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06.みんなで食事を

「おはようございます!」

「……おはよう」


 朝食の支度が終わり、食堂のテーブルにお皿を並べていると、アレクシス様がやってきた。

 彼は私の姿を見て一瞬顔をしかめる。


「何をしているんだ?」

「手が空いていたので、皆さんと一緒に朝食を並べています」

「君が?」

「はい。……どうしてそんなに驚くんですか?」


 凜々しい眉をきゅっと寄せて、混乱の色を顔に浮べているアレクシス様。

 昨日も一昨日も、結局私は自室で一人、食事をとった。

 だから今日は私が食堂にいることに、驚いているのかしら?


「まぁまぁ! 団長、モカさんは手際がよくて本当に助かりましたよ! それに、昨日も一昨日も朝早くに起きて自分にできることはないかと言ってくれて」

「なに?」


 そんなアレクシス様に、一緒に朝食を作った騎士のティモ・ハンペさんが口を開いた。

 ティモさんは薄茶色のやわらかそうな髪の毛と、蜂蜜色のキラキラとした瞳の、優しい人。

 十八歳で私と歳が近く、騎士としてはまだまだ見習いだけど、料理が得意なのだとか。不慣れな私に色々教えてくれたし、とても話しやすかった。


「昨日も一昨日も早起きをした? 君は長旅で疲れていただろう? それに、何もしなくていいと言ったはずだが」

「ええ、でも早く目が覚めてしまったので……。それに、大したことはしていませんよ。皆さんと朝食を作って、それを運んだだけですので」

「待て、朝食作りも手伝ったのか?」

「あ……手伝ったというほどでは……」


 ここには騎士以外に働き手がいない。だから朝食担当の方たちは朝早く起きなければならなくて、とても疲れていたし、苛ついていた。


 というか、ティモさんは元気なほうだけど、ここの方たちはみんな疲れて見える。

 きっと人手が足りないせい。だから私にできることがあるならと、ほんの少しお手伝いしただけ。

 でもあれだけで「手伝いました!」なんて偉そうに言えないわ。


「まぁまぁ、団長! とにかく座って、食べてみてくださいよ!」


 ティモさんはそう言うと、アレクシス様を席へ促した。

 まだ何か言いたげだったアレクシス様だけど、言われた通り席に着いてスプーンを手にする。

 そして野菜と鶏肉のホワイトシチューを一口食べると、大袈裟に目を見開いてぽつりと呟いた。


「……美味い」

「でしょう? 最後の味付けはモカさんがやってくれたんですけど、それだけで格段に美味しくなったんですよ!」

「本当に美味いぞ、これはどうやって作ったんだ!?」

「どうって……お肉と野菜を炒めて煮込んだだけですよ? あ、最後にあまっていたというチーズを入れました。それがよかったのでしょうか」

「なるほど……このコクはチーズか」


 私が、チーズが好きだから。入れたら美味しくなるかと思って入れてみた。

 料理は不慣れだけれど、美味しくなったならよかったわ。


 他の騎士たちもシチューを口にして「美味い美味い」とざわついている。


 でもちょっと、大袈裟な気もするけど……。


「とにかくお口に合ったようでよかったです」


 余計なことをするなと怒られるかと思ったから、気に入ってもらえたようで一安心。


「こっちのオムレツも美味い。それに、ふわふわで見た目も美しい」

「それは普通に作った、ただのオムレツですよ? ……あ、ほんの少しだけ、ミルクを入れたのがよかったのでしょうか?」

「なるほど……。こんなに美しくて美味しいオムレツは初めて食べた! 君は料理が上手いのだな」

「いいえ、そんな……」


 とても興味深そうに頷きながら食事をするアレクシス様。喜んでもらえているのなら嬉しいけれど、少し照れてしまう。


 大袈裟ですよ、アレクシス様。

 料理は全然してこなかったから、簡単なものしかできないけれど。こんなに褒めてくれるなんて、きっとアレクシス様は優しい方なのね。


「いい匂いだな。あ、君がアレクの奥さんになる人?」

「え……?」


 美味しそうに食べてくれているアレクシス様を見つめていたら、食堂にそんな声が響いた。


〝アレクの奥さん〟とは、つまりアレクシス様の妻になる予定の……私のこと?


 そう思い声のほうを振り向くと、そこには赤い長髪を頭の高い位置で結い上げた、すらりとした細身の騎士が立っていた。


「ノア、いきなり失礼だろう」

「ああ、そうだな。俺はノア・ガウター。気軽にノアって呼んで。アレクとは幼馴染で、この騎士団の副団長をしている」

「モカ・クラスニキです。よろしくお願いいたします」


 にっかりと笑って手を差し伸べられたので、小さくお辞儀をしてからその手を遠慮がちに取った。

 すると手をぎゅっと強く握られて、私の身体は彼に引き寄せられてしまった。


「モカちゃん。可愛いね」

「え……?」

「ノア!」


 ぐっと顔を寄せて、至近距離で見つめられたと思ったら、その囁き。


 ノアさんはとても綺麗な顔立ちをしている。声も少し高めで美しく、男らしく凜々しいアレクシス様とはタイプが違う、中性的でまるで女性のような美形。


「ははは、アレクが焼きもちを焼いてる」

「焼きもち……?」

「いや、そういうわけではないが……、とにかく、彼女が困っているだろう!」

「そう? モカちゃん。もしアレクが嫌になったら、いつでも俺のところにおいで?」

「……えええっ!?」

「あー、腹減った。今日の朝食はいつにも増して美味そうだな」

「今朝はモカさんが手伝ってくれたんですよ!」

「へぇ、そうなんだ」

「…………」


 混乱と動揺でろくに言葉も紡げず脈を速めている私を置いて。ノアさんは何事もなかったかのように席に着き、ティモさんと話している。


 ……からかわれたのかしら?

 ノアさんって、もしかして女たらし?

 今のは、ころっといっちゃう女性が多いと思う……。


「すまない、ノアは悪い奴ではないのだが」

「いいえ、平気です。気さくに話してもらえて安心しました」

「そうか……。そう言ってもらえるのならよかった」


 アレクシス様は気にかけてくれたけど、私は本当に平気。

 アレクシス様や皆さんが見ている前でやったということは、たぶん私は(アレクシス様も?)ノアさんにからかわれただけなのだろうし。


「君も座って。一緒に食べよう」

「はい、ありがとうございます!」


 気を取り直したようにそう言ってくれたアレクシス様に頷いて、私も皆さんと一緒に食事をいただいた。


 こんなに大勢での食事は、いつぶりかしら。


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