第78話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(8)〜
別名・腹ペコ聖女(仮)の圧力
よろしくねっ( ・∇・)ノ
ーー他の2ルートの皆さん。今、どんぐらい攻略が進んでいますか?
今、あたし達《海底大海原》ルートは……。
海底ダンジョンの癖に……。
船で空を飛ぶという、ちょっと意味が分からない状況に陥ってます。
…………………なんで……こんなことになってんだろうね……?
『ひゃっほー‼︎ひっさしぶりの空の旅はサイコォー‼︎』
船の側面に出現した天使を思わせる翼を羽ばたかせながら空を進むサンタ・ポラリス号。
船の進路を決める舵輪を片手に、ノルは〝アッハハハ〜〟と滅茶苦茶元気良く笑っている。
甲板の隅にいるあたしとスイレン陛下はそんな彼を見て、なんともいえない顔だ。
だってねぇ……?この状況でそんな風に笑えるはずがないだろう……?
でも、状況を察されてないらしい空気が読めないノルは……暢気な様子で、船員達に声をかけていた。
『お前らも空の旅は最高だと思わないか⁉︎』
『そっすねー』
『良かったっすねー』
『…………ちょっとー。ちょっとちょっとちょっとー⁉︎なんか反応が雑じゃない⁉︎お前さんら‼︎もっと嬉しそうにしなさいよー‼︎』
『『『は??』』』
ーーピタリッ。
あっちこっち慌ただしく駆け回っていた船員達が立ち止まる。
……あぁ、この馬鹿……。やっちまったね。
そう思った時には、船員達は……。
般若のような顔で、思いっきり叫んでいた。
『『『当然でしょうがっ‼︎久しぶりの飛空ですよ⁉︎神経使ってんだわっ‼︎舵の前に突っ立ってるだけのアンタは黙ってろっ‼︎後、こうしてまた旅に出れたのはアンタのお陰じゃないんだから、黙ってろっ‼︎』』』
『はいっ、すみませんっ‼︎』
怒鳴られたノルはピャッとなりながら謝罪する。
チッと舌打ちを零した船員達は直ぐに各々の仕事へと戻った。
『う、うぅ……怒られたぁ……』
怒られた当人はしゃがみ込んで、床を指先で突っつきながら半泣きだ。
でも、怒られるのも当然だと思うよ。船員さん達は船の様子をチェックしたり、武器とか大砲のメンテナンスをしたりって忙しくしてるんだから。
ノルは舵輪の前にはいるけど、別に操縦してる訳じゃないらしい。つまり、戦力外ってことだ。
ならあたし達みたいに(※あたしらも戦力外通告された。まぁ、海賊船?飛行船?に関しちゃ素人だから、当然だと思う)、邪魔にならないように隅にいれば良いのに……。本当、コイツは船長らしくないねぇ。残念幽霊だ。
『おい、お前ら。もうそろそろ着くぞ』
「あ、はーー……はっ⁉︎⁉︎」
「⁉︎⁉︎お主は‼︎」
声をかけられて顔を上げる。んで、驚いた。滅茶苦茶ビックリした。
だって、さっきまで戦ってた(陛下が一方的に蹂躙した)パドリックが心底嫌そ〜な顔をしながら、立っていたんだから。
「アンタ、生きてたんだ⁉︎」
『生きてるかどーかで答えりゃ幽霊だから死んでるけど?』
違う‼︎そうだけどそうじゃない‼︎
あたしが聞こうとしたのはそーゆーことじゃない‼︎
『まぁ、オタクらが聞きたいことは違うって分かってんぜ。確かにオレも、さっきの戦闘で魔物としてブッ殺されたと思ったんだけどな?実のところ、他の奴らと同じく浄化されたみたいだぜ』
「そう、だったんだ……」
『おーう。でも、下っ端船員として復活したからか‼︎滅茶苦茶弱くなってるし‼︎他の船員達に混ざることになったから、めっちゃドヤされまくってるけどな‼︎本当、想定外だわっっ‼︎』
忌々しそうに叫ぶパドリックは、忙しそうにしている他の船員から『サボってんじゃねーぞ、パド‼︎』とか『説明に時間かけてねぇーで早く持ち場に戻れ‼︎』とかドヤされている。
彼は忌々しそうな溜息を零してから、あたし達に本題を告げた。
『もう直ぐ目的地ーー《大海原の果て》に到着します。けど、真の意味で果てに辿り着くには、《守り手》を倒さなくちゃーいけない。とゆー訳で、準備しとけよ』
え、ちょ、ちょっと待て⁉︎
急に重要な情報ぶっ込んできてないかい⁉︎
《大海原の果て》⁉︎《守り手》⁉︎一体、どういうことでーー……。
『‼︎‼︎全員、戦闘準備ぃ‼︎《守り手》が来るぞぉっ‼︎』
「「⁉︎⁉︎」」
『『『アイアイサー‼︎』』』
唐突に響き渡ったノルの真剣な声。
それと同時に船の周りに、下から迫り上がるかのように現れた赤い柱。
いや……違う。これはっ……‼︎
『ーーキュルルルルルル……‼︎』
ーーざっぱぁぁぁんっ‼︎
「「…………」」
