09.彼女に礼がしたい ※アレクシス視点
「――ノア、君はどう思う?」
「なにが?」
「彼女のことだ。モカ・クラスニキ嬢」
ノアとともに執務室に戻った俺は、早速彼女のことを聞いてみた。
ノアはなんの話かわかっているくせに、わざとらしく「ああ」と短く返事をすると、どかりとソファに座った。
「本当に可愛いよね」
「……そういうことを聞いているのではない」
「妬くなって。まぁ、本当にいい子だと思うよ。薬草を採りにいったときも一生懸命だったし、ここに来た翌日から朝早く起きて朝食作りを手伝おうとしてたんだって?」
「ああ……そうらしいな」
「ティモにも聞いたが俺も見たよ、夕食前にも彼女がずっと調理場の前にいるところ。何してるのかと思ったけど、彼らの動きを見て自分にできることがないか考えていたらしいな」
ノアは小さく笑って続ける。
「彼女が王宮で重労働を強いられていたのは間違いないだろう。あれが演技だとは思えないしね」
「……だよな」
まだほんの数日しか彼女のことを見ていないが、それでもわかる。
彼女が俺たち辺境騎士団の助けを無視したとは思えない。
それに、王宮にいた頃も聖女として回復薬を作っていたはずだ。要領よくてきぱきと動けるのは、これまでも忙しく働いていた証拠なのだから。
ではなぜ回復薬は俺たちのもとに届けられなかったのだろう。まさか俺たちは、聖女ではなく国から見捨てられたのか……?
「モカちゃんは、俺たちが助けを求めていたことすら知らないんだろう?」
「おそらくな」
「モカちゃんの元婚約者って、第二王子のヴィラデッヘ殿下だったよな?」
「そうだ。現在は彼女の双子の姉と婚約している」
「あーあ。これはいよいよきな臭くなってきたな」
「……」
ノアは苛ついた様子で声を荒らげた。言いたいことは俺にもわかる。
彼女は聖女でありながら、呪われた騎士団団長の、俺に嫁ぐよう言われた。
そして護衛を一人も連れずにやってきた。
この騎士団は、国から見放されている。
つまり――。
「彼女も見捨てられたのだろうか……しかし、なぜ」
あんなに一生懸命で、聖女の力もあるというのに。
彼女は俺たちを癒やすよう言われたと言っていたが、本当にそのために俺に嫁がされたわけではないだろう。それにしては扱いが粗末すぎるのだから。
「何か裏がありそうだな」
「調べてみるか」
「ああ……」
ノアの言葉に頷いて、俺は手のひらの中の彼女が作ってくれた回復薬を見つめた。
もちろん、飲んでも安全なものか疑っているわけではない。
俺は人より体力があるためか、みんなに比べればまだ元気だ。だからこれは、必要なときのために大切に取っておこうと思う。
いくら彼女が聖女だとしても、これは簡単に作れるものではないだろうから。
聖女はこちらが頼んでも回復薬を作ってくれない傲慢な女だと思っていたが、事実は違ったようだ。
彼女には、本当に感謝しなくては。
「……何か礼をしなければな」
「礼?」
「彼女は見返りを何も求めなかったが、聖女の回復薬はとても価値のあるものだ」
「まぁな」
「値段を付ければとても高値で取り引きされる」
「そうだな」
「価値に見合った金銭を支払ってもいいが、彼女はそれで喜ぶと思うか?」
「いや……、どうかな」
ノアは俺の話を真面目に聞いているのだろうか。先ほどから適当に返事をされている気がする。俺は真剣に相談しているつもりだというのに。
「……そうだ、何か贈り物をしてみよう」
「え? おまえが彼女に贈り物を?」
ぽつりと呟いた言葉に、ノアはようやく反応を示して眉をひそめた。俺が女性に贈り物をしようというのがとても意外らしい。
「俺たちは結婚する仲だ。こんなところに来てくれた彼女に、婚約者として何か贈り物をするのが礼儀ではないか?」
「……好きにすればいいんじゃないか?」
「女性はどんなものをもらったら喜ぶのだろう……」
「知るか。俺に聞くなよ?」
「わかっている」
この辺境騎士団の者たちは、ほとんどが未婚で婚約者もいない。
それはノアも同様だし、彼はこの先一生、誰とも結婚するつもりはないと言っている。
「……まぁ、一般的には、バラの花とか、アクセサリーがいいんじゃねぇか?」
「ふむ……」
いつも以上に口調を荒らげ、溜め息をつきながらそう言って足を組むノア。
昔の、嫌な記憶を思い出させてしまったのかもしれない。そんなつもりは本当になかったのだが……申し訳ない。
モカ・クラスニキ嬢――彼女は少し変わっている女性だ。
しかし、こんな辺境の地に一人でやってきて、不安な気持ちが少しもないとは思えない。
彼女が喜んでくれる贈り物は、なんだろうか――。
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