第79話 第1回ダンジョンアタック〜マリカ&セーゲル(9)〜
めちゃんこ説明会。
それではよろしくどうぞ!
さて。
こんな時にする話ではないでしょうけれど……ここで〝属性の本質〟について説明しましょうか。
このことに関してきちんと説明するとなると、専門用語ばかりでなってしまう……。だから今回は、あたくしなりの解釈で解説させてもらうわね。
ずばりーー〝属性の本質〟とは、各属性の本当の効果を指し示すようなモノだと……あたくしは思っているわ。
例えば、火属性の魔法。
火魔法って言われて思い浮かべるのは、敵を火で燃やす魔法のことでしょうね。でも、火属性の本当の効果は……《活性》。
体温が下がると、身体って動きにくくなるわよね?
でも、体温が高いと身体が上手く動かないなんてことは起きない。
風邪を引いた時、熱が出るでしょう?
熱ってね?免疫という風邪に対する抵抗力を強める効果があるから、熱が出た方が早く風邪が治るようになるのよ。
それに何かを燃やすと熱が生じる。焚き火や料理の時、火がついていると熱いって思ったことないかしら?その熱は、エネルギーの一種なの。
火魔法もそれと同じ。魔力を燃やして火を起こす。その時に生じたエネルギーを利用して、身体強化や攻撃力の上昇をさせる。つまりは活性作用を齎す。
だから、火属性の本来の効果は《活性》と言う訳。
水属性は本質は、《鎮静》。
生き物は海から生まれたと言われるだけあって……水の流れる音なんかを聞くとリラックスできたり、心が落ち着いたりするわよね。
水属性の回復魔法における鎮痛作用が高いのは、本質が《鎮静》ーー鎮め、穏やかにすることに特化しているからだと、あたくしは考えているわ。
土属性は《不動》。
貴金属や金剛石を考えれば分かるかしら?あまりにも長い年月が経てば劣化するけれど……重い鉄なんかは、重ければ重いほど動かせないわよね。金剛石なんか、壊れにくいものよね。だから、《不動》。動かせなくなるほどに頑丈なモノという本質。
土属性が得意な人の防御力が高いのは、これが理由だったりするそうよ。
風属性は《流動》。
これは簡単。風は掴めず、目に見えず。けれどいつも変わらず、あたくし達の周りに吹いている。動き続けている。時に強く、時に弱く。いついかなる時も変化し続ける。だからこそ、風属性の魔法の扱いは難しいとされている。
この属性を扱う者に天才肌、感覚派が多いのは風に似て気まぐれだからだったりするのかもしれないわね?
光属性は《進化》で、闇属性は《退化》。
この二つは少し特殊。元々、この属性を使える存在自体が少ないから、具体例が説明しにくいというのと。永生きしているあたくしでもこの属性に関しては理解しきっていないから……他人からの受け売りで説明してしまうけれど。
命を救う魔法が多い光と、命を奪う魔法が多い闇。紡ぐ光と、解く闇。命を後世へと繋ぐ光と、命を今世で絶つ闇。魂を洗練させる光と、魂を劣化させる闇。だから《進化》と《退化》なのだと……そう、あたくしの友は語っていたわ。
…………概念的な要素が強い、ということなのかしらね?
雷属性は《加速》。
雷をイメージして頂戴。音よりも先に、光が走るでしょう?だから速いーー……。
雷属性の説明に関しては、それだけよ。それしかないわ。
あ。使い方が上手い人は脳に雷を走らせて、思考を倍の速さにしたりとかできるんだとか。失敗したらどうなるかは……まぁ、それは語らずとも、よね?
無属性は《多様》。
この〝無〟は、何もないという意味ではない。本当の意味は、〝無限〟という意味。凡ゆる可能性を内包した属性。だから、《多様》ーーたくさんの、種類が豊富な魔法があるという本質を有する。
後……基本の属性に当て嵌まらないモノは全部、無属性という分類になっているわね。実のところ、グランヒルト様が使ってる時空魔法(だったかしら?)も、一応は無属性扱いだったりするわ。
そして最後。あたくしが得意とする氷属性。
この属性の本質は……《停滞》。
さきほどの火属性の例をこちらでも使いましょう。寒いと身体が動きにくくなると言ったでしょう?
