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捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?  作者: miy


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58話(ローウェンSide)

※少々残酷な描写あり。読まなくても話は繋がります。



…ジャラリ…



牢屋の壁から伸びた鎖は、ジャックの両手首と繋がっている。


首には魔力を封じる魔導具、牢屋全体には特殊なバリアが施されていた。



「ジャック・クロスだな。私はルミナスという。あなたと同じように、呪術を扱う者だ」



…ゆるりとこちらを振り向く…

その姿は、敵意を剥き出しにした…飢えた獣のようだった。



「…お前が…解呪したのか…」


「そうだ」


「…よく…生きてたな…」






私たちは、ジャックが収監されている牢屋に来ていた。


皇帝陛下と数人の騎士たち、義父上、ルミナス殿、そして私という…限られた者だけだ。


ルミナス殿は万が一に備え、義父上の護衛のために来てくださったという。

ジャックの牢屋の前まで行くのは、義父上とルミナス殿だけ。皇帝陛下や私は、シールドの内側から様子を見るだけとなっている。



そして、バイセル王国からの使者として…ジャックの兄…ヒューゴ・クロスも来ていた。



ヒューゴも魔力封じの魔導具を装着しており、私たちとは別の場所から面会の確認をしていた。


冷静で取り乱すことのないその姿は…犯人の実兄には見えなかった。






「…ドミニク・ガーラント…」



その言葉が呪文なのか…?…と、そう思えるほどに冷えきった感情のない声がした。



「どうだ?…子の命を奪われた気分は…?」



義父上は、今まで想像しかしていなかった自分への恨みという()()を…目で見て…体感されたのではないだろうか。



「愛する者を…全てを喪った気持ちは…どうだぁ?」



…ニタァ…と、ジャックがゆっくり笑ったように見えた。


狂気に満ちたその表情に、背筋が凍りつく。


ジャックという男は…彼自身が黒い呪いの塊なのではないだろうか?



「これからだ…これからずっとそうやって1人で生きていけ。ジュリーの苦しみ、悲しみ、辛さを…知ればいい…」



()()()()と呼ぶその声は…わずかに震えていた。



「…申し訳なかった…あなたとジュリエットのことを知らずに…いや、違う…無関心で知ろうとすらしなかった。


私は…ジュリエットに酷い仕打ちをした…本当に愚かな行いだった」



過去の言動は、もうどうにもできない。

義父上は跪き…ジャックにただひたすら謝罪をされた。



「お前のせいで…お前の息子は、黒い飛龍に頭を喰われ絶命した。

お前のせいで…お前の娘は、赤い飛龍の業火に焼かれ真っ黒焦げになって苦しんだ。


私は呪いを通して全て見ていたんだ。何年もかかったが…胸がすく思いがしたぞ。アハッ…アハハハハッ!」


「…グッ…クゥッ…」



義父上の涙が…牢屋の石床に染み込んでいく…。




固く握りしめた拳がブルブルと震え、手のひらに爪が食い込んで血が滲んだ。


愛するシルフィを私から奪ったお前を許さん!…そうジャックに叫んで殴りかかりたかった。




どこかで復讐を思い留まることはできなかったのか…。

復讐は新たな復讐を生む…負の連鎖の始まりだと…気付いて欲しかった…。


私はシルフィが守り続けてきた辺境の地を、これから先もずっと守って行くと決めた。

どこからか…シルフィが見ていてくれるかもしれないから、恥ずかしい姿は絶対に見せられない。



ジャックは法で裁かれる。…だから…そこで、復讐は終わりなんだ。




ルミナス殿は、床に力なく座り込む義父上を立たせながら…こちらを見て首を左右に軽く振った。

“これ以上は無理”という合図だ。そのまま引き上げて来られた。



「義父上!」



義父上の顔は真っ青で、やっと息をしているような状態だった。



「すぐに部屋で休ませたほうがいい。ジェンキンス殿も…確かこちらへ来られていたか?」


「はい」


「ならば、しばらくは回復の術を施すよう頼むことですね…。では、私はこれで」


「ルミナス殿、ありがとうございました」


「…いや…。陛下、失礼をいたします」


「うむ。忙しい中…ご苦労であったな」



ルミナス殿は顔色ひとつ変えず、牢屋から出て行った。




義父上は…自力で起き上がることができないほど憔悴し、3日間の療養が必要となった。








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