第62話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(2)〜
体調不良につき、次からの更新がちょい遅れるかもしれません。
なるべく早めに更新できるよーに頑張りますが、気長にお待ちくださいませ。
とゆー訳で、今後ともよろしくねっ(・∀・)ノ
ーーこの身体に戻ってから、ご飯が美味しくって仕方ない。
いや、まぁ……それも当然かもしれない。
あたしは約10年以上、実体がなくて。何も食べれない・飲めない・触れられない・認識してもらえない・言葉を交わすことが出来ないって状態だったんだから……。
久しぶりのご飯がすっごく美味しく感じてもおかしくない話だと思う。だから、あたしは美味しい物に目がない。
で。なんでこんなことを説明したかというと……。
ーーこの《海底大海原》コースってのが今のあたしにとって、まるで天国みたいに思えるからだったりする。
「疾ッ‼︎」
『カッニッ⁉︎』
蟹って鳴くんだっけ?と首を傾げながら、あたしはスイレン陛下の巨大蟹の解体ショーを見物する。
蟹の関節に刀を入れ、鋏が付いた腕?を落とす。返し刃で複数の脚も落とす。勿論反対側も。
胴体だけになった蟹の殻の隙間に刃を入れ、スパンッと甲羅を吹き飛ばして……硬い部分が少なくなった胴体を何分割かに叩き切った。
解体された蟹は、光の粒に変わる。光が消えるのに代わってその場に残ったのは……ぐつぐつと沸いた薄金色の液体が満ちた鍋と、殻の持ち手が付いた蟹の剥き身。
あたしはガバッとスイレン陛下の方に振り向いた。
「陛下‼︎」
「うむ……蟹のしゃぶしゃぶ、だろう。このお鍋の入っている出汁で蟹を湯掻くんだ。そうすると花が咲く」
「……はながさく?」
「実際にやってみせた方が早いな。ほれ、おいで」
来い来いと手招きされて、近くに寄る。
陛下は「よく見てろ」と言って、蟹の脚を掴むと鍋の液体に身をつける。蟹を左右に揺すると、つけていた部分が花咲くようにぶわりっと膨れ上がる。
ほんのり薄紅色が変わったそれを見たあたしは、じゅるりっと垂れそうになった涎を啜った。
「ほれ、あーん」
「あーんっ」
陛下がちょっと上から蟹をあたしの口に運んで、あたしはそれをパクッと食べる。
ぷりんっとした食感に、出汁?とかいう茹で汁の上品な味と蟹自体の仄かな甘み。
あまりの美味しさに頬が落ちんじゃないかと思ってしまう。あたしは、両手で頬を押さえながら悶えた。
「美味っしい〜っ♡」
「ふむ。鮮度が良いほど、歯応えも良いと聞く。これは良い蟹だな」
陛下もちゅるんっと蟹のしゃぶしゃぶを食べて、満足そうに頷く。
ここまでお刺身、海の幸のペスカトーレ、ぶり大根、焼き魚と……色々食べたけど、どれも美味しい。
ちょっとこのコース、天国過ぎじゃないか?って改めて思ってしまった。割と本気で。
「しかし、このダンジョンアタックとは随分と楽しいモノだな。ウチの領地にも美味い物は沢山集まるが……こんなにも鮮度の良い海鮮は滅多に食べれない。これだけでも参加した甲斐があったというものだ」
ーーピクリッ。
あたしはスイレン陛下が言葉を聞いて、ガバッと顔を向ける。
いきなり振り向いたからか、陛下は「うおっ⁉︎」とビビった顔になる。けど、彼は優しい顔をして……「どうした?」と声をかけてくれた。
「陛下の領地には、美味しい物が集まるんだ?」
「ん?あぁ……学園で地理は習ったか?儂の領地がどこにあるかは分かるか?」
「確か……この大陸の中央に位置するんだったっけ?」
「あぁ、そうだ。そして、この大陸にある国は全て、グランヒルト殿の力業で同盟を結んでいてな。その際にこれまたグランヒルト殿の提案で貿易を行うこととなり……。各国と土地が面している我が領は貿易の中心地として、それぞれの国の様々な物が集まり取り引きを行う地となったのだ」
「…………??」
無学なあたしはよく分からなくて、首を傾げてしまう。
だって仕方ないだろ。学園には入学したばっかりだし。他の貴族さん達は家庭教師とかに教えてもらってたらしいけど、あたしは平民だったから知らないことばっかりなんだ。
それを察してくれたからか、陛下は分かりやすく説明してくれた。
「例えば。土地が接してる隣同士の国が物のやり取りをするなら楽だが……我が領地を挟んだ反対同士の国が貿易するとなるととても大変だろう?物を運ぶ時間がかかるし、運ぶためのお金もかかる」
「うん」
「だが、この大陸の真ん中にある我が領地で取り引きを行えば、どの国も互いに同じくらいの運ぶ時間と運ぶためのお金がかかって平等になる」
「‼︎」
確かに、相手の国に物を運ぶとなったら運ぶ側に沢山金がかかることになる。
それならお互い同じぐらいの距離感かつ貿易できる場所で貿易した方が良いに決まってる。
「そうすると魔王領ばかり色々な物が集まって得をしているのでは?と思われるかもしれないが……先ほども言ったように、魔王領に住む者は殆どが大陸の淀を濾過するための魔王と魔族だ。儂らがいなければこの大陸は人の住めない地になっていた。ゆえに今までの貢献に報いを、という理由で他の国よりもちと優遇されている感じだ」
「……それでも、偉い人達は文句とか言いそうだけどな。どこにでもいるんだろ?強欲張りのクソ貴族」
平民にだって貴族にだって、良い人もいれば悪い奴もいるって分かってるんだけど。偏見でしかないってのも理解してるんだけど。
な〜んか貴族の悪い奴の方がクソッタレな印象を抱くんだよなぁ〜?
