第54話 不安を払拭するための、愛情表現
シリアスからの恋愛シーンとか、ギャップの激しさで風邪引きそう……。
多分、この話を書いてる状況(庭に咲いてる夏椿の花が雨で濡れてるのを偶然にも見ちゃって、何故かちょっとしんみりしたの)もギャップ差に拍車をかけてる気がする……。
というか、梅雨のせいで暑かったり寒かったりと寒暖差が激しいので体調に気をつけようね‼︎
今後とも、よろしくねっ☆
《死神の使徒》であるカルディア様とアルフォンス様が、花畑リリィを連れて消えた後ーーーー。
私達は詳しい話を後日することにして、解散したわ。
ただでさえキャラが濃い&話が重い&シリアスムーブだったんだもの。
流石に疲れすぎて、これ以上話すのは今日は止めておこうってなったの。
本当なら打ち上げに戻るべきだったんでしょうけど、私とグラン(※スイレンさんと姉御もそれぞれ転移で送った)は早々に寮へと戻って。
着替えることさえせずに、ソファに座り込み……互いに凭れかかるように身体を預け合う。
そして、大きな溜息を零しながら……ぽつり、ぽつりと会話をしたわ。
「……………今までの人生で、一番疲れたかもしれないわ」
「そうだな……流石の俺もこんな展開は予想してなかったわ」
「私だって、こうなると思ってなかったわよ」
花畑リリィが、姉御リリィに取り憑いて身体の自由を十年間も奪っていたなんて……誰が想像できると言うの?
ゲームのシナリオにだって、そんなのなかったわ。
…………………あっ。
「………わ、忘れてたわ……」
「どうした?リジー」
「……ゲームよ、ゲーム」
「ん?ゲーム?」
「忘れたの、グラン?私は乙女ゲームの悪役令嬢なのよ?」
胸元に手を当てながらそう言うと、グランは少し眉間にシワを寄せて黙り込む。
そして……ハッとしたように、ポンっと手を叩いた。
「……………そういや、そんな設定あったな」
「設定というよりは、実際にステータスの職業欄に悪役令嬢って書いてあるのだけどね?」
「俺も攻略対象って書いてあったなぁ……」
「とにかく‼︎こんな展開は、乙女ゲームにすらなかったのよ‼︎」
私の訴えにグランは〝何言ってんだ、こいつ〟と言わんばかりの顔になる。
加えて、呆れたように肩を竦めながら、答えたわ。
「というか……そもそもの話、俺らの行動自体がゲームから乖離してたし。戦闘合宿だってそうじゃないか?」
「いや、まぁ……確かにそうなのだけど‼︎これからどうなるのかしらってことが言いたいのよ‼︎」
本来であれば、リリィは季節の行事や定期的なダンスパーティーを介して攻略対象達と交流して……仲良くなり、魔王を討伐することになる。
だけど、現状は人間と魔王は同盟を組んでるし……ぶっちゃけ仲が良いし。
ゲームのシナリオとは、全然違うことになってるわ。
でも、リリィが姉御に戻った以上、何かが起きる可能性もーーーー。
黙り込む私を見て、グランは再度溜息を零す。
そして、私の両頬に手を添えると……グィッと横に引っ張った。
「…………にゃにするひょ(何するの)……」
「お前、リリィ嬢が本物(?)に戻ったから、ゲーム強制力とかが今度こそ働いて……ゲームシナリオ通りになったりするのかも?って不安になってるんだろ」
「…………っ……‼︎」
思わずピクリッと身体が震えてしまう。
…………嫌ね。見抜かれていたなんて。
「どうして、不安になるんだよ」
「…………グラン……」
「何が、お前をそんなに不安にさせる?お前の心を、お前の言葉で教えてくれ」
グランは私の頬を引っ張るのを止めて、私の頬に手を添えたまま視線が合うように顔を持ち上げる。
至近距離で交わる視線。
私の心の奥底まで覗こうとする、瞳。
綺麗な翡翠色の瞳に見つめられながら……私は小さな声で、呟いた。
「…………だって……姉御は花畑リリィよりも、良い人そうなんだもの……」
こんなこと言ったら、花畑リリィに悪いかもしれないけれど。
姉御はなんて言うのかしら?
もう、そこにいるだけで善人オーラが滲み出てるのよね……。
それに、媚び売るようなタイプじゃなさそうだし……貴族社会では、あぁいう珍しいタイプに目が行きそうだわ。
それに、ゲームの強制力が働いてないと思ってたけど……それは、姉御が身体を乗っ取られてて、本物のリリィではない状態だったから、強制力が働いてなかった可能性もあるし。
グランが姉御に惹かれていっちゃったら……私……。
俯いた私は、グランの何度目かの溜息にピクリッと身体を震わせる。
…………呆れさせちゃったかしら……?
そんな不安が滲み始めたけれど……。
聞こえたグランの声は、呆れと言うよりは……とても優しい声音だったわ。
「……………バッッカだなぁ、リジーは」
「……………えっ?」
パッと顔を上げた私の視界は、何かに覆われる。
いいえ……ちがうわね。
気づいたら、私はグランに優しく抱き締められていたわ。
目の前には、グランの胸板。
彼の片方の腕は私の背中に回り、もう片方の手は子供をあやすように頭を撫でていて。
その温もりに、私は目を瞬かせる。
けれど……いつものように力を抜くと、彼の胸板に身体を預けた。
「…………何が馬鹿だって言うのよ」
「何がって……お前が勝手に不安になってることがだよ。俺がリジー以外の奴に惹かれる訳ないだろ」
「……………でも……」
「ないな。100パーセント、ない」
その自信はどこからくるのかしら……?
顔を上げると、そこには優しさと意地悪さがない交ぜになったような……器用な笑顔を浮かべるグランの姿。
グランはするりっと私の髪を耳にかけると……露わになった耳にリップ音をたてながら、優しくキスを落とした。
「リジーはずぅっと連れ添ってきた俺が、簡単にお前を捨てると思うの?」
耳元で、低く掠れた声で囁かれて、ピクリッと身体が震える。
「………それ、は……」
「お前の性格も、お前の行動も、お前の身体も、お前の言葉も全部全部……大好きだって思ってるのに、俺がリジーじゃない女と親しくなると思ってんの?」
「…………なっ……⁉︎」
明け透けな言葉に、私は顔が熱くなる。
思わず彼の身体を押し退けようとするけれど、唇を塞がれて、ねじ込まれた舌が……私から抵抗する力を奪っていった。
身体中が熱くて、思考がままならなくなって……グランの唇がゆっくりと離れた頃には、もう息もままならなくなっていて。
グランの唇が今度は軽いキスを落として、微かに触れる距離感で甘い言葉を囁く。
「俺はお前を独占したくて、好きで堪らなくて、身体の隅々まで知りたくて、逃したくなくて、俺から離れられなくなるようにって……誓約書を書いて、男女の仲になるぐらいに愛してるんだぞ?なのに、俺のことを疑うのか?」
「………………ちょっ……待っ……」
「駄目だ。こんなに信じてもらえてないってことは……俺の行動が、言葉が足りなかったって証拠だろ?愛情表現が足りなかったってことだろう?リジーの不安を払拭するためにも……今一度、しっかりと俺の想いを知ってもらわなきゃな」
にっこりと微笑んだグランの顔は……まるで飢えた獣のようで。
その熱に犯された視線が、これから何が起きるのかを、物語っていた。
「取り敢えず、身体で分かってもらおう」
「本当にっ、待っーーーーんっ」
私の言葉は、言い切る前に前にグランに遮られてしまったわ。




