40.ヴェリキー帰還
「おかえりなさい! 団長、モカさん!」
辺境騎士団には、多大な報酬が与えられた。
ブラックタイガーから王都を救った功績と、四年前の件の謝罪の意味も込められているのだと思う。
アレクシス様は私のおかげだと言ってくれたけど、辺境騎士団の皆さんがこの数年とても大変な思いをしながら戦ってくれていたのは事実。
「今夜は宴ですよ!」
私たちが帰還すると、ティモさんがご馳走を用意してくれていた。
大きな鶏の丸焼きと、ノアさんたちが途中の街で購入したというジューシーなソーセージやハムに、新鮮なフルーツ。
今夜は無礼講だと大盛り上がりで、麦酒で乾杯した。
「モカさん……いいえ、モカ様! 本当にありがとうございます! モカ様は俺たちの大聖女様だ!!」
ティモさんはとても楽しそうにぐびぐびと麦酒を喉に流してそう言ったけれど。
「これまで通りでいいですよ」
「ですが」
「そうしてくれると、私は嬉しいです」
スペアの聖女だろうと、大聖女だろうと、私は私。
ティモさんは私の料理の先生でもあるし、急に〝モカ様〟なんて呼ばれたら、私が恐縮してしまう。
「……それじゃあ、モカさん! これからもよろしくね! 今日は楽しもう!」
「ええ!」
アレクシス様が頷くのを見て、ティモさんはにっこり笑って麦酒を掲げた。
「モカはこっちのほうがいいかな」
「わぁ、ありがとうございます!」
お酒に慣れていない私に、アレクシス様がぶどうジュースを持ってきてくれた。
「疲れただろう、身体は平気か?」
「はい、とても楽しくて、帰ってきた実感が湧きます」
「そうか」
王都からヴェリキーまで急いで帰ってきたものだから、アレクシス様は体調を気遣ってくれているのだと思う。
「……なんだノア、その目は」
「別に? 仲がよさそうで俺は嬉しいなと思って」
けれどそんな私とアレクシス様を、ノアさんがにんまりしながら見つめている。
「ところで二人の結婚式はいつにしようか?」
「えっ?」
帰ってきたばかりだというのに……。
結婚はまだ先だと思っていた私の胸は、ノアさんの問いにドキリと弾む。
「俺はすぐにでも挙げたいと思っている」
「え!?」
そうなんですか!?
けれど当たり前のように答えたアレクシス様に、私は噎せそうになった。
「おお、アレク。すっかり男になったんだな」
「十分な婚約期間は設けたし、俺とモカが結婚することはもう揺るがない。ならば早いほうがいいだろう?」
「そうだな」
はっきりと答えたアレクシス様に、私が動揺してしまう。
本当に、最初に会ったときと反応が随分違う……。
「モカも、それでいいだろうか?」
「はい、私はいつでも……」
アレクシス様が、いよいよ本当に私の旦那様になる。
それを思うととてもドキドキするけれど、すごく嬉しい。
それに、こんなに堂々と言い切るアレクシス様は、とても素敵で、格好いい。
宿で一晩をともにした日を思い出す。
あの日のアレクシス様も本当に格好よかったけれど、きっと結婚したら毎日寝室をともにするようになると思う。
そうしたら、今度こそ本当に――。
「モカ? 何を考えているんだ?」
「い、いえ……っ、何も……!!」
すぐ隣で囁くように問われ、びくりと肩が跳ねた。
私ったら、こんなところで何を想像しているのかしら……!!
「そうか?」
「すみません……」
「俺は早く、君を俺のものにしたいよ」
「…………っ」
みんなには聞こえないように、耳元で甘く、そっと囁かれて。
私はろくにお酒を飲んでいないのに、顔を真っ赤にして絶句した。
アレクシス様って、やっぱり私の心の中が読めるのかしら!?
「どうかしたか?」
「あの、アレクシス様って……」
「?」
恐る恐る見上げたけれど、アレクシス様はきょとんとした後、にこりと微笑んでくれて。
もしかしてアレクシス様って……天然のたらしですか……!?




