第38話 逃げられる勇者
10月28日から、新作始めます。
《花乙女と死神王子の花想曲》
シリアスかと思えば、ゆっく〜りほのぼ〜のと進んだりします。
2000〜4000文字ぐらいで、いつもより短めですが、何個も分けている感じです。
まぁ、気が向いたら読んでみてね‼︎
では、今後もよろしくね‼︎
「いや、なんか色々と聞きたいことがあるんだぞ?なんで、魔王領で彼らが無事でいるとか、どうして隣の大陸の魔王殿が自分の大陸を離れられているのだとか……マキハラ殿につけたお面の顔とか……まぁ、色々置いてだ。
…………………………………………何故、グラン殿まで執事服?」
スイレンさんの言葉に、私達はおにぎりを食べる手を止める。
私とグランは互いに顔を見合わせて、彼の方へ視線を戻した。
「理由と言えば、私がお願いしたからかしら?だって、顔出しするのに私だけメイド服なんて恥ずかしいもの」
「リジーにお願いされたら断れないよな。それに、メイドと執事プレイってちょっと萌える」
「……………あぁ、これは聞いたら負けなパターンだったか……」
スイレンさんはそっと目を逸らす。
聞いたら負けなパターンってなんなのかしら?
スイレンさんは頭を振って、話を切り替えるように真剣な顔になる。
そして、真っ直ぐな瞳で私達を見つめたわ。
「で?確かディングス王国と魔王領の魔物達は強さがだいぶ違うよな?彼らは大丈夫なのか?」
……………あぁ、スイレンさんが心配しているのはそこだったのねぇ。
確かにディングス王国は始まりの国でもあるから、初心者向けで魔物の強さも弱々だわ。
相対して、魔王領は最終目的地だから平均レベルが高い。
まぁ……ラスボスである魔王が住む地だもの、当然よね。
甘っちょろいディングス王国で育った貴族の子息令嬢達が、そんな魔王領で無事でいられるかが気になっちゃうのは仕方ないことよね。
私達に場所を提供していることで、この戦闘合宿の協力者……と判断されて、下手したらスイレンさんの監督不届きとか。
無闇に貴族の子息令嬢達を大怪我を負わせたとか(死なせてしまった……とか?)、責任問題になっちゃいそうだし。
私とグランは苦笑しながら、その質問に答える。
「一応、あの編み紐に防御魔法とか入れてるし」
「二、三年生には周辺魔力濃度から敵の強さを大体把握する方法を教えてるから……自分達じゃ敵わないと判断した場合は、隠密行動をしてるはずだ」
「それに、私達の可愛い子供達が隠れて援護しているしね?」
「え?」
私はスクリーンの一つに映像を映し出す。
そこに映るのは、可愛らしい三人の子供。
茶髪と赤毛の二人の男の子と、白髪の女の子。
テケテケと歩くと三人は、こちらが見ていることに気づいたのかにぱっと笑って手を振ったわ。
『パパ〜、ママ〜‼︎』
「頑張ってね〜」
「無理するなよ」
『うん‼︎任せろ‼︎』
『えぇ、勿論ですわ‼︎』
そう……そこに映るのは、アースとファイ、ライトの姿。
あの三人には、接触しそうになったら魔物を狩るようにお願いしてるの。
あんな見た目でも中ボス格の属性竜だもの。
私達と一緒に暮らしてたから、ゲーム時代より強くなっているはずだし。
魔王領の魔物なんて敵じゃないわ。
それに………。
「アース達、可愛いわ‼︎紺色を基調としたお揃いの制服風の服が、似合ってる‼︎」
手を繋いでテケテケと歩く三人は、お揃いの服を着ていて。
その服には私とグランの防御系魔法が詰め込まれてるから、心配無用なのよねぇ。
「それな。可愛いよな、アース達。服にかけた魔法もちゃんと発動してるみたいだし……というか、見てて超癒される」
「おー、いえす‼︎」
思わず、真顔で答えてグランとハイタッチをする。
スイレンさんの「属性竜を自分達の子供と言うのかぁ……」ってちょっと遠い目をしてたけど、放置しとくわ。
「後、スイレンさんが気になるのは《第Ⅲの魔王》がこの大陸に来れている件かしら?」
「……………あぁ。どうして魔王殿はこの大陸にいる?」
各大陸の魔王は浄化の仕組みから、他の大陸に移動することはできない。
でも、それって魔王の役割を一時的に肩代わりできれば移動できるってことでしょう?
