第十一話 末路
理系じゃないのでよくわかりませんが、この話に出てくる現象は現実でやったら絶対やばいことになるのでやめましょう。
アステールの放った光球は後衛のメイの方向へ飛んでいき、直撃したように見えた。だが、土煙の中から現れたのは、アステールのものより遥かに大きい光球と、杖をアステールに向けるメイの姿であった。
「私は戦うのは嫌いです。ですが、苦手ではないんですよ。『一緒にいていい』って言ってくれたリーフェウスさん達の為なら…嫌いなことでも、頑張ります…!」
「すげえじゃねえかメイ!」
「まさしく大砲だな…」
「あれ撃ってたら勝てるんじゃ…」
硝光がそう言いかけたとき、急にメイが倒れ込んだ。
「私…魔法を使うとなると…諸々の調節が難しくて…一回の戦闘じゃ…多分 1、2回しか攻撃が出来ないんです…」
「…まあ、どんなものにも欠点はあるよな」
「気を落とすな。助かったぞ」
「あれ?じゃああの光球は誰に当たったんだ?」
「硝光…あれ…」
灰蘭が指差した先には、まるでギャグ漫画のように黒焦げになって倒れているラビアの姿があった。
「ラ、ラビアァァァァァァァッ!…フフッ」
「おいおい、笑うなよリーフェウス…仲間の不幸を…フッ」
(殺す…)
ラビアが密かにそんな決意をしたとき、奥の方から光球が飛んできた。
「さっきの話は聞いたぞ…もうその娘はガス欠で動けんそうだな?ならば状況は変わらない。貴様らの実力がその程度ならば、私が本気を出せば片はつく…!」
アステールのその台詞はハッタリではないらしく、先程よりも密度と速度が増した光球がリーフェウス達に襲いかかった。
(これをどうにかできないものか…)
するとリーフェウスはあることを思い出した。
(そういや俺って能力を『創り出せる』んだよな…やってみるか)
そしてリーフェウスは、頭の中で自身が魔法を弾き返す想像をした。すると…
「あ、出来た」
リーフェウスの頭上に「反」の文字が浮かび、リーフェウスが剣を振るって光球に当てると、光球は勢いをそのままに跳ね返っていった。
「ああそういやそんな能力だったなお前!」
「だが俺1人で捌くのには限界がある…」
「僕に考えがあるよ。君たちはアステールの気を引いててくれ」
「ベル、鉄持ってない?」
「予備の腕なら…」
『予備の腕ってなんだよ』と一同は思いつつ、戦闘に意識を戻した。
「じゃあそれ限界まで熱してくれない?」
「わかった」
(私もやりたいことがあるのよね…どうにかタイミングが来るといいんだけど)
しばらくして…
「これ以上は溶けるから無理だ!あとどうすればいい?」
「よし、それをアステールの方に飛ばしてくれる?」
ベルは思いっきり振りかぶると、力いっぱい高温の腕を投げた。
「伏せな!」
そう言うとラビアは、指先の小さな魔法陣から水を発射した。すると…
「うわっ!」
轟音と共に部屋中が煙に包まれた。
「なんだこれは…!煙幕…?いや、湯気か…!こんなもの…!」
アステールは今までのものよりも大きな光球を出して、湯気を吹き飛ばそうとした。だが、光球はアステールの思っているような大きさにはならなかった。
「知らないの?湯気は光を拡散するんだよ」
「すげーなお前。もしかして頭良いのか?」
「普通だよ。力には知識で、知識には力で対抗するのが僕のやり方だからね」
(煙幕…!手間が省けたわ…!)
