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第2話 それぞれの新学期 北編

 同じマンションに住む幼馴染達と十字路で別れ、信号待ちしていた時、後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえる。


 「優花ちゃーん!!」

 名前を呼ばれた優花に釣られるように、一緒に後ろを振り返ると明るめの茶髪のツインテールが左右に揺れてこちらに向かって来ていた。


 両手を広げたまま優花に駆け寄ってくるツインテールを、優花はひらりと避ける。


 しかし、そのツインテールは足を止める様子はなく、危ないと思って腕を伸ばして捕まえる。


 「ちょっ、まだ赤信号!」

 「え、あ、ごめんごめん。ありがと十塚君」


 この子は桜葉雪穂。

 同じ中学に通っていた同級生で、同じ部活に所属していた優花の友達だ。

 優花繋がりで俺とも知り合い以上友達未満の関係である。


 「ちょっと優花ちゃん」

 「何かしら」


 「友達の抱擁を避けるなんて酷いじゃん!」

 「顔が鬱陶しかったから避けただけよ」


 優花は冷たくあしらうが、横顔から見えるその口元は口角がヒクヒクしていて、嬉しい感情を抑えているように見えた。


 「全く、十塚君が居なかったら道路に飛び出していたところだったよ!」

 「何を言ってるの? どうせ直前でUターンしたでしょ?」

 「あれ、バレてた?」


 「何年の付き合いだと思ってるの」

 「んーと、小6からだから……5年目だね」


 「……んふ、そういうことよ」

 「え、今優花ちゃん笑った?」


 「笑ってないわ、私が笑うはずないでしょ」

 瞬間的に笑いかけた優花は、必死に誤魔化そうとしている。


 「ホントかなー? 旦那さんはどう思いますか?」

 桜葉さんはそう言うと、俺の目の前にマイクを持つような手を近付けてきた。


 「え、えーと……」

 どうやって答えようか迷って、優花の方をチラッと見ると。

 彼女の周りの空気が冷え込むような雰囲気になっていた。


 「ゆ、優花は笑ってなかったよ」

 「むー、旦那さんがそう言うならそうなのか」


 「雪穂……真央君は旦那さんじゃないわよ」

 珍しく、超低音ボイスで話す優花に桜葉さんもびっくりしていた。

 「ごめんなさい……」


 「はぁ、まぁいいわよ。それよりほら、信号変わっちゃうし、いい加減渡りましょう」

 既に点滅し始めていた信号を急いで渡りきる。


 「しかし、朝から優花ちゃんと十塚君に会えたのは良かったなぁ」

 「あら、珍しいわね、寂しかったのかしら?」


 「それもあるけど、せっかく同じ高校入ったんだし仲良く登校できたらなって思ってたの。特に十塚君とはね」

 「え? 俺?」


 「うん、中学の時から十塚君良いなぁって思ってたし、部活中もカッコよくてずっと見てたら、顧問に怒られた事あるし」

 「そ、そうなんだ。ありがとう」

 桜葉がまさか俺の事見てたなんて、ちょっと嬉しいかも。


 優花ほどじゃないにしても、桜葉の可愛らしい雰囲気は同級生の間で人気だったもんな。


 太陽のように明るい桜葉と、月のように太陽と一緒に輝く優花、派閥が出来てたっけ。


 「へぇ……あなた真央君にそんな感情向けてたんだ、知らなかったわ」

 優花の言葉から冷気を感じる。


 「ゆ、優花ちゃんは幼馴染だから知らないかもしれないけど、女バスの間では十塚君人気だったんだよ? 何なら同じ体育館で部活してたバレー部やバドミントンにもファンの子居たし」

