05.〝聖女様〟への対応
翌朝、いつもの癖で早く起きてしまった私は、いい匂いに誘われて調理場へ向かった。
「――おはようございます」
「たまごを取ってくれ!」
「あ~、まだ玉ねぎの皮剥いてないのかよ……!」
「そっち、もう沸いてるぞ! 早くしろ!」
「……」
朝食の支度をしていた騎士たちに挨拶をしたけれど、私の存在に気づいていないのか、返事は返ってこない。
「おはようございます……」
「おい、パンは焼き上がってるのか?」
「ああ、できてる」
「いいからこっち手伝ってくれよ!」
誰も私のことを見ない。
まるで無視されているようだけど、騎士たちはバタバタと忙しなく動いていて、とても忙しそう。
ならば――。
「おはようございます!!」
「……」
すぅっと息を吸って、お腹から大きな声を出した。
すると騎士たちは一瞬ピタリと動きを止めて私を見た後、再び慌ただしく動き始めた。
「ちょっとこれ味見てくれないか?」
「うわ、焦げてるじゃん」
「これくらい大丈夫だろ」
「…………」
やっぱり私、無視されてる?
挨拶が返ってこなかったことに少しショックを受けたけど、きっと忙しいのよね?
わかるわ、邪魔をする気はないの。でも、本当に大変そう……。
知らない場所で、知らない人ばかりの辺境の地。騎士たちはみんな私より大きくて、屈強な人ばかり。
怖くないなんて言えば嘘だし、正直不安な気持ちもある。
このまま回れ右をして部屋に帰ろうかしら……。
一瞬そうも思ったけれど。
「あの……!」
勇気を出してもう一度声をかけると、一人の騎士があからさまな溜め息をついてこちらに顔を向けた。
「あのなぁ、聖女様だかなんだか知らないけど、見てわからないのか? 俺たちは忙しいんだ。自分たちの食事は自分たちで用意しなきゃならないんだよ。だからあんたに構ってる暇はない」
他の騎士たちも怪訝そうに顔をしかめている。
きっと私は場違い。
でも彼らの邪魔をする気はないし、お茶のお誘いに来たわけでもない。
「王宮でいい暮らしをしていた聖女様にはわからないだろうけど――」
「私にも何か、手伝わせてください!」
「…………は?」
手伝うと言ったのがそんなに意外だったのか、騎士たちは目をぱちくりさせた。
「手伝うって……あなたが?」
「はい! 料理は不慣れですが、教えていただけたら少しはお力になれるかと」
「……」
そう言って腕まくりをした私を見て、彼らは不思議そうに顔を見合わせている。
「聖女様に一から教えている暇はない」
けれど一人の方がそう言うと、彼らはそれに同意するように再び私から視線を外して慌ただしく動き始めた。
昼食時も夕食時も同じように調理場を訪れてみたけれど、やっぱり邪魔だというような視線を浴びるだけで、私にできることはなかった。
何もしなくていいというのは楽かもしれないけれど……私はこの新しい地での生活に、過度な期待を抱いていたのかもしれない。
聖女とはいえ、私は所詮用済みになったスペアの聖女。
命がけで戦っている辺境騎士団からしたら、私には自分が思っていたより価値なんてないのかも。
「はぁ~~~……」
部屋に戻った私は、大きなベッドにダイブして盛大な溜め息をついた。
今までずっと忙しくしていたせいか、何もしないのは逆に落ち着かない。
働きすぎは疲れるけど、それを知っているからこそ少しは彼らを手伝いたい。
「……よし!!」
それでも翌日も早くに目が覚めた私は、そっと調理場に向かった。
「おはようございます……」
「そっちの人参も一緒に切っといてくれ!」
「今芋の皮を剥いてるから無理だ!」
「そこの鍋、目を離すと焦げるぞ!」
「わかってるって!」
「……」
今日も挨拶は返ってこない。でも、やっぱりみんな忙しそう。寝不足なのか、目の下には隈ができているし、あくびをしている人もいる。
本当に大変なんだわ……。
その姿を見ると、どうしても私にできることはないかしらと、考えてしまう。
「――おい、また来てるぞ」
「本当だ」
ひそひそと話すそんな声が聞こえたけれど、私がそちらに目を向けるとさっと逸らされてしまった。
「何かお手伝いできることがあったら言ってください……!」
「…………」
それでもそう声だけはかけてみたけれど、返事はない。
……虚しい。やっぱり部屋でおとなしくしていたほうがいいのかしら。
でも――。
「おい、早くしろよ!」
「もう切り終わる、待て」
「あーあ、大きさバラバラじゃん……」
「仕方ねぇだろ、急いだんだから!」
本当に人手が足りていないのだと思う。野菜を切ったり、具材を煮込んで混ぜたりするくらいなら、私にもできるのに。
回復薬を作るときだって、薬草を切ったり煮たりしていたもの。
そう思いながら皆さんの動きを見て、私にも力になれることがないか考えた。
そして、また翌日。
「おはようございます」
今日も私は、朝早くに調理場を訪れた。でも今日は、昨日よりもっと早い時間に来たから、一番乗りだった。
「……また来たのか」
「お野菜の皮を剥いたり切ったりすることなら私にもできると思います! それから、鍋が吹きこぼれないように見張るだけでも……! 皆さんのお邪魔はしませんので!」
誰よりも早く調理場で待っていた私を見て、騎士たちは相談するように一瞬顔を見合わせた後、
「……じゃあ、こっちに来てくれ」
「はい!」
三日目にしてようやく私の目を見ながら、応えてくれた。
それでも誰かが小さな声で「聖女様にできることなんてあるのかよ」と呟いたけれど。
今度は私が聞こえないふりをして、彼らの指示を受けながら朝食作りに参加した。