灰蘭はアステールの方へと駆け抜けて、周りを走り回った。
「小癪な…私を惑わすつもりなのだろうが、これだけ戦っていればもう覚えた。その炎を纏った剣はお前のものだろう?煙幕の中でもうっすらと見えているぞ…!」
アステールは、剣が纏っている炎を頼りに灰蘭を撃ち落とそうとした。だが手応えは皆無に等しく、代わりにガラスが割れるような音が小さく響いた。
「なんだこれは…!?まさか劇物…!?いや、体に異変はない。この滑るような感覚は…」
「油よ」
(そういや灰蘭買ってたな…マジで飲む用じゃなかったんだ)
アホみたいなことを本気にしている硝光をよそに、灰蘭は自分の作戦の仕上げに入った。炎を纏ったその剣で、油まみれのアステールを斬りつけたのである。
「グァァッ!熱い…!熱いぃ!」
(うっわ)
ラビアは見かけによらない容赦のなさに若干引いていた。
「リーフェウス!片付けなさい!」
「任せろ」
そして、燃え盛るアステールの頭頂部をリーフェウスの剣の峰がぶん殴った。それには流石のアステールも戦意を失ったかのように崩れ落ちた。
「やっと終わった…」
一同が一息ついたあと、ラビアが声をかけた。
「退きな、リーフェウス」
「何をする気だ?」
「決まってんでしょ、報いを受けさせるんだよ」
「報い?」
「なんの罪もない人間を殺して、更にはその子供に濡れ衣を着せるような奴だよ?檻に入れられて終わりじゃあ償いきれないでしょ。安心しなよ。君たちの手は汚させない。僕がやる」
そう言ったラビアの周りには、夥しい数の光の槍が現れた。
「あんたの言うことにも一理はあるが…ハァ。こういう時は、メイの意見を仰ぐべきじゃないか?」
「君はどうしたいんだい?」
「私、ですか?私は…」
メイが悩んでいる間、アステールはさっきと変わらない姿勢で、俯きながら考え事をしていた。
(クソ…!クソ…!こんな賊如きに私の計画が阻止されようとは…!まあいい。幸いあの娘は決断をしかねているようだ。このままなんとか時間を稼げれば…主が回収に来てくれるはず…!)
そこまで思考が回ったとき、突然アステールの正面の空間がねじれた。
「待て、皆警戒しろ。何かが来るぞ」
ねじれた空間は黒い空洞となった。そこから出てきたのは、銀色の美しい長髪を持つ男だった。
「ああ…!タナトス様…!」
「タナトス?あれが?」
「ヴェンジェンスの親玉か…!」
「タナトス様!私はタナトス様の為に、現世での拠点を広げる為に活動していました!ですが!あの者達が邪魔をしてきたのです!それに、あの機械人!ベルが裏切ったのです!」
「こいつ…!そんな理由じゃなかっただろうが!」
「しかも告げ口って…ガキじゃあるまいし…」
「アステール…」
誰もが、タナトスと戦闘になると思って身構えていた。だが、その後のタナトスが発した言葉はその場にいる全員の予想を裏切った。
「耳障りだ」
「は…?」
その疑問の言葉が、アステールの遺言となった。アステールの心臓の辺りを薄い光が貫いた瞬間、アステールは糸の切れた人形のように力無く倒れ込んだ。
「…!?」
リーフェウス達は全員、驚きが隠せなかった。それは、その後に続いた言葉に対しても同様であった。
「私の部下が迷惑をかけたようだ…すまない」
タナトスは無機質な声で謝罪を述べると、そのままの口調で続けた。
「それからベル。裏切ったというのは真実か?」
「どいつもこいつも…俺は裏切り者じゃねえ。あんたを正気に戻したいだけだ」
「ほう…ならば、やはり我々の衝突は避けられまい。その意思が本物ならば、奈落へと来るがいい。私は歓迎する」
そう言い残して、タナトスはどこかへと消え去った。こうして、この一連の事件は幕を閉じた。
(いやこいつの死体は持って帰れよ)
と、全員が思っていたのは秘密である。
キャラクタープロフィール⑨
名前 アステール
種族 魔族(半分人間)
所属 ヴェンジェンス
好きなもの 地位 権力 富
嫌いなもの 自分の邪魔をするもの
異能 なし(光球を操れる)
作者コメント
あの光球は異能っぽいが異能ではない。というかまずこの世界には異能を持つ人物自体が少ない。ベルやディザイアを始めとした同僚全員、メイ&ソロン兄妹、果ては上司からも嫌われている。ある日行った近況報告会的なものにて、自分の教皇になるための計画を話したときから本格的に嫌われ始めた。ディザイアに至っては「そのツラ次見せたら腑を引き裂くぞ」と脅しをかけるレベルで嫌っている。イメージした言葉は「傲慢」




