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第5.25話 お泊まり女子会 前

 私の提案により夕食を食べ終わった後、歩いて15分程の所にある温泉施設に向かおうと支度している最中だ。


 と言っても、実は温泉施設に行く計画は前々から考えており、お昼に真央君達と合流する前に準備は済ませてある。


 用意しておいた温泉セットが入った肩掛けカバンを持ち、玄関を出て待っていると左隣の玄関が開いた。


 出てきたのは隣に住む50代ぐらいのおばさんだ。


 「あら、優花ちゃん。こんばんは」

 「こんばんは、松下さん」

 おばさんの方を向いて会釈する。


 「もしかしてこれから温泉?」

 「はい、4人で久しぶりに行こうかと思いまして」


 「やっぱりそうなのね、相変わらず仲良いわねー」

 「そうですね、ずっと仲良いです。皆の事が大好きなので」


 「ふふふ、いつまでも仲良くね。それじゃあおばちゃん行くから、気を付けてね」

 「はい、ありがとうございます」

 階段を降りていく松下さんに深々と頭を下げる。


 すると、入れ替わるように上から陽歌ちゃんが降りてきた。


 「今誰かと話してた?」

 「うん、隣の松下さんとここで会って」


 「ふふ、そっかそっか」

 陽歌ちゃんは嬉しそうにしている。


 「どうかしたの?」

 「ううん、聞くつもりじゃなかったんだけど。優花ちゃんが皆の事が大好きって言ってたのが聞こえちゃって」


 まさか聞かれてるとは思ってなかった私は、一気に身体が暑くなって陽歌ちゃんの肩を掴んだ。


 「お、おおおおお、お願いだから忘れて!」

 「んふふふ、嫌だよー。私だけの秘密にしておくー」

 焦っている私を見て、陽歌ちゃんの口角が上がった。


 「ちょっ、陽歌ちゃん!」

 「にひひひ、いいじゃん減るものじゃあるまいし、むしろ皆に言ったら?」


 「無理無理無理無理無理だって、真央君にすら言えないのに。皆にならってなるわけないじゃん!」

 「……そこは普通、逆じゃない?」


 「どっちにしろ言えないから!」

 「わかったわかった。そんなに声張ってるとまーくんに聞こえちゃうよ?」


 「うぐっ」

 陽歌ちゃんの一言に私は黙ってしまった。


 その直後、まるで見計らったように二つ隣の玄関が開く。

 「すみません、お待たせしました」


 出てきたのは瞳ちゃんだった。

 「あれ、着替えたんだ?」

 「はい、暗くなるので。明るめで動きやすい格好の方がいいと思って」


 瞳ちゃんはさっきまでのオシャレな格好から、白色のベアトップはそのままで、黒のシースルーから詩央ちゃんとお揃いの灰色パーカーを羽織っている。

 下も藍色のファットパンツに替えていた。


 髪型もサイドポニーから中段で結ばれた通常のポニーテールに変わっている。

 真央君が居なくても、自分の可愛さは全面に出す抜け目のない子だ。


 対して私は真央君が居ないところ、特に家では楽な格好で過ごしている。

 特に皆の前だと必ずバインダーを着けているため、家で1人の時の開放感は心地が良い。


 今の季節はまだ良いが夏になると汗ばんで蒸れるため、より一層開放感が増えてノーブラで居ることが増えた。



 しばらく待ってると、ようやく詩央ちゃんが出てくる。

 詩央ちゃんも瞳ちゃんと示し合わせたように、灰色のパーカーを着たままだった。


 「お揃いだね、瞳ちゃんと詩央ちゃん」

 「そうなんです! 一緒に詩央ちゃんと買いに行ったんですよ。中のベアトップも色違いで一緒に買ったんですけど、なかなか着てくれなくて……」


 「前にも言ったでしょ、瞳みたいにスタイル良くないからって」

 「そんな事ないと思うけどなぁ。ベアトップ着て明先輩を誘惑すればいいのに」


