第63話 第1回ダンジョンアタック〜フリージア&グランヒルト(2)〜
寒かったり、暑かったり、寒かったり……。コロコロ変わる気温めぇぇ……。
えぇ。気温変動に適応出来なかった島田は普通に体調を崩しましたよ。いつものことですね(遠い目)
という訳で〜皆様も体調には気をつけてお過ごしくださいね!
今後とも〜よろしくどうぞ( ・∇・)ノ
「…………くちゅんっ‼︎」
「…………はくしょんっ‼︎」
「「…………」」
同じタイミングで出たくしゃみ。
走り続けたままチラリと隣を見ると、グランもこちらに視線を向けていた。そのまま見つめ合うこと数秒。
私達は首を傾げながら、言葉を交わしたわ。
「2人揃ってくしゃみなんて……風邪かしら?」
「いんや?そんな感じじゃなさそうだぞ。熱っぽくもないし、喉とか頭が痛い訳でもないし」
「なら、誰か私達のことを噂してるのかしらね」
「あ〜……そーかもなぁ」
ダンジョンアタック開始から早1時間半ぐらい。
私達は最初っから阿吽の呼吸だけど、他のチームはそうはいかない。
でも、1時間半も一緒に攻略してれば……流石に連帯意識も芽生えて、ついでに相手にも慣れて、相棒と会話を交わす余裕ぐらい出てくる頃だと思うのよね。
「スイレンさん辺りが、俺らの話をしてそうじゃね?」
「私達の話よりもお互いの話して、仲を深めてくれたら良いのにねぇ……」
「それなー。元々、それが目的だしな」
「そうね〜。上手くやってると良いんだけど」
……と。
そんな雑談を交わすほど私達ーー《海底洞窟》組のダンジョン攻略は、順調過ぎるほど順調に進んでいたわ。
現在の攻略状況は……事前に調べたダンジョン内の地図と照らし合わせると、3分の2くらいまで攻略が進行している感じね。
元々、半日ぐらいかかると予想していたけれど、それよりも遥かに早く終わりそう。
まぁ、それも当然よね。当初の予定ではRTAでダンジョンアタックするつもりじゃなかったんだもの。
でも、だからって何か問題がある訳でもないし?逆にRTAを決行して正解だったと、今では思っているぐらい。
…………だってね?
サハギンばっかりだしっ‼︎洞窟も変わり映えしないから飽きるのよ……‼︎
本っっっ当に‼︎単調‼︎
偶に魔法士っぽいサハギンとかもいるけれど、攻撃される前に倒しているから速攻で戦闘が終わってしまうし。
《海底神殿》コースみたいに美しい神殿内を探索する訳でも、《海底大海原》コースみたいに美味しい物が食べれる訳でもないんだもの。
これは飽きるに決まってるわ〜。1番不人気なコースだって言われているのにも、納得ものだわぁ〜……。
「うーん。面白みがない」
グランも同じことを思っていたのか、サハギンにラリアットを喰らわしながら呟く。
それに同意しながら、私は溜息を零した。
「本当にそれ。他のコースが羨ましいわ」
「分かる。あー……マジで鯵のなめろう食いたかった」
「私だって帆立、食べたかったわよ」
「まぁ、いくら文句を言ったところでどーしようもないからなぁ……。ダンジョンアタックが終わったら美味い海鮮、食いに行こうぜ」
「えぇ、そうしましょうね」
後の楽しみが出来ればやる気も出るってモンよね。
私達の進行もとい殲滅速度(笑)が爆上がりする。
やっだ。このペースだと、もっと早く終わっちゃいそう。
サハギンにナイフを放ちながら、私はふと呟いた。
「そういえば……他の人達は、どれぐらい進んだかしらね?」
「んー……少なくとも5分の1くらいは攻略済みなんじゃないか?」
「あぁ〜……あの面子なら、それぐらいが妥当かしら。なら、結構待つことになっちゃうわね?」
「そうなるだろーなぁ……」
このダンジョンは3つのコースを同時攻略して、各コースの中ボスがドロップする鍵を手に入れなくてはいけない。その鍵がないとラスボスがいる扉が開かないの。
だから、早く攻略し終えたらその分だけ、ラスボス前の広間で他の攻略が終わるのを待つしかないのよね。
でも、こんな面白味もないコースを敢えてゆっくり攻略する必要もないし?
