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第61話 第1回ダンジョンアタック〜マリカ&セーゲル(2)〜


今後とも〜よろしくねっ(・∀・)ノ


 





 ダンジョンアタック開始時の作戦会議で、セーゲルから聞いていたわ。

 このコースに出てくる敵は全て人魚で、種類は大まかに分けて4つだと。

 剣や槍を持った胸当てをしている兵士タイプ。見た目の通り、武器を使って攻撃してくるんですって。

 ローブを羽織っているのが魔法士タイプ。水魔法と回復魔法を使うみたい。

 手首の飾りや髪飾り、尾飾りなどで着飾っているのが歌姫タイプ。分かりやすく言うならば、支援役バッファーだとか。

 そして……ティアラをつけている王女達と豪奢な王冠とマントを纏っている女王の、王族タイプ(群れ型中ボス)。他のタイプを全て合わせた冒険者パーティーのような感じになるらしいわ。

 それらは全て〝雌型〟であり……。雌型であるからこそ、人魚達は男を惑わせ、女に激しい攻撃を仕掛けてくる。人魚という魔物固有の性質。

 だからね?分かっていたのよ。

 セーゲルが人魚に誘惑されることになるのは。

 それでもね?あたくしは、どうしてだか苛つかずにはいられなかったわ。


 …………目の前の光景に、ね。




『〜〜〜♪』

『〜〜〜♡』

「失せろっ‼︎」


 セーゲルが怒鳴りながら、付き纏おうとする人魚達を斬り捨てる。

 普通だったら斬られた場所から血が噴き出してグロテスクな状況に陥るけれど、ここはダンジョン。現実でありながら、ダンジョン特有のことわりが敷かれた小さな異世界。

 人魚達の身体は断たれた箇所から光の粒へと変わり、コロンッとその場にドロップアイテムを残して消え去る。

 だというのに、美しい人魚達はセーゲルに向けて恍惚とした表情を浮かべながら手を伸ばし……あたくしには敵意に満ちた威嚇を、攻撃を向けてくる。

 あたくしはそれらの攻撃をいなし、反撃しながら指先を右から左へと動かす。

 こちらを見ていた訳ではないのに嫌な予感を感じたらしいセーゲルがバッ‼︎と勢いよくしゃがみ込んだ。その瞬間ーーあたくしは彼の周りにいた人魚達に向かって、《境界》を発動する。


「《境界線上の断罪》‼︎」

『ギャァッ⁉︎』


 ーーパキィンッ‼︎

 あたくしが指定した《境界》に断たれて、人魚達の身体が真っ二つになる。

 セーゲルはしゃがみ込んだまま……顔面蒼白であたくしの方を振り向いたわ。


「マ、マリカ……?」

「あら。何かしら?」

「あ、あの……今の……下手をしたら……お、俺も巻き込まれてたんだが……」

「うふふふふっ。…………()()()?」

「…………(冷や汗)」

「魔物に囲まれて大変そうだったから助けて差し上げたのよ?だというのに、何か文句でもあるのかしら??」


 にっこりと笑いながらそう問うと、セーゲルは「文句、アリマセン……」とカタコトで返事を返してきたわ。

 そんなに顔面蒼白にならなくてもいいのに。実際に《境界》が発動するには1秒ほどのタイムラグがあるのだから、Sランク冒険者(セーゲル)なら、避けるのに充分な時間でしょう?

 だから、貴方が敵と近くにいたというのにあたくしが《境界》を発動したのは信頼からなのよ。

 えぇ、決して。決して、セーゲルが女(※人魚)に囲まれてて苛ついたからじゃないのよ。えぇ……決して、ね?


