第66話 第1回ダンジョンアタック〜フリージア&グランヒルト(3)〜
別名・開いちゃいけない扉を開けて、意図せず特殊なプレイをした最後がバイオレンスって……碌でもないダンジョン攻略では?回です(笑)
お察しの通り、グラン時点です。
よろしくどうぞっ( ´ ▽ ` )
「どうしてだろうっ、なんか今‼︎」
「開いちゃいけない扉が開いた気がするわっ‼︎」
『ギョギョギョェッ⁉︎(特別意訳:なんか片手間で倒された気がするっ⁉︎)』
ーー2人揃ってサハギンの顔面に飛び蹴りをブッ噛めしたところで、ハッと何かを感じ取った俺らは思わず叫ぶ。
「「…………」」
俺とリジーは隣同士で走り続けたまま、顔を合わせる。
〝せーの〟という合図はいらない。俺らは同じタイミングで口を開いた。
「「両チーム、男側にステーキ1枚」」
……。
……………。
見つめ合い、2人揃って黙り込む。
そして、呆れ顔になりながら肩を竦めると……。
「「これ、2人とも同じ方に賭けてたら賭けにならないわな(ね)」」
無駄にピッタリなシンクロ率で、そう呟いたのだった。
「なんかさー。他のチーム、意図せず(?)特殊な性癖が開花しちゃってる気配を感じるんだよなー」
「そうなのよねー。それも漏れなく男性サイド。あらやだ。このダンジョンアタックにチャレンジしてる男達全員が変態になっちゃったわ‼︎」
「あっははは。俺が変態なのは認めるけど、他の2人は可哀想だから変態認定するのは止めたげなさい」
「変態だって認めちゃうところが、グランらしいわよね」
「リジーに関しては変態だかんなぁ。嘘言っても仕方ないだろ」
……と。
相変わらず阿呆みたいな会話をしながら、千切っては投げて。叩いては蹴ってと、走り続けたまま敵を倒していく俺達。
あ〜……本当、変化のねぇダンジョン攻略だなぁ〜……?マジでつまんねぇ。同じことを繰り返すだけってすっごい苦痛だし、疲れる……。
なんて心の中で愚痴っていたら、俺の思いが天に届いたのか。行き止まりになった、少し広くて天井の高い場所に出た。なーんて、普通に行き着いただけの話なんだけどな。
俺らが出てきた道の向かい側の岩壁には、無骨で重たそうな灰色の扉がある。
おっ。これはもしかしなくても、っぽい。
「グランさん、グランさん」
足を止めた彼女はペシペシと俺の腕を叩く。
それからリジーは興奮した様子で、俺の腕をブワンブワン揺らした。
「これ、もしかしなくても中ボス部屋よね?」
「おぅ。中ボス部屋だろうな」
「っ‼︎はぁ〜……やっと‼︎やっとなのね‼︎長かったわ‼︎」
〝ぱぁぁぁぁあっ‼︎〟と顔を明るくしたリジーは、心底嬉しそうに小躍りしている。
うんうん、分かるぞ。分かる、分かる。つまんなかったもんな、このコース。
俺も肩を揉みながら、おっさんみたいな溜息を零した。
「あ〜……疲れた……んで?どーするよ。ちょっと休憩してから、アタックするか?」
「いいえ、いいえ‼︎とっとと終わらせてボス部屋の前でゆっくりまったり休憩よ‼︎早くっ、このコースから抜けたいわっ‼︎」
若干涙目で叫ぶリジーは、本当にこのコースに嫌気が差してんだろう。
……俺もつまらないことは嫌いだが、リジーは俺よりも遥かにつまらないことが嫌いだもんな。面白いこと追求しまくってたら、なんでか破・天・荒☆なんて呼ばれるようになったぐらいだもんな。
まぁそれには俺も反対する理由がなかったから、苦笑を零しながら了承した。
「りょーかい。それじゃ早速、行くか」
「えぇ‼︎」
気合を入れるために互いの拳を軽くぶつけて鼓舞し合い、俺らは一緒に扉をこじ開ける。
扉の先は無駄に広い場所だった。扉の前の空間よりも遥かに広いし、天井が見えないぐらいに高い。
周りにはユラユラと火の灯った篝火と、古代文明っぽい壁画がグルリッと刻まれている。……悲しいことに描かれてたの、サハギンだったけど。
なんか、ここまでくるといっそ感心すらしちゃうな……?だって普通は、ここまでサハギンに統一しないだろ?
