第19話 グランヒルトルートを折ったら、何故かフリージアルートが開きました。
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荷物を置きに女子寮の自室に戻ると、リリィが訪問してきた。
話があると先触れもなくいきなり訪れたリリィに常識を知らないのかしら?と若干イラッとしたけれど……。
中に入れるなり……彼女は、私に宣戦布告をしてきたわ。
「グランヒルト様に一目惚れしました‼︎なので、正々堂々と貴女と戦うことをお許し下さい‼︎」
……………いや、あのね?
こんなシーン、ゲームにはなかったし……それどころかこんなことしてくるとは思わなかったのよ。
………あぁ……壁と同化しているドルッケン公爵家の侍女達も驚いた顔してるわね……。
「…………えっと……頭、大丈夫かしら?」
「はい」
リリィは私をじっと見つめる。
…………いや……。
「急にそんなこと言われても困るわ。グランヒルト様は私の婚約者ですもの」
「でも、恋をしました。この想いを諦めることができそうにないんです」
「だから、私に言ってどうしたいの?」
「聖女というのは、貴族ではありませんが王族と結婚できる立場ですよね?だから、グランヒルト様に好きになってもらえば……私にもチャンスがあると思うんです。だから、フリージア様にちゃんと言わないとと思いました」
私は額を押さえて、溜息を吐く。
「婚約者がいる異性に近づくのは、はしたないことなのよ?」
「それは貴族の考え方ですよね?私には関係ありません」
…………なんか、私は間違っていませんオーラを出すリリィにイラァとする。
なんか色々と面倒になった私は、パチンッと指を鳴らしたわ。
「うわっ⁉︎」
驚いた声と共にスタッと着地するグラン。
急に現れた彼にリリィもギョッとするけれど……この際は無視。
グランはキョロキョロと周りを見渡してから……私とリリィを確認すると、事情を察したみたいだわ。
「………………リジーが転移させたのか?」
「えぇ、面倒になってね」
「どうした?」
なんて聞くけど、グランは冷たい目でリリィを睨む。
私はチラリと彼女を見て、言葉を続けたわ。
「リリィさんがグランが好きだから、私から貴方を奪いたいんですって。だから、正々堂々と戦いますって宣言されたわ」
「………………は?」
グランのドスの効いた声で部屋の温度がグッと下がる。
……………もう……苛立ちを隠せてすらいないわね。
まぁ、私もそんな気分だけどね。
私は大きく溜息を吐いて、グィッと親指でリリィを指差す。
そして、満面の笑顔で告げたわ。
「という訳で、グラン。今この場で選びなさい。私か、リリィさんか」
「いや、それは普通にリジーだろ」
スパンッと即答するグランに、私は頷く。
まぁ、それはそれよね。
グランが私以外を選ぶとかありえないもの。
でも、リリィは諦めない。
「でもっ‼︎時間をかければ私のことを好きになってもらえー……」
「なんねぇーよ。お前じゃ抱きたいと思わないからな」
「……………………へ…?」
グランは私の身体を抱き締めながら、チュゥッ……と首筋にキスをする。
グランは肌に唇を寄せたまま、リリィを睨んだわ。
「リジーは俺の女神なんだよ。この金の髪も、海色の瞳も。身体の線だってナイスプロポーションだし……柔らかくて甘い匂いがするんだ。王妃としての教養も素晴らしいし、凛としてるところは格好良いけど、たまーに素直に俺に甘えてくるところなんて最高に可愛い。キスだって沢山してるのに、毎回顔を真っ赤にして……初心な反応をするんだ。それがいじらしくて……。それに俺のことをよく知ってて、支えてくれる。まさに、俺のために存在するような女性なんだ。俺はリジーを愛してるし、リジーも俺を愛してくれてる。じゃなきゃ、リジーを手に入れるために命なんてかけない。それほどまでにこの可愛くて、強くて、美しいリジーに惚れてるんだ。だから、好きな女だから抱きたくなる。ぐちゃぐちゃに汚して、俺だけのモノにしたくなる。いっそ孕ませてしまいたいぐらいなんだ。それほどまでに愛してるんだ。つまり……そんな気が微塵も起きないお前なんか、絶対に好きにならない。俺が愛するのはリジーだけで、身も心も1つに溶け合ってしまいたーー………」
「ストーップ‼︎それ以上は恥ずかしいから止めなさい‼︎」
私は勢いよくグランの口を押さえる。
いや……まぁ、グランに惚気させて、相手の気力を削ごうと画策したわよ?
