第5話 幼馴染十字ゲーム大会 後
高校一年生の春、同じマンションに住んでいる幼馴染達と集まってゲーム大会を開催していた。
今回対決している勝負の内容は、キャンプの焚き火で焼いた串焼きの合計点数だ。
トップバッターの詩央がいきなり490点をたたき出しダントツトップに、二番目の明は苦手なジャンルだったため393点で400点に届かず終い。
その次に俺が481点で2位となったが、その後すぐ瞳ちゃんが485点を出したため2位を取られてしまい現在3位。
残るは優花、悟、陽姉、兄貴の4人だけとなった。
5番目は悟だが右には陽姉が座り、左にはライバル視してる兄貴が座っているという地獄絵図。
一応、いつものゲームスタイル、前かがみにはなってるから集中はしているようだ。
だが、明程じゃないが悟も苦手なジャンルだからどうなるか、見ものである。
悩んだ悟が選んだ食材はマシュマロ、鳥、チーズ、厚切りベーコン、ウインナーの5品。
厚切りベーコンは色のせいか、夜の焚き火の光で見ると少々見づらく、気が付いたら焦げ付いてるという上級者向けの食材だ。
だがその代わり、80点以上を出せばボーナス点が入るという特殊食材枠でもある。
悟はボーナス点を貰ってでも、最下位を回避するのが目的だろう。
特殊食材は他にも、じゃがバターや鰻、サツマイモ等が対象だ。
『結果発表! マシュマロ 92点、厚切りベーコン 81点+5点、チーズ 90点、ウインナー 84点、鳥 86点
合計 438点』
「おぉ! 悟君400点超えた!」
悟の隣に座っていた陽姉が悟に抱き着く。
「くっ付くな、離れろ! というか当たってるからマジで離れろ!」
悟は鬱陶しそうに陽姉の肩を押して、引き剥がそうとしていた。
「えー、私から当ててるんだから気にせず堪能しとけ、Eカップだぞ」
「なんの自慢か知らんけど、要らないからそういうの!」
悟と陽姉のやり取りに、その場に居た他のメンバーが笑い出す。
「真央、この痴女を剥がしてくれ。力強くて全然離れん」
「バカヂカラなんて、可愛いお姉さんに言ったらダメなんだぞ?」
「どこが可愛いお姉さんだよ!」
「まぁまぁ悟、落ち着けよ。陽姉に抱き着かれて内心嬉しいんだろ?」
と、軽いジャブで煽る。
「んなわけねぇだろ! 俺はどっちかと言うと抱きしめたい派だ!」
悟は謎の反論をしてきた。
悟はご覧の通りツンデレだが、稀に態度はツンだが言ってることはデレという特殊ツンデレを出すことがある。
本人は違うと言っているが、他のメンバーは周知の事実だ。
その後満足したのか陽姉が悟から離れると、悟はサッと立ち上がり陽姉にコントローラーを渡してベランダに出ていった。
「クールダウンしに行ったな」
「そうですね、お兄ちゃん恋愛に関してはウブですから」
瞳ちゃんが隣に来て、笑顔で話す。
「おい悟が400点超えたら、俺が最下位確定じゃねぇか!」
明が頭を抱えながら騒ぎ出す。
「逆に考えろ、次回は自分がジャンルを決めるという事を」
俺は明の肩に手を起き、謎のフォローを入れる。
「決めるって言ったってルーレットじゃねぇか!」
と、明から鋭いツッコミが帰ってきた。
それから陽姉が479点と、兄貴が452点を出し優花の番に回る。
優花は両親が海外出張で居ないため、中学生の頃から一人暮らし状態だが、料理の腕は詩央の次に高い。
そんな優花が選んだのは鳥、ウインナー、マシュマロ、チーズ、厚切りベーコンだった。
選んだ食材でゲームを進めていく。
「優花ちゃん、上げるタイミング完璧だね。もしかしたら私負けるかも」
選んだ順に焼いていく優花は、串を上げるタイミングが良いらしく、隣で見ていた詩央が呟いた。
