第57話 第1回ダンジョンアタックの裏側〜実況側にて、ひと騒動ありました。〜
ファイ目線〜。
不定期のんびり更新にお付き合いくださって、ありがとうございます!
今後とも〜マイペース更新ですが、よろしくどうぞっ☆
おとーさん達がダンジョンアタックをするに当たって、アクアが仲間になった。
いつも偉そーだったコイツが弟とか……いい気味だぜ‼︎
でも、おとーさん達に早速頼りにされてて狡い。
オレらの姿は普段、子供だけど……属性竜に変わりないんだから色々とできるのに。
でも、甘やかされなくなっちゃったらソレはソレで嫌だから……うーん、悩みどころだなぁ。
多分、おとーさん達はオレらが子供姿だから甘やかしてるクサイから。
まぁ、とにかく。
今回はオレらにもお仕事を与えられたから、良しとしよー。
いつも遊んでくれるスゥーねぇちゃんと一緒だし。絶対、楽しい仕事になる気がする‼︎
……。
……………。
…………………あれ?スゥーねぇちゃん、来なくね?
「スゥーおねーちゃんいないねぇ〜?」
「どこにいらっしゃるのかしら?」
オレとアース、ライトは三人で手を繋いでアクス王国の城を歩く。
中継がやりやすいよーに、城の一室を借りてやる予定だったんだけど……いつまで経ってもスゥーねぇちゃんが来ねえから探してるんだ。
早くしないとおとーさん達のダンジョンアタックが始まっちゃう‼︎
時間とか破ったことないねぇちゃんが来ないってことは、何かあったってことだと思うし。早くしなくちゃ‼︎
「クンクン……こっち‼︎」
オレはスゥーねぇちゃんの匂いがする方に2人を引っ張っていく。
背後で「なんで匂いで分かるの……」と呟いてたから、「ねぇちゃん、凄い良い匂いするじゃん。それで分かっただけだよ‼︎」って答えたら、「貴方ほどお姉様と遊んでませんわよ‼︎」とツッコミ入れられた。
…………あ、確かに。暇してる時にオレ1人で突撃して遊んでもらってたな。てへっ☆
「ん‼︎あとちょっと‼︎」
オレらはテケテケと小走りして、城の外回廊に向かう。
そのど真ん中には探していたスゥーねぇちゃんと……結構な頻度で城に来てるのに、初めて見たすっげーひょろっひょろした金髪の男がいて。
…………なんか、めっちゃ喧嘩していた。
「いい加減にしなさい‼︎わたくしはこの国の王女です‼︎公爵令息でしかない貴方がわたくしに意見するとは何事ですか‼︎」
「わたしは貴女の夫として言っているのですよ、スゥー王女‼︎」
「もうわたくしの夫のつもりですか⁉︎たかが婚約者候補風情で‼︎」
…………おぉう?
オレらは顔を見合わせて、首を傾げる。なんか、絶賛修羅場中?
んー?
「かげさーん。何起きてんの?」
オレは天井の方を向いて声をかける。
すると、天井からオレらにしか聞こえないぐらい小さな声が聞こえてきた。
『…………いや、まぁ。確かに影ですけど。普通、影に聞きます?』
姿は見えないけど、呆れてる気配がする。
まぁ……ねぇちゃんの影は、隠れて護衛するからお喋りしちゃいけないんだろーけど。
でも、それは人間達の話で、オレらは属性竜だから関係ないと思う。
「で?アイツ、何?」
『……あの男はスゥー王女の婚約者候補である公爵家の次男です』
「婚約者じゃなくて、候補なの〜?」
アースが不思議そうに呟くと、影さんは溜息を零す。
『この国の王位を継承するのはスゥー王女です。ですが、奴は身の程を弁えていないのですよ』
「回りくどい。簡潔に言って‼︎」
『……王になるのはスゥー王女であるのに、自分が王だと勘違いしてーー』
「…………もっと分かりやすく‼︎」
『…………中継を行う王女が自分より目立つのが嫌なので、邪魔してます』
……ほほーう。
急に中継なんてしたら驚いちゃうからってアクス王国の国民達には事前通達してたって言ってたもんね。その時についでに、スゥーねぇちゃんが実況やることも伝えてたとか。
それで、ねぇちゃんがめっちゃ目立つことになるから……婚約者候補のアイツが、それを邪魔してると。
「なんて器の小さい男なのかしら。それも身分が上の方に対する振る舞いがなってませんわ」
ライトが極寒零度の視線を男に向けながら、冷たい声で言い放つ。
まぁ、そーだよなぁ。オレらには身分は関係ない(2度目‼︎)し、本人から敬わなくて良いよって言われてるからスゥーねぇちゃんって呼んでるけど……他の人間達は違うんでしょ?