あたしとスイレン陛下は言葉を失った。
船の前方。下の方ーー海から顔を出したのは……。
超巨大な……。
た、蛸ぉ……⁉︎⁉︎
『《守り手》が出たぞー‼︎大砲よぉうい‼︎』
『完了‼︎』
『打てぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎』
ーーバァァァン‼︎
『ギョェェェェェェッ‼︎』
蛸の胴体に向けて放たれた大砲の弾。
当たった瞬間に爆発して、蛸が悲鳴のような声をあげながら海へと身体を潜らせていく。
でも、蛸の足8本は未だに船を囲うように蠢いている。
ってことはまだっ、戦闘は終わってない‼︎
「リリィ嬢っ‼︎」
「あぁ、分かってるよ‼︎」
あたしはほぼ役に立たない強化の魔法を発動させる。
スイレン陛下は滑らかな動作で鞘から抜刀して、そのまま蛸足を輪切りにしようとする。
……………が。
「なっ⁉︎」
ーーぽよぉぉんっ。
そんな阿呆っぽい効果音と共に弾かれた陛下の刀。
まさかこんな結果になるとは思っていなかったらしい陛下は、思わず固まってしまう。でも、そんな彼をパドリックが『突っ立ってんじゃねーよ‼︎』と怒鳴りながら、後ろに下がらせた。
『何しとんじゃ、馬鹿っ‼︎《守り手》はその身にうっすい防御膜を張ってるから、最初は斬攻撃が効かねぇーんだよ‼︎さっき説明しただろ⁉︎』
…………は??
「してないよっ‼︎」
「しとらんわっ‼︎」
『あ……あれぇ……?説明して……なかった、か……?』
気まずそうな顔になるパドリックに、ジト目になるあたし達。
馬鹿はかなり焦りながら、話を誤魔化した。
『えっと……とにかく‼︎効くのは、打撃と爆発‼︎つまりは大砲‼︎ある程度体力が減ったらその膜が失くなっから、そっからがお前らの本番だ‼︎それまではこっちが体力を削っといてやっから、お前らは暫く大人しくしとけよ‼︎』
そう言って慌ててその場から逃げて先頭に戻るパドリック。
その逃げた後ろ姿を見送ったあたし達は溜息を零しながら、皆の邪魔にならないように甲板の隅に戻る。
響く大砲の爆発音を聞きながら、船員達の戦いを見守る。
…………なんだろうねぇ……?本当は結構危機的な状況なはずなんだけど……無駄にほのぼのしちまってるよ、今。
「………リリィ嬢」
「なんだい、陛下」
「ふと思ったのだが」
「…………ん?」
あたしは隣の陛下を見る。
当の本人は攻撃されている《守り手》という名の巨大蛸から目を離さずに……なんてことないかのような調子で、語った。
「今まで倒した敵はみな、全てが美味い料理をドロップしただろう?あ、勿論この船にいたグール達は除くが」
「あー……そうだねぇ。それがどうしたんだい?」
「…………あの蛸はどんな料理を落とすのだろうな……?」
「………………」
「あれほど大きいのだから、沢山ドロップしそうでは……?」
その言葉で、あたしの頭の中に、沢山の蛸料理が、思い浮かぶ。
「……………………(じゅるりっ)」
それと同時に……あたしの口の中に大量の涎が、満ち溢れた。
あぁ……あぁぁぁあっ、もう‼︎なんでそんなこと言っちまうんだよ、陛下‼︎
そんなこと言われたら‼︎お腹が減るし、何がドロップするのかっ……気になって気になって‼︎このまま待っていられらなくなるじゃないか‼︎
「ノォォォォォル‼︎」
『うっひゃぁ⁉︎な、なんよ⁉︎お嬢ちゃん⁉︎』
攻撃の指示を出していたノルはあたしの声かけにビビった様子で振り向く。
そして、見たことを後悔したと言わんばかりに、思いっきり頬を引き攣らせた。
分かるよ。なんせ……自分でも結構、腹を空かせた肉食獣みたいな顔をしてる気がしたからね。
「早くソイツの体力を削りな。あたし達のことを美味い飯が‼︎待ってるんだからねっ‼︎」
『…………えっ⁉︎そんなこと言われても無ーー』
「無理とか出来ないんじゃないんだ。いいかい、ノル……………つべこべ言わずに、とっととやれ」
ーーにっこり。
後にスイレン陛下は、フリージア様達に言ったらしい。
〝リリィ嬢の食欲は、時に戦況すらも変えてしまうのだ……〟と。(※なんともいえない顔)
『ひょぇえぇぇぇぇえっ‼︎お、お、お前らー‼︎全力全霊っ、本気出せー‼︎‼︎』
『『『アイアイサー⁉︎』』』
かくして……あたしに圧をかけられた(脅された)ノル海賊団一行は、更なる猛攻に出るのであった。
その頃のリジー達。
「ーー(ぴこーんっ‼︎)ハッ‼︎たこ焼きパーティーの気配を察知したわ⁉︎」
「違うルートでな」
「………………。本当ハズレ過ぎるわよ、このコースゥゥゥゥゥゥ‼︎‼︎」