グランは異空間からヒョイっと〝藁人形〟を取り出して、スイレンさんに投げ渡した。
「てててーん、《魔王の身代わりセット》〜♪」
「《魔王の身代わりセット》⁉︎セットと言う割には、藁人形しかないんだがっ⁉︎」
「髪の毛を数本中に入れます、魔力を注ぎます。魔王の役割を一時的に人形に移せます。以上」
「…………………あはは……あははは……この二人……とうとう、魔王が大陸から離れることができない問題すら解決したのか……」
スイレンさんはガクッと地面に両手両足をつく。
なんかその漂う哀愁が〝疲れる〟と物語っているわね。
「………《第Ⅲの魔王》殿がこの地を訪れることができたのは理解した。次、だ。なんだ、あのマキハラ殿の顔についたお面は」
「〝ひょっとこ〟を参考にしたたこ唇お面のことか?」
グランの質問に彼はコクッと頷く。
「あぁ、そうだ。アレは、〝ひょっとこ〟と言うのか?」
「いや、参考にしただけで違うけど?」
「…………違うんかい。いや、まぁ詳しくはいい。何故、あの仮面をチョイスした」
〝ひょっとこ〟は、頭に手拭い巻いたタコ唇の顔のこと。
だけど、今回はそれを参考にして、アレンジ効かせて新しいお面を生み出して作ったの。
何故アレをチョイスしたかと言うと……。
「なるべくギャグ路線のお面がいいかなぁ……って思ったら、夏祭りとかでよく見かけた〝ひょっとこ〟を参考にすればいいかと思ったのよ」
「夏祭りでアレをよく見かけたのか⁉︎」
スイレンさんは驚くけど、こっちの夏祭りってどんな感じなのかしら?
この驚き様はあの〝ひょっとこ〟お面は売られてない感じなのかしらね。
「だって、五歳くらいの時のお面屋さんでは売ってたし」
「大人になったぐらいになったら見なくなったよな。ヒーロー物とか、狐のお面とかじゃなかったか?」
「あー、確かに。後、私が住んでた所の夏祭りって、山車のパレードとかあったのよねぇ。その山車によくあの仮面をつけたおじさんが踊ってたというか……」
「あー、分かるかも。お囃子の音に合わせて踊る感じだろ?」
「そうよ、それそれ‼︎たまに狐とか巫女さんとかも踊ってたわ」
昔話に花を咲かせていたら、電子スクリーンの一枚に丁度話にも出たマッキーが生徒達と遭遇したところが映る。
すると……。
『ぎゃぁぁぁあっ⁉︎お化けぇぇぇぇぇ‼︎』
………………………あら?
電子スクリーンを大きくすると、そこには生徒達がマッキーから凄まじい勢いで逃亡する姿。
………マッキー、ちゃんと勇者印のスカーフつけてるわよね?
なんで生徒達は逃げてるのかしら?
『なんだ、あの奇妙な顔は‼︎怖い、怖すぎる‼︎』
『魔物の一種かもしれない‼︎危険だ、逃げるぞ‼︎』
『白い‼︎全体的に白い‼︎』
「「……………………」」
思わず黙る私達。
スイレンさんは、なんとも言えない顔で……マッキーを指差して告げた。
「……………多分……あの仮面を見たことがない者は……未知の存在すぎて逃げると思うんだ。運が悪いことにパジャマも白だし……グラン殿達に聞かされてなかったら、多分同じように逃げると思う
……………………というか、アレは怖い」
マッキーの顔に張り付いているお面は……何も書かれてない真っ白なお面に口元だけが突き出したような形になっているだけ。
…………深夜とかに見たら、絶叫するレベルのホラー感があるのは否定できない訳で。
グランは愕然として立ち尽くすマッキーを見て……「うん」と頷いたわ。
「…………………ハレメンを生み出さないためにしたアレンジが効きすぎたんだな、うん」
ちなみに、あのお面をアレンジして作ったのは私じゃなくてグランです。




