第68話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(4)〜
あーのーよーろーしー。
「前から3体‼︎斬れっ‼︎」
「《水よ、斬り裂け》っ‼︎」
あたしの声に合わせて、スイレン陛下が水の刃をぶっ放す。
薄い水の刃は敵を真っ二つに裂く。倒された敵は断末魔をあげる。
そして……その混じった微かな呻き声。
あたしは陛下の腕の中でくるりっと回って、ズルズルと後方から追いかけてきたグールを目視してから、再度攻撃の指示を出した。
「背後っ‼︎2体‼︎」
「《貫け》っ‼︎」
ーーパンパンッ、パンパァンッ……‼︎
グールの足元から立ち上がった何本もの水柱。
穴だらけになった敵が光の粒になって消えていくのを確認しながら……あたしは思わず、苦笑を零した。
「陛下」
「う、うむっ……」
「これ、あたしの指示、必要あるかい?」
スイレン陛下は目が見えなくても気配察知が優れてるから、敵の位置を把握しているっぽい。
つまり、あたしの指示があってもなくても攻撃はできるってことだ。
そう思って言ったのに、陛下は「必要に決まっているだろう⁉︎」と叫ぶ。ガクガクと恐怖に震える姿に、流石のあたしも考えを改めずにはいられなかった。
「い、言っておくがっ……‼︎リリィ嬢にはだいぶ、助けられているからなっ……⁉︎も、もしっ……グールの巣窟に1人で入らさせられていたらっ……ぜ、絶対っ‼︎冷静でいられなかったからなっ⁉︎」
「あ、うん。それはそうだろうなって思う。今もめっちゃ震えてるもんな」
「そ、そうだぞ⁉︎リリィ嬢がいてからなんだから、いなかったらどっ……どうなってたかっ……‼︎リリィ嬢の指示があるから、上手く敵に攻撃を当てられてるんだぞ⁉︎多分指示無しで攻撃したらっ……攻撃は放てても、的中はしない思うぞ⁉︎」
「あぁ、成程ね。分かったよ。なら、これからも指示してくから……スイレン陛下、頑張ってくれ」
「う、うむ……頑張らねば、リリィ嬢が攻撃されてしまうからな……‼︎頑張るぞ……‼︎」
どうやら陛下は、あたしのために頑張ってくれてるらしい。
あたしを守るために。だから、苦手なのに頑張ってくれてる。
…………そんな風に優しくされたら……、あたしは……。
…………ううん、今は考えるのは止めよう。ここはダンジョン。命の危険と隣り合わせの場所だ。こんなところで、気を緩める訳にはいかない。
「そ、それで……どうだ、リリィ嬢……で、出口は、あ、ありそうか……?」
スイレン陛下にそう言われて、ハッと我に返る。
あたしは記憶を思い返してながら、この海賊船の構造を口にした。
「えっと……多分、この階は全部探索したと思う。出口……かは分からないけど、今のところ見つけたのは下へ向かう階段だけだよ。上に向かう階段はなさそうだ」
「そ、そうか……ならば、下へ行こう」
「分かった。階段に向かうよ。気をつけてね」
「あ、あぁ」
スイレン陛下を安心させるように一度、手を握り締めてから歩き出す。
海賊船はそれなりに広い。大型船ってヤツだと思う。
なのに、下に降りる階段は1つしかないんだから……なんか引っかかる。
あたしは辺りを警戒しながら、辿り着いた階段を一歩一歩降りて行った。
そうして降り着いた先にあったモノを見て、あたしは目を見開く。
「ここは……」
「リ、リリリリリリィ嬢……?なんだ、何があった?グールの群れか?グールなのか⁉︎」
「え?あっ、違う違う‼︎これは多分……牢屋だと思う」
〝思う〟って言ったのは、至る所が崩れ落ちていて……原型を留めていなかったからだ。
錆びた柵て区切られた部屋が並び、床は抜け落ちて、あちらこちらに苔が生えている。
そして……。
ーー牢屋の中に取り残された……白骨化した、遺体。
「…………あなた達の魂に安らぎを」
あたしは無言で手を組み、名もなきモノ達の冥福を祈る。
スイレン陛下もその言葉で察したのか、「冥福を」と小さく呟いた。
そうしたらーー……。
『ぎゃぁぁぁあっ‼︎ちょ、ちょっと待てよ‼︎祈んな、祈んな、祈るな‼︎お前ら高位聖職者かぁぁぁぁ‼︎成仏しちゃうぅぅぅう‼︎』
「きゃあぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
「うわぁぁぁぁぁぁっ⁉︎なんじゃぁぁぁぁあっ⁉︎」
そんな声と共に半透明の男が一番奥の牢屋から飛び出してきたんだから……流石のあたしもこれには驚かずにはいられなかったよね……。
……。
…………。
………………数分後。
『はぁー……驚いた驚いた‼︎役目を果たさず死ぬかと思ったぜ‼︎』
「いや、どっからどう見てもアンタ、もう死んでんだろ」
『嬢ちゃん可愛い見た目に反して辛辣ぅ‼︎でも、そこがイイッ‼︎』
「グルゥゥゥウ……」
『アッ、嘘です。嘘ですうっそでーすっ‼︎だから後ろのお姉さんも威嚇の鳴き声出すの止めて??割とマジで怖いっす‼︎』
感情豊かにコロコロと表情を変える半透明の幽霊。
海賊の服を着た男は『取り敢ーえず‼︎』と言いながら、胸に手を当てて一礼してみせた。
『オレの名前はノル。偉大なるこの海賊船サンタ・ポラリス号の船長様さ‼︎よろしくぅ‼︎』
「うっそだぁ」
『なんで即嘘だと思ったし⁉︎決めつけ、良くない‼︎』
「だって、格好が下っ端海賊」
あくまでもイメージだけど……海賊の船長って肩にモールが付いた豪華なロングコートとか、羽根が付いた帽子とか飾ってる感じなんだ。
なのに、目の前にいる自称・船長はどっからどう見ても平海賊の格好だ。水色と白のボーダー柄のシャツと、黒いハーフパンツ。頭には赤いバンダナ。
…………これを下っ端と言わずなんと言う?