本当、このコースが残念過ぎてならないわ。
「おっと……タイミングが悪かったみたいだな。リジー、飛び込み準備」
「‼︎」
唐突にかけられたグランからの声に、私は目にかけていた身体強化の魔法を強くする。
そうすればどうなるかって?身体強化あるあるのように、暗い場所でもハッキリと。それも遠くが見えるようになるのよ。
そうして明瞭になった視界に映ったのは行き止まりの岩壁と、大きくて深そ〜な水溜まり。
それが何を意味するのかを察した私は、思いっきり息を吸ったわ。
ーーバッシャァァァンッ‼︎
勢いよく飛び込んだ水溜り。そう……それは沈没してしまった道。
この《海底洞窟》コースはどういう訳だが……潮の干潮に左右されるかのように、道が沈没してしまったりしなかったりするの。ちなみに沈没するタイミングも、沈没している時間も完全ランダム。
その名の通り海の中にあるダンジョンだから、潮の干潮なんて影響しないというのにね。本当に謎だわぁ……。
でも、ダンジョンではこの世界の常識が通じないーーダンジョンにはダンジョン独自の理が作用しているらしいから、どれだけ不思議でもあり得なくても罷り通るんですって。言い換えれば、考えるだけ無駄ということ。
だから、沈没してしまっていたらアンラッキーだった……と諦めて泳ぐか、水が引くまで待つしかないらしいわ。
これもまた、この《海底洞窟》コースが不人気な理由(※泳げない人がいたら、いつまでも待たなきゃいけないし。泳いで進んだとしても、体力を無駄に消耗するから)なんだとか。そりゃ不人気にもなるわと、改めて納得してしまったわ。
(それにしても……とんでもなく、眩しい、わ……ね……)
顔を顰めた私は、これから進むことになるであろう沈んだ道を観察する。
先ほどまで走っていた洞窟は全体的に薄暗く、岩壁に光源ーーパチパチと燃える篝火が設置されていた。
……え?洞窟内で篝火なんて一酸化炭素中毒にならないのかって?そこはやっぱりダンジョンだから、で大丈夫らしいわ。
…………って。今はそんな話、どうでもいいわね。
今私がいるのは、沈没している道。つまりは水の中。必然的に篝火の火は消えている。となれば視界不良の状態で泳がなきゃいけない……と思うでしょう?
ところがどっこい。岩と岩の隙間から光が漏れていてーー正確には、発光しているらしい鉱石が篝火の代わりの光源となっているから、視界は悪くはない。
いいえ……さっきまでの道よりも遥っっっかに明るいわ。
だって、光る鉱石が覗いているのは、左右の岩壁だけではなく天井と地面もなんですもの。それもキラキラじゃなくてギラギラ。ギラギラじゃなくてギッッラギラだわ。
そう……例えるならばそれは、七色タイプのミラーボール……。
(…………目が、痛い……)
本当、少しぐらい良いところないのかしら??この《海底洞窟》コースは……。
これだから不人気にもなってしまうのよ……。
(リジー、こっち)
心の中に悪態を吐いていたら、先に飛び込んだグランが指先で進行方向を合図してきたわ。
こんなところから一刻も早く離脱したい私はこくんっと頷き、先導するように泳ぎ始めたグランの後を追う。
………って、速っ。ちょっ、すっごくはっっや⁉︎ちょっと、グランさん?貴方、無駄に泳ぐの速くない⁉︎
事前に泳げるのは確認してたけど実際に泳ぐところを見るのは初めてだから、こんなに速いとは思わなかったんだけど⁉︎
こんなところでも身体能力チート発揮してるの⁉︎狡くない⁉︎
慌てて追いつこうとするけれど、慌てた所為で逆に泳ぐのが遅くなってしまう。
ちょ、これじゃあ置いて行かれーー……。
『汝、人魚が如く 取得』
…………あらぁ?