『結果発表! 鳥 97点、ウインナー 98点、マシュマロ 99点、チーズ 97点、厚切りベーコン 100+20点
合計511点!』
「やった! 100点出たー!」
優花がソファから飛び上がって喜ぶ。
「すげぇな、優花。1位だぜ!?」
ソファの後ろで見ていた俺は驚きが隠せなかった。
喜んでいた優花がハッと我に返り、再びソファに座る。
「あ、ありがとう、真央君」
頑張ってクールに戻るが、後ろから見てもわかるぐらい耳を赤くしていた。
「凄いよ優花ちゃん!」
陽姉が興奮してソファ越しに後ろから優花を抱き締める。
「うわ、ちょっと陽歌ちゃん。痛いよ」
優花は陽姉の手首をぺちぺち叩く。
「あぁ、ごめんごめん」
陽姉が離れると、詩央が優花に近付いた。
「優花ちゃん、完敗です。厚切りベーコンで満点なんて取られたらオール100点の特別ボーナスがない限り勝てません。もしかして練習しました?」
「ありがとう、詩央ちゃん。練習した訳ではないのだけど、最近厚切りベーコンを焼いて食べる機会があったから、その時の感覚でやったら100点が出てしまったの」
「そうだったんですね。悔しいですが、次は絶対に負けません」
「えぇ、またやりましょう」
優花と詩央が握手をしていると、兄貴がテレビの前に立った。
「えー、という訳で第一回ゲーム大会の優勝者は優花ちゃんに決定! 改めて優花ちゃん優勝おめでとう!」
「ありがとうございます」
優花は立ち上がり、深々と頭を下げる。
「優勝賞品の希望はまたチャットの方に送っといてくれ、いつでもいいから」
「わかりました」
「それでは新年度第一回ゲーム大会を終了します。お疲れ様でした」
「「「「「「「お疲れ様でした!」」」」」」」
ゲーム大会が無事に終わり、次は夕食の時間だ。
夕食は毎回優勝者が決めている。
「優花ちゃん、今夜は何が食べたい?」
「そうですね……前は肉だったので今日は魚がいいですね」
「OK、なら回転寿司に行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
優花が頭を下げる。
夕食代は一時的に兄貴と陽姉が支払いをしているが、後日両親から返してもらっているので特に支障はない。
ただし、ゲーム大会やお泊まり会の時だけのため単に夕食を食べに行くだけでは出ないのが難点だ。
回転寿司では、8人全員が同じテーブルには着けないため男女で別れることが多い。
ごく稀に陽姉の提案で男女混合になる時もあるが、今回は男女別で席も離れてしまった。
女子組は分からないが、男子組は明を除いた3人が運動部で大食いのため、レーンを流れてる寿司や注文した寿司で着席5分でテーブルがいっぱいになる。
「真央、醤油を取ってくれ」
「はい。悟も要るだろ、はいコレ」
「サンキュ」
ほとんど話す事もなく黙々と食べ続けた男子組のテーブルは、食べ終わった皿が机を侵略仕掛けていた。
10枚毎に並べられた皿のタワーは、今兄貴が食べている分を重ねれば、6本目が完成だ。
夕食後は一度解散して、お風呂などを済ませた後に男子は十塚宅へ、女子は左榎宅にそれぞれ集まる。
だが、兄貴から「今日、女子達は近くの銭湯に行くらしい」と言っていた。
家から徒歩10分ぐらいの所にそこそこ大きい銭湯があり、俺達も度々入りに行く所だ。
まぁそういう日もあるだろうと思っていたが、一つだけ不思議に思ったことがある。
それは、今回は優花も着いていくという点だ。
今まで何度か銭湯に行くことはあったが実は、優花は小学校以来一度も着いて行ってない。
