74話
「イシス様っ!」
「タチアナ様…お久しぶりですわ」
「ずっと、お会いしたかったんですのよ」
うれしそうな笑顔のタチアナ様。相変わらず可愛らしいお方です。
宮殿でのお茶会は、3人の皇子殿下と側近候補者などが集まり…予定通りに行われました。
皇子殿下たちの様子は少しぎこちない気がするけれど、これは仕方がないわよね。
「タチアナ様、イシス様…ごきげんよう」
「「ナターリエ様!」」
このお茶会に参加する女性の中で、最も身分が高いのはナターリエ様。
タチアナ様と揃って、丁寧にご挨拶をする。
「本日はお天気もよく…お茶会日和だこと」
すっかりお元気になられたナターリエ様。凛として…高位貴族らしく威厳あるお姿です。
──────────
「イシス様、やっぱり知らなかったのね?」
「タチアナ様は分かっていらっしゃるのね…ナターリエ様も、ご存知ですの?」
「まぁ、貴族令嬢として…必要な知識ですわね」
私たち3人は、外のガーデンテラスでコソコソと女子の話をしていました。
実は、男女の営みについて…最近カイラ義姉様からご指導を受けたのだけれど…
私は、ご結婚前のお2人にも聞いてみたかったのです。
「婚姻契約をされているのにまだということは、フェルナンド様は…相当我慢なさっているわね」
「ナターリエ様、イシス様はお式の日が初夜ということらしいですわよ。きっと大爆発ですわっ」
だ…大爆発?!…何が?何がですの?タチアナ様!
青ざめる私を見ながら、ナターリエ様とタチアナ様がニンマリと笑う。
未来の義姉妹であるお2人は、とっても仲良しですのね。
「イシス様ったら、そんな必死なお顔なさらないで。興味津々過ぎ…カワイイ…」
「…勉強不足なもので…」
「何がご心配なの?フェルナンド様なら、嫌というほど愛でてくださいますわ。身を任せていればよろしいのに」
お任せするにしても、何か…こう…ありますよね?!
「一から十まで指導をする閨教育など、愛のない夫婦への子作り指南のようなものよ?私はそう思っておりますわ。
お互いを求めて愛し合いたい夫婦に…必要かしら?」
「……あ……」
「つまり…フェルナンド様が分かっていらっしゃるから、イシス様は一から五?位まで知っていれば十分!ということですわね。
頭でっかちになる必要など、全くございませんのよ」
な、なるほど。
タチアナ様ったら…お久しぶりの秀才モード?
「イシス様、愛する人に抱かれながら…教科書通りの手順をあれこれ思い出したくはないでしょう?
全然ロマンチックではありませんわ。
フェルナンド様との初夜は一生に一度。“こんなの知らなかった”…というくらいが、初心でよろしくてよ」
た、確かに。
ナターリエ様ったら…どこ目線でいらっしゃるの?
男女の営みとは、愛がなくても成立する。
でも、そこに愛があれば…互いを求め合う気持ちがあれば…その行為は『特別なもの』になるのかもしれない。
──────────
「茶会、無事に終わってよかったな」
帰りの馬車に乗り込んだ瞬間、ホッとして力が抜ける。
「えぇ。フェルはすぐに馴染んでいたわね。3ヶ月半の不在なんて関係なかったみたい。
ナターリエ様とタチアナ様は、とても仲がいいのよ。お2人とご一緒できて楽しかったわ」
「ナターリエ嬢は、笑顔を見せない令嬢として有名だが…今日はいつもと違って見えたな」
「本当?それならよかった…素敵な方なのよ」
小さいころから厳しい教育を受け、感情を表に出さなくなってしまったナターリエ様。
ほんの少しでも笑顔で過ごせたのなら…うれしい。
「皇族に嫁ぐお2人は…いろいろと大変よね。私はフェルの奥さんで本当によかった!」
「…奥様…そんなに可愛いことを言うと…」
フェルナンド様がそっと近付いてきて、唇に…チュッと…軽く口づける。
「…どうなるか…分かってる?…」
濃いブルーの瞳から熱い視線が届く。恥ずかしくなってつい俯いてしまう。
「…あっ…」
フェルナンド様はそんな私を逃さない。あっという間に唇を奪われてしまう。
「…ぁ…ん……んんっ…っ…フェル…」
唇がわずかに開いた隙に、スルリと舌が滑り込んでくる。
もう何度目かの深い口づけ。
縮んだ舌先を刺激され、唾液と柔らかい舌を味わうように…じっくりと優しく吸われた。
口腔内を蹂躙され…甘い一時に夢中になる。
フェルナンド様はそんな私の身体を撫で上げ、腰から背中へと手を這わせる。
「……ん…ぁっ…」
息苦しくなって唇を離す…フェルナンド様の口元で光る唾液の糸が凄くいやらしい。
「…あまり…いじめないで…」
「イシス、それは煽ってる……逆効果だよ…」
あぁ…この人と過ごす初夜はどうなってしまうのかしら?