 「それは私も知ってるわ。幼馴染として嬉しかったけど……―――」

 「何か言いかけなかったか?」


 「いえ、何も」

 途中から声が小さくなり聞き取れなかった。



 それから歩くこと約15分、ようやく高校の校門が見えてくる。


 隣では優花と桜葉が仲良さそうに会話していて、微笑ましく思っていると、周りからひそひそと聞こえてきた。


 「お、おい見ろよあの2人」

 「え、すげぇレベル高ぇ」


 「隣に居る彼もカッコよくない?」

 「私声掛けに行ってこようかな」


 「あの黒髪の子タイプだわー」

 「俺はあの茶髪のこの方がいいな」


 優花は世界一可愛いし、桜葉も可愛らしいと思っているから、周りの声も当然だ。


 と、周りの声に同情していると突然声を掛けられた。

 「もしかしてお前、南中の十塚か?」


 そこに立っていたのは目付きの悪い男子生徒だ。

 「えっと君は……あ、高坂中の諸星」

 「そうだよ、県大会以来だな」


 「悪い2人共先に行っててくれ」

 「ええ、わかったわ」


 「また後でね、十塚くーん」

 2人を見送り、諸星の方に視線を戻す。


 「全国優勝者がこんな所に来るなんてな……これは俺も負けてらんねぇな」

 「同じ制服着てるなら、俺達は仲間じゃないのか?」


 「仲間だろうと敵だろうと、俺は負けねぇよ」

 「そうか」


 諸星は他にも上手かったヤツが居ないか探すと言って、校門に残ったため、俺は先に行かせた2人を追いかけた。


 下駄箱前に貼り出された割り振り表で、自分のクラスを確認して校舎に入る。


 「えっと、俺のクラスは3組だから、ここか」

 教室に入ると、既に何人か来ておりグループを形成していた。


 同じ中学か、それとも波長の合った相手か分からないが。


 その中にただ一人窓際の席に座り、黄昏ている茶髪ツインテールの姿が見える。

 「桜葉?」

 「あ、十塚君ようやく来た! 同じクラスだからよろしくね」


 突然席を立ち、抱きついてくる。


 当たりを見回しても優花の姿が見えない。

 どうやら、優花は別のクラスに割り振られたようだ。


 それよりも、周りの生徒からの視線を浴びて恥ずかしい。


 「ちょ、桜葉、離れて」

 「えー、じゃあ。私の事も下の名前で呼んで欲しいな。雪穂って呼んで?」


 「急にどうして!?」

 「さっきも言ったでしょ? 十塚君いや真央君の事良いなぁって思ってるって。だから少しでも仲良くなりたいの」


 いきなり抱きつかれてびっくりしたし、それよりお腹に柔らかいものが当たってるし、平気なのか桜葉は。


 「……わかったよ、雪穂……ちゃん?」

 「十塚君がちゃんって言うとなんか変」

 桜葉はくっ付いたままこちらを見上げ、目を細める。


 「じゃあ、雪穂……離れてください」

 「はーい!」


 そう言うと雪穂はパッと離れる。


 お腹辺りに当たっていた柔らかいものも感触がまだ残っている。

 桜葉は陽姉と同じか少し小さいぐらいで、立派なものを持っていた。


 その後、感触が完全に消えるまで、悶々とした気持ちで入学式に望んだ。


 入学式が終わり帰り支度をしているところに、再び雪穂がやってきた。


 「真央君、優花ちゃん捕まえて一緒に帰ろ?」

 「あ、あぁ。いいぞ」


 雪穂から聞いた話によると、優花は1組に割り振られたらしい。


 1組に着き扉から教室内を覗くと、優花の周りには多くの男子生徒が集まっていて、隙間からしか優花の姿を確認できない。

 「ありゃ、さすが優花ちゃん。人気だねぇ」

 「まぁアレだけ美人だとな」


 「おや、おやおやおや?」

 「な、なんだよ」


 「もしかして優花ちゃんの事好きなのかな?」

 「……幼馴染としてな」

 顔を逸らし何故か誤魔化してしまった。


 「ふーん、じゃあ私が真央君の事狙ってもいいんだ。やった」

 「それとこれとは話は別だろ、てか狙われてるのか俺」


 「えへ、真央君イケメンだもん」

 「そんなことないと思うけど……」


 「それより、多分このままじゃマズイ気がするんだよねぇ」

 さっきまで俺をからかっていた雪穂が、マジトーンで優花の方を見て言う。

 

 「雪穂もそう思うか? さっき見えた優花の表情が暗いと言うより怒っていたように見えたし、心配だな」


 扉の前で話していると、いきなりガタッと大きな音が教室内に鳴り響く。


 音を立てたであろう、優花が立ち上がっていた。


 「あ、あれはマズイ」

 雪穂の予想通りのようで、多分あまりにしつこい男子生徒達が離れないから怒ったのだろう。


 「ちょっと行ってくるね」

 「あぁ、頼んだ」


 この状況で俺が行っても悪化するだけなので、俺は雪穂に優花の事を任せて先に校門に向かった。


 やっぱ優花って人気あるんだな、あんなに男子に囲まれて。

 中学の時は俺や悟、明に陽姉とかも居たから寄ってこなかっただけで、実は遠巻きに見られてたのか?


