第72話 第1回ダンジョンアタック〜フリージア&グランヒルト(5)〜
《メッセージ》
『合流ポイント到達につき、フリージア&グランヒルトストーリーはロックされます。
他のストーリーを進めてください。』
……って、RPGあるあるだと思いませんか?
主人公が二人いて(複数でも可)、それぞれの主人公ごとにストーリーがあって。
ストーリーが交差するシーンまで進むと、そのシーンに関わるキャラのストーリーも進めなきゃ進行出来ないってヤツ。確かクロスストーリーシステムって言うんだっけ……?
まぁ、とにもかくにも〜
リジーとグランは先に到着しましたので、当分はマリカチームとリリィチームの話に集中する予定です。
※他のチームに集中する本当の理由は、今話を書いてたら他のチームを待つ間、ぐだぐだ喋るリジー達になったからです‼︎(笑)
後、なんだろう……。実際に書いてるとプロット通りにいかない……。だいぶ逸れながら、会話が進む……。
マジでふざけてるのとシリアスなのが、ジェットコースターみたいになってます……。
それでもいいよって方は、お付き合いください(笑)。
ではでは〜
あのよろしっ( ・∇・)ノ
拝啓ーー少し前までの私へ。
牽制の見本をグランにやらせるのは不安だと、思っていましたね。
けれどね?
…………やってることが……いつもと何も……変わらなかったわ……??
私は、普段のようにグランを座椅子代わりにしていた。
いや、本当にね?人様に見せられないような牽制してくると思ったのよ。主にスケベ的な感じの。
なのに、何これ。
グランが座椅子。私は脚の間に挟まってる。そして、毎度のことながら口にお菓子を突っ込まれてる。
え??やってることが、いつもと何ら変わらないんだけど??
どこら辺が牽制なのか、しっかりと教えて欲しい今日この頃よ。
「どーした、リジー」
「(もぐもぐもぐ……)」
「めっちゃ不思議そうな顔して」
「(ごくんっ)……えーっと。これのどこが牽制なのかしら?と思って?」
首を傾げながら聞くと、グランが「あっははは」と大笑いする。
ついでに、私の口の端っこについたクッキーの欠片を取って食べながら、ニヤァ〜とドヤ顔をしたわ。
「リジー、忘れたのかよ」
「何をよ」
「貴族社会は、政略結婚が普通ですね?」
「……………アッ」
「普通に仲良くしてるだけで、充分牽制になるんだよなぁ〜」
あぁ〜……。あぁぁぁ〜……。そうだったわぁ〜……。
この世界、無駄に都合良く出来てる癖に変なとこリアルなのよね。
つまり、貴族の結婚=政略結婚が主流だったりするわ。高位貴族ほどその傾向は強い。
だから、普通に公爵令嬢と王太子がイチャイチャしてるだけで驚かれる‼︎
〝えっ⁉︎政略なんじゃないんですかっ⁉︎〟って実際に言われたことも1度や2度じゃない。
めっちゃ穿った考え方する人だと、〝そういう演技なんですね……お疲れ様です〟みたいな感じのことを凄い遠回しで言ってくるけど、普段通りの私達を見せると黙るわ。
要するにね?
