閑話(フェルナンドSide)
イシスが謁見のためのドレスを急ぎ準備している間、侯爵家の執務室には家族全員が揃っていた。
「正直…行く時には、帰って来れると思っていませんでした。たった3ヶ月で責務を果たせたのは、全てイシスのお陰です」
「飛龍の討伐、魔物の森の瘴気、そして…龍の呪いか。難題ばかりを…よく解決したな」
「えぇ、飛龍の討伐は…私のほうが慌てました。思い出したくもありません」
異能の眼と魔術を駆使し、双方の足りない部分や優れた能力を状況に応じて上手く使い分け…時にかけ合わせる。
イシスはその判断が驚くほど早く、正確なのだ。
「イシスは、飛龍や魔物を探知する魔導具の性能を…今より上げたいと言っていました。今後は、それに専念するだろうと思います」
「そんなことを…なぜイシスが?」
「飛龍も魔物も、その存在が早くに分かるほど準備と心構えに余裕が生まれます。
イシスは10分足らずで飛龍を迎え撃ちましたが…普通、そうはいきませんからね」
「…は…それはそうだな…」
「探知の精度が上がれば、寝ずの番をしている兵士の不安も緩和されます。
そうやって、辺境伯軍の兵士に少しでも安らぐ時間を与えたい…そんな風に考えているんでしょう」
「…なるほど…。それは、全面的に協力してやらねばな」
家族全員が…ウンウン…と、頷く。
「龍の呪いについては、様々な噂が立つだろうな…後継ぎのローウェン殿は、大丈夫だろうか?」
「彼なら、帝国を守り続けていけると思います。
去っていく兵士もいましたが…呪いがなくなり、魔物が弱くなった辺境の地ならと…新たに志願する兵士もいるようでしたから」
「ふむ。ならば、今後に期待しよう」
「ローウェン殿は再婚の意志がありません。ですから、その…私と…イシスの子が何人か生まれたら…養子にしたいようなことを言っておられましたね。
勿論、承諾などは一切していませんが」
貴族の跡継ぎ問題がいかに重要かは分かっているので、父上はただ私の話を聞いている。
「これから結婚だというのに…随分と先の話をしてくるじゃない」
母上は少しムッとして、不満気に言う。
「イシスには何も話していませんよ、母上」
「当然です!」
「ローウェン殿は、それだけ…お前たちに心酔しているということだろうな」
兄上の言う通りかもしれない。
皇命であるから避けようはなかったが…少し深く関わり過ぎただろうか?
彼は、これから自分の側近を新たに見つけ育てていかなければならない。
何かあれば、私も手助けをしようと思う。
─────────
「さ、難しい話はそれくらいにして…これからのことを話しましょう!」
「…義姉上…」
何だろう…嫌な予感がする。
「そうね、カイラの言う通りだわ。
フェル、イシスは妊娠していないでしょうね?」
…イシスガ…ニンシン…?
「…っ…母上!…いきなり何てことを仰るんですかっ!」
「避妊はしたかと…聞いているのです!」
「ひ…避妊?…ちょっ、そんな話はやめてください!」
「じゃあ…どうしていたの?2人はどんな感じだったの?」
「どうって…?…何がですか…義姉上」
父上と兄上はニヤニヤして助けてくれない。
「可愛いイシスと3ヶ月、毎日ずっとベッタリだったから…ヤッてないなど通用しない。さぁ、諦めて話せ」
「兄上、花嫁の純潔を証明するための3ヶ月ですよ?」
「もう隠し立てはできんぞ、フェルナンド。話せ」
「隠す?いや、父上…話せと言われても…」
…私は…家族に何を期待されているのだ?
4人の好奇に満ちた眼差しが刺さって痛い。
もうどうしようもないので、イシスと毎日同じ部屋で過ごしていたことや、口づけをしていることを話した。
「「「「…それだけ?…」」」」
清く正しい婚約期間を過ごしましたが…何か文句でも?
“ジト目”で見ないでください、母上。
“つまらない”とか言わないでください、義姉上。
父上も兄上も、そんな呆れた顔をしないでください。
「それだけですっ!イシスは閨教育を受けていないので、男女の深い繋がりのことなど何も分からないはずです。
私は、婚約者だからと勢いに任せて関係を持つような…強引な行為は絶対にできません。イシスを傷付けたくない」
「「「「…フェルナンド…」」」」
私だって、今は必死で耐えているんです。
♢
「じゃあ…添い寝してキスをして…その先はいつするの?…フェルナンドのフェルは…どうして大人しくしているの?」
義姉上、私の下半身事情について…具体的に聞いてくるのはやめてください。
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