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第60話 第1回ダンジョンアタック〜フリージア&グランヒルト(1)〜

 






 転移した(正確にはダンジョンの入り口に転移して、ダンジョンに更に転移(コース分け)された)先ーーそこは、ゴツゴツとした薄暗い洞窟の最端でした。


 …………ガッテム‼︎




「うわぁぁぁあ‼︎畜生、外れだ‼︎《海底大海原》コースが良かったのに‼︎」


 篝火で照らされたスタート地点で、隣に立っていたグランが大きな声で嘆く。でも、私も同じ気持ちだったわ。

 だって……。


「食べたかった海の幸‼︎」


 《海底大海原》コースに出てくる魔物(海鮮物)を倒すと、海の幸が手に入るらしいんだもの☆

 私は頬に手を添えて、溜息を零した。


「………はぁ。ショックだわぁ〜……。今日は帆立のバター焼きの気分だったのに」

「俺はあじのなめろう。スイレンさん組とマリカ嬢組、どっちが当たったんだろうな」

「さぁ?どちらにせよ、私達が外れなのは確実だわ」


 実は言うと……このダンジョンは初挑戦ではあるけれど、ダンジョンの情報自体はギルドで入手済みなの。

 だから、《海底大海原》コースに当たらないかしら?とグランと一緒にウキウキしていたのに……まさか。まさか‼︎

 半魚人サハギン系の敵が出てくる《海底洞窟》コースなんて‼︎つまらないにもほどがあるわ‼︎

 という訳で……ちょっとでも楽しく闘うために。私はグランに提案をすることにした。


「グランさん、グランさん」

「………なんだい、リジーさん」

「縛りプレイ、しましょ?」

「縛り……プレイ」

「えぇ、そう」


 ブスッとしていたグランの表情が、少し晴れる。

 私はにっこりと笑ってから、顎に人差し指を添えて……縛りプレイの内容を考えた。


「そうね……。まず共通の禁止事項として探索・索敵魔法は禁止」

「妥当だな」

「私は身体強化以外の魔法は禁止で……。グランは身体強化禁止と武器の使用禁止、とかでどうかしら?」

「よし、乗ったぁ‼︎」

「うふふっ、そうこなくっちゃ‼︎だって楽しい楽しいダンジョンアタックの時間よ?思いっきり暴れなくてはね?」

「あははっ。そりゃそうだ」


 ぺろりっと舌舐めずりするグランは興奮を隠せていない。

 でも、私も同じ。今の私はきっと、とっても獰猛な笑みを浮かべていると思う。

 だって、仕方ないわ。私達は戦闘狂バトルジャンキー

 闘えるとなれば結局、楽しまずにはいられないのだから。


「グラン。私が使う武器を選んで?」

「そうだなぁ。あんまり大き過ぎる得物は洞窟と相性悪いから……うん。短刀ナイフにしとけ」

「分かったわ」


 グランが亜空間から黒と白の対になったナイフを取り出して渡してくる。

 刃に刻まれた花の紋様。柄は握り易いように加工されていて、とても扱い易い。

 私はくるりっとナイフを手の中で回して、使い心地を確かめた。


「良いナイフね。どこで手に入れたの?」

「…………一人コソコソ潜ってたダンジョン」


 ⁉︎⁉︎

 それを聞いた私はグランの腕を掴んで、グイグイと揺らす。

 ペシペシッと彼の胸を叩きながら、私は抗議したわ。


「ちょっと‼︎一人でダンジョンに潜ってたなんて狡いわよ⁉︎」

「……いや……確かにリジーに隠れて潜ってたのは悪いけどな?でも、初めて挑戦した時にそのナイフの白い方が出て。花柄なんてリジーにピッタリだなって思って鑑定したら、対の片方で。そしたらちゃんと対で渡さなきゃと思うじゃん。となれば、手に入れるまで潜るしかねぇじゃん。なんだかんだで渡し忘れてたけど」

「むぅぅ‼︎」

「リジーだって1人でこそこそダンジョン攻略してる時あんだから、お相子だろ?」


 ジトッとした目で見られて、私は口元を手で隠す。

 あら、嫌だわ。いつの間にバレてたのかしら?

 基本的に単独行動をしない私達だけれど、それでも1人の時間がない訳ではない。そうなれば、隙間時間にダンジョンアタックするのは……当然じゃない?