 「出来たらとっくにしてるよ、恥ずかしくて無理だけどさ」

 詩央ちゃんは軽く受け流す。



 全員が揃ったのでマンションを出て温泉施設に向かって歩き出す。


 マンションを出て少し歩いたところで、前を歩く陽歌ちゃんが首を回しこちらを振り向く。

 「そういえば、優花ちゃんの相談したいことって?」

 「あ、えっと……温泉着いてからで」

 「ふーん、わかった」

 そう言い陽歌ちゃんは、再び前を向いた。


 「ここじゃ話せない内容なんですか?」

 今度は私の隣を歩く瞳ちゃんが聞いてくる。


 「うん。まぁ話せなくはないけど、見てもらった方が早いと思ったから。ごめんね、まどろっこしくて」

 「いえ、優花先輩が相談したいなんて言うの初めてで、ちょっと驚いてるだけです」


 おしゃべりしながら向かうと、あっという間に感じる中温泉施設に辿り着いた。


 駐車場は沢山の車で埋まっており、駐車場をグルグルと回って空いている場所を探す車が散見される。

 私達は徒歩で来たので関係ないが、それだけ人気がある所だ。


 施設内に入るとすぐに靴箱が置いてあり、そこで裸足ないし靴下で上がる。

 つまり入口で土足厳禁なのだ。


 各々で好きな所に靴を預ける。

 私が選んだのは315番の靴箱、この番号は真央君の誕生日だ。


 詩央ちゃんと瞳ちゃんは隣同士で空いてる所を、陽歌ちゃんはいつも自分の誕生日である7月10日にちなんで、107番の靴箱に入れている。


 だが、今日は運悪く空いてなかったようでその近くの109番の札を持っていた。


 施設内は食事処や小さなゲームコーナー、休憩スペースに岩盤浴、マッサージチェア等、温泉以外のエリアも存在する。


 「相談事ならそこら辺の休憩スペースでする? 人が沢山居るけど」

 「ううん、このまま温泉の方がいいかな」


 「りょうかーい」


 陽歌ちゃんが先陣を切って脱衣所に入っていき、残りはその後に続く。


 脱衣所も沢山の人で賑わっており、4つ並んで空いてるロッカーを探すのは至難の業だ。

 だが私は、秘密の公開を心に決めているため、脱衣所の角にしようと決めていた。


 空いてるところがないか、キョロキョロしている3人を無視して一番奥に進んでいく。

 「優花ちゃん待って」


 「こっち来て、こっちこっち」

 詩央ちゃんの呼び掛けに振り返り、顔の近くで指だけを動かし手招きをする。


 目的の角に着くと、運良く下段の大きいロッカーが横並びで二つと、上段の小さなロッカーが二つ縦並びで空いていた。


 「すごいね優花ちゃん、見えてたの!?」

 「ううん、たまたま。でも角に行きたかったのは本当」


 「ちょうど四つ空いてるしここにしよっか」

 陽歌ちゃんが脱ぎ始めると、詩央ちゃんと瞳ちゃんも続くように脱ぎ始めた。


 私は3人に背を向けて脱ぎ始める。


 「どうしたんですか?優花先輩」

 後ろから瞳に話しかけられ、思わず前を服で隠す。


 「う、ううん。な、なんでもないよ?」

 「そうですか」

 少し声が上擦ったが何とか誤魔化すことが出来た。


 しかし今日は、これを幼馴染達に明かすと決めている。


 私は意を決して脱いだ服をロッカーに入れて、Iカップに大きく育った胸を隠していた”バインダー”を外す。

 今日一日着けていたため、両手を広げてしばらく開放感に浸っていると。


 「え、優花ちゃん!? その胸何!?」

 バスタオルで身体を隠した陽歌ちゃんが、いつの間にか後ろに立っており、私の胸を見て驚いていた。


 「見ちゃったね陽歌ちゃん。私の秘密を―――」

 そう言って胸を腕で隠しながら3人の方に振り向き、私がずっと隠していた秘密を明かした。


 「み、見ての通り。実は大きいの……胸が」

 「えっえっえっ、優花ちゃん触っていい!?」

