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第67話 第1回ダンジョンアタック〜マリカ&セーゲル(4)〜


はい。書いている内に登場キャラ達がプロットの斜め上の行動を取り始めるので、相変わらず「なんでこうなった……?」ってなってる島田です。


まぁ、楽しんでもらえているなら、それで良し!!


兎にも角にも、よろしくどうぞ( ・∇・)ノ


誤字脱字報告ありがとうございます!

いつも助かっております。報告してくださる方々に沢山の感謝を!

 





 潤んだ目。赤く染まった頬。恥ずかしいと言外に告げる表情。照れて、縮こまった身体。


 あぁ……どうしてかしら?

 セーゲルのその姿に。凄く、凄く、ゾクゾクしてしまうわ。


 もっと泣いて欲しい。恥ずかしがらせたい。

 もっともっと、困らせたい。惑わせたい。


 そんな気持ちが沸々と湧き上がって。

 口角が上がるのを止められない。顔が勝手に愉悦に歪んでいく。

 けれどーー。




「うふ、うふふふっ。冗談、よ?冗談。だから……そんな顔、しないで頂戴な。セーゲル」


 あたくしはそう言って、セーゲルの頬を撫でる。

 今のあたくし達はダンジョン攻略中。それも中継なるモノで、不特定多数に見られている状態だわ。

 そんな状況下でセーゲルの愛らしい姿を他人に晒すなんて……勿体ないでしょう?


「マリ、カ……」

「ねぇ。早く元の顔に戻って頂戴。その顔を見せるのはあたくしだけで充分でしょう?」

「う、うぅぅうぅ……‼︎」


 あたくしの言葉で更に恥ずかしそうにするセーゲル。

 その姿にも興奮してしまうけれど……やっぱり他人に見せるのは勿体ない。あたくしだけに、見せて欲しい。

 それに……どうせ彼を困らせて、泣かせるなら。こんなダンジョン(他のこと)に気を取られるような場所じゃなくて、誰にも邪魔されない場所の方が安心できるもの。

 だからあたくしは、どうにか彼のその、恥じらった愛らしい顔を隠そうとした。


「愛らしいセーゲル。いつまでも恥じらっていては駄目よ。真面目にやらなくてはいけないわ」

「そ、それは……‼︎分かってるんだがっ……‼︎」

「このまま不甲斐ないダンジョン攻略をしてしまっては……グランヒルトさんとフリージアさんから、どのようなお叱りを受けるか分からないわよ?」

「…………⁉︎」


 あたくしの言葉に、セーゲルは顔面蒼白になる。

 それを言ったあたくしも、自分で言ったことながら……思わず遠い目になってしまったわ。

 …………あら、嫌だ。悪寒が……(ぶるりっ)。


 ーー〝グランヒルトさん〟・〝フリージアさん〟。


 ただその名前を出しただけなのに。恥じらいも湧き上がっていた感情も何もかもが、吹っ飛んだわね。

 それどころか、恐怖から震えが止まらない。まるで魔法(……呪いの間違いかもしれないけど)の言葉だわ。

 …………でも、まぁ。えぇ。こうなるのも分かる気がするの。

 だって、グランヒルトさんとフリージアさんはかなり、常識外れですもの。

 人外に片足を突っ込んでいるというか……両足ズブズブというか……。あの2人はあたくしより、ちょっとーーいいえ、かなりおかしいわ。

 フリージアさん曰く〝チートだから〟とのことだったけれど……なんなのかしら?意味が全然、分からないわ。

 それでも確かなことが、1つ。



 あの2人の機嫌を損ねるのはよろしくないということーー……。



 なんて言うのだったかしら……?あぁ、そうだわ。触らぬ神に祟りなし、ね。

 彼らの機嫌を損ねたら、絶対に碌なことにならないのだから。きちんと真面目にやって、お叱りを受けないのが一番得策だわ。

 という訳で……あたくし達はあの2人に叱られるのがとても恐ろしかったので、速やかにダンジョン攻略に集中することにしたわ。


「《海底神殿》コースは迷宮となっており、最奥部にいる女王を倒せばクリアだ。マッピング具合から見て……攻略進行度は5分の2に到達するか否かといったところか。俺達だからと休憩を挟まずに進めてきたが、そろそろ休憩を挟むべきだな」