このコースを設計した奴はそんだけサハギンを愛してたんだろうな……。俺には理解できない感性だわ……。
なんて壁画を見ながら現実逃避してた俺は、1番直視したくない現実を見ないように目を逸らしていた。
うん、見たくないんだ。俺らの正面奥にいやがる存在なんかな。
『ギョェ……ヨ、ヨク来タナ……人間ヨ……』
「って喋るんかいっ‼︎」
でも、無理でした。ツッコまずにはいられなかったさ。だって喋るんだもの。
なお、喋る魔物はダンジョン限定らしい。ダンジョンには固有の理が敷かれているから、色々と特殊だったり、外にいる普通の魔物とは違ったりするんだとさ。
閑話休題。
「……………うげぇ」
思わず前を向いてしまった俺は、それを見て呻く。
20段ぐらいの階段付きの台座の天辺には、キラッキラと輝く黄金の椅子。そこに座ったのは……普通のサハギンよりも5倍ぐらいデカい、でっぷりと腹の膨れた王冠を被ったサハギンと。ソイツの周りに侍るドギツイ化粧をした赤い布を纏ったサハギン達(※多分、雌)。
そう……。
ーーそこにあったのは……サハギンによる王様&ハーレムの図でした。
うぇぇぇ……萎ーえーるぅぅぅうー……‼︎
ただでさえ俺、アンチハーレム派なのによぉ⁉︎ハーレム(それもサハギンver)を見せてくるってどーゆーつもりなんだよっっ‼︎
精神攻撃ですか⁉︎凄いね、少なくとも俺はもう既に大ダメージ喰らってるよ‼︎
………と。そんな風に俺の心が荒ぶっていれば。同じアンチハーレム派のリジーも似たような気持ちになっているだろうと、簡単に予想ができる訳で。
チラリッと隣を確認したら……臭いもんを嗅いじまった猫みたいな、けっっわしい顔をしたリジーさんがいました。
うわぁ〜……ちょっと可愛い顔が台無しなんだが……?いや、でもこれはこれで可愛い気がするな……?
というか……(俺にとっては)地獄絵図なハーレムを見せられた後だと、そんなリジーの残念な顔もすっごいホッコリするぅ〜……。
思わぬリジー効果で精神が落ち着きかけた俺だったが、サハギン王の続いた言葉で……まぁ、うん。ちょっとね?
それどころじゃなくなったのだった。
『オ、オォ……‼︎随分ト上等ナ雌ジャナイ、カ……‼︎』
………………は?
『イイ、腰ツキ、ダ……‼︎』
サハギン王が、舐め回すような下卑た視線を、リジーに向ける。
『ソノ様ナ薄イ格好……誘ッテオルノダナ?』
ベロリッと実際に舌で唇を舐めながら、欲望の滲んだ声で、言葉を発する。
『ヨカロウ。特別ニ、ソコノ雌ヲ……我輩ノ〝ハーレム〟ニ入レテヤローー』
「よし。ちょっと100回ぐらい……死んどけ?」
その言葉を言い切る前に、俺は瞬歩で距離を詰め。
サハギン王の顔を、思いっきりブン殴っていた。
『ギョ、ギョェッ⁉︎』
『ギョエギョエ‼︎』
『ギョッエー⁉︎』
ゴロンゴロンッと階段から落ちていく王を見て、雌サハギン達は悲鳴っぽい鳴き声や威嚇っぽい鳴き声をあげたりする。
「喧しい。黙れ」
『ッッッ……‼︎』
でもそれも、威圧をかけて睨みつければ、簡単に静かになった。
「…………」
俺はガクブルと震えて縮こまった雌サハギン達を無視して、階段をゆっくりと降りて行く。
何が起きたのかと困惑しているらしいサハギン王を視界に捕らえながら、俺は無表情になったリジーを見て……笑わずにはいられなかった。
まぁ、そりゃそうだよな。怒りで行動に出たのは俺が先だったけど。ぶっちゃけ、俺よりもリジーの方がブチギレるに決まってるよな。
なんせただでさえ嫌いなハーレムに入れてやろう、なんて言われてんだし。しかもリジーが大っ嫌いな、全てが自分の思い通りになって当たり前だと思ってそうなヤツにな。最後の締めがサハギン。
リジーがキレるのも当然のことだった。
「グラン」
無表情のままだけど、怒りで目がイッてるリジーは言外に、獲物を寄越せと強請ってくる。
この場での獲物は勿論、サハギン王だ。
だが……。
「駄目だ。俺のリジーに手ェ出そうとしたソレは俺の獲物だ」
「言われたのは私よ?私に殺る権利があると思うのだけど……」
「あの雌共で我慢してくれ。その代わり……ソレには地獄を、見せてやるからさ?なぁ、お願いだ。俺に譲ってくれよ、リジー?」
ーーにっこり。
微笑みながらそう言ってやれば、リジーは不服そうな舌打ちを零してから……台座に向かって歩き出した。
やったな。本当に嫌々っぽいが、なんとか譲ってもらえたらしい。
でも、すれ違いざまに「本気でやって頂戴ね」と釘を刺された。
あははっ、そんなの……言われなくても当然なのにな?
『ナ、何ヲスルノダッ……‼︎貴様ァ……‼︎』
「え?俺のリジーに手ェ出そうとしたから、その制裁をしてる」
『ギョェッ⁉︎』
ーーバキンッ‼︎
サハギン王の首を掴んで、地面に叩きつける。
地面がヒビ割れるぐらいに強かに後頭部を打ち付けたサハギン王は、苦しそうに呻く。
白目のない真っ黒な目が恐怖で歪んでいくのを、俺は間近でしっかりと観察した。
あぁ……魔物のクセに、人間みたいに怯えるなんて。まるで俺の方が魔物みたいだって言ってるよーな顔、すんなよ。
でも、確かに。今の俺は、魔物よりも魔物らしい顔をしている自覚があるんだけど。
「うんうん、今回ばかりは仕方ないよな。俺、リジーのことになると頭のネジぶっ飛んじまうもん。だから……諦めな、サハギンの王サマ?簡単には、解放してやれないからさ?」
え?それから中ボスアタックはどうなったって?
流石に暴力的過ぎたから、【自主規制】になったってことだけ……答えとくよ。