 詩央ちゃんが好奇な目で、私の胸を凝視しながらゆっくり近付いてくる。


 「いい、いいよ……優しくね」

 「それは無理」

 詩央ちゃんが勢いよく私の両胸を鷲掴み。


 「ひゃっ!!」

 しばらく揉んだ後一旦手を離すと、今度は両胸を下からガッツリ掴んで持ち上げる。


 「めちゃくちゃ柔らかい」

 詩央ちゃんはそう言いながら、永遠と指を動かし揉み続けた。


 「し、詩央ちゃん。そろそろ離して」

 徐々に火照りを感じながら、詩央ちゃんに止めるよう言うが詩央ちゃんは狂ったように揉み続ける。

 「えへ、えへへ。こりゃあ堪りませんぜ」


 「いい加減にしなさい!」

 「いてっ」


 陽歌ちゃんが詩央ちゃんの脳天にチョップを入れてくれた。


 「もう、優花ちゃんが止めてって言ってるんだから止めてあげなさい」

 「はーい。ごめんね優花ちゃん」

 詩央ちゃんが両手を合わせる。


 「ん、んーん。大丈夫だよ」


 「優花先輩、いつからそのサイズになったんですか?」

 落ち着いてる陽歌ちゃんや、はしゃいでいる詩央ちゃんとは打って変わって、瞳ちゃんは真剣な眼差しを向けてくる。


 「今のサイズになったのは中3の三学期の頃だね」

 「今までなんで隠してたんですか?」


 「ほかの男子にエロい目で見られたくなかったのと、バスケで邪魔だったからって言うのもあったけど。やっぱり1番は真央君に幻滅されたくなかったからかな?」


 「……やっぱり真央先輩ですよね、そうだろうと思ってました。私も真央先輩に振り向いて欲しくて育乳頑張りましたから、気持ちはわかります」


 「ごめん、瞳。真剣な所申し訳ないけど、そろそろ入りたい。寒いし」

 いくら脱衣所でも、さすがに長時間全裸は寒いため、私達は浴室へと向かった。


 話は一時中断となり、各々で頭や身体を洗う。


 それにしても、瞳ちゃんの驚き様は意外だ。

 陽歌ちゃんは落ち着いていたが目は輝いていたし、詩央ちゃんは目がキラキラしていた。

 なんなら、今にも飛び付きそうな目をだった。実際飛び付かれたけど……。


 そんな2人とは違って瞳ちゃんは目を見開き、「そんなの聞いてない!」とでも言いたげな表情でこちらを見ていたのが印象的だった。


 身体と頭を洗い終わり、タオルを髪に巻いて頭に乗せる。


 立ち上がり、陽歌ちゃんを探しに温泉内を見て回ると、中央の炭酸泉に瞳ちゃんと詩央ちゃんが先に浸かって待っていた。


 「2人共お待たせ」

 「あ、優花ちゃん。いらっしゃーい」


 「陽歌先輩はもう少し掛かりそうです。さっき後ろ通った時まだ頭洗っていたので」

 「そっか。じゃあさっきの続きは陽歌ちゃん来てからだね」


 程なくして陽歌ちゃんが合流した。


 「おまたせー」

 「陽歌ちゃん来たことだし、露天風呂の方行こっか」

 私がそう言うと、詩央ちゃんと瞳ちゃんがサッと立ち上がり外に向かう。


 外に出るとそれなりに人は居たが、比較的人が少ない温泉を選んでくつろぐ。


 「優花ちゃんの相談ってやっぱり、その胸の事だよね?」

 静寂を破ったのはやはり陽歌ちゃんだった。


 いつだって率先して動いてくれるのは陽歌ちゃんで、こういう時は本当に助かる。


 「うん、そうだよ」

 「相談って言うと、真央先輩というか男子組の皆さんには内緒にしておいてとか、そんな感じですか?」


 「まだ何も言ってないのに、よくわかったね瞳ちゃん」

 「そんな気がしたので。でもなんで今まで隠してたのに、急に教えてくれたんですか?」


 「どこから話せばいいか分からないけど……。そうだね、私が育乳しようと思ったきっかけは―――」

 私は誰にも話したことがない秘密を、大好きな幼馴染の女の子3人に打ち明けたのだった。

 今日のろじ裏


