78話
明日の結婚式と披露パーティーを終えたら、私たち夫婦は住まいを移すことになる。
今夜は家族全員で食事をしながら、楽しい時間を過ごす。
「カイラが落ち着いたら、あなたたちの新居へ遊びに行くわね。元皇族所有のお邸だなんて、今から楽しみだわ」
あら…お義母様には、高価な美術品の数々を詰め込んだお部屋をぜひご紹介しなきゃ!
「部屋は余っていますから、泊まっていけばいいですよ?母上」
「フェル、女性は泊まりとなった瞬間…荷物が山のように増えるものなのよ?
泊まるより、しょっちゅう遊びに行くほうが効率的なの」
「しょっちゅう…来ます?」
「あなたに来るなと言われても、行くわ」
「……………」
「フェル、夜まではお邪魔しないってことよ?オホホ」
微妙な顔をするフェルナンド様を見ながら、上機嫌で笑うお義母様。
うん。
侯爵家では、これがいつもの楽しい家族の団欒です!
このやり取りがなくなったら、きっと寂しくなるわ。
──────────
「イシス様、とてもお綺麗ですよ。本日は誠におめでとうございます」
「「「「おめでとうございます!」」」」
朝早くから私の身支度を手伝ってくれた…ミリアムさんとアリエルさん、そして3人のメイドたち…全員からお祝いの言葉をいただいた。
「ありがとうございます」
「今日は私がお側におりますので、何かありましたらお声がけください」
ミリアムさんの優しい笑顔を見ていたら、緊張も解れてくるような気がする。とても有り難いわ。
「先ずは…フェルナンド様をお呼びしてまいります。もう廊下を行ったり来たり…忙しないご様子なので」
ミリアムさんがウフフと笑って部屋を出て行く。
──────────
「…イシス…?…準備できたって…?」
フェルナンド様は、そーっと扉を開けて入ってきた。
あらら?忙しないご様子だと聞いていたけれど…?
「はい…できましたわ。どうですか?旦那様」
「……………」
ふり向いた私を見て、ボーッと…扉の前で突っ立ったまま動かないフェルナンド様。
「…フェル…?…どう…?」
「あ、あぁ…イシス………き…綺麗だ…とても…」
『信じられないくらいにね』…と、そう呟きながら私の元へゆっくりと近付いて来る。
「真っ白なウエディングドレスを着た君が、これほど美しいとは…一瞬声が出なかった。さぁ…よく見せて…」
濃いブルーの瞳が、私の頭の先から足の先までをじっくり丁寧に眺めていく。
今日は、フェルナンド様も私に合わせて白い衣装に身を包んでいる。素敵な花婿姿…とても凛々しい。
「フェルも似合っているわ」
「そうか…?…私はイシスの引き立て役だろう?」
そう言って甘やかに微笑むと、白い手袋に覆われた私の手をそっと取り…口づける仕草をした。
「肩が出ていることは気になるが…ドレスが似合い過ぎている…。はぁ…これでは何も文句が言えないな」
あ、やっぱり気になる?
「「「「イシス!」」」」
お義父様とお義母様、アンディ義兄様、カイラ義姉様がお部屋に来てくださいました。
「イシス、ウエディングドレスよく似合っているわ!」
「ありがとうございます、お義母様」
お義母様の手には、美しいキャスケードブーケが…。
「はい。このブーケはタチアナ様からの贈り物よ。イシスのために…ご自分でアレンジされたんですって」
「…えぇ!…本当ですか?…タチアナ様ったら…」
タチアナ様は、芸術面でも素晴らしい才能とセンスをお持ちなのね。
『はい、フェルもよ』と、お義母様はフェルナンド様の左胸にも私のブーケと同じ花飾りを付けた。
「2人への祝いとして、エリック殿下やクリストファー殿下、グレイツェル公爵家から贈られてきた花が凄いんだ…会場はもう花だらけになっているんだぞ」
お義父様は、手を大きく広げてそう仰る。
「まぁ、そんなに?」
「大袈裟にするのはやめてくださいと…何度も言ったんですがね」
フェルナンド様ったら…。皇族や公爵家の方々からのご厚意は、そう簡単にお断りできるものではないでしょう?
「イシス、可愛い義妹…幸せになるのよ。私はブルックがいるから出席はできないけれど、邸の隅から見守っているからね」
「はい、カイラ義姉様。今日は、レイとジェシーをお借りいたしますわ」
「2人とも、ベール・ボーイとベール・ガールができると大喜びで…昨夜はなかなか寝なくて困ったくらいだよ。
…大事な本番で転ばなきゃいいが…」
アンディ義兄様が要らぬ心配をしている。
そういうことを言うと…本当にそうなったりするのよ。
可愛い甥っ子と姪っ子が心配だわ。
“先読み”しておこうかしら…?
※残り2話となりました。
読んで頂きまして、誠にありがとうございます!