「はぁ〜……成る程ねぇ〜……。私達の普段通りーーもうそれ自体が、牽制って訳だったのね……」
「そーゆーこと〜」
そう言いながら私のつむじにキスを落としてくるグラン。
私は暇潰しに彼の手をもにゅもにゅしながら、口を開いた。
「いや〜……グランのことだから、もっとスッゴイ牽制とかするかと思ってたわ〜」
「え?もしかして……期待?期待してた?そこまで期待させちゃってたってんなら、応えなきゃーー」
「応えんなっ‼︎」
「ふはっ‼︎冗談」
ケラケラと笑うグランの手をベシッと叩き落として、ケついでにその膝をベシベシ叩く。
グランの冗談は冗談に聞こえないんだから‼︎質が悪いのよっ‼︎本当にねっ‼︎
「とにかく……俺らは普段通りにしてりゃあいーの。リジーの可愛いとこは俺だけが知る特権ってな」
「ふぅん……なら、グランの格好いいところも私だけに見せてくれる特権ってことよね。他の人に見せないように注意しなさいよ」
「ちょっとぉ⁉︎リジーさぁん⁉︎なんなん、今日⁉︎地味にデレ多くね⁉︎俺のグラン君が元気になっちゃうだろ⁉︎」
「急に下ネタぶっ込んでくんじゃないわよ、このお馬鹿がっ‼︎」
ーースパーンッッ‼︎
「あ痛っ⁉︎」
振り向くと同時にハリセンを召喚して、思いっきりグランの頭をぶっ叩く。
貴方、一応、王太子。今、不特定多数、観戦中。
王族の威厳が‼︎木っ端微塵になっていってるのよっ‼︎ちょっとは気を遣いなさいよね⁉︎この、馬鹿グラン‼︎
「…………他の王族の威厳が失くなるのは困るけど。俺の威厳は木っ端微塵になって欲しかったり」
「………………心の声、読まないでくれる?」
「いやいやいや。リジーの顔に本音が出るだけですけど?…………てか、本当にリジーってば顔に出やすいよな。本当に公爵令嬢?」
「失礼な⁉︎一応公爵令嬢よ⁉︎」
「一応が付いちゃってる時点でアウトだよな」
確かに、『貴族令嬢たる者、微笑みを絶やすべからず』ーーみたいな教育は受けるけれど‼︎腹の底でイチモツ抱えてても、淑女の仮面で相手に悟られるな‼︎みたいなのも教えられるけれど‼︎
そんなのグラン相手には必要ないでしょうよぉ‼︎
後、純粋に面倒くさいわ。(←多分、本当の理由はこっち)
「まぁ……素直なリジーは可愛いから全然良いんだけど」
「ねぇねぇねぇ。なんなの?なんなのよ、貴方。今日、本当に、息をするように、甘い言葉を‼︎垂れ流してるわねっ⁉︎⁉︎」
「あっははは。これも牽制だからな。気持ち、いつもの五割り増しで甘くしてる」
あー……確かに。いつもはもっとエロの割合の方が高いものね。
成る程……甘さ成分を増やすとエロい方向に走らないで、こういう甘い言葉垂れ流しになるのか……。
…………今後も甘さ成分多めにしてくれないかしら?体力チートに付き合うのは大変なのよ……。
「まぁ……取り敢えず、私が貴族令嬢っぽくない話は置いといて」
「置いとくのかよ(笑)」
「グランだって王太子らしくないんだから、お似合い婚約者同士ってことで良いのよ。……って、だからその話は置いといて‼︎」
「ぷはっ‼︎はいはい、分かりましたよっと」
「グラン。貴方……まだ、王位継承権の放棄を諦めてなかった感じなの?」
大体、こういう王太子らしからぬ姿を見せる時って……王位継承権の放棄を目論んでる時の恒例と化し始めてない……?
だから、直接本題に突っ込めば……グランは〝てへぺろっ☆〟とワザとらしく笑う。
もうね。それが答えよね。
私は大きな溜息を零して、ジト目でグランを見つめた。
「やっぱり。廃嫡されたくて王族らしからぬ振る舞いをしてたのね……。何があろうと次の王はグランだって、陛下から宣告されてる癖に……足掻くわねぇ?」
そう……グランは彼のお父上であり、ディングス王国の国王でもあるルーゼンヒルト陛下から、そんな風に言われている。
理由は勿論、チートだから。
転生特典(?)っぽい色々な能力を持ってて、前世分の人生経験を積んでるんだもの。そりゃあ優秀なのも当然よね。
で。その優秀な人材が王子で。それも王太子なら……国王として国のために逃すはずないじゃない?簡単に廃嫡される訳ないじゃない?