でも、こんなに言われるとは思ってなかったのよ‼︎
こんなっ……こんな恥ずかしいこと言われるなんて……。
というか、最後の方は完全にアウトだわ‼︎
グランは私の手を剥がして、むすっとするけど……むすっとしたいのは私の方よ⁉︎
「………なんで止めるんだよ」
「グランが余計なこと言うからよ‼︎」
「どこがだ。どれだけ俺がお前を愛してるか、語ってるだけだろ」
「…………うぐっ……」
身体中が熱くて、目を逸らしたくなる。
けど、今までの経験で目を逸らしたらキスされることがなんとなく分かっているから、目を逸らせない。
ジッと見つめ合う私達。
すると……グランは私の腰に腕を回して、熱い息を零したわ。
「………………リジー……キスしたい……」
「えっ⁉︎」
いつもは言葉になんてしないでキスするから、私は余計に動揺してしまう。
グランは色気を帯びた瞳で私を見つめながら、チロリと舌で唇を舐めた。
「…………そんな潤んだ目で見るのは反則だろ……」
「……………いや……そんな色気ダダ漏れな貴方の方が反則でしょ………」
「……………エロいことしたい……」
「ちょっとグランッ⁉︎」
なんか、色々と本音ダダ漏れになってるけど大丈夫かしら⁉︎
あの、一応リリィもウチの侍女もいるのよ⁉︎
王太子としての尊厳が崩壊してない⁉︎
「どうせ王太子としての尊厳がとか思ってるんだろうが、リジーの前じゃ俺はただの男だからな。というか、そこら辺の男よりせー……」
「ねぇ、ここには一応リリィさんも侍女もいるの‼︎そういう生々しいのは2人の時だけにして‼︎」
「分かった。後で言葉責めしてやるよ」
「そういうことじゃないわっっっ‼︎」
思わず周りを確認すれば、壁同化していた侍女達も顔を赤くしているし……。
……………あぁ……なんか……色々と失った気がするわ。
「という訳で、俺がお前を好きになることなんかねぇーよ」
「………………………」
なんか、こう……グランに宣言されて、リリィは絶望したような顔になる。
いや……アレはグランの王子様像が崩壊して、まさかこんな人だと思ってなかった……って顔ね。
………………グランは、王太子として相応しい力量を持つようになったけど、本質はこういう人間なのよ。
「………グラン……口調が雑に……」
「…………ごほんっ」
私が注意すると、グランはワザとらしく咳払いをする。
そして、にっこりと微笑んだわ。
「という訳で……次にリジーに迷惑かけてみろ。生きていることを後悔させてやる」
「言葉がアウトだわ。完全に王太子じゃなくて、魔王だわ」
「仕方ないだろ。こんなどうでもいい女が、俺のリジーに宣戦布告なんてしてんだから。余計な気を持たせない方が今後のためだから、徹底的に潰す。俺が愛するのはリジーだけなんだから……そんな俺らを邪魔するなら………」
グランは目を伏せて……ゆっくりと目を開く。
「殺すのも、厭わない」
ぞわりっ……。
「ひぃっ⁉︎」
リリィが勢いよく倒れる。
背筋が凍りそうなほどに鋭い殺気。
私に向けられた訳じゃないのに、ここまでの圧を感じるってことは……。
バタバタバタンッ………‼︎
「「…………………………」」
グランの圧が霧散すると同時に彼の頭に、ハリセンを叩き込む。
バチーッン‼︎と良い音がしたけれど、グランは痛がる素振りすらしない。
「…………………グーーラーーンーー?」
「…………やり過ぎました」
「やり過ぎどころじゃないわよねぇ……?」
殺気を向けられたリリィだけじゃなくて、耐性のない侍女達まで倒れちゃったじゃない。
私はジトーッとグランを睨む。
「………………えっと……ごめんな?」
グランはテヘッ☆とあざとらしく笑う。
イケメンがやると、無駄に様になるけど……今回ばかりな駄目だと思うわ。
「グラン。お仕置きとして一ヶ月、エッチなことはなしよ」
「え〝っ⁉︎」
「私の侍女を気絶させたんだから、それぐらい反省してもらわないとね」
こうして、私はグランを無理やり特別寮に転移で送り返し、侍女達を魔法でベッドに寝かせたり……リリィを自室に転移させたりして、後始末をした。
翌日ーー。
女子寮まで迎えにきたグランは、捨てられた子犬みたいになっていた。
「リジー……」
「………………」
えぇ、昨夜は初めて自室で寝たわ。
グランが色々とやり過ぎたからね。
まぁ、リリィにグランの本性を言いふらされたとしても……グランの外面の良さのおかげで、特に問題もないでしょうけど。
まぁ、とにかく。
今回はこのまま反省して頂きましょう。
「ひっ」
………ん?
くるりと振り返れば、そこには顔面蒼白のリリィ。
グランが子犬モードから冷酷モードの冷たさを纏い始める。
でも………。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ‼︎」
リリィはグランを見た瞬間、叫び頭を抱えて地面に丸まる。
………………え?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、殺さないで下さいぃぃぃぃ……」
「「………………」」
…………あぁ、グランの殺気の効果で、絶対にトラウマ化してるわぁ……。
多分……この反応を見るに、完全にグランルートフラグ折ったわよね?
でも……流石にこれは………。
「………………グラン……」
「まぁ、害はないし放置でいいんじゃないか?」
「いや、よくないわよ。貴方、やっぱりスイレンさんより魔王らしいわね」
サラッと酷いことを言うグランを無視して、私はリリィの肩に手を添えて優しく微笑む。
流石にこんなに怖がってちゃ同情してしまうわ。
「大丈夫よ。グランは私に害がない限りは殺さないから」
「…………ひっ⁉︎」
「だから、そう簡単には殺さないから安心しなさい。そんなに怖がらなくても大丈夫。ほら、白い制服が汚れてしまうわ」
リリィを立たせて、汚れを叩いて落としてあげる。
ビクビクと震えていて……なんか可哀想だわ……。
まぁ、ある意味人外レベルの殺気を向けられたら……精神がまだマトモなだけ上々よね。
「グラン。流石にこれはやり過ぎだから、今日は近づくの禁止ね」
「えっ⁉︎なんでっ⁉︎」
「………可哀想過ぎだから。今日だけは一緒にいてあげるわ、リリィさん」
「…………フリージア……様……」
ウルウルと潤む視線(グランは今日近づけないことへの絶望、リリィの方はよく分からない)で見つめられるけど、それを無視して私はリリィを連れて歩き出す。
結論ー。
なんかたった1日でお姉様(リリィの方が歳上なのに)と慕われるようになったわ。
………………いや、どうしてこうなったのかしら?
早々に聖女のターンは終了ですwww




