第32話 ちょっかい出し隊リズ&ハルト班、出動‼︎
「クレマチス様、恐いわぁ〜……物理的になら勝てるのに、精神的には勝てない〜」
「それな」
グランの膝の上に座って、私は八つ当たりで彼の両頬を引っ張る。
そんな私達を見て……スイレンさんはなんとも言えない顔になった。
「いや、まぁ……部屋を提供するのは分かるぞ。ここが大陸の中央だから、色々と動きやすいのだろうが」
そう……今いるのは魔王城(屋敷?)の一室。
あの後、各国に生徒達を転移させた私達はここに来て、生徒達を監視しているの。
部屋の中には空中に電子スクリーン(もどき)がいくつも展開されて、生徒達のリアルタイム情報が流れてくる。
まぁ、こんな大規模な合宿だもの。
何かあったらすぐに対応できるように監視しておかないとってことね。
ちなみに……リズベットさん達はハルトさんの転移(リズベットさんが望んだ時にしか使えないらしい)で各国を直接見回ってくれてるわ。
閑話休題。
「いや、その、監視するのは分かる。分かるんだが……」
「どうしたんだ?スイレンさん」
私達は首を傾げて、すっごい渋い顔のスイレンさんを見つめる。
そして……彼は私を指差して質問した。
「…………どうして、フリージア嬢は侍女の服を着ているんだ………?」
「「…………………」」
現在、私の格好はコスプレ感溢れるメイドさん(この世界の侍女は裾の長いクラシカルタイプが多いけど、私が着てるのは裾が短めでニーソを履くタイプ)の格好をしている。
それは何故かと言えば……。
「リジーへのお仕置きだからだけど?」
「これ、グランのお仕置きなのよねぇ」
「………………」
スイレンさんそれを聞いてなんかもう形容しがたい顔になっちゃったわ。
でも、仕方ないじゃない?
スイハさんを助けに行った時、地面に落ちたお仕置きなんだもの。
…………忘れてるかと思ってたのに、ちゃんと覚えてたのよね……グラン。
「合宿期間中はグランのお世話をするのがお仕置きなんですって〜。だから、メイドさんの格好してるの」
「………………それ、お仕置きになるのか?」
……………なるに決まってるでしょう。
これは俗に言う羞恥プレイよ……。
…………ぶっちゃけ、恥ずかし過ぎて死にそうなんだけど……それを表に出したら、絶対グランの思惑通りになるから出さないように気をつけてるのよ。
多分、本当のお仕置きって私を恥ずかしい目に遭わせることなんだと思うわ。
…………長らく一緒にいたから、私の弱点をことごとく突っついてくる………。
というか、羞恥プレイとか……なんか、だんだんグランが変態オヤジになってきたわね………?
「あははっ、分かってないなぁ。平然を装ってるけど、リジー、内心じゃすっごい恥ずかしがってるからな。気合いと根性で冷静を装ってるだけだから」
…………………バレてるぅ……。
「…………………お主ら……ちょっと……なんか……嗜好が……斜め上だな……?」
スイレンさんは、だいぶオブラートに包んでそう告げる。
包んでてもその顔が〝変態チックだぞ〟って本音語ってるわよ、ねぇ。
「ほらほら、監視に戻るぞ」
据わった目でグランをジトーッと睨んでから、促された通りにスクリーンに視線を移す。
おぉ……流石に自分の国から出る時はリゾート地ぐらいな貴族の皆様。
いきなり見知らぬ(他国)魔物に遭遇して、絶叫してるわね。
グランは顎に手を当てて、頷いた。
「生きがいいな」
「魚か」
「あはははっ。でも、見てみろよ、リジー。あんな顔面蒼白で死んだような顔……今まで驕ってた貴族精神がポキポキ折れてるぞ」
「ついでに、そんな彼らを激励して積極的に前に出てくれてる冒険者達への評価も変わっていってるみたいねぇ」
冒険者って身分に囚われないけど、野蛮だからって下に見られることが多いのよね。
でも、冒険者の人達がいるから魔物の異常繁殖が防がれてるって分かったかしら?