目を隠してるスイレン陛下にそう説明すると、彼も「確かに下っ端だな」と頷く。
そんなあたし達の反応に、ノルは『キィィィィ‼︎』と叫びながら地団駄を踏んだ。
『仕方なかろう⁉︎だって、この船を乗っ取られた時に船長の服も剥がれたんだもんっ‼︎流石に全裸っ☆はヤバいから、下っ端の服着たんだよっ‼︎』
「全裸はヤバいね」
「変態だな」
多分、全裸の幽霊が出てきたら……話も聞かずに、問答無用で強制成仏させてたな。
勿論、あたしじゃ出来ないからスイレン陛下にやらせてた。
『とゆー訳で‼︎この船と船員を取り返すために、協力してくれよ‼︎お嬢さん方‼︎』
「何がという訳??え?どっからどう、船を取り返してくれって話に繋がった?」
『元はオレの船だからな‼︎案内は任せてくれよ‼︎』
「どうして急に話が通じなくなった⁉︎」
何が〝とゆー訳で〟なのかが分からず、思わず叫ぶと……あたしを背後から抱き締めているスイレン陛下が「リリィ嬢、リリィ嬢」と耳元で囁いてくる。
無駄に良い声だからちょっとゾワッとした。あたしはじわりと熱くなった頬を手で仰ぎながら、「なんだい?」と耳も傾けた。
「多分……このルートは、目標達成系なのだと思うぞ」
「…………目標達成系?」
「あぁ。目標を達成せねば攻略出来ぬ、特殊なルートのことだ。此度は、船と船員を取り返すというのが達成目標なのであろう。先ほどの……下へ向かう階段しか見つからなかった、というのも……この自称・船長の案内がなければ攻略が進行しない仕組みなのかもしれん」
「そんなのあるんだ⁉︎」
「うむ。ダンジョンはまだまだ解明されておらぬ、未知の部分が多いからな。多種多様な仕組みになっているらしい。分かっているのは、ダンジョンは特殊な環境下にあるーー固有の理が敷かれているということ。つまりーー……」
「ごめん、陛下。もっと分かりやすく言ってくれるかい?」
「……………こうなった以上は、船と船員を取り返さねばこのルートから抜け出せないということだ」
もう……そうやって簡潔にまとめられるなら、最初っからそう言っておくれよ。
あたし、そんなに頭良くないし。考えるよりも実際に動いた方が得意なんだから。
「…………よし」
「リリィ嬢……?」
「なら、とっとと達成して進もう。他のチームを待たせる訳にはいかないからね。とはいえ、あたしは戦力外の役立たずだから、実際に労力を割くのは陛下なんだけど‼︎」
ほんのちょっと漏れた本音。
あたしの弱い攻撃が効かないから、陛下にだけ戦わせてるという負い目が……言葉に滲み出てしまった。
それに目敏く気づいた陛下は、あたしを抱く腕に力を少し込める。
そして、励ますように……優しく告げた。
「…………だが、リリィ嬢がいなければ、恐怖で儂も冷静ではいられぬからな。リリィ嬢もこのルートの攻略には必要不可欠だぞ?」
「…………でも。陛下の方が負担、多くないかい?」
「適材適所、というヤツよ。今回は儂が頑張るからな。リリィ嬢は他の時に……儂の代わりに頑張ってくれれば良い」
あぁ……成程。そんな風に考えれば良いのか。
あたしは今回、殆ど役に立たないけど。他のところで、スイレン陛下に報いれば良い。
それなら、役に立たなくて申し訳ないなって気持ちが……少し軽くなる。
「うん、分かったよ。陛下。あたしは、他のところで陛下を助けるからね」
「…………あぁ、ありがとう。その時はよろしく頼む」
「うん、その時は任せておくれ。こちらこそ、よろしくね」
と……改めて意気込んだあたしはーー。
『…………いやぁん。特殊プレイ中の百合ップルって……変な扉開けちゃいそうになるわぁ〜……』
普通にノルの存在を忘れかけてたし。
なんて呟くその言葉にも、気づかなかったのだった。