 校門で十字会のグループチャットに入った兄貴からの連絡を確認をしていると。

 「真央君、腕開けて」


 いきなり優花の声がしたので、躊躇なく腕を広げると、懐に優花が飛び込んできた。


 なんとなく察しはつく。

 大方、男子生徒達は離れてくれないし、女子生徒達は嫉妬のあまり遠巻きで悪口を言ってただけ、だったのだろう。


 「ありがと雪穂、優花のこと助けてくれて」

 「ううん、他の子達も助けに行くにいけない雰囲気だったって」


 「そんなわけが無いでしょう……どうせチヤホヤされてる私に嫉妬してただけよ」

 俺の制服を掴む手が強くなり、優花が俺の腕の中で悪態をつく。


 俺は優花の頭をそっと手を置き、優しく撫でる。


 「とりあえず帰ろう、兄貴が今晩ゲーム大会開くって言うし」

 「わかった」


 優花はいきなり俺を強く抱き締めたあと、パッと離れた。


 「ねぇ雪穂?」

 「は、はい」


 「もしかして、真央君に抱きついた?」

 優花は笑顔で問いかけるが、雰囲気はどう見ても怒っている様子だ。


 「ご、ごめんなさい。抱きしめました……。」

 「それともう1つあるわよね?」


 「は、はい……優花ちゃんの許可なく、下の名前で呼び合うようにしました」

 「……はぁ、さっきのに免じて許してあげるわ。さ、帰りましょう」


 「お、おう」


 俺達は優花の機嫌を取りながら帰っていった。

 今日のろじ裏

 

 「優花ちゃーん!!」

 真央君と高校の入学式に向かう途中、同じ部活に所属していた桜葉雪穂が後ろから追いかけてきた。

 彼女は私達と同じ高校を受験して合格している。


 後ろに振り返ると明るめの茶髪のツインテールが左右に揺れてこちらに向かって来ていた。


 両手を広げたまま私に向かって、一直線に駆け寄ってくる雪穂をひらりと避ける。


 彼女は足を止める様子はなかったが、直前で曲がると思っていた。

 だが、突然隣から腕が伸びて雪穂の腕を掴んだ。


 隣に居た真央君が危ないと思って掴んだみたい。


 「ちょっ、まだ赤信号!」

 「え、あ、ごめんごめん。ありがと十塚君」


 真央君は私達十字会の皆はもちろん、誰にでも手を差し出すほど優しくてカッコいい、私の好きな人。


 「ちょっと優花ちゃん」

 「何かしら」


 「友達の抱擁を避けるなんて酷いじゃん!」

 「顔が鬱陶しかったから避けただけよ」


 冷たくあしらったけど、真央君が居なかったら受け止めていたと思う。

 ごめんね、真央君の前だから恥ずかしかったの。


 そしてどうやら雪穂は、中学の頃から良いなと思っていた真央君の事を狙っているようで。

 「へぇ……あなた真央君にそんな感情向けてたんだ、知らなかったわ」

 と、嫉妬から雪穂に冷たい態度を取ってしまった。


 「ゆ、優花ちゃんは幼馴染だから知らないかもしれないけど、女バスの間では十塚君人気だったんだよ? 何なら同じ体育館で部活してたバレー部やバドミントンにもファンの子居たし」

