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37.何もしないなんて無理

 翌日。早速お時間をいただき、私たちは昨夜決めたことをお伝えすべく、陛下と向かい合っていた。


「――私は、アレクシス様とともに辺境の地、ヴェリキーに戻ります」


 陛下を前に深く頭を下げ、胸の内をお伝えする。


「陛下の誠意あるご対応には、感謝申し上げます。ですが、ヴェリキーの地が危険であることは変わりません。聖女だからこそ、私はその地でこの国の民のために働きたいと考えております」

「そうか……」


 陛下の声は少し残念そうだけれど、私がこう答えることをわかっていたのではないかとも思えた。

 私がこれまで大変な思いをして作ってきた回復薬が辺境騎士団のためではなく、他国に売りさばかれていたことは簡単に許されないと、陛下は考えているのかもしれない。


 けれど、だからといって私もアレクシス様も仕返しがしたいわけではない。


「一つ、ご提案があります」

「申してみよ」


 そこで、昨夜話し合ったことを、アレクシス様がお伝えする。


「ヴェリキーの地には仕事をなくして困っている者がおります。彼女が精製する回復薬を、その者たちに運搬させたいのです」

「……なるほど」

「もちろん、信頼のおける辺境騎士団の者を護衛に付けます。安全は我らが保証します」


 そうすれば、私もアレクシス様もヴェリキーにいながらこれまでのように回復薬が作れるし、その地を守れる。更に職を失った者たちに仕事を与えることもできるのだ。


 信頼できる者に運搬を任せ、私自らも管理を行うつもり。

 そうすれば、王都やヴェリキーだけではなく、回復薬が必要な地に必要なだけ、安全に届けることができる。


「うむ……。よかろう。ではそのように取り計らせる。詳細は追って決めよう」

「ありがとうございます……!」

「これからも頼んだぞ、アレクシス、モカ」

「はい!」


 私たちの提案を快諾してくださった陛下に、私はアレクシス様と目を合わせて微笑み合った。




「――本当によかったですね!」

「ああ、モカが素晴らしい案を考えてくれたおかげだ」

「いいえ。辺境騎士団の協力がなければ、難しい提案でした」


 話がまとまったところで、私とアレクシス様もヴェリキーに戻ることが許された。

 ノアさんたちから遅れを取ってしまったけれど、急いで皆さんのもとに帰りたい。

 それでも今夜は宿を取ることにした私たちは、近くの料理店で夕食をいただきながら、何度も喜びを分かち合った。



「――え? 一部屋しか取れていない?」

「はい、そのようです」

「しかし、俺はちゃんと二部屋頼んだはずだが……」


 夕食前に取っておいた宿へ戻ると、手違いで一部屋しか取れていないと言われてしまった。


「空きはないのか?」

「はい、もういっぱいです。この時間だとどこも空いてないと思いますけど……どうします?」

「……」


 この辺りは宿屋が少ない。そのせいか、亭主は強気だ。


「仕方ない。部屋はモカが使ってくれ。俺は外で適当に過ごす」

「え? どうしてですか?」

「どうしてって……」

「一部屋だけでも取れてよかったじゃないですか! さぁ、行きましょう」

「えっ……?」


 アレクシス様はなぜか困っているようだけど、私は一緒でも大丈夫。

 むしろ一晩中アレクシス様と一緒にいられるなんて嬉しいくらい。

 馬車でもずっと二人きりだったし、何か問題あるのかしら?


 そう思いながらとても軽い気持ちで部屋へと案内してもらった私は、思っていたよりも狭い室内に二人きりになって初めて、アレクシス様が困っていた意味を知ることになる。


「……ベッドが、一つなのですね」

「ああ……」


 幼い頃からずっと王宮で暮らし、ヴェリキーでも素敵な部屋を与えられていた私には、すぐにピンとこなかった。


 貴族街でもなんでもない安価な宿屋では、これが普通。一人用のベッドに、小さなテーブルが一つと、ちょっと着替えられる程度のスペースがあるだけ。


「やっぱり私、その辺で適当に過ごします……!」

「何を言っている! そんなことさせるわけないだろう! 俺が出るから、モカはゆっくり休んでくれ」

「いいえ、アレクシス様にそんなことをさせるわけにはいきません!!」

「俺は野宿することにも慣れている!」

「アレクシス様が外で寝るなら、私もそうします!」

「…………」


 お互い、譲る気はないということがよくわかった。

 それなら……。


「一緒でも、私は構いません」

「し、しかし……!」

「私たちは結婚するのですよね? 大丈夫です。私はちゃんと、その覚悟ができています!」

「その覚悟……」


 ぎょっとしたまま固まってしまったアレクシス様の頰が、だんだん赤く染まっていく。

 そんな反応をされたら私も恥ずかしくなってしまうけれど、アレクシス様とならずっと一緒にいたいと思っているのだから、全然平気。むしろ嬉しいくらいだわ!


 自分にそう言い聞かせることで、私は平静を保った。


「……君は本当に、その意味がわかって言っているのか……?」

「その意味、ですか?」

「……やはりわかっていないか」

「?」


 その意味とは? 何か複雑な意味が含まれているのだろうか?


 大きな手のひらで顔を覆ったアレクシス様は、頭を抱えるようにして何かを考えている様子。


「すまないが、俺は君とただ一緒に寝るのは無理そうだ」

「え……」


 目を逸らされたままそう言われ、胸の奥がちくりと痛む。


「アレクシス様は、私と一晩中一緒にいるのは嫌ということですか?」

「違う!! 嫌なはずないだろう!? むしろ逆だ!」

「ですが……」


 無理だって、言ったじゃないですか。


 そんな思いを込めて彼を見上げたら、アレクシス様は降参したように深く息を吐いて、言った。


「そうじゃない……。俺は、君が隣で寝ていて何もしないでいられるほど、紳士ではないということだ」


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