29.覚醒2
そんな……! いやっ……!!
大切な人を救えなくて、何が聖女よ……!
アレクシス様のことも、他のみんなも、私が絶対に助ける……!!
「モカちゃん……?」
ドクンドクンと、大きく鼓動が高鳴る。
強く願いながらアレクシス様の手を握り返した瞬間。
胸の奥から湧き出る魔力で身体が燃えるように熱くなり、辺りを再び光が包んだ。
今度のは、さっきのとは少し違う、淡くて優しい光。
「この光は、なんだ……?」
「とてもあたたかくて、落ち着く光だ……」
「なぜだろう、疲れが解けていくような……」
その光を見て、みんなが口々に言葉を紡ぐ。
「見ろ、アレクの痣が……!」
「!」
ノアさんの言葉に、アレクシス様の胸元に視線を落とすと、先ほどまでじわじわと大きくなっていた胸の痣が小さくなっていた。
そして、そのまま消滅した。
「……モカ?」
「アレクシス様!!」
それと同時にアレクシス様がゆっくりと目を開け、私の名前を呟く。
「大丈夫ですか、アレクシス様!」
「ああ、……毒が、消えたのか? モカ、君が治してくれたのか?」
「よかった……! 本当によかったです、アレクシス様……!!」
自ら身体を起こして胸に手を当てているアレクシス様に、私は嬉しさのあまり思い切り抱きついてしまった。
「モカ……本当に君はすごいな。ありがとう」
「……はいっ!」
そんな私を、アレクシス様も優しく抱きしめてくれた。
よかった。本当によかった……!!
「――しかし、回復薬も使わずにすべて治してしまうなんて……」
アレクシス様の毒だけではなく、怪我をしていた他の騎士たちの傷も治っていることを確認すると、ノアさんが感心したように改めて呟いた。
皆さんの視線が一斉に私に向けられる。
「確かに。……モカ、君にはそんなに強い力があったのか」
「……私もよくわからないのですが、とにかく無我夢中で……」
「それに、俺たちがあの瘴気の中戦えたのも不思議だ。前回は火を焚いて、火矢でなんとか追い払ったというのに」
「君は一体……」
確かに、これまであんな猛毒を受けた人を治したことはなかった。
私は薬草に魔力を注いで回復薬を作ることが主な仕事だった。
かすり傷程度の小さな怪我なら治すこともできたけど、薬草に頼らず、魔力だけで毒を抜いたり大怪我を治したりできるなんて――。
「モカ、やはり君が真の聖女だったんだ」
「――え?」
アレクシス様の言葉に、顔を上げる。
「ただの〝スペアの聖女〟が、あんなことをできるとは思えない」
「そうだよ、モカちゃん」
「……」
アレクシス様とノアさんの言葉を聞いて、他の皆さんも口々に言葉を紡ぐ。
「そうだ……聖女モカ様のお力で、我ら辺境騎士団は覚醒した……!」
「モカ様の料理を毎日食べていたから俺たちにかけられた呪いが解けて、バジリスクの瘴気にも耐えられたのか!」
「モカ様は、真の聖女様だった!」
「待ってください、私は……!」
「以前にも言ったが、やはり君が作った料理を毎日食べていたから、俺たちは強化されていたのだと思う」
「ですが、料理に魔力は注いでいません。それに、私は回復薬を作ることはできますが、呪いを解くことも戦力を高めることもできませんし……」
私だって以前にもそう伝えた。そんなことをすれば、さすがに魔力を使いすぎて私が倒れてしまうと。
だから、そんな期待に満ちた視線を向けられても……私は所詮、もう用済みになったスペアの聖女。
「大聖女――」
そう思っていたら、アレクシス様がぽつりと呟くようにその言葉を口にした。
「もしかしたら君は、数百年に一度誕生すると言われている、大聖女なのではないか?」
「……まさか」
「きっとそうだ。大聖女様なら、治癒魔法以外にも様々なことができてもおかしくない」
「そうか……大聖女様……! そうだ!!」
アレクシス様とノアさんの言葉に同意して、みんなが私に熱い視線を向けてくる。
「私が大聖女だなんて、そんなわけないですよ! 〝最強の騎士団〟の皆さんが、お強いからです!」
一瞬そうなのかもしれないと考えてしまったけれど、まさかそんなはずないわ。
だって王都ではすごく辛かった。もしも私が大聖女なら、あれくらいの仕事、もっと楽にできたはずだもの。
「とにかく、君のおかげで俺たちが助かったことは間違いない。本当にありがとう、モカ」
「……!」
そう言って私の手を取ったアレクシス様は、紳士的な所作で手の甲に口づけた。
その後ろで、ノアさんを始めとした他の騎士たちは左胸に手を当てて、私に向かって頭を下げていた。
その光景を見て、私の胸が再びほっこりとあたたかくなるのを感じる。
……もしも本当に私がそんな力に目覚めたのだとしたら、それはアレクシス様やこの騎士団の皆さんのおかげだわ。
皆さんのために力になりたいと強く願う気持ちが、アレクシス様を想うこの心が、聖女としての力を解放させたのだと思う。
私はこの騎士団が大好き。
「私からもお礼を言います。いつもありがとうございます!」
だからそう言って笑ったら、顔を上げた皆さんも優しく微笑んでくれた。
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