 「それは私も知ってるわ。幼馴染として嬉しかったけど……真央君は私のなんだから」

 ボソッとつぶやく。


 「何か言いかけなかったか?」

 「いえ、何も」

 真央君から問われたが、私は誤魔化してしまった。



 それから3人で高校まで行くと、校門の前でキョロキョロと誰か探している男子生徒が立っている。


 私達は関係ないと思っていたら、真央君が呼び止められた。

 どうやら、県大会で戦った相手チームの人だったらしい。


 「悪い2人共、先に行っててくれ」


 真央君からそう言われ、仕方なく先に校舎に向かった。


 「さっきの人誰だろうね」

 「さぁ、でも真央君の知り合いなら部活関連かもね」


 「そっかー、十塚君有名人だもんね」

 「まぁそうそう居ないプレイスタイルだから、仕方ないわ」


 下駄箱前にたどり着くと、ホワイトボードにクラスの割り振り表が貼り出されていた。


 「私は1組の方から見ていくから、雪穂は4組から見ていきなさい」

 「かしこまりました、キャプテン!」


 「今はキャプテンじゃないわよ、早く見てきなさい」


 1組の表を確認すると自分の名前はあったが、自分の次に来るはずの桜葉雪穂と十塚真央の名前はなかった。


 高校一年目でいきなり真央君と離れちゃったか。


 「優花ちゃーん」

 「あったの?」


 「うん、私3組だった。そして十塚君も」

 「あら、真央君と一緒だったの、良かったじゃない気になる人と同じクラスで」


 「あの、優花さん? 顔が怖いです」

 「あらごめんなさい」

 嫉妬で思わず顔に出ていたようだ。


 その後、雪穂と一緒に1年生のクラスがある3階まで登っていき、階段に近かった雪穂が先にクラスに入って行く。

 私は雪穂に手を振り見送ったあと、自分のクラスに辿り着き入ると、突然ザワザワとしだした。


 「あの子めっちゃ可愛くね?」

 「このクラス当たりだわ」


 「あのサラサラヘア羨ましい」

 「小顔で顔整ってて、勝ち組じゃん」


 私の方を見て周りがひそひそと、なにか話しているのが微かに聞こえる。


 中学の時もあったが、あの時は十字会のメンバーが居たから平気だったけど、今度は私1人。


 「寂しいわね」


 周りはずっと騒がしかったけど、窓の外の景色を眺めながら真央君の事を考えてる間は、特に気にならなかった。


 でも入学式が終わった後の事だ。


 同じクラスの男子はもちろん、噂を聞きつけた他クラスの男子達が私の周りの集まりだして、連絡先をしつこく聞いてくる。


 最初は私も丁寧に断っていたんだけど、周りの女子達の妬み嫉みや男子達の下心丸出しの言動にイラつき始めた。


 そんな時、教室の出入口で雪穂と真央君が来ているのが見えて、嬉しくて思いっきり立ち上がったの。

 椅子が思ったより強く後ろの席に当たってしまい、大きな音を立てたが結果的にそれが、その場にいた全員を黙らせることに繋がった。


 見ていた雪穂が、他の女子に何があったか聴きながらこっちにやってくる。


 「帰ろ、優花ちゃん」

 「……えぇ」


 既に帰る準備が終わっていた私は、カバンを持ち男子達を睨みつける。

 すると前を塞いでいた男子達が一斉に道を開ける。


 「さようなら」


 一言告げて教室を後にした。


 私は急いで彼の元に向かい、姿が見えた瞬間加速する。


 「真央君、腕開けて」


 腕を広げてくれた彼の懐に飛び込む。

 彼の匂いとは違うものが微かに感じるが、今はそんなことどうでもいい。



 彼の懐で悪態をつくも、何も言わず私の頭を撫でてくれた。


 「とりあえず帰ろう、兄貴が今晩ゲーム大会開くって言うし」

 「わかった」


 私は彼力いっぱい抱き締めたあと、スっと離れる。


 「ねぇ雪穂?」

 「は、はい」

 突然の低音ボイスに雪穂がびっくりする。


 「もしかして、真央君に抱きついた?」

 「ご、ごめんなさい。抱きしめました……。」


 「それともう1つあるわよね?」

 「は、はい……優花ちゃんの許可なく、下の名前で呼び合うようにしました」


 「……はぁ、さっきのに免じて許してあげるわ。さ、帰りましょ」

 「お、おう」


 彼も悪いと思っていたのか、駅に着くまでエスコートしてくれた。

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