そんな私の声に出さない言葉を察したのか、グランはぐでーんっとクッションに倒れ込み、オッサンみたいに腹を掻いた。
「いやさ〜……本音を言うと、王位継承権の放棄は殆ど諦めてるんだけど」
「あれ⁉︎諦めてた⁉︎」
「あぁ、うん。そう」
ーースンッ。
…………と、真顔になったグランの表情から読み取るに、どうやら割と本気でそう思っているらしい。本当に、嘘は言ってないのね……。
え?それじゃあなんでよ?と首を傾げると……。
グランはポリポリと頭を掻きながら、面倒くさいという本音を隠さない溜息を溢した。
「でも、初志貫徹というか……一度始めたからには?一応、最後まで王位継承権放棄したいな〜のスタンスは崩さない所存です。はい」
「うっわ……無駄な悪足掻きだわぁ〜……」
「それな。自分でもそう思う。でもさぁ〜……王様なんて面倒くさいだろ?絶対。賢王として名を馳せれば、その優秀な血を沢山残してくださいって家臣達から他の女充てがわれそうだし。下手したら寝所に忍び込んで、媚薬とか薬とか使ってでも既成事実作ろうとする馬鹿が出てきそうだし。愚王となれば、この王なら操れる‼︎って強欲な阿呆が影の国王として好き勝手して、責任を負わなくちゃいけないってならば全部国王に押し付けだろ?或いは、王弟とか他の王族を担ぎ上げて革命?平々凡々が一番だけど、多分……それはそれで面倒くさい。可もなく不可もなくって陰でコソコソ馬鹿にされて、結局舐められて好き勝手されるんだろ?はぁ〜嫌だ嫌だ。面倒くせぇ〜」
「黒い黒い黒い。ウチの国の中枢がグランの実力を知らないはずがないんだから、そんなことは実際には起きないだろうけれど。なのに、なんか……無駄に例えが具体的じゃない??」
「参照文献《歴史に刻まれた王達〜王族の光の闇〜》」
「何その文献⁉︎どこにそんなのあるのよっ⁉︎」
「たまーにやる次代国王達の集まりで、昔の国王達の治世を参考に、色々と気をつけようねってことで。参考文献にするために、各国の王達の歴史をね。編集しました」
ちょっとぉ⁉︎
確かに時々、グランwith次代国王ズが集まってるのは知ってたけど‼︎研修会的な感じだとは聞いていたけど‼︎
何、その一環でそんな面白そうな文献まとめてるのよ‼︎後で絶対、読ませてもらうんだからね⁉︎
「それに王様になったら絶対忙しいじゃん……リジーとの時間が減る……」
「アッ。そっちの方が本音っぽい」
「だから……一応な。ワンチャン賭けて、最後まで粘ろうかなっと。もし万が一にも可能性があれば、アズが国王になるかもしれないだろ?」
「…………」
「…………まぁ、あり得ないだろうけどさ……」
……………そうね。多分、アズールヒルト様が国王になられる未来はほぼほぼないでしょうね。
本人も『兄上の方が絶対適任ですから‼︎わたしが国王だなんて‼︎絶対絶対嫌ですからねっ、兄上っ‼︎』って、めっちゃくちゃ拒否するだろうし。
だから、そんなあり得ない未来を想像するよりもグランが国王になった後のことを考える方が建設的な気がするわ。多分。
「えーっと……グランなら国王になって忙しくなっても。私との時間を捻出することが出来るでしょ?気合と根性で」
「出来るけど?」
「なら、そんな無駄な足掻きしてる暇あったら捻出方法を考えてた方が建設的じゃない?」
「いや、そりゃ当然もう何案か考えてるに決まってるだろ。というか例え何があろうとも、リジーとの時間だけは絶対捻出する」
「……そ、そう」
「それでも面倒なのには変わりないじゃん……楽してリジーとイチャイチャしてたい……」
「…………面倒くさがりめ」
つまり結局?