どんだけ彼らが日々、危険に身を晒しているかも……ね。
「……………何してんだ、お前ら……」
ふと振り返るとそこには、怪訝な顔をするスイハと赤い着物姿のアウラ様。
二人は電子スクリーンと、私の格好、グランのお膝抱っこを見て……なんとも言えない顔をした。
「何だ?その格好?」
「メイド服だけど?」
「……おれが知ってる服とは違うけど、なんとなく似てるってのは分かってる。でも、なんで???」
「現在、リジーは俺専属メイドさんなんだよ。お仕置き中だから」
「……………あぁ」
スイハはあの日のことを思い出したのか、納得したように頷く。
そして、今度はスクリーンに視線を向けた。
「これはなんですの?何かが映ってますわ」
アウラ様は少し興味深そうに、スクリーンを観察する。
………まぁ、こちらの世界の人には珍しいわよね。
「今、戦闘合宿中なのよ。ここに映ってるのはリアルタイムの映像。生徒達が危険にならないように監視してるの」
「「え?」」
スイハ達はそれを聞いて固まる。
そして、ゆっくりとスイレンさんに視線を向けた。
「いや、この魔法は儂も使えないぞ?というか……グランヒルト殿達は規格外だからな。儂でさえこの魔法が一体、なんなのかさえも分からない……」
「まぁ、今回のために適当に作った魔法だもの。仕方ないわよ」
「「「………え?」」」
グランはそれに動揺しないけど、他の三人はギョッとしながら顔を見合わせる。
コソコソと「魔法って作れるんだっけ?」とか「どういうことですの?」とか話してるけど、地味に丸聞こえだからね?
「まぁ、ほら。俺とリジーだから」
「「「…………あぁ……」」」
それで納得するのね。
「あぁ、ヤバいな。リジー」
「ん?何?」
「これ」
グランが険しい顔でスクリーンの一つを指差す。
そこに映るのは、バッサバッサと魔物を薙ぎ倒していくセーゲル。
そして……その背後にいるのは、リリィとお兄様、クレマチス様、マルーシャさんに、クレマチス様の弟のノーチスさんの5人パーティー。
あぁ……。
「セーゲル、馬鹿じゃないの?これはあくまでも生徒の戦闘合宿なのに……生徒に戦闘させないなんてどういうつもりよ」
「趣旨が分かってないんじゃないか?」
お兄様達もなんとか魔物を倒そうとしているけど、それより先にセーゲルがなんとかしてしまう。
結果、何もできない……なんて悪循環に陥ってるじゃない。
………あぁ、そういえば。
《断絶》のセーゲルはソロプレイが多いんだったかしら?
下手にSランクから、周りがついてこれないのよね。
………………だから、普段通りにやってるのね。
「リズベットさん、ハルトさん、少し良いかしら?」
伝達魔法でリズベットさん達に声をかけると、直ぐに返事が返ってきた。
『ん?はいはーい、どうしたの?』
「パーティーNo.001で問題発生。補佐冒険者の独断プレーが目立って、生徒達が魔物と戦えてないの。ちょっと、セーゲルにお灸を据えられるかしら?」
『できる?ハル君』
『問題ないよ。今、近くにいるから確認した。どうやら生徒主導ではなく、セーゲルの独断先行になっているね。ちょっとお話ししてこよう』
「お願いするわ」
スクリーンの視点を動かせば、リズベットさん達の姿を確認できる。
あら、本当に近くにいるのね?
100メートルも離れてないぐらいだわ。
なんて暢気に考えていたら、スイハが慌てて質問してきた。
「ちょ、ちょっと待て‼︎大丈夫なのか⁉︎」
「…………何が?」
「Sランク冒険者って世界で三人しかいない強者なんだろ⁉︎あの二人が相手になって大丈夫なのか⁉︎」
「あぁ、大丈夫じゃないかしら?」
私はクスクスと笑って答える。
グランも同じように笑って、頷いた。
「向こうも相当チートだしなぁ」
「よねぇ」
そんな言葉と共に、スクリーンの向こうで……リズベットさん達がセーゲル達と接触したわ。