寒さは血の巡りを悪くして、滞らせることができる。
氷はいつか溶けるけれど。それでも、凍らせたモノは悪くなりにくいし。寒いところに置いておけば、遥か昔のモノを現代まで維持することができる。氷土なんかが良い例ね。つまりは、壊れるのを遅らせることができる。
だから、氷属性の本質は《停滞》であるの。
あたくしが発動させた《領域支配・氷雪華域》。これはまさにその《停滞》の性質が生きている魔法よ。
この魔法は、発動域にいる敵の動きを鈍らせ、敵の攻撃速度を遅らせる効果を持つ。
そしてそれは……王女達にも、大きな影響を及ぼしていた。
「オラァッ‼︎」
セーゲルが大剣を振り回す。それは、重いそれを振り回しているとは思えない速さで。槍を振るう第2王女が苦しそうな顔で、舌打ちを零した。
『チッ……‼︎舐めるっ、なぁっ‼︎』
『ツヴァイ‼︎』
『キュイ‼︎』
「貴女達の相手はあたくしよ。向こうには手を出させないわ」
あたくしは割り込もうとした2人を牽制するため、氷の柱を何本も叩きつける。
同時に、追加で魔法を発動。その様は、まるで氷の波のよう。あたくしの魔法は怒涛と勢いで、敵へと迫った。
『ギャァッ⁉︎』
第1王女は上手く回避したけれど、第3王女はモロに食らう。
ゴロゴロッと姉姫から離れた場所に転がって行く第3王女を追いかけるように、あたくしは距離を詰める。
そして、痛みに呻く第3王女の胴体を……氷で作り上げた刃で貫いて、トドメを刺したわ。
『ギャァァァァァッ⁉︎⁉︎』
『ドライッ‼︎』
サァァァア……。
先に脱落した第4王女のように、砂となって消えていく。
パキンッと割れて砕けた氷の刃。改めて杖を構えたあたくしに、第1王女が忌々しそうな視線を向けてきた。
『…………チッ。実力を、隠していたのですか』
「あら……当然でしょう?だって貴女達は先の連戦でこちらの戦術を学習するそうですもの」
そう……あの連戦で力を温存していたのは、まさにこのため。
こちらの実力を敵に把握されないため。そして、それをこの戦いに生かさせないため。
「であれば実力を隠すのもまた一つの戦術。お勉強になったかしら?お・嬢・さ・ん?」
『…………えぇ。けれど、我々の方もこの程度だと。そう思わないでもらいたいものです』
「まさか‼︎そんなこと、微塵も思っていないわ‼︎」
『…………は?』
あたくしの返答を聞いて、第1王女が固まる。
何を言っているのか分からない、と言わんばかりの表情をする彼女に。あたくしは口角を持ち上げながら、告げた。
『驕ったりなんかしないわ。油断したりなんかしないわ。えぇ、だって……敵は完膚なきまでに倒さなくては。徹底的に潰さなくては。そうしなければ、こちらがやられてしまうもの。痛い目を見るもの。生かしておけば、また碌でもないことをするもの。だから……あたくしは、本気で貴方を殺すわ』
何故、あたくしが驕りながら戦うと思ったのかしら?強者ゆえに傲慢であると思ったの?
そんな訳ないでしょう。あたくしは《境界の魔女姫》。
ーー驕った愚者どもを殺して、生き延びた女よ。
誰よりも驕ることの愚かさを知っているあたくしが、手抜きなんてするはずがないでしょう。
「手加減なんてしない。弱い敵でも全力で、あたくしの全てを持って殺す」
空気中に舞っていた氷の粒が集まって、あたくしを包み込む。
キラキラと輝く、酷く冷たいドレスを纏いながら、あたくしはうっそりと笑う。
「《氷装・永久凍土の魔女姫ーーさぁ、目覚めなさい》」
魔力を乗せた声に呼応して、あたくしの周りに氷の獣達が出現した。
1体の熊、6体の狐、4体の狼、そして……2体の山雀。魔女姫たるあたくしの可愛い僕達。
吹き荒れる氷風の中、第1王女が言葉を失う。
『…………ア』
第1王女の身体が、尾の方から凍っていった。
逃げることなんかできない。いいえ、逃さない。
「準備はいいかしら?《さぁ、喰らいなさい》‼︎」
獣達が王女に襲い掛かる。
凍った身体を叩き砕いて、欠片を噛み砕いて、擦り潰し、啄む。
バキバキと第1王女だったモノが、喰われていく。それはまさに、一方的な……蹂躙。
あたくしはそれを、冷め切った目で見つめ続けたわ。