「それじゃあ攻略を再開しましょうか」

「…………ハイ……」


 あたくしはセーゲルより前に出て、神殿内を進む。

 外観はそんなに大きくなかったのに、中は迷路のようになっていて……無駄に時間を喰う。それに余計に苛ついて、あたくしはそこでハッとしたわ。

 はぁ……駄目ね。この程度で苛つくなんて。冷静にならなくてはね。

 今、あたくし達はダンジョン攻略中。いつどこで敵が襲ってくるか分からない、危険な場所にいるのだから……きちんと戦闘出来るように気を張らなくては。

 だって……あたくしには魔王と一対一で戦えるほどの実力があるけれど……あたくしの持つ《境界》という力は別に万能ではないのよ。


 1、あたくしが精神的に落ち着いていること。

 2、《境界》の力は、あたくしの目に入る範囲内でしか発動しない。

 3、《境界》は連発することが出来ない。少なくとも5分ほどの待機時間リキャストタイムが必要になる。


 この3つの条件を満たして、初めて《境界》という能力は機能する。

 だから、えぇ。どれだけ苛ついていても、落ち着かなくてはいけないわ。

 この程度のダンジョンで《境界の魔女姫》の渾名されるあたくしが、無様な姿を見せる訳にはいきませんもの。


「…………マリカ」

「…………何かしら」


 そんな風に気持ちを切り替えたところで、後ろから恐る恐る声をかけられたわ。

 あたくしは前を向いたまま、言葉の続きを待つ。

 見なくても分かる、どこか躊躇ためらった雰囲気。セーゲルが「その、だな……」と小さく呟いたかと思えば、思いっきり爆弾を撃ち込んできたわ。


「もしかしなくても…………嫉妬、か?」

「…………へ?」


 ーーピタリッ。

 思わず足が止まるあたくしの隣で止まったセーゲルが、喜色満面の笑みを浮かべながら顔を覗き込んでくる。

 そして彼は、嬉しそうに質問してきた。


「だから……先ほど、人魚に囲まれた俺を見て苛ついていただろう。だから、嫉妬かと……聞いている」


 ……。

 …………。

 ………………しっと……シット……嫉妬……。

 その言葉を認識した瞬間ーーあたくしの顔が一気に熱くなる。

 あたくし自身が見ようとしなかった。目を背けようとした事実を真正面からぶつけられて。

 それから逃れることが出来なかったあたくしは、それを認める他なくて。

 恥ずかしさのあまり、思いっきりその場で後ずったわ。


「顔、真っ赤だな」

「‼︎‼︎」


 頬に伸ばされた大きな手の温もりに、あたくしの顔は余計に熱くなる。

 止めて欲しくて、でも触れて欲しくて。

 震えるあたくしに、セーゲルは残酷にも突きつけた。


「逃げるな。マリカの反応は紛れもなく、嫉妬だったぞ」


 断言されてしまったら、嘘でもそれを否定出来なくなったわ。

 だって、その目が語っているんだもの。嘘だと言っても信じないと、ね。

 あたくしはそんなに分かりやすい女なのかしら……?

 ……いいえ、多分違うわね。分かりやすい女だったなら、〝彼〟だって気づいてくれていたかもしれないもの。

 きっと〝彼〟と離れた後から、分かりやすくなったんだわ。…………或いは、特定の人関連限定かもしれないけれど。

 兎にも角にも。あたくしは先ほど苛ついた理由を……認めざるを得なかった。



 ーーあの苛つきは、嫉妬だと。



「っっっ〜〜〜‼︎えぇ……えぇっ、そう。そうよ‼︎あたくしには、そんな資格がないというのにっ……だというのにあたくしっ、嫉妬していたのよっ‼︎この馬鹿っ‼︎」


 だって、仕方ないじゃないの。

 貴方はあんなにもあたくしに愛の言葉を向けてきて。付き纏ってきて。好きだという気持ちを隠さずに接してくるんだもの。

 そんなの、気にせずにはいられなくなるじゃない?

 意識せずにはいられないじゃない?

 そんな貴方に。あたくし以外の女(魔物だけれどっ)が纏わりついていたら……苛ついてしまうのは、仕方ないじゃないっ……!

 でも、それは狡いことだと分かっていたから‼︎だからあたくしは、目を背けて認めようとしなかった‼︎

 あたくしはまだ、貴方の気持ちに応えられるほどの想いを……貴方に抱けていないんだもの‼︎

 まだ、〝彼〟のことが心の何処かで気にかかっているんだもの‼︎

 そんな不誠実なあたくしが、嫉妬なんて……していいはずがないじゃない……。だからあたくしは、認めようとしなかったのに……。


 なんで貴方が……あたくしにそれを認めさせてしまうの……?


 自分に好意を向けている人が(今回は魔物だったけれど)他の女に粉をかけられていたから気に食わないなんて……。

 あぁ……なんて、自分勝手な考え方。そんな風に思う権利、あたくしにはないのに。

 なのに、どうしてこんなにも自分本位なのかしら?