国王になるのは(諦めて?)受け入れてるけど、国王やるのは私との時間が減るから嫌。普通に面倒くさい……ってこと?
……。
…………。
………………なぁんで話してる内容は、こんな浅いことなのに。こんだけ回りくどい会話してんのかしら、私達?
「え?そりゃ暇だからだって。どんだけ他のチームを待たなきゃならないか分からないだろ。潰せる時に時間を潰そう。暇潰し、暇潰し」
「だから心の声、読まないでくれる?」
「だから顔に出てるんだって、心の声がさ」
むぐっ。
私は自身の頬を両手で挟んでむにむにと揉む。
…………確かに、グランに本音を隠すつもりはないけれど。
ここまで丸わかりなのも困りモンね。これじゃあグランには隠し事なんて、なぁんにも出来やしないわ‼︎
「いや、まず俺に隠し事しようとするのが間違ってるから。リジーはいつまでも素直でいてくれ」
「…………」
「……リジー?」
「…………ふふっ……ふふふふっ」
黙り込んだ私を見て怪訝そうな顔をしていたグラン。けど、私が笑い出したら、その笑みの意味に気づいたのか。彼の頬がじんわりと赤く染まる。
でも、笑っちゃうのも仕方ないでしょう?
ーー『いや、まず俺に隠し事しようとするのが間違ってるんだって。リジーはいつまでも素直でいてくれ』
その言葉に含まれていた〝本心〟に、気づいちゃったんだから。
軽い口調で言った今の言葉。実のところ、かな〜り本気で言っていただなんて。きっと、他の人だったら分からなかったはず。
でも、長い付き合いになる私は分かってしまった。
本当のグランは人間不信だってことを知ってるから。理解出来てしまった。
王族としての教育の賜物で、人並みの付き合いは出来るけど本当は……グランがこの世界で唯一信じられるのは、私だけで。
そんな私に隠し事なんかされたら……私すらも信じられなくなって。
本当の意味で、この世界で独りぼっちになってしまうのを。
私を信じられなくなってしまうのを、恐れた……だなんて。
私にだけにしか分からない態度で。
基本的に強気な表面しか見せないグランが、私にだけ本心を曝け出してくれるだなんて。
私には弱みを見せても良いって思ってくれてるだなんて。
相当私のことを好きじゃないと、出来ないことじゃない?
「……………時々無駄に可愛いわね、グラン」
急にこんなことを言い出した私を、このダンジョンアタックを観戦してる人達は不思議に思いながら見ていることでしょう。
それでも良いの。グランにだけ、この言葉がどういう意味なのかが伝われば良い。
グランは照れ隠しなのか、思いっきり顔を顰めた。
「(……リジーを信じられなくなるのが恐い俺が可愛いだなんて……)案外、いい性格してるよな……」
「褒め言葉として受け取っとくわ。どうもありがとう」
「褒めてねぇよ……。はぁ〜……リジーには一生、尻に敷かれそう……」
「あら。知らないの?妻が夫を更に敷く方が夫婦関係は上手くいくのよ。一生尻に敷いてあげる。だから、覚悟してね?」
声に出さなくても、グランなら分かるでしょう?貴方への答えが。
「‼︎」
目を見開いたグランは、泣き笑うかのように顔をクシャクシャにする。
そして、私のことを強く抱き締めながら……そっと耳元で囁いた。
「おう。一生、信じさせて」
えぇ。安心して頂戴ね、グラン。
私はこの先も、貴方のことを裏切るつもりだけはないから。
だから、私のことを信じられなくなるかもしれないって……不安にならなくていいわ。
ま、そんなこと素直に言ったらまた調子に乗って、私のことを振り回すだろうから。
それを言葉にして伝えるのはずっとずっと先ーー永遠の別れを告げる時だろうけれどね。




