閑話2(フェルナンドSide)
「コホン。式を挙げてからと…考えています」
「…本当に…イシスを大切にしているのね」
「当たり前なことを言わないでください、義姉上」
ちゃんと…結婚式の後に、初夜を迎えたい。
「仕方がないわね…じゃあ、私がイシスに説明するわ。初夜とは何ぞや?って、絶対に必要でしょう?」
え?
いやいや、婚姻契約したら私がゆっくり手解きしようと思っているので…そっとしておいてください。
「そうね、避妊の段階ではなかったみたいだし…カイラに任せましょう。…フェルがそこまで真面目だったなんて…(まだ童貞とは)」
待って?!
義姉上が閨についてどんな話をするのか予想できない。それは…ちょっと…いや、かなり困る。
バッ!と父上と兄上に救いの目を向ける。
♢
『お前、3ヶ月毎日添い寝とかできるか?』
『父上、私なら3日が限度です』
『だよな…って嘘つけ、1日で無理だろう』
『(無視)。フェルナンドは…童貞なので…』
『でも、3ヶ月だぞ。避妊薬があるんだから…婚約したら婚前交渉はアリだろう?フェルナンドはイシスと絶対結婚するんだから』
『私とカイラは婚前交渉していませんよ』
『(無視)。お前の時には避妊薬が出回っていたからよかったよな~』
『もしや、辺境の地ではなかなか手に入らなかったのでは?』
『あ~避妊薬がないとしたら…ちょっと…童貞のフェルナンドには無理か』
♢
ダメだ。
この2人には助けて貰えそうにない。
婚前交渉?避妊薬?
高位貴族の妻は、処女であることがマストではないのか?
男同士のコソコソ話を…中途半端に聞いて混乱した。
純潔を散らした証、いわゆる血の跡は…偽装ができる。
当人同士が口裏を合わせれば済む話なのだとか。
…知らなかったな…。
─────────
母上、義姉上、義姉上に付き添って兄上が…執務室から出て行った。
「さて、これは…お前に頼まれていたイシスへのプレゼントだ。ちゃんと中を確認しておいてくれよ」
父上から宝石の入った箱を受け取る。
「はい。ありがとうございます、父上」
婚約者になってから初めての贈り物だ…イシスが喜んでくれるといいのだが。
「後…お前から引き継いでいた、例の件だが」
「バジルとチェルシーですか?」
「あぁ。報告によると、チェルシーが『側妃になる』と…周りの令嬢たちに言い始めたそうだ」
「側妃?」
側妃は、正妃…つまり皇后が1年で子を授からなかった場合に迎えることができる妃…というのが正式な立場だ。
皇太子任命と同時に婚約者と婚姻契約をし、子を成した場合は側妃を迎えないことも屡々。
要するに、今ごろから側妃になるとかいうレベルの話ではないのだが?
「次期皇帝となる皇太子候補には婚約者がいる。だから側妃を狙うしかないとして…堂々と言いふらす意味が分からん。アレは、父親と親しい側妃殿下に憧れているのか?」
「馬鹿なんでしょう」
どうせ、アンデヴァイセン伯爵が『娘を皇帝の側妃にしよう』とか夢物語を聞かせたんだろう。
「そうか。バジルは婦女暴行の未遂が一度だけあった。娼館へは週に3回は通い、最近は年増の寡婦とも親密な関係らしい。あれほどの愚物…普通なら跡継ぎにはせん。
アンデヴァイセン伯爵は側妃殿下と第二皇子を取り込むことに必死、伯爵夫人はドレスや宝石を買い集めることに夢中。本当に酷い一家だな…驚いたぞ」
名家として輝かしい過去の栄光と財産を、見事に一代で食い潰している“ゴミくず”だ。
「相変わらずですね。バジルの卑猥な噂は、貴族間にもっと大々的にバラしてください」
「お…おう…そうだな」
女性を襲い、娼館に通い詰め情事に溺れる息子の話はすぐに社交界で広まり…伯爵の耳にも届くだろう。
いや、とっくに知っていて放置しているのかもしれない。
だからこそ、側妃殿下に取り入って…旨い汁を吸い…生き延びようとしているのだ。
「父上、第一皇子は25歳ですよね…皇太子が決まるのはそろそろ?」
「そうだ、内々に決まるのは…間もなくだ」
現皇帝が在位しているうちに皇太子を決めることが慣例のため『嫡男が25歳の年に皇太子を任命する』と皇帝陛下がお決めになった。
現在、第一皇子は25歳、第二皇子は23歳、第三皇子は21歳である。
皇太子争いは、第一皇子のエリック殿下と第二皇子のユーリス殿下。
皇太子になる可能性のある皇子たちは、いつの時代も命を狙われる。
どの段階で皇太子を決めようが争い事がなくなるわけではないが、皇帝陛下は最適な時期を見極める必要がある。
現状、有力候補は間違いなくエリック殿下だ。
アンデヴァイセン伯爵が“ユーリス殿下を皇帝に”と企てているのなら…動き出しているかもしれない。




