30.告白
「――モカ、少しいいだろうか」
「はい」
その日の夜。
部屋で休んでいた私のもとに、アレクシス様がやってきた。
「疲れているところ、すまない」
「いいえ。アレクシス様も、お疲れ様です」
あの後、バジリスクの亡骸の処理や、王宮への報告書の作成などで、騎士団は大慌てだった。
バジリスクのような伝説級の魔物の一部……たとえば牙や体内の毒などは、とても優れた武器として加工される。
皮膚なんかも専門的な職人にきちんと処理をしてもらって加工されると、頑丈な防具になるらしい。
とにかく、この騎士団の責任者であるアレクシス様は、事後処理に追われて夕食もとらずに仕事をしていた。
「何か召し上がりましたか?」
「ああ。君が作ってくれたスープとパンをいただいたよ」
「そうですか……。今ハーブティーを淹れますね」
それしか食べなかったのね。
そう思い、アレクシス様には座ってもらってからお茶を淹れようとしたら、「モカ」と後ろから名前を呼ばれて手を掴まれた。
「君も座ってくれないか?」
「……はい」
けれど、アレクシス様は私に何か話があるようで、真剣な表情を向けて私を隣に座らせた。
「君は本当にいつも、俺たちに元気を与えてくれる」
「そんな、私は大したことはしていませんよ」
「君が作った料理を食べるとそれだけで元気になる。……だが、それだけではない」
独り言のように呟いて、小さく笑ったと思ったら。アレクシス様は掴んだままだった私の手をぎゅっと握り、まっすぐに視線を向けて口を開いた。
「とにかく俺は、君には言葉では言い表せないほど、感謝している」
とても真剣で、優しい眼差し。
男の人に、こんなに真剣に私の目を見て話をしてもらったことはない。
「……君には自由にしていいと言ったが……、やはり一つだけ伝えたいことがある。聞いてくれるだろうか?」
「なんでしょう?」
アレクシス様の話はいつだって聞く。なんでも話してほしいと思っている。
けれど彼は、乾いた唇を舐めると言い淀むように小さく息を吐いてから、緊張の色を顔に浮べた。
そして、何かを決心したように再び私を見つめると、ソファから下りて片膝をついた。
「モカ。これからもずっとここに……俺の妻として、いてほしい」
「――!」
私の手を握っているその大きな手が、小さく震えている気がする。
そんなの、私の答えは決まっているのに。
「……もちろんです!」
だってそれは、私にとってすごく嬉しい言葉。
〝大聖女だから王都に帰れ〟なんて言われたら、どうしようかと思った。
けれど私はここでの生活が大好き。
アレクシス様のことが大好き。
だから帰りたくなんかない。
……カリーナも、王都でヴィラデッヘ様と幸せにしているかしら。
もしかしたら、私と同じように強い力が使えるようになっていて、大聖女と言われていたりして。
そんなことを考えながら、嬉々として返事をした私に、アレクシス様は続けた。
「それから、できればこれからは本当の夫婦として歩み寄れたらと、思う」
「……本当の、夫婦?」
「モカ、聞いてほしい」
「はい……」
かつてないほど、アレクシス様が緊張しているのがわかる。怖いくらい真剣な瞳だけど、やっぱりそんな表情すらも美しい人――。
「俺は、君のことが好きだ」
「……アレクシス様」
「愛のない結婚だと言ったが、俺は君のことを愛してしまった。いつも君のことを考え、君のことを想っている。俺にはもう、君のいない生活は考えられない」
「……」
はっきりと、まっすぐに。
これ以上ないほどの愛が、アレクシス様の言葉から、声から、視線から、握られた手の熱から……伝わってくる。
「だからどうか、俺の本当の妻として、君と愛のある結婚をしたいと、そう思っている」
これまで、こんなにまっすぐな愛の告白を受けたことはない。
私はただの〝スペア〟として、姉の影で生きてきた。
聖女としてひたすら国に尽くしてきた。
でもアレクシス様は、まっすぐに私を見てくれている。私を想ってくれている。
それがこんなに嬉しいことだなんて。
アレクシス様がいてくれたら、私はなんだってできてしまうような気がする。
「もちろんです……アレクシス様。喜んでお受けいたします」
「本当か?」
「はい。私もアレクシス様のことをお慕いしています。初めてあなたにお会いした日からずっと、あなたは素敵な人だと思っていました。だから、あなたと愛のある結婚ができるなんて……、私はとても嬉しいです」
本当に、こんな幸せってあるのかしらと思ってしまうくらい、私は幸せ。
「ありがとう、モカ。本当にありがとう。必ず君を幸せにする」
「私こそ、幸せにして差し上げますよ」
そう言って微笑み合うと、アレクシス様はもう一度私の隣に座り、優しく抱きしめてくれた。
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結ばれました…!
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このお話はもう少し続きます(*´˘`*)
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