第41話 《運命的な出会い(中略)押し付けてしまおう作戦》(3)
前話の聖女リリィ目線‼︎
若干、ヤンデレ臭がするけど……苦手な人は逃げてね。
話を書くのが理由もなくスローになる期間ってありますよね。今、それなんです。
遅くてごめん、気長に待ってください。
まぁ、よろしくね‼︎
フリージア様とグランヒルト様が開催した5泊6日の第Ⅱ大陸巡回サバイバル合宿。
最初はそんなに大変じゃないと思ってた私は、とても馬鹿でした。
隠密行動をするように息を潜めながら最終日。
木陰に隠れた私は魔物の恐怖に怯えながら震えていました。
「あはははっ……容赦ないよね。リジーもグランヒルト様も」
「笑い事じゃありませんわよ、エドガー様」
エドガー会長は、クレマチス様にツッコミを入れられますが、本当に容赦がないと思います。
最初はセーゲルさんが助けてくれてましたが、リズベットさん?とかいう方達が諌めたため……自分達で行動しなくてはいけなくなった。
でも、リズベットさん達が言うのも一理あって。
それから、頑張って魔物を倒したり野営をしたりしました。
でも、日に日に魔物は強くなっていく。
なんで?どうして?と思ったら、この大陸では国ごとで魔物の強さが違うって知って。
私達が暮らしているディングス王国は、一番魔物が弱い国なんだとエドガー会長に教わった時には驚きでしかなかったです。
「さて……周りに魔物の気配はない。少し休憩にしよう」
休憩と言いながら、気が抜けないことはよく分かっています。
だって、魔物は数キロ先にいても数秒で距離を詰めるやつだっているって2日前に知ったので。
体力がない私とマルーシャ様、クレマチス様の弟のノーチス様はひたすら無言なのに……なんでこのハードなサバイバルの中でエドガー会長達は話せるんですか?
その体力が信じられません。
「……………クレマチス嬢以外はもう死にそうだね」
笑顔で死にそうだね、とか酷くないですか。
「………わたくし以外って……貴方がそれを言いますの?」
ジトッとした目をするクレマチス様に、エドガー様は「ん?何が?」と首を傾げます。
すると、彼女は大きな溜息を零して低い声で告げました。
「エドガー様をフォローしてたら、無駄に令嬢らしからぬ体力付いてしまいましたのよ。どうしてくれますの」
「………ん?体力が付くぐらいなら良いと思うんだけど?」
「それが問題ですの‼︎殿方より強いのが、いつの間にか周りにバレてて、貰い手がいませんのよ‼︎今だに婚約者がいませんのよ⁉︎なんで3年前のわたくしはエドガー様の補佐を始めちゃったんですの‼︎」
クレマチス様が(魔物呼ばないように比較的に小声で)そう叫びます。
確かに……男性より強い(体力がある)って……嫁の貰い手なさそうです。
というかそんな力がつくフォローってなんですか。
「あははっ、大丈夫だよ。だって、婚約者ができないように仕向けてたのはわたし……いや、僕だよ?」
「え?」
『……………え?』
ヒョォォォォ………。
何故でしょうか。
冷たい風が吹き抜ける感覚がしました。
「君が他の男に取られないようにグランヒルト様の力を借りたりしてたんだ。だって、僕……よりはリジー達の方がだけど、僕らは一種の化物だ。力だって異常に強いし……他の人だともっと怯えたり、威圧に負けたりするのに。君は僕らが間違えてたりしたらちゃんと意見が言える人なんだよ。正面から注意ができる人なんだよ。そんな凄いことができる人、逃す訳にはいかないだろ?だから、ちゃんと僕が君を貰うから安心してね、クレマチス嬢」
にっこり。
ビクッッ‼︎
何故でしょうか(2度目)。
こちらに向けられた笑顔じゃないのに恐いです、背筋がゾワっとします。
意味もなくマルーシャ様とノーチス様と抱き合いました。
「…………な、なんか……会長が怖い……」
「あ、姉上は大丈夫なんですか?あの人、なんか無駄に怖いんですが⁉︎」
闇が、闇が見えます。
何故でしょうか(3回目)。
グランヒルト様と似た闇が見えます。
「………つまり、一言でまとめると?エドガー様がわたくしの婚約を邪魔していたと」
「そうだよ?」
ヒョォォォォ……。
再び冷たい風が吹きました。
クレマチス様はにっこりと笑ってエドガー様の胸倉をガシッと掴みます。
そして、冷たい声で告げました。
「…………これが終わったら、ちゃんと責任取って婚約してくださるんでしょうね」
「勿論。君からそう言ってもらえるならいくらでも応じるよ」
「なんですの、それ。ふざけてますわね。というか、わたくしが言いだす前にとっとと婚約した方が楽だったのでは?貴方の家なら、わたくしとの婚約ぐらい簡単なのでは?」
「まぁね。でもさ?逃す気はなかったけど……ちゃんと君に惚れて貰いたかったから」
エドガー様はそう告げて、胸倉を掴んでいたクレマチス様の手を取ってチュッとキスをする。
た、他人の甘いシーンは……身体が痒くなりますね⁉︎
「……………惚れなかったらどうするつもりでしたの」
「その言葉が出るってことはちゃんと惚れてもらえたってことかな?」
「いいから答えなさい」
「…………あははっ。惚れなかったら、まぁ……ね?」
ビクリッ⁉︎
言葉にせずに微笑むってこっっっわっっ‼︎
超こっっっわいっっっっ‼︎
クレマチス様以外の私達はギョッとしますが、当の本人は呆れ顔ですね⁉︎
「はぁ……まぁ、良いですわ。惚れなかったら何をするかは大体予想がつきますもの」
予想がつくんですか⁉︎
「悲しいことに、そんな貴方に惚れているのは否定できませんから……貴方の妻になって差し上げましょう」
「あれ?悲しいことなのかい?」
「大人しくわたくしのために、馬車馬の如く働いてくださいましね?」
「あれ?僕の言葉は無視?まぁ、ちゃんと働くけどさ……」
……………え?
