36.この先のこと
本日3回目の更新です
それから二日後。怪我人の治癒が一通り終わり、改めて陛下に呼ばれた私とアレクシス様は、再び謁見の間を訪れていた。
そこで告げられたのは、私が正式に真の聖女として国に認定されたということ。
そして陛下は改めてカリーナとヴィラデッヘ様の件を謝罪したうえで、二人の処遇も教えてくれた。
真の聖女ではないけれど、双子の姉、カリーナにも聖女としての力があることは確かなので、今後はとても厳しくて有名な国随一の魔導師のもと、一から魔法の勉強をしながら働くことを命じられた。
カリーナが作る回復薬は誰か一人に管理を任せず、今後は陛下自身も定期的に確認することを約束した。
ヴィラデッヘ様は廃嫡され、全財産を没収のうえ、騎士団での下働きが言いつけられた。
国外追放という話も出たらしいけれど、この国の騎士団のもとで一から軍事について学べという陛下の気持ちに、今度こそ報いてほしいものだ。
「――折り入って、モカに頼みがある」
二人の処遇を私とアレクシス様に伝えた後、陛下は改まったように私を見据えた。
「どうかこのまま王都にいてくれないだろうか」
「えっ」
思わぬお願いに、つい不敬な声を出してしまった私に構わず、陛下は続けた。
「もちろん、これまでのように過酷な労働を強いるつもりはない。これからは君の意見がしっかり尊重されることを約束しよう。だが、真の聖女には王都にいてほしい」
「ですが……」
反射的に否定の言葉を口にしてしまったけれど、その続きはぐっと呑み込む。
私はヴェリキー辺境伯であるアレクシス様と結婚する。
これからもアレクシス様とともに、ヴェリキーの地で、辺境騎士団のみんなと一緒にいたい。
「アレクシスとのことは承知している。二人の婚約を解消しろとは言わない。アレクシスにも近衛騎士として王都にいてもらい、これからは聖女の護衛を頼みたいと考えているのだが、どうだろうか」
アレクシス様が聖女の護衛……つまり、ずっと私と一緒にいることを公認してくださるということ?
それはとても素敵だけど……でも。
「辺境騎士団はどうなりますか?」
「彼らはとても優秀だ。アレクシスがおらずともやっていけるだろう。できればこれからもヴェリキーの地を守ってくれると、とても心強いのだが」
陛下の言葉に、私とアレクシス様は黙ったまま目を合わせた。
アレクシス様はどうお考えかしら。
バジリスクを討伐したとはいえ、あの地は魔の森が近く、魔物の出現率が高い。
魔物討伐に長けている辺境騎士団がこのまま守り続けるのが一番だと思う。
でも、そうするとアレクシス様と皆さんは離ればなれになってしまう……。
「返事は急がん。考えてみてくれないか?」
陛下のやわらかな言い方に、アレクシス様は言葉を発さずにただ深く頭を下げた。
その日の夜。
「――モカ、少しいいだろうか」
「はい」
寝支度を整えたところで、私が借りている一室にアレクシス様がやってきた。
「ノアたちには、先にヴェリキーに戻ってもらったよ」
「そうですか」
ノアさんたち、一緒に王都に来ていた辺境騎士団の方たちも、魔物の事後処理などを手伝っていたと聞いている。
けれどそれも落ち着いたし、あとは専門家に任せて、持ち場に戻ったのだろう。
やはり、王都よりもヴェリキーのほうが危険な地であることは変わらないのだから。
「……」
「……」
アレクシス様をソファに促し、私もその隣に座ったのはいいけれど、それ以上会話が続かない。
〝私たちはいつ戻りましょうか〟
そう言いたいけれど、今は言えない。アレクシス様は、陛下の申し出をお受けするつもりか、聞いてもいいかしら……?
「わかっていると思うが、俺は君と離れる気はない」
そんな私の心を読んだかのように、ふとアレクシス様が口を開く。
「俺にとって、彼ら……辺境騎士団はとても大切な仲間だ。だが陛下が言っていた通り、彼らは俺がいなくても、立派にやれる」
アレクシス様から予想外の言葉が紡がれて、私はつい驚きに目を見開いた。
「ノアはとても頼りになる騎士だ。きっといい団長になるだろう」
「アレクシス様……」
戸惑いを見せる私を安心させるように優しく見つめて、アレクシス様は頷いた。
「俺にとって一番大切なことは、君の近くで、君を守ることだ」
「……」
私を守る? それは、聖女の護衛をするという意味よね?
でもきっと、それと同時に私と結婚して、ずっと一緒にいてくれるという意味でもあると思う。
アレクシス様は、私の気持ちを尊重するためにこう言ってくれているんだわ。
私もアレクシス様と一緒なら、どこだって構わない。
けれど真の聖女として、国の力にならなければいけないということもわかってる。
この数日、怪我をした騎士や民の治癒を行って、感じた。
彼らは私にとても感謝してくれた。
これまではずっと魔法部屋に籠もって回復薬を作る日々だったけれど、直接彼らの顔を見て、聖女という存在の大きさを実感した。
もちろんそれは、辺境騎士団の皆さんからも感じていたことだけど。
「ありがとうございます、アレクシス様」
彼は私に判断を委ねてくれている。
「どうするかは君が決めていいよ」と言ってくれているのが、伝わってくる。
それをあえて言葉にしないのは、きっと私に負担をかけないようにだろう。
そんなところからもアレクシス様の優しさが伝わってきて、私の胸はぽっとあたたかくなる。
「……アレクシス様、一つご相談があるのですが――」
陛下に伝える前に、私はヴェリキー辺境伯に確認しておかなければならないことがある。