 ゲーム大会を優勝した優花ちゃんのリクエストで回転寿司に行った帰り道、俺のスマホに一本の連絡が入った。


『今日はゆーちゃんのリクエストで温泉に行くことになったから、詩央ちゃん借りてくね』

『わかった、俺達も一緒に行った方がいいのか?』

『ううん、なんか相談したい事があるとかで、多分まーくんに関することだと思うから、女の子達だけで行くわね』

『了解、道中気を付けてな』

『ありがとうなーくん。そういう所好きだよ』

『おう』


 陽歌から女子達は温泉に行くという連絡だ。


 温泉施設は家から10分ぐらいの所にあり、街灯も多いため特に問題ないと判断した俺は、陽歌に気を付けるようにとだけ伝えた。


 家に帰った後、一応真央や悟にも女子達は温泉行く事を伝えたが、真央が「俺達も行こう!」と言うので引き止める。


 どうやら今まで温泉に行こうとしなかった優花ちゃんが立案したのが、気になっているようだ。

 だが俺は「優花ちゃんにも相談したいことがあるのだろうから、今回は女子達だけにしよう」と言って同行を拒否した。


 真央は小学校の頃、急に長期休みをした優花ちゃんの事が気になり、隣や担任に突撃した前科がある。

 お隣からは上手く誤魔化され、担任からは少々怒られたようで珍しく落ち込んで帰ってきたのを今でも覚えている程だ。


 相談内容までは分からないが、陽歌が「まーくんの事」と言っていた以上、当の本人を行かせる訳にはいかない。


 そのため真央には、「下手に首を突っ込むのはやめろ」と言って釘を刺しておいた。


 それから風呂の準備を済ませて、お湯が溜まるまで自室で待機していると、外から優花ちゃんと陽歌の声が聞こえてくる。


『お、おおおおお、お願いだから忘れて!』

『んふふふ、嫌だよー。私だけの秘密にしておくー』


『ちょっ、陽歌ちゃん!』

『にひひひ、いいじゃん減るものじゃあるまいし、むしろ皆に言ったら?』


『無理無理無理無理無理だって、真央君にすら言えないのに。皆にならってなるわけないじゃん!』

『……そこは普通、逆じゃない?』


『どっちにしろ言えないから!』

『わかったわかった。そんなに声張ってるとまーくんに聞こえちゃうよ?』


 俺の部屋は玄関のすぐ隣の部屋で、廊下からの声や音がよく聞こえる。


 声は聞こえていたがはっきりと会話が聞こえたのは途中からで、内容から察するに優花ちゃんが誰かを「好き」とでも言ってしまったのだろう。

 普段クールキャラを装ってる優花ちゃんからそんな言葉が聞けたら、陽歌ならからかうのも頷ける。


 しかし、玄関を挟んで反対側の部屋が真央の部屋になっているため、聞こえてないか心配だ。


 こんな形で当人に、気持ちを知られるのも優花ちゃん的にも宜しくないだろう。


 そう思った俺は立ち上がって部屋を出ると、丁度出かける準備を終えた詩央とバッタリ出会した。


 「あ、直にい。行ってきまーす」

 「あぁ、気を付けてな」

 「うん」


 詩央が出るのを見送った後、そのまま真央の部屋の扉をノックする。


 「おーい、真央ー」


 しばらく待ったが返事がない。

 ゆっくり扉を開けると、ベッドの上で寝転ぶ真央の姿があった。


 もしや、陽歌と優花ちゃんの会話を聞いてしまったか!?と一瞬焦ったが、すぐにその心配は無用だったと気付く。


 それはこちらに気が付いた真央が、耳からワイヤレスイヤホンを外したからだ。


 ベッドから起き上がりこちらに真央が近づいてくる。

 「どうしたんだ兄貴」

 「お前はそういうやつだよ」


 俺は真央の両肩にポンッと手を置いた。


 「いきなりなんだよ、兄貴」

 「いや、なんでもない。風呂溜まったら先入っていいぞ」


 俺は真央にそれだけ伝えて部屋に戻った。―――

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