でも今回は行くというので、何があったか分からないが妙に気になって兄貴に「俺達も行こう」と伝えたが。
兄貴は「優花ちゃんにも相談したいことがあるんだろう」と言われ、下手に首を突っ込まないようにとも言われた。
俺は小学校の頃、優花の事で首を突っ込みすぎて担任の先生に怒られた事がある。
あの時は力になりたくて、相談してくれない優花にしつこく迫ってしまった。
それ以来、優花が相談してくれたら絶対力になると決めて、何度か部活の件で力になっている。
俺にも相談してくれるのかな?と考えながらゆっくりお風呂に浸かり、修学旅行のようなお泊まり会の支度を始めたのだった。
今日のろじ裏
始業式が終わったあと詩央ちゃんと明先輩と一緒に帰ってきた後のことだ。
明先輩は普段見れない推しの日中配信を見るとかで、さっさと家に帰ってしまった。
詩央ちゃんは「明先輩らしい」ってにこやかに言っていたけど、多分ちょっと寂しかったと思う。
私が真央先輩にそんな対応されたら泣く自信がある、もちろん1人になってからだけどね。
「詩央ちゃん、すぐ着替えてそっち行くね」
「うん、わかった」
私は詩央ちゃんと別れた後すぐに手洗いうがい等を済ませて、床一面に衣類が散らかった足場のない自室に突撃した。
普段片付いてる人からすれば、これは明らかに散らかっている。
だが、私からすればこれは定位置なのだ。
少なくともベッドの上には何も置いてないし、壁には勉強机と、椅子を下げるスペース、下着類を入れるタンスもある。
クローゼットを開ければ季節外れの衣類がズラりと並んでいて、整理整頓は完璧だと思う。
なら床に置かれている衣類は何かと言うとそれは、今の季節に合う衣類だ。
今は4月だから薄手の長袖や上に羽織れるモノ、ジーンズやロングスカート等、春に着る物が種類ごとに固めて置いて……いや、落ちている。
これでも私はどこに何があるか、わかってるから困らない……が、同時に真央先輩には見せられない汚部屋だ。
自覚していてもそもそも衣類が多すぎて入り切らないのが原因だから、私のせいではない。
むしろこれらの衣類は全て、真央先輩を想ってのこと。
いつまでも真央先輩に可愛いって思われたい、私の努力の結果だ。
体型だってそう、同級生の男子に嫌な視線を向けられるけど、これも真央先輩を振り向かせるために、陽歌先輩を見習って作り上げたプロポーション。
頑張った甲斐もあって今はDもある、中学二年生にしては大きいと思う。
それを魅せる衣装選びだって抜かりない。
今日だって真央先輩に魅せたくて、詩央ちゃんとお揃いの逆サイドポニーテールにゴムの上から白色のシュシュを着けてアクセントバッチリ。
上も黒色で花柄を模したシースルーに、中を白のベアトップを着て胸元への視線誘導は完璧。
下だって黒のシフォンスカートに白のソックスを履いて、モノトーンコーデにしていた。
なのに、真央先輩とお昼ご飯の買い出しに行く時、優花先輩が自分の魅力を魅せてきたの。
見た瞬間、「私、この人に勝てるのかな」って思った。
だって同性の私から見ても優花先輩のファッションは、とても可愛くて、とても上品で、とても真央先輩好みだったの。
それでも、真央先輩を優花先輩に取らせたくないから、私は私の武器を使って必ず勝ち取るとそう決めていたのに。
夕食の後、優花先輩が突然「女の子だけで温泉に行きたいのだけれど」と提案してきた。
詩央ちゃんも陽歌も乗り気で、私もそれに便乗するしかない。
でも私は妙な胸騒ぎがしていた。
優花先輩は相談したいこともある、って言っていたから余計に。
私は胸の内側でモヤモヤしながら、一度マンションに戻ったのだった。




