第51話 シリアスかと思ったら、そうでもなかったみたいだ
今回から段落だけあけました。
最初は機能を使いきれなくて、段落ってなかったんだけどね……ちょっとずつ1話から直していきまーす。
話数長いから、ゆっくりだけどねっ☆
スイレンさんが使っていた控え室に戻った私達は……互いに顔を見合わせながら、取り敢えずソファに座ったわ。
私の隣には勿論グラン。
長テーブルを挟んだ向かい側にはスイレンさんと、姉御……ごほんっ。(真)聖女リリィ。
そして……俗に言うお誕生日席で床に正座しているのが……半透明幽霊。
…………というか、本当に今更だけど。
この半透明幽霊、地味に美少女じゃないかしら?
透けてる所為で色がないけれど、セミロングの髪もサラサラしているみたいだし……顔立ちもそこそこ綺麗。
幽霊よりも美少女な(真)リリィがいるから、それほど目立たないけれど……(真)リリィがいなくて幽霊じゃなかったら、きっとモテたでしょうね。
「「「「…………………」」」」
互いに黙り込むこと数十秒。
誰が何を聞くべきなのかを考えていた中……やっぱり、私が抱いた印象は間違いじゃなかったのでしょうね。
(真)リリィは姉御肌を発揮するように、口を開いたわ。
「いつまでも黙ってたら話が進まないよね。当事者であるあたしから、話そうか」
(真)リリィはそう言って、自身の手を見つめる。
そして、少しだけ泣きそうな……嬉しそうな顔で微笑みながら、告げたわ。
「まず、さっきも言ったけど……あたしが本当のリリィだよ。約十年間。あたしはこの身体の内側で、コレがあたしの代わりに振舞っているのをずっと見ていたんだ」
「「「十年っ……⁉︎」」」
その言葉に、私達は絶句したわ。
つまり、彼女は自分の意識はあったのに……あの幽霊もどきに身体を乗っ取られていたということでしょう?
それも十年も?
そんな長い時間を……そんな風に過ごしていたなんて……私だったら、おかしくなってしまうわ。
「あたしとコレは意識、思考が繋がってた訳じゃないから……どうしてあたしを乗っ取ったのかは分からなかった。けど、あたしにはどうしようもできなくて……本当に気持ちが悪かったよ」
…………そう告げた彼女は嘘をついているようには見えなくて。
あ、そう言えば。
嘘を見抜く能力があるんだったわ。
それが反応しないってことは真実なんでしょうね。
「……………リリィ。儂と会ったことは、覚えているのか?」
ポツリと呟かれた言葉。
その声には困惑や、ほんの少しの恐れが滲んでいて。
「…………もう、儂と会った時には……君は……」
私達は大きく目を見開いて、その質問の意味を理解したわ。
あぁ、そうよね。
スイレンさんは幼い頃のリリィに会っているんだものね。
十年前ーーーーそれは、スイレンさんとリリィが会った時期と変わらない。
その質問が意味することは、スイレンさんが会ったのは……幽霊に乗っ取られたリリィだという可能性があるということ。
リリィもそれが分かったのか……何かを告げようとして口を開いては、閉じる。
そして……そっと目を逸らした。
その視線の先には、半透明の幽霊。
…………その仕草が、答えだったわ。
「………………ごめん、なさい」
「……あぁ……良いんだ。気にしないでくれ」
悲壮な沈黙がスイレンさんとリリィの間に満ちて、その場の空気が一瞬で重いモノに変わってしまう。
…………本当、なんなのかしらね。
どうして、こんなに面倒なことになったのかしら。
いいえ、答えは分かっている。
全部……全部……この子が悪い。
「……………お前は、一体なんなんだ」
グランの冷たい声が響いて、私達の視線が幽霊に向かう。
彼女はビクリッと震えながら……泣きそうな顔をする。
けれど、何かを言う気はなさそうで。
ほんの少しだけ空気がピリピリとし出した瞬間ーーーー。
(真)リリィは困ったような顔をしながら……半幽霊の代わりに口を開いた。
「この子は、違う世界で死んでしまった女の子らしいよ」
「「っっっ⁉︎」」
それを聞いた私とグランは、息を詰まらせながら勢いよく半透明幽霊の方は振り向く。
違う世界で死んでしまった……。
つまり、この子は私達と同じってこと?