なんであんな振る舞いが許されてんのかなぁ?
「あんなの、婚約者候補から外せばいーのに‼︎」
『……本当は他の婚約者候補もいたんですが、あの男の公爵家からの圧力で、他の令嬢と婚約を結んでしまいまして。ついでに言うと、外交を担ってる家なので、他国との婚約も邪魔されてまして……』
「えぇ〜……なら、一族諸共消しちゃえば〜?」
『……………頭おかしいの、今代とあの男だけで他はマトモなんですよね……後、仕事ができるし』
成る程、成る程。
本当は消しちゃいたいのに、無駄に仕事ができるから困りもんってことか。
…………。
……………うん。まぁ、いいや。
「スゥーねぇちゃーんっ‼︎」
「「えっ⁉︎」」
オレはアース達から手を離して、ねぇちゃんに駆け寄る。
そして、勢いよく彼女が纏っていた青色のドレスに抱き着くと……にぱっと笑って、顔を上げた。
「⁉︎ファイ⁉︎」
「遅いから、迎え来ちゃった‼︎」
「あぁ、ごめんなさいね……」
ねぇちゃんは困った顔をして、オレの頭を撫でる。
実は、優しい手付きで撫でられるの、かなり気に入ってたりする。
ふにゃりと笑うとねぇちゃんも笑ってくれる。
オレは向かいの男を無視して、話しかけ続けた。
「ねぇちゃん、行こ?もう時間だよ」
「え?あ、あぁ……そうね。行きましょう」
ねぇちゃんはオレが敢えて空気を読めないフリして言っているって分かってくれたみたい。
そのまま手を引いて、来た道を戻ろうとする。
だけど、男は大声で「待て‼︎」と叫ぶと、勢いよくねぇちゃんの腕を掴み上げた。
「っ‼︎」
「話は終わっていませんよ、スゥー王女‼︎」
ひょろっちょろい身体のどこに力があるのか。
ねぇちゃんは掴まれた腕を振り離そうとするが、上手くいかないみたい。オレはそんな男の腕を思いっきり叩いて、スゥーねぇちゃんから離した。
「痛いっ‼︎」
「何が痛いだ‼︎先に手ぇ、掴んだのそっちだろ‼︎」
「黙れ‼︎どこのガキだか知らないが……わたしを誰だと思っている‼︎この国の王となるのだぞ‼︎」
…………あ?
「妻は夫のモノなのだから、言うことを聞かなくてはいけない‼︎ゆえに、王女はーー」
ーーーーぷっち〜〜んっ。
「「あっ、キレた」」
ほうほう……ほうほうほうほう。
いやぁね。ガキとか言われた時点で結構ムカついてたけど、スゥーねぇちゃんを所有物扱いは駄目じゃない?
というかね?ねぇちゃんを自分のモノみたいに言うの……スッゲェ腹立つ。
うんうん、こりゃあ婚約者候補で止まる訳だ。
取り敢えず……。
キレようっと。
「黙れ、人間」
「⁉︎⁉︎」
ーーゴゥッ……‼︎
オレは炎を纏い、身体を変化させる。
今の今まで子供姿で損はなかったし、父と母に可愛がってもらえていたから特にこの姿になる必要はなかったが……。
子供姿ではコイツに話が通じなさそうだからな。仕方ないことだ。
「…………え……?」
オレを見上げるスゥーの顔は驚愕で染まっていた。
まぁ、驚くだろうな。自分で言うのもなんだが……大人姿のオレは、かなり屈強な見た目をしているのだから。
「なっ……なんなんだっ、お前っ……⁉︎」
男はビクビクと震えながら、そう問う。
しかし、オレはそれを無視してガシッとその男の頭を掴み持ち上げた。
「っ……⁉︎」
足が地につかなくなり、男は足をプラプラさせて硬直する。
父達の元いた世界風に言うならば、蛇に睨まれた蛙……というヤツか。オレはニヤリと笑って、やっと先ほどの質問に答えてやった。
「オレの名前はファイヤードラゴン。属性竜というヤツだ」
「っっ⁉︎⁉︎」
「スゥーはオレのお気に入りだ。そんな彼女の婚約者候補が貴様など……気に喰わん」
……ふむ。やはり、考えれば考えるほど苛立つな。
こんな碌でもない男がスゥーの伴侶になる?