久しぶりに響いた習得アナウンスさんに、私は首を傾げる。
でも、それも仕方ないじゃない?いつもだったらもっと分かりやすいスキル名なのに、今回のは何故か意味が分からない名前だったのよ?
けれど、習得したスキルを確認する前にーーその効果は目に見えるカタチで表れた。
(‼︎)
まるで本能的に理解するかのようにーー急に泳ぐための動き方が分かるようになって、スイスイと泳ぎ進めるようになる。
離されかけていた距離がグングン縮まって、隣に並んだグランが私の方をチラリと見てギョッとした顔をする。
分かる、分かるわ。クロールで泳いでいる訳でもないのに、普通に泳いでるから驚いてるのよね。私自身もよくこんな泳ぎ方で進めてるわね、って思うわ。
でもそれも全て『汝、人魚の如く』ーーその言葉の通りの、人魚みたいに自由自在に泳げるようになるスキルのおかげ。
相変わらずの都合の良いチートっぷりに、スキル習得の判定してるヒト(?)に感謝したくなったわ。
ーーバッシャァァン‼︎
そうこうしている内にアッという間に出口に辿り着いた。
水面から顔を出した私達は陸地へと上がり、座って息を整える。
ある程度落ち着いたところで……隣に座っていたグランが真顔になりながら、私に告げた。
「…………リジーさん」
「なぁに」
「さっきの泳ぎ方、封印した方が、いいと思います」
「…………どうしてよ?」
急な発言に、私は怪訝な顔になったわ。
スキルのおかげで、人様に見せられないような下手な泳ぎ方にはなかっていなかったと思うのだけど。それどころか人魚のように優雅に泳げていた気すらするのだけど。
…………なのに、何が駄目だったのかしら?
首を傾げる私に向かって、グランは険しい顔をする。
そしてーー……。
ーー続いたグランの言葉は……私の予想を遥か斜め上に裏切るような、内容だったわ。
「なんでって……そんなの当然だろっ⁉︎なんだよそのっ……」
「…………その?」
「っ……‼︎無駄にエロい腰振り泳ぎっ‼︎」
「…………………ブハッッッ⁉︎」
噴き出した、今の私は、多分真っ赤。
「クッッソエッッッロかったんですけどっ⁉︎俺、リジーの水着でムラムラしてるって言ったろ⁉︎なんで煽る⁉︎そーいうのは夜、俺の上だけでして⁉︎」
「そーいうグランもっっ‼︎発言のTPOを考えてくれるかしらっ⁉︎」
恥ずかしさのあまり、思わずグランの胸板を殴る。殴って殴って殴り捲る。
本当にっ……信じられない‼︎グラン、馬鹿じゃないの⁉︎
今、不特定多数に対して実況中継中なのよ⁉︎さっきもそう言ったのに、もう忘れちゃったの⁉︎
一応貴方、一国の王子なんだからっ……‼︎婚約者とそーゆーのしてるのは普通じゃないんだからっ……そもそも、他の人にそーいうのを話すのは恥ずかしいことなんだからっ……‼︎
あからさまな〝匂わせ〟をするんじゃないわよっ、馬鹿グランッ‼︎
「あーもー。ダンジョンアタック放り出して、とっととベッドに行きたい……」
「まだ言うかっっ‼︎」
「リジーが誘うのが悪い〜……という訳で。ムラムラして仕方ないから、ちょっとイチャつこうな〜?」
「人の所為にしないで頂戴っっ‼︎馬鹿ぁっ‼︎」
…………流石の私も。これにはRTAのことも実況中継のことも忘れて、暫く殴り続けたわよね。
まぁ、そうやって殴ったところでグランには全然効いてないどころか、逆に抱き締めてきて……キスとかキスとかキスとか、時々際どいところを撫でるとかしてくる始末だったけど。
…………変なところで、時間を無駄にしてしまう私達だったわ。