 自己嫌悪でおかしくなりそうだわ。

 でも、セーゲルは……それでも優しい言葉をあたくしにかけた。


「マリカ。大丈夫だ、分かっている」

「…………何がよ」

「まだ君が……君がずっと好きだったヒトのことを、気にかけているのに、だ」

「‼︎‼︎」

「マリカは俺よりも永生きなんだろう?その分だけの恋心だ。そう簡単に捨てられる気持ちではないと、馬鹿な俺にだって分かる」

「…………あたくし、は……」

「だが、それでも俺のことも少しずつ気にしてくれてるこも分かっている。けれど、だからこそ……誠実な君は俺のことを縛りつけてはならないと思っているんだろう?他の男への気持ちを残しておきながら、俺にも……なんて不誠実だからと。してはいけないことだからと。だから、資格がないって言うんだろう?」


 …………本当。なんでそんなに正確にあたくしの気持ちを見抜くのかしら?


「だがな……」

「……何よ」

「それでも俺は……マリカ。君が好きだっ‼︎今も変わらず結婚したいっっ‼︎」

「…………ふぁっ⁉︎⁉︎」


 唐突な告白プロポーズに、あたくしは俯きかけてきた顔を上げる。

 目の前には興奮したように頬を赤らめたセーゲルの姿。彼は獣のように目をギラギラさせながら、大声で告げた。


「君はまだ他の男が好きなのに俺のことが気になるなんて不誠実いけないことだと思っているようだが‼︎俺としては俺のことを意識し始めてもらえたことに感動している‼︎‼︎」

「か、感動ぉ⁉︎」

「だって、数100年モノの恋心に勝ちそうになってきているんだぞ⁉︎逆に俺の愛がマリカに伝わっていると証明され始めているようなモンだろうがっ‼︎」

「っ‼︎‼︎」

「だから安心しろ。今はまだ、俺に応えるのは無理だと思っているかもしれないが。俺はその程度で諦めるほど、中途半端な気持ちで結婚したいと言っている訳ではない。いつまでだって、待ってられる」

「セーゲル……」


 どうしてかしら?鼻の奥がツンッとするわ。

 前の恋は叶わなかったからかしら?これだけ想われるなんて……まるで奇跡みたいに思えて。

 …………なんだか、泣いてしまいそうだわ。


「だが、俺は待ってるだけのつもりはない。俺は必ず、君を振り向かせるぞ。そのための努力は、今後も惜しまない。だから……マリカ。いつの日か結婚してくれ」


 そう言ってセーゲルはあたくしの手を取り、手の甲に口づけを落とす。「誓いのキス代わりだ」なんて言いながら。

 もう……なんなの?なんでそんなに、良い男なのよ。貴方。

 この胸に満ちる気持ち。温かな想い。

 あぁ……きっと。あたくしがセーゲルに応える日は、そんなに遠くない。


「……………セーゲル」

「なんだ?」

「…………こんなにあたくしのことを想ってくれて……ありがとう」

「マリカ……」

「きっとあたくし……いつの日か貴方のことを好ーー『キシャァァァァァアッッッ‼︎』


 ーーシィィィィン……。

 あたくしとセーゲルは思わず黙り込む。

 ギチギチと壊れた人形のような緩慢な動きで、首を動かす。


「「…………」」


 そこにいたのは……まぁ予想通りだったわ。

 槍を持った兵士タイプの人魚と、魔法士タイプの人魚。

 えぇ、ダンジョン内で油断してたあたくし達が悪いんでしょうけど。

 でも、雰囲気に流されて、なんとか今の気持ちを伝えられそうになったのに。それを遮られて、折角の良い雰囲気を台無しにされたんだから……。



 ーーキレずには、いられないわよね??



「空気読みなさいよ、この阿呆人魚どもっ……‼︎」

「…………コロスゥゥ……‼︎」

『ギャイッ⁉︎』


 あたくし達は殺意マシマシで武器を構える。

 ちょっと困惑しているようだけど、許しはしないわよ。



 良いところを邪魔されてキレたあたくし達は、怒りに任せて魔物へと飛びかかったわ。








不器用マリカ&むっつりセーゲルVS良い空気クラッシャーという名のお邪魔虫達……。

ファイッ‼︎( *`ω´)


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