そんなこと、許せるモノか。許せるはずがない。
「…………貴様はスゥーに相応しくない。ゆえに、彼女に近づくな」
「そ、そんなことっーー」
「もしまた、スゥーに近づいてみろ。…………塵すらも残さずに燃やすぞ」
「あひっぃっ⁉︎⁉︎」
ーーゴゥッ‼︎‼︎
つい気が荒ぶって漏れ出てしまった炎が男の頭を包み込み、金髪が一瞬で燃え尽きる。
その結果出来上がるのは……毛一本すら残らぬ坊主頭。
……………あっ。やらかした……。
「ヒィィィィィィィィィィィィ⁉︎⁉︎⁉︎」
焦ったオレは思わず手を離してしまう。ドシンッと床に尻餅ついた男は涙目になりながら、その場から逃げ出していく。
残されたのは冷や汗を流しながら黙り込むオレと、呆然とするスゥー。更にその背後で笑うアース達。
…………偶然の産物とは言え、自分がやってしまったことにオレは思わず眉間のシワを揉んでしまった。
「…………いかんな……久しかたにこの姿になったからか、つい加減を間違えてしまった……」
ヒョォォォォ……。
なんとも言えぬ空気が流れ、外回廊に沈黙が満ちる。
しかしーーそんな空気をブチ破るように、アースとライトが笑い出した。
「ぶふっ……‼︎うけるぅ〜‼︎ファイがミスってるぅ〜」
「うふふふっ……‼︎でも、いい気味ですわ‼︎今時、男尊女卑の考えなど時代遅れですもの‼︎」
アースとライトはオレの側に駆け寄ってきて「よくやった‼︎」と励ましてくれるが、オレはそれに苦笑を返すしかできない。
……意図せぬ結果があぁなったから、何も言えないんだ。
「………えっと……ファイ、なのかしら?」
恐る恐るといった様子で質問してきたスゥーに、オレはハッとして視線を向ける。
彼女の顔に浮かんでいるのは驚愕。……決して、嫌悪や恐怖ではない。
その事実に、安堵が溢れる。
「あぁ、そうだ。驚かせてすまない」
「…………いいえ。グランヒルト様とフリージア様にいつも驚かされているんだもの。今更、ファイが大人になったくらいで、驚かないわ」
「…………本当に?」
「……ごめんなさい、嘘ついたわ。驚いてはいるけれど、どちらかと言えばアイツの頭が禿げたことの衝撃が強……強、すぎ……ププッ」
スゥーは両手で顔を覆って肩をぷるぷると震わせる。
……うん、笑ってるな。
どうやらオレのことは、問題ないらしい。
「すまん、スゥー。勝手ながら、出しゃばった」
「ふふっ……大丈夫よ。わたくしはこの国の王女。向こうは公爵家の者であれど、爵位を持たぬ令息。だと言うのに、彼は身分を弁えずに王女に不敬を働いた。元々、排除する予定で……先代から最後の機会をくれと言われた執行猶予期間だったの。逆に、貴方のおかげで早く終わって助かったぐらいだわ」
「そうなのか?」
「えぇ。だから、謝るのはこちらね。ごめんなさい、貴方の手を煩わせてしまったわ」
ーーにっこり。
そう言ったスゥーの笑みは、まさに女王としての相応しいモノで。オレは思わず、笑ってしまった。
「いい。アイツがお前の伴侶になるなんて、腑が煮えくり返りそうになる。阻止できて、良かった」
「…………」
「……スゥー?」
「……い、いいえ。なんでもないわ」
何故かじんわりと頬を赤くしたスゥーは、パタパタと手で顔を仰ぐ。
首を傾げてそんな彼女を見つめていたが……ニマニマと笑うアース達に「時間、だいじょーぶ?」と声をかけられて、オレはハッとした。
「いかん‼︎スゥー、急ぐぞ‼︎父達のダンジョンアタックが始まってしまう‼︎」
「え、えぇ‼︎」
「ファイ‼︎おねぇちゃん、ドレスで走れないだろうから抱っこして‼︎」
「えっ⁉︎」
「分かった‼︎」
「うふふっ、急ぎますわよ‼︎」
「ちょっ、待っ……きゃぁっ⁉︎」
アースとライトが先に走り出し、オレもスゥーを片腕で抱き上げて同じく走り出す。
「落ちないようにするが、抱きついていてくれよ‼︎スゥー‼︎」
「〜〜っ⁉︎もぅ‼︎」
「⁉︎⁉︎」
落とさないためにーーと思って自分から抱きついてくれと言い出したのに、実際に抱きつかれると何故か心臓がバクバクと鳴る。
な、なんだ⁉︎これっ⁉︎
「いやぁ〜。楽しいね、ライト‼︎」
「ですわね、アース‼︎」
そんな感じでーー。
急な動悸に混乱してしまったオレは……ニマニマと笑いながら先を走る2人の楽しげな声に、気づくことができなかった。
書いてる途中で思わぬ方向に行って、驚いたよね(笑)