「そう。分かったわ」


 冒険者モードに切り替わったセーゲルは、戦闘しつつチマチマとマッピングしていた手製の地図を見ながらそう言ってくる。

 《海底神殿》は外から見た神殿の大きさと、神殿内の広さがつり合わない。つまり、外から見た建物の広さに収まらないほど、建物内部が広いの。例えるなら……外から見ると貴族のお屋敷ぐらいの大きさなのに、中身は王宮並みという感じかしら?

 建物内の空間を歪めているのでしょうね。そうじゃなきゃ、こんなに広くなるはずがないわ。

 更に最悪なことに……このダンジョンは変動型。入る度に構造が変わる仕組みになっている。定常型ーー構造が変わらない仕組みーーなら楽だったのだけど、変動型ダンジョンはセーゲルがやってくれたようにマッピングしながら進む必要がある。

 普通の冒険者ならその疲労は多大でしょう。いつ襲ってくるか分からない魔物を警戒し、接敵したら戦闘、更にマッピング……。

 本音を言うとそれほど疲れている気はしないのだけど、ダンジョン攻略中という特殊な環境下だもの。自覚がないだけで、本当は疲れている可能性も捨て切れない。

 疲労が溜まった状態だと、ほんの少しのミスを犯しかねないし。その犯したミスが命取りになるかもしれないもの。

 長期のダンジョン攻略での小まめな休息は、戦略として適切な行動だわ。


「よし。では、行動を開始する」

「了解よ」


 セーゲルの言葉を皮切りに、黙々と足を進める。

 途中でかち合う魔物も容赦なく、けれど無駄なく倒していく。

 セーゲルは、自身の女装姿に動じることもなく。

 先ほどのあたくしの胸に満ちていた感情も、既に湧き上がることなく。

 ただただ真面目に、ダンジョン攻略をする。

 そうして攻略を進め……小部屋に入った瞬間、ガラリッと空気が変わったような感覚を覚えたわ。

 部屋の中央に置かれた噴水。両手を上に掲げた天使像の手の平から、ほんのり光る水色の液体が湧き上がっている。

 部屋の壁には噴水から伸びた蔦のような模様が張り巡らされ、目に痛くない程度に発光している。

 あたくしはキョロキョロと小部屋を見渡し、ホッと息を吐いて警戒を解いたセーゲルに声をかけた。


「セーゲル。ここが……セーフティエリアだったかしら?」

「あぁ。《回復の泉》があるからな。間違いない」


 あぁ……そうだったわ。

 この天使像、噴水にしか見えないのに《回復の泉》って呼ばれているんだったわね。

 そんな風に呼ばれている理由は、その天使の手から溢れる液体を飲むと体力・気力・魔力の全てが回復するから。

 そして、本当かどうかは分からないけれど……この液体には魔物避けの効果もあるらしいわ(噴水から伸びている蔦の紋様が、部屋に液体を運んでいるんじゃないかって話だったわね)。

