前でそんな事はしないはず。
でも、私に危害を加えるつもりだったならあり得るかも知れない。
そんな事を考えていたらユーゴ殿下はお見舞いに来てくれた。
「セリーヌ?起きたって聞いたから。はい、これ、食べれそうだといいんだけど」
「ユーゴ殿下。おはようございます。昨日はありがとうございました。これは?」
差し出された紙袋からはいい匂いがしている。
「この近くで売っているパンだ。なにがいいかわからないから‥」
私はベッドに座るとユーゴ殿下がさっとクッションを差し込んでくれる。
「うわぁ、ありがとうございます」
彼を見上げると金赤色の目尻がクシャッとなって…心臓がばくんと脈打った。
ユーゴ殿下ってこんな顔するんだ。かわいい。
紙袋を開くと焼きたてのパンのいい香りがした。
チーズを挟んだものやハムを挟んだパン。それにベリーのジャムのペストリーもある。
「すごいですね。私このペストリー頂いてもいいですか?」
「ああ、ベリー好きだもんな」
何この気さく感?彼とそこまで親しいはずはないのに。
そんな事を思っているとユーゴ殿下も紙袋からチーズの挟んだパンと取って椅子に座って食べ始めた。
私もペストリーにかぶりつく。ベッドの上なんてお行儀悪いけど。
「あっ、リートさんがお茶を持って来るって言ってたからゆっくり食べてて」
「はい、ありがとうございます」
あっという間にパンを完食したユーゴ殿下が言った。
「この様子なら午後には話しできそうかな?」
「ええ、今でもいいですけど」
ユーゴ殿下が少し口ごもる。
「えっと‥」
「はい」
私は急いで口の中のパンを飲み込んだ。
「昨日一緒に訓練して気づいたんだけど」
「ええ」
「俺達が<真実の愛>の相手じゃないかと思うんだ。いや、違うんだ。そうじゃなくて、あんなに魔力の波長が合うって言うのは馬が合うって言うか‥だから俺達が婚約すればいいんじゃないかって言うか‥どうだろうセリーヌ。オデロはアーネが好きなんだし君と婚約破棄したがってる。もし、俺と君が婚約するとなればすべてがうまく行くと思うんだけど‥どうかな?」
「ええ!?」
私は手に持っていたペストリーを落とした。