でも、私達と同じなら……なんで幽霊(?)みたいに……。
というか、なんで姉御がそれを知って……。
「…………乗っ取られてる間、あたしは何もできなかったけど……この子の記憶を見ることができたんだよ」
「記憶、を……」
「不慮の事故で死んでしまった女の子。だけど、魂の浄化を中途半端にしか受けずに零れ落ちて……ちゃんと転生することができなかった。その所為で消えてしまいそうになった時に、偶然あたしに出会って。あたしに取り憑くことで、消えるのを逃れたんだ」
「「「っ……‼︎」」」
…………あぁ……なんなの、それは。
なんなの、その救いようのはない話は。
「なんで十年間も自由を奪われなきゃいけないんだって……この子を恨みたいよ。だけど、この子を完全に恨むことはできないんだ。この子にも……事情があったから」
「……………リリィ……さん……」
「だから……」
姉御はそこで黙り込み、シンッ……とその場が静まり返る。
遣る瀬無い空気が満ちて……居心地の悪い。
この子が悪いと思ったのに、そんな話を聞いてしまってはそんなこと思えなくて。
一体、私達はこれからどうすればーーーー。
『う〜ん……あんまり面白くなかったねぇ〜』
ぶわりっ…………‼︎
「「「「ひっ……⁉︎」」」」
背筋が凍りそうになるほどの威圧感と共に、その場の空気が全て入れ替わるような感覚。
チートである私達さえも気圧される……恐怖感。
私達はガクガクと震えながら……唐突に、ぐにゃりと歪み始めた空間を見つめたわ。
『う〜んっしょっと〜‼︎」
白魚のような手が真っ直ぐに空間から這い出て、ずるりっ……とそれは現れる。
地を這うほどに長く伸びた若草色の髪。
煌々とした金の瞳。
彫刻のような均衡のとれた身体が纏う、身体のラインがよく分かるタイトな深緑色のドレス……。
ゾッとするほどの美貌を誇るそれは、悍ましいほどの存在感を放ちながら、にっこりと微笑んだ。
「やっほ〜‼︎ こんにちは〜‼︎」
「「「「…………………」」」」
人の姿をした何かの口調はとても軽いのに、その存在感に押されて私達は口を開くことすらできない。
動くことさえもできない。
本能が警鐘を鳴らす。
これは、私達が敵う存在ではないと。
これは、私達よりも遥かに上の存在だと。
これは、人の枠を超えた化物であると。
埃を払うように、私達は簡単にこれに殺される。
そう本能的に理解してしまったから、私達はただその場で固まることしかできない。
…………ただでさえこれを目の前にするだけでも辛いのに……最悪なことに、歪んだ空間から更に何かが這い出てきたわ。
『主人。先走りすぎです」
ところどころ跳ねた白髪に、金色の瞳。
黒一色の服を纏った……こちらもまた、ゾッとするほどの美しさを誇る青年。
最初のそれほどではないけれど、彼もまた……違う存在で。
けれど……彼は、私達とそれを交互に見て、呆れたように溜息を零したわ。
「はぁ……主人、漏れ出る力をなんとかしてください。彼らは下位世界の存在ですから、竜の力に気圧されて返事ができてませんって」
「あっ……」
後から出てきた彼に声をかけられた何かは「あははっ、ごめんねぇ〜‼︎」とケラケラ笑いながら、ほんの一瞬でさっきまでの威圧感が嘘のように消す。
それと同時に私達の身体も動くようになり、グランは警戒心を強めながら私を守るように、スイレンさんは姉御を守るように前に出る。
グランは震える声で……叫んだわ。
「……………あ、貴女達はっ……一体……‼︎」
「うん〜? 私達はね〜《死神》のお使いだよ〜?」
「「「「死神っっっ⁉︎」」」」
その単語の物騒さに私達はギョッとする。
というか、この世界って死神なんて存在するのっ⁉︎
すると、彼が呆れたように溜息を吐いて……眉間に手を当てながら首を振った。
「主人……僕が説明しますから、ちょっと黙っててください」
「あははっ〜。黙りま〜す‼︎」
主人と呼ばれたそれはピシッと敬礼すると、ぐにゃりと歪んだ空間に手を突っ込んで、取り出した本を読み始める。
…………はっきり言って、私達は意味が分からなかったわ。
だって、そうじゃない?
急に現れた危険な存在が、こうやって簡単に大人しくしてるのよ?
逆に怖くて、困惑するわ。
「えっと……まずはご挨拶を。僕の名前はアルフォンス。こちらは僕の主人のカルディアと申します。この度はそちらの幽霊……魂魄の所為で皆様にご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ありませんでした。上司に変わって、謝罪致します」
「「「「…………………」」」」
ぺこりと頭を下げたアルフォンスさんに、私達は無言になる。
というか……多分、ギョッとした顔をしていたと思うわ。
アルフォンスさんは、そんな私達を見てこてんっと首を傾げる。
「…………あれ?どうかしましたか?」
「……………いや……随分と丁寧な挨拶だから……」
「…………?挨拶は基本でしょう?」
そう告げられた言葉は、この上なく正論で。
ぐうの音も出ないって、まさにこういう事を言うんでしょうね……。
「という訳で。かなり長話になりますが……一から説明してもよろしいでしょうか?面倒だというなら、用件のみ済ませて辞させて頂きますが」
「あ、はい。お願いします」
丁寧な物言いに、思わず反射的に返事をしてしまう。
ハッとした時には、グランとスイレンさんに〝勝手に返事して……何してるんだ〟と言わんばかりの顔で睨まれていたわ。
「ふふっ。では……お茶しながら、お話ししましょう」
「私〜。この間買ったフルーツティーが良いなぁ〜」
「黙ってるかと思ったら、急に自分の要望言い出さないでくださいよ。主人」
「アル、準備よろしくねぇ〜」
「………はぁ……畏まりました」
そう言って、アルフォンスさんはぐにゃりと歪んだ空間に手を突っ込んで、ティーセットを取り出して準備を始める。
その光景を見ていた私(多分、グラン達も)は、心の中で思ったわ。
シリアスかと思ったら、そうでもなかったみたいだーーーーと。