 まぁ、その魔物避けの効果自体はダンジョンでしか発動しないし、この部屋からその液体を持ち出そうとすると一瞬で蒸発してしまうらしいけれど。

 これもダンジョン特有の特殊な理という訳よ。

 安全に休息を取れるのはとても有難いのだけど……ダンジョンを作った〝誰か〟は、何を思ってこんな仕組みにしたのか……。本当、不思議で仕方ないわ……。


「セーフティエリアに到着。これから3時間の休憩を取る」

「えぇ、分かっーーあっ。そうだわ、忘れてた」

「ん?どうしーー」


 ーースポンッ‼︎


「ぐふっ⁉︎」


 胸元の谷間に手を突っ込んで、しまい込んでいたモノを取り出そうと手を動かす。

 セーゲルは思いっきり噴き出して、顔を逸らしたわ。

 そういえば……さっきもこんな感じになってたわね。女装姿だから、さっきよりも絵面が酷いけれど。


「あったわ」


 ーースポンッ‼︎


 あたくしが取り出したのは、毛布や携帯食料、コップなどが入った麻袋。

 これはフリージアさんから「ダンジョン攻略中に休憩を挟むだろうから、その時に使って頂戴ね」と、渡された支給品よ。

 本来であれば逸れた時のことを想定して、荷物は各自が持つモノらしいけれど……荷物を持っているだけでも動きを阻害されることがあるものだし。そのために荷物持ち(ポーター)という職があるぐらいだし。

 また、今回は速く攻略をすることを優先しているから……こうして《境界》の亜空間に荷物をしまえるあたくしが、荷物持ちを担当していたわ。


「そ、それは……」

「フリージアさんから与えられたモノよ」

「あ、ハイ」


 何故か顔を赤くしてオロオロとしていたセーゲル。

 でも、フリージアさんの名前を出した瞬間ーーやっぱりシュンッと一瞬で冷静さを取り戻したわ。


「はい、お使いなさいな」

「あぁ、助かる」


 セーゲルはあたくしから毛布と携帯食料、コップを受け取ると……《回復の泉》から2人分の飲み水を掬ってから、早速携帯食料に手を出す。

 携帯食料は基本的に、ステック型のクッキーが主流よ。最近では、ドライフルーツやチョコレート、沢山のバターが入ったモノも売られ始めたみたい。

 ダンジョン攻略はかなりのエネルギーを消費するから、カロリーを効率良く摂取できるよう、高カロリーの材料が混ぜられていることが多いらしいわ。


「…………ん。これは……携帯食料にしてはかなり、美味いな」

「そうなの?」

「あぁ。基本的な携帯食料は長期の保存のため、余計なモノを入れないことが多かったり……とにかくエネルギーの摂取を優先するため、高カロリーな材料をぶっ混むだけで、味は二の次にしてるモンが多いんだ。まぁ、それでもここ最近、ドライフルーツが入ってるヤツとか、美味い携帯食料も増えてきたんだが。これはその中でも特に味が良い。どこで入手したモノだろうか……」

「この攻略が終わったら、聞いてみれば?」

「あぁ、そうだな。そうしよう」


 満足そうに食べる彼に倣って、あたくしも携帯食料を食べてみる。

 あら、やだ。本当に美味しいわ。

 こう言っちゃ失礼だけれど、下手なお菓子屋さんよりも美味しいかもしれないわね。


「よし。俺は少し仮眠を取る。マリカもしっかりと休んでくれ」

「えぇ、おやすみなさい」

「お休み」


 早々に携帯食料を食べ終えたセーゲルは毛布に身体を包んで、一瞬で寝たわ。

 一流の冒険者はどこでも寝れると聞いているけれど、本当なのね。スコーンッと寝落ちたわ。

 あたくしはちびちびとコップを傾けながら、彼の寝顔を見つめる。


 ーー今日のあたくしに芽生えた感情。


 冷静になった今なら分かる。

 アレはきっと、加虐心ーーというモノ。

 虐めたい。泣かせたい。困らせたい。そしてそれに、愉悦を覚える。

 あぁ……まさか。自分にこんな性癖があるなんて。思いもしなかったわ。

 今のところ、この加虐心が向かう先は〝セーゲル〟に対してだけだというのが唯一の救い。でも、そんな性癖に目覚めさせたのは彼の泣き顔が原因。

 こんな風に、あたくしの性癖を歪めてくるなんて……。なんて魔性なのかしら?

 きっと今後も、あたくしはセーゲルを泣かせたいと思ってしまうのでしょう。現に今もそう思っているし。

 けれど、先も言ったように彼にも原因があるのだから……。



「もう……わたくしの性癖を歪めた以上、貴方に責任を取ってもらうわよ? セーゲル」




 そう呟いたあたくしの声は……あたくしが思うよりもずっとずぅっと……甘ったるい声音を、していたわ。






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