「ね?貴女を舐めてかかるなんて真似、しなかったでしょう?全力で殺ッたわ」
僕達が敵を喰らい切ったところで、あたくしは氷装の魔法を解く。同時に砕け散る獣達。
短時間での発動でありながら、かなりの魔力量を消耗してしまったあたくしは杖を支えに、その場で大きく息を吐いたわ。
「…………ふぅ。初めて実戦で使ったけれど……この魔法はまだまだ、改良が必要そうね」
今使った魔法はフリージアさんの《雷装》を参考にした攻撃系強化魔法。自身の周りに氷の領域を生み出して、その領域内の敵を凍らせて行動不能にし、その間に僕の獣達に襲わせるーー……という魔法。
《雷装》を基本に氷属性に置換したのだけど……《雷装》とは全然違う効果ーー多分、属性の本質が関係しているんだと思うわーーになったから、機会があれば実際に使って、どれくらいの効果を発揮するのか正確に観測してみたいと思っていたの。そう……敵の行動を阻害する魔法であるからこそ、回避能力が高い敵を標的にしてね。
流石に検証段階の魔法を女王にぶつかる気はなかったわ。だって、王女よりも女王の方が強いのだし。もし上手くいかなかったら、戦闘に支障が出てしまうもの。そんな危険なこと、できるはずがない。
だから、第1王女ぐらいが丁度良かったの。あの王女達の中で1番回避能力が高くて、標的とする強さも想定していたぐらいだったからね。
次、丁度良い敵に出会えるか分からなかったことですし。早速試しに使ってたけれど……結果は上々と言えるでしょう。それなりに強かった第1王女を行動不能にすることができたのですから。
けれど、思ったよりも魔力を消費してしまった……。
やっぱり、女王戦で使わなくて良かったわ。もし魔力が待たなくて《氷装》が強制解除になってしまったら……きっとあたくしは、疲労から直ぐには動けなくて。その隙に敵に攻撃させる機会を与えてしまうになっていたでしょうから。本当、第1王女で試してみて正解だったわね。
………また魔力消費量の調整をして。改めて、実験してみないと。
「…………セーゲルの方はどうなったかしら?」
ひとまず……新しい魔法のことは置いておいて、セーゲルの方に意識を向ける。
……あら。どうやら彼の方も丁度決着がつくところのよう。
「オラァァッ‼︎‼︎」
砕けた欠片、割れた床。激しい攻防があったであろうことが分かるその場所で、セーゲルは沢山の血を撒き散らしながら、重心を乗せた攻撃を振り下ろす。
『……はぁ、はぁ、はぁ……‼︎………申し訳、ありませぬ……。陛、下』
セーゲルの重い攻撃を防いでいた所為で想定以上に体力を削ったのであろう第2王女が動かぬまま謝罪の言葉を口にする。
それでも彼は躊躇うこともなく、敵の胴体を真っ二つに斬り裂いたわ。
『っ……‼︎』
悔しそうに顔を歪めながら光の粒へと変わっていく第2王女。
荒い息を吐くセーゲルは「ゴホゴホッ」と苦しそうな咳をしながら、あたくしの方を振り向いた。
「ゴボッ……マリカ」
「大丈夫よ。そちらは」
「問題、ナイ」
…………やっぱり。発音が、先ほどと同じようにおかしくなっているわね。
よく見れば毛先が赤くなっているし……。でも、連戦時のように目にはっきりと分かる変化をしている感じではない。
…………何がきっかけでこうなるのか……。戦闘欲の、昂り?けれどそれなら、今までの戦闘でもこの変化が見られなければおかしい。
何が、セーゲルに影響を与えて……。
『…………全員、倒されたか』
「「‼︎」」
聞こえた声に、あたくしはここがダンジョン内であることを思い出す。
いけない。今は戦闘に集中しなくては。
あたくしは、女王がいる玉座に視線を向ける。
悲しげに、王女達が消えたところを見つめた彼女は大きな溜息を吐くと、今まで座していた王座からゆっくりと立ち上がった。
『我が娘らを倒した汝らに敬意を払い、吾自ら相手をしてやろう』
女王の手に潮の渦が集まり、それは波打った海色の剣へと変わる。
彼女は剣先を一切ブレさせることなく堂々と構え、さっきとは打って変わって獰猛な笑みを浮かべてみせた。
『敵対者どもよ、覚悟は良いか?さぁ‼︎最後の戦いと、参ろうぞ‼︎』