 という訳で、私は笑顔で誤魔化すことにした。


「まぁそうね。こんな素敵な贈り物をくれたんだもの。素晴らしいナイフに免じて、お相子にしてあげる」

「随分とまぁ上から目線だが、取り敢えずどうも?」


 グランは苦笑しながら、軽くストレッチを始める。それを見た私も同じようにストレッチを行う。

 だって、これから激しく動くもの。身体が温まってなかったからなんてちっぽけな理由で怪我をしたら、つまらないわ。


「リジー」


 声をかけられて、私は笑う。

 えぇ、分かってるわ。もう限界なのね。


「グラン」


 勿論それは、私も同じ。興奮ウズウズが、最高潮まで達してしまっている。

 あぁ、本当に駄目ね。戦闘、になると我慢が効かないわ。

 私達は前ーー魔物達が待ち受けるであろう洞窟の先を見据えて、ニヤリと笑った。


「「Are you ready?」」


 グランが魔法を発動させて、浮遊する発光球体を生み出す。フヨフヨと浮かぶそれは、薄暗い洞窟を照らすけれど……完璧に、遠くまでを見通せるようになった訳じゃない。つまり、急な接敵もあり得ると言うこと。

 うふふふっ、余計に楽しくなってきたわ。

 グランは光を先導させるように出発させる。

 そして私達はーー。


「「Go‼︎」」



 同じ言葉を発したタイミングで、走り出していた。



「あはははっ‼︎」

「うふふっ‼︎」


 光を追うように走り出して数十秒、早速接敵する。

 薄闇からぬるっと現れたように感じた敵は……魚の頭に人の身体。全身を青緑色の鱗で覆われた半魚人サハギンが二匹。


『ギョギョ⁉︎』

『ギョエッ⁉︎』


 私達が足を止めないことに驚いたような声をあげるサハギンを嘲笑って、片方をグランが拳で撃ち抜く。私はナイフで首辺りを斬りつける。

 そうすればサハギンはあっという間に光の粒へと変わり果てて……ドロップアイテムへと様変わり。

 だけど、私達はそれを拾うことすらせずに走り続けた。

 だってね?


「そういやさ〜。RTAで行くつもりだけど、大丈夫か?」

「えぇ。私もそのつもりだったから、大丈夫よ」

「だよなー‼︎それぐらいしないとつまらないモンな‼︎」


 RTAーー今日はどれだけ早くダンジョンをクリア出来るかを優先するつもりなんだもの。ドロップアイテムを拾ってる手間が無駄だわ。


「リジー」

「どうぞ」


 ーーパァァァァァァァァァンッッ‼︎

 私が耳を塞ぐのと同時に、グランは両手を叩き合わせる。これはサバイバル合宿でもやった音の反響で環境を把握するヤツね。

 今回禁止しているのは魔法だから、反響による探索はセーフだわ。


「この先、3つに道が分かれてるが……左は普通に行き止まり。真ん中と右は、洞窟自体が沈没しているらしい。他に道はないみたいだし、どっちか選んで実際に潜って進んでみるしかないな」


 足を止めぬまま、接近したサハギンを蹴り倒したグランの言葉に私は頷く。

 水の中では音は届かないものね。どちらが正しいか分からないなら、運に任せるしかないわ。


「グランはどちらに進みたいの?」

「うーん……俺的には真ん中?」


 槍持ちサハギンからの刺突攻撃をナイフで防御パリィしながらグランに質問すれば、そんな返事が返ってくる。

 空いた懐にもう片方のナイフを飛ばせば深々と突き刺さり、『ギョエェェ……』と断末魔をあげながら魔物の身体が光に変わる。

 私はナイフが地面に落ちてしまう前に拾って、走り続けながらそれに答えた。


「なら、それで行きましょう」

「ん?良いのか?」

「グランの野生の勘は優秀だもの。信頼してるわ」

「……………俺じゃなくて勘を信頼してんのかよ⁉︎」


 鱗塗れの足に足を引っ掛け、バランスを崩した剣持ちサハギンにラリアットをかましたグランは思いっきり叫ぶ。

 私はクスクスと笑いながら、グランがラリアットをかましたサハギンの顔面にナイフを突き立てた。


「勿論グラン自身も信頼してるわよ‼︎じゃなきゃここまで一緒にいないし、一緒に馬鹿やったりしないわ」

「…………」

「グラン?」

「もうさー⁉︎急にデレるの止めてくんね⁉︎ただでさえ水着リジーでムラムラしてんのに、そんなこと言われたらヤりたくなるじゃん‼︎RTA最中じゃなきゃ襲ってるぞっ⁉︎」

「ちょっと⁉︎本当に襲わないで頂戴ね⁉︎今、国中に実況中継されてるんだからね⁉︎」

「分かってるって‼︎早く終わらせてイチャイチャしようぜっ‼︎」


 と言って、更に走る速度を増すグラン。

 ちょっと⁉︎身体強化魔法使ってないはずなのに、なんでそんなに早いのよ‼︎


「もうっ……ムッツリエロエログラン‼︎」



 私はそう照れ隠しで罵倒しながら、先走るグランの後を追ったわ。






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