まさかの婚約……というか、結婚決定ですか?
こんなちゃんと会話になってるかと謎だったのに⁉︎
「はぁー……もう今の会話で疲れてしまいましたわ。このまま無事に終わるといいのだけど」
「クレマチス嬢、クレマチス嬢」
「なにかしら?」
「リジー達言わく……そういうのって何かが起こるフラグって言うらしいよ?」
「え?」
ーーーーーーーードッゴォォォォォォーーーン‼︎
本当に何かが起きたぁぁぁぁ⁉︎
空から飛来した〝それ〟に思わず私達はギョッとして、警戒します。
空気が変わる感覚と、軋むような威圧感。
今まで空気化(本当に存在忘れてました……)してたセーゲルさんが前に出て、〝それ〟がとんでもなく危険なのだと理解してーーーー。
戦闘になると思った瞬間に、セーゲルさんが結婚を前提に交際してくださいとか申し込んで力が抜けました。
うん。
「なんなんだよ、これ……会長達が結ばれた(?)と思ったら、次はあの堅物そうな冒険者とか……」
「独り身には厳しいですよねぇー」
マルーシャ様とノーチス様が非常食の干し肉を齧りながら呟く。
まぁ、はい。
私も干し肉を齧ってますが……確かに独り身には厳しいです。
『無事か⁉︎』
そんな時、空から美しい水色の龍が舞い降りました。
……………え……凄い。
なんて、綺麗なんでしょうか。
キラキラと陽の光を受けて煌めく鱗に、柔らかな瞳。
初めて見るのに、懐かしさを感じるその姿に胸がドキッとしました。
龍は宙へと溶けるように姿が変わり、美しい青年の姿へと変わる。
綺麗な水色の異国風の服装。
長い水色の髪に、金色の瞳。
彼は私達を見るとホッとしたような笑顔になり……あれ?
私は……この笑顔をどこかで……。
「スイレン陛下‼︎わざわざ、貴方自らいらしたんですか⁉︎」
エドガー様は驚いた顔でスイレンと呼ばれた青年に跪きます。
というか……陛下⁉︎
彼が誰だか分かりませんが、私達も慌てて跪きました。
「そんな跪かなくていいぞ。エドガー殿も幼い頃のように接するが良い」
「いえ……流石に身の程は弁えております」
「……………今だにグラン殿達は変わらぬぞ?」
「…………あぁ……なんというか……まぁ、アイツらは規格外なので」
スイレン陛下はクスクスと笑います。
そして、優しい声で挨拶をしました。
「我が名は《第Ⅱの魔王》スイレン。グランヒルト殿達に頼まれて、お主らの安全を確保するために訪れた。怪我はないか?」
魔王……魔王⁉︎
こんな綺麗な方が⁉︎
「問題ありません。ですが……」
エドガー様はスイレン陛下の後ろを指差す。
彼が振り返ると、そこには追いかけっこを始めたセーゲルさん達がいました。
「…………えっと……ん?状況が読めないのだが?」
「空から飛んできた女の人と冒険者が追いかけっこしてます」
スイレン陛下は黙り込んで、「うん」と頷く。
そして、何も見なかったように防御陣を張られました。
「………………取り敢えず、何かあってもいいように防御陣を張っとくか……」
スイレン陛下は「よいしょっ」と声を漏らして私の隣に座ります。
そして、広い裾からお茶セットらしき物を取り出し、皆に飲み物を渡し始めました。
「グランヒルト殿達が来るまでここで待っていよう。下手に動くより2人が来てからの方が安全だからな。何かあれば、この命をかけて君らを守ろう。だから、安心してくれ」
優しい笑顔と優しい声。
………何でしょうか。
私はとても、懐かしい気持ちになります。
幼い頃に、私はこの笑顔を見たことが………。
「貴女が好きだ‼︎」
「ふぇっ⁉︎」
「貴女は美しい‼︎」
「ふみゃっ⁉︎」
「結婚してください‼︎」
「ふみゃぁぁぁぁぁぁぁあ⁉︎」
………………あとちょっとで思い出せそうだったのに、セーゲルさん達の声で飛びました。
聖女リリィが敬語になってるのは、サバイバル合宿でメンタルめきょられたからです。
疲れて何故か敬語になるパターン。




