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07.回復薬を作りたい

 アレクシス様や騎士団の皆さんは、とても忙しそうだった。

 この地は魔物が出る、危険な地。そのため、数人の騎士たちが交代で警備にあたるし、料理や掃除、洗濯などの家事も自分たちで行っているようだ。

 けれど危険が伴う辺境騎士団は、もともとの人数が多くはない。

 だからみんな、休みらしい休みは取れていないようだし、とても疲れているように見えた。



「――アレクシス様、少しよろしいでしょうか」

「どうぞ」


 その日私は、アレクシス様の執務室を訪ね、願い出た。


「森に行って、薬草の採取をしてきたいのです」

「……薬草?」

「はい。回復薬を作るために」


 ここには、聖女()が作った回復薬は一つもなかった。食事の片付けをしながらティモさんに聞いた話によると、ここ数年聖女の回復薬が届いたことはないらしい。


 私は王宮を出るギリギリまで、毎日たくさんの回復薬を作ってきたというのに。

 一番必要であるべき場所に届けられていなかったなんて……。


 騎士たちが聖女()に冷たい態度を取った理由は、もしかしてそれ?

 回復薬の管理はヴィラデッヘ様が任されていたはずだけど、一体どうしてかしら?


「君が回復薬を作るのか? なぜだ。怪我でもしたのか?」

「私が使うのではありません。騎士団の皆様用に、作りたいのです」

「……」


 スペアといえ、せっかく聖女である私が来たのだから、これくらい当然のことのような気がする。というか、私は最初からそのつもりで来たのに、アレクシス様はまた大袈裟に驚いた顔を見せた。


「……誰か、大怪我をしたのか?」

「そうではありませんが……。ここは、その可能性が大いにある場所ですよね? ですから、回復薬があるにこしたことはないはずです。それに、皆さん疲れています。私の回復薬は怪我を治すだけではありません」


 そう。聖女の回復薬は貴重なものだから、一般的には疲れたくらいで使用されるものではない。けれど疲労回復効果でいえば、どんなものよりも抜群に効く。

 高位貴族の中には、怪我や病気をしていなくても高値で回復薬を購入し、三日三晩寝ずに豪遊した者もいると聞いたことがある。


 もちろん私はそんな使い方をするくらいなら、病気や怪我で苦しんでいる民や、こうして危険な場所で働いている騎士たちに使ってもらいたいと思っているけれど。


「いくら聖女でも、回復薬は簡単に作れるものではないだろう? それに君は、「聖女は疲れた」と言っていなかったか?」

「確かに言いました……。ですが、無理のない範囲でなら、可能です」


 王宮では、毎日毎日、一日の魔力が尽きるまで働いた。それはもう、私が回復薬を飲みたくなるほど、疲労していた。だからあまり偉そうなことを言えないのは事実だけど、だからって何もしなくていいとは思っていない。


 でも、そんな考えは甘いかしら。騎士たちはみんな、命をかけて働いてくれているのよね? それなのに私は「無理のない範囲で楽をして作ります」なんて、やっぱり失礼だったかしら……。


「……私が間違っていました」

「そうだろう。ありがたい申し出だが、無理をする必要は――」

「私なりに、精一杯やらせてください!!」

「……は?」


 そう思い直し、背筋を伸ばして伝えたら、アレクシス様はまた眉根を寄せて困惑の表情を浮べた。




「――すみません、ノアさんもお忙しいのに」

「団長命令だからね」


 その日の午後。私は早速騎士団の城砦裏に広がっている森へ、薬草採取に出かけた。

 一緒に来てくれたのはノアさん。遠くへは行かなくても魔物が出ることもあるらしいから、ノアさんが付き添ってくれることになったのだ。副団長であるノアさんもとても忙しいというのに、急な護衛役を引き受けてくれた。


「本当にごめんなさい、すぐに済ませますので……!」

「冗談だよ。焦らなくていい。本当に回復薬を作ってくれるというのなら、それを飲めば寝ずに働けるんだろう?」

「……そうですけど、睡眠はちゃんと取ったほうがいいと思います」


 皆さんが元気になるように回復薬を作るつもりだけど、だからって寝ずに働けばいいとは思わない。

 辺境騎士団の皆さんは、どこか暗いオーラのようなものをまとっている。

 個人個人、こうして話をする分にはそこまで気にならないのだけど、騎士団全体が、まるで本当に呪いにでもかけられているような――。


「あ、薬草。あれじゃないか?」

「そうです! ありました!」


 魔物が住まうこの森にも、必要な薬草が生えているか少し不安だった。

 けれど、聖女が作る回復薬ほどではなくても、怪我をしたときはこの薬草を煎じて傷薬として使っていたと、ティモさんも言っていた。


「ちゃんとあって、よかったぁ……」


 この森に生えていると聞いてはいたけれど、ほっと胸を撫で下ろして薬草を根元から綺麗に掘り起こし、採取していく。


「……手伝うよ」

「ありがとうございます」


 そうしていると、その様子を見ていたノアさんも腰を下ろして薬草の採取を手伝ってくれた。


 ノアさんも優しい方なんだわ。この方たちのために、私もできることをやりたい――。




 二人で大量の薬草を持ち帰り、私は早速お借りした部屋にこもって回復薬作りを開始した。

 この部屋は、これまでも傷薬の調合などに使用していたらしく、必要な道具が揃っている。


「よし、とりあえずこれでいいわね!」


 すり潰した薬草を鍋で煮て、聖女の魔力を注ぐ。

 聖女()が作るものでも、その注ぐ量次第で効果を変えることができる。

 大怪我や大病も治せるような上級回復薬を作るのは、聖女でもさすがに大変。

 だから量産できるものではないけれど、まずは下級回復薬をたくさん作ろうと思う。


「これを飲んで皆さん元気になってもらいましょう……!」


 下級回復薬でも、一度飲めば元気になるはず。

 これまで王宮で毎日大量に作っていたものだから、私にとっては着替えるよりも簡単にできる。


〝どうか皆さんが元気になりますように――〟


 そう祈りながら、鍋に魔力を注いだ。


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