32.もう嫌 ※カリーナ視点
「カリーナ様! 至急手当てをお願いしたい者が――!」
「回復薬をください! それも、上級回復薬を……!!」
「回復薬が全然足りません! お願いです、急いでください!!」
…………ああっ、もう!
なんなのよ、なんなのよ、なんなのよっ……!!
私は全然休んでいないのに、どうしてそんなにこき使うのよ……!!
数日前から、王都を魔物が襲っている。
すぐに王宮騎士団が討伐に向かったけれど、大量の回復薬を求められ、私はこの数日働きっぱなし。
「これまで作ってきた分はどうしたの!? 備えがたくさんあるはずでしょう!?」
ここ数年、王都は平和だった。モカが休まず働いて、厳しいノルマを達成していたのだから、在庫がたくさんあるはず。
「在庫がないから困っているのです……!」
「どうしてよ!? ヴィラデッヘ様に聞いてちょうだい! 彼が回復薬を管理してくれているはずでしょう!?」
「……それが、これまでの分は他国に売ってしまったらしく、在庫が残っていないのです」
「はあ!?」
魔法部屋に缶詰状態の私に、騎士やら従者やらが押し寄せてきて発したとどめの一言に、くらりと目眩がした。
「ですが、殿下はカリーナ様が本気を出せばすぐに精製できるから大丈夫だと!」
「そんな……」
なんなの……、なんなのよ……!!
そんなに偉そうに言うなら自分で作ってみなさいよ!!
回復薬を作るのって、すっごく疲れるし、すっごく大変なんだから……!!
「カリーナ様、どうか本気を出してください!」
「うるさいわね! 私はずっと本気よ!!」
「しかし、これまでの速度と比べると明らかに……」
「もう嫌っ! 私は聖女よ!? 疲れたから休ませて!!」
「……モカ様はそんなこと、一回も言わなかったのに」
「!」
ぽつりと、誰かがこぼした言葉が私の耳に響いた。
「そうだ。それにこれまでは回復薬だってもっとスムーズに作れていたはずだろう?」
「モカ様がいなくなってから精製の速度が急激に落ちたと、殿下も困っておられる」
「まさか、これまではモカ様がお一人で……?」
騎士たちから向けられる疑いの視線に、私はごくりとつばを呑む。
「……っ違う! 違うわ!! 私がモカに仕事を押し付けられていたんだから……!!」
「それでは、どうかよろしくお願いします!」
「聖女カリーナ様! あなた様だけが頼りなのです!!」
「…………っ」
もう嫌。もう嫌。もう、嫌……っ!! 助けて、ヴィラデッヘ様……!!
心の中で婚約者に助けを求めてみたけれど、そういえばもうずっとヴィラデッヘ様に会っていない。
彼は全然会いにきてくれない。聖女の回復薬も他国に売っていただなんて……。
だからあんなに厳しいノルマを儲けていたのね。相談もなしに、酷いわ。あんまりじゃない……!!
「殿下が回復薬を他国に売っていること、カリーナ様は知らなかったのか?」
「ああ、そうみたいだな。だいたい殿下は、ソフィ男爵令嬢にご執心だからな」
「馬鹿、それはカリーナ様の前で言う必要ないだろ……!」
ひそひそ話しているつもりでしょうけど、全部丸聞こえだわ。
なに? ソフィ男爵令嬢って。その女は誰よ。私にはずっと会いに来てくれないくせに……。
以前、ヴィラデッヘ様と一緒にいた女の顔が浮かぶ。
もし他に女を作っていたら、許さないんだから……!!
「それよりカリーナ様、回復薬をお願いします!」
「あー、もう! 全然魔力が足りないわ……!!」
こんなことならモカを近くに置いておけばよかった……。
「カリーナ! いるか!?」
「ヴィラデッヘ様!」
ちょうどそのとき。ヴィラデッヘ様が魔法部屋にやってきた。ソフィらしき女は連れていない。
やっぱり王子様というのは、ヒロインのピンチに駆けつけてくれるものなのね!
そう思ったけれど。
「カリーナ! 大至急上級回復薬を作ってくれ!!」
険しい表情で私を見ると、開口一番、彼はそんな言葉を口にした。
「ヴィラデッヘ様、私はもうへとへとで、何もできませ――」
「どうなっているんだ、カリーナ! 君が作った回復薬は効果がとても弱く、使い物にならないぞ!?」
「……え」
彼に泣きつこうとしたのも束の間。私が最後まで言い終える前に、ヴィラデッヘ様は刺々しい視線と言葉を私に向けた。
「なんとかしろ! 数年振りに王都が魔物に襲われているんだ、今こそ真の聖女として活躍するときだろう!?」
「そんな……、ですが、私は……」
「このままでは僕が父上に怒られてしまう! 君がなんとかしてくれ! カリーナ!!」
「私は……もう、疲れて…………」
僕が父上に怒られる?
それがあなたの本音なの?
ヴィラデッヘ様の声が、ガンガン頭に響く。
彼は優しくて、頼りになる、私のお願いは聞いてくれる婚約者だと思っていたのに。