金儲け主義っぽそうっていうか……。特権階級主義っぽそうっていうか?
あの子が読んでた本に主人公達の敵役として、そういう悪徳貴族が沢山出てきてたから、そんな風に思うのかもしれない。
そんな偏見からの発言だったけど、スイレン陛下はあたしの言葉に苦笑を零した。
「まぁ、一概には否定できんな。悪人のおらぬ世界などありはしないのだから。だが、グランヒルト殿が表に出てからは悪徳貴族は少なくなったとは思うぞ」
「…………なんで?」
「あの人とその婚約者を敵に回したら、死ぬような目に遭うからだが?」
「…………………………あぁ〜……」
思わず納得してしまった。
王太子で、行動力があって。物理的にも強い。んで、婚約者も強い。そりゃあ敵に回したくないか。あたしも嫌だもん、あの人達を敵にすんの。
それも死ぬんじゃなくて、死にそうな目に遭うってのが一番怖い。
「実際、本心では野心高い者もいるだろうが……グランヒルト殿達は不正を許さぬし、贔屓をしないからな。その目を盗んで悪事を働こうとするには危険が高過ぎるし、実際にやろうものならば容赦なく裁くだろう。そして、当人に見合った仕事を任せ、その仕事の成果に見合った省みしか与えん。結果、貴族として驕らず、偉ぶらず、真面目にやるしかないという訳だ」
「へぇ……凄いんだな、あの人達」
「あぁ、凄いぞ。本当に凄い、ん、だ……が……」
急に喋り方がカタカタになった陛下。
あたしはどうしたんだ?と、首を傾げた。
「……陛下?」
「…………その分だけ、2人が関わると事態が大事になったり。なんかよく分かんないイベントなどもやらかすからな……」
「やらかす」
「それに周りも巻き込まれて引っ掻き回されて、時と場合によってはとんでもないことになるから……グランヒルト殿達と関わるのは、とっても疲れるんだ……」
「………………」
スンッ。と遠い目をしながら告げるスイレン陛下に、あたしは何も言えなかった。
いや、実際にソレを見ちゃってるからさ。あの強制サバイバル合宿で。いろんな人が巻き込まれてただろ、アレ。
で……多分、昔から付き合うがあるらしい陛下は、それを誰よりも体験してきたってことで……。
なんだかんだで、(あたしも含め)今回のダンジョンアタックも巻き込まれてるし。
…………あぁ、うん。そりゃあ、遠い目にもなるわ。
あたしはなんとも言えない気持ちになりながら、陛下を励ました。
「えーっと……どんまい……?」
「……ふふっ」
「(笑い方、こっわ)」
「…………いい、忠告をしてやろう。リリィ嬢」
「…………」
にっこりと、死んだ魚のような目で笑うスイレン陛下に。
何故だろう。嫌な予感を、感じたんだ。
「長年の勘が告げている。多分、お主も今後巻き込まれる側になるぞ」
ーーピシリッ。
悪魔の予言のような言葉に思わず固まる。
そのまま数秒固まったあたしは目を彷徨わせた後……誤魔化すような空笑いをした。
「…………あははっ、まっさかぁ〜」
「(にっこり)」
「えっ。本当に??」
「本当だ。嘘はつかん」
真顔で告げられたあたしは、思いっきり頬が引き攣った。
だってさ……魔王様が萎えるぐらいあの2人に巻き込まれるのって、大変なんだろう?
それにあたしも、今後巻き込まれるってなったら……。
エッ。絶対碌でもないし、面倒くさいじゃないか。すっごい嫌なんだが。
あたしは一縷の望みをかけて、陛下に聞く。
「…………それって、巻き込まれないようにすーー」
「無理」
「…………」
「絶対、無理だ」
「………………」
「諦めろ」
食い気味で断言されて、あたし達は今度こそ無言になる。
どうしてだろう。あたし達、最初はただ美味い物の話をしてたはずなのに。
なんでここまで話が脱線して、こんな葬式みたいな雰囲気になる羽目になったんだ……?
…………アッ。あたしが原因か⁉︎脱線したの、あたしが悪徳貴族の話したからだし‼︎
うっわっ……ただの自業自得じゃないかっ‼︎
とまぁ、こんな感じで。
自爆したことに頭を抱えつつ……あたしは、これから起こるであろう色々を思い、憂鬱な気持ちになるのだった。
リリィもスイレンも、リジー達に巻き込まれたら疲れることになると分かっているので。
マジか〜……(げしょ)と、お通夜ムードになるであった(笑)
後に2人は巻き込まれ率第2位になる。
………え?1位?
そんなのマッキーに決まってるじゃないですか(笑)




