79話
「互いに慈しみ合うことを…婚姻契約の下に誓いますか」
「「…はい、誓います…」」
よく晴れた青空と、美しい緑が鮮やかなガーデンウエディング。
たくさんの方たちの笑顔に見守られながら…フェルナンド様と私は、生涯を共にすることを再び誓い合った。
「では、誓いの口づけを」
式のクライマックス。フェルナンド様の表情が硬い…
これはもしかして、私のほうが緊張していないのかも?
…トン…と、唇に軽く触れる…真面目な誓いの口づけ。
閉じていた目をそっと開いて微笑むと、フェルナンド様の頬が緩んだ。
「「「「おめでとう!!」」」」
お義父様やお義母様、皆さまが一斉に立ち上がり、拍手をして祝ってくださいます。
感謝の気持ちを込めて、私たちは皆さま方へ一礼をした。
レイノルトとジェシカは転ぶことなく大役を立派にやり遂げ、自慢げな笑顔をアンディ義兄様に向けている。
素敵な旦那様に愛されて、こんな風に祝福までしていただけるだなんて…私は何て幸せなのかしら。
今のこの瞬間を、一生忘れないわ。
「今日は目出度い日だ…賑やかに騒ごう!乾杯!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
華やかに飾り付けられた侯爵家のお庭から、新婚夫婦のお披露目のために用意された食事の席へと会場は移った。
夫婦揃って、皆さまへ改めてご挨拶をして回る。
普通ならば両家の紹介だけでも大変だろうし…人数も今の倍になっているはずよね?
私たちは遠縁の親戚同士の結婚だから、最初から和気あいあい。
とても楽しいお披露目パーティーになった。
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「新しいお邸には、アリエルたちがすでに待機しております。何もご心配はいりません」
今日一日、私の側に付いていてくれたミリアムさんは…最後も、馬車の前で私たちを見送ってくれる。
パーティーは明日まで終わることなく続きそうなので、適当なところで切り上げ…私たちは“新居”へと向かうことにした。
「フェルナンド様、イシス様、どうか末永くお幸せに」
「ミリアムさん…今までお世話になりました。本当にありがとう」
「メイド長、世話になった。後のことは頼んだよ」
「お任せくださいませ」
ゴトゴトと馬車に揺られ、フェルナンド様と私は2人きりの空間にホッと一息つく。
「皆さん、お酒をよく飲まれていたわね…酒豪一族?」
お付き合い程度飲んだだけで…私は眠くなってきている。
フェルナンド様はずっと飲んでいたけれど、平気なの?
「うーん…兄上が結婚した時は、パーティーも親族ばかりではなかったから。でも今回は…皆が好き放題飲んで…」
そこまで話して、シャツの首元を緩め…整えられた髪をガシガシと雑に崩すと…『酒豪だと分かった』と一言呟く。
「フェル、酔ってる?」
「…ん…そう…かな?…かなり飲まされたな…容赦ない」
話し方がいつもよりゆっくりだし、気怠そうにして…ちょっと色気も漏れ出てるじゃない。
もう…エロ可愛いから…許す。
「イシス…幸せか…?」
乱れた長い前髪の隙間から、濃いブルーの瞳が私を真っ直ぐに見ていた。
「えぇ。あなたといると…とても…幸せよ」
私は…金色の瞳でしっかりと彼を見つめて答える。
「…私もだ…。イシス、側に来て」
私はフェルナンド様の胸にふわりと飛び込んだ。
お邸にたどり着くまで、私たちはそのままずっと抱き合っていた。
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「イシス様?」
呼ばれてハッとした。いけない…お風呂で居眠りなんて!
「お疲れですか?マッサージはしっかりしておきました」
「ありがとう、アリエルさん。私、お酒に弱いみたい」
「今日のような日は…お休みの前に、少量お飲みになるのはいいと思いますよ?…リラックスできますので…」
夜着は肌触りのいい薄布のガウンで、胸元と腰に可愛いレースのリボンが付いている。他には何も身に着けない。
1日の疲れを癒してもらい、身体の隅々まで磨き上げられた私は…夫婦の寝室へと送り出された。
広い寝室の真ん中には、天蓋付きの巨大なベッド。
落ち着いた色合いのソファーセットと…テーブルにはワインとフルーツが用意されている。
「寝室は、こんな感じだったのね」
部屋の照明は落としてあり、ほんのりと柔らかな光が足元を照らすのみ。
大きな窓から差し込む月明かりで、室内が真っ暗ということはない。
フェルナンド様を待つ間、ベランダに出て月を眺める。
「…きれい…」
入浴後の身体の火照りが、穏やかに引いていく。
…今日は…もっと緊張するのかなと思っていたけれど…
「イシス、外にいたのか…冷えるぞ?」
聞き慣れた優しい声がして…後ろから抱き締められる。
薄布の夜着は、フェルナンド様の鍛え上げられた逞しい身体を…いつもより近く…熱く感じさせた。
…あ…、…やっぱり…